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親の介護は子どもの義務? もし介護を放棄したら罪に問われるのか

2021年03月01日
  • その他
  • 介護
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親の介護は子どもの義務? もし介護を放棄したら罪に問われるのか

令和元年10月1日現在、栃木県宇都宮市における65歳以上の方は12万人を超え、総人口のうち約25%を占めるようになりました。少子高齢化の進展により、今後もこの比率は上昇していくものと考えられます。

親が高齢化するにつれ、子どもとしては介護のことが気になる方は多いのではないでしょうか。実際に介護しなければならない現実に直面したとき、介護の義務者は誰なのか、介護は放棄できるのか、そもそも介護は義務なのかということが問題になるケースがあります。

そこで本コラムでは、親の介護に関する法的な考え方から介護できない場合の対応、そして介護をめぐり親族とトラブルになった場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、親に対する扶養義務とは?

世間には、病気や高齢などが原因で経済力がなく、自分自身の力だけでは生活できない人が存在します。このような人たちに対して、民法第877条第1項の規定により、直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養する義務があると定められています。つまり、一定の親族関係にある人が経済的な援助(扶養)や介護をしなければならないと義務付けているのです。

これを扶養義務といい、扶養を受けるべき人を扶養権利者、扶養をすべき人を扶養義務者といいます。そして親を介護することは、この扶養の範囲に入るものと考えられています。

したがって、親や子どもというような直系血族、あるいは兄弟姉妹の中で生活ができない方がいれば、自らの生活が破壊されない範囲で、自らの状況と同等の生活が送れる程度には、経済的な援助や介護をしなければならない義務があるということになります。

特に高齢化が進む昨今、親への扶養や介護が問題となるケースが見られます。

2、扶養する人の順番はある?

民法では、扶養義務を負う人の順番について特段の規定を設けているわけではありません。

扶養については、扶養義務者の状況によって、生活援助ができるか否かが関わってくるため、原則として扶養当事者の協議によって決定することになります。

扶養義務を果たすべき範囲については、民法第877条第2項では家庭裁判所が扶養義務が生じる範囲について、特別の事情があるときは、「三親等内の親族」と規定しています。原則は直系血族および兄弟姉妹が、当然に扶養義務を負い、家庭裁判所の審判がある場合は、三親等内の親族も扶養義務を負うことがあるということになります。

三親等以内の親族には、扶養を受ける人からみると配偶者・兄弟姉妹・父母・祖父母・曽祖父母・子ども・孫・ひ孫が該当します。

ただし、これはあくまで誰が扶養するのか当事者間でまとまらず、扶養義務者を家庭裁判所が決める場合の基準です。現実的には、当事者で協議したうえで、扶養権利者の配偶者や子どもが扶養を行うケースが多いと考えられます。

3、扶養義務は強制ではない?

  1. (1)扶養義務は経済的余裕があることが前提

    誤解されやすいのですが、親族への扶養は、自身の生活を犠牲にしてでも行わなければならないものではありません。あくまでも、扶養権利者の生活を介護したり金銭的に扶養したりするだけの余裕がある場合に発生するものなのです。

    たとえば、扶養権利者である親にお金がなく、さらに誰かの介護がないと日常生活すらままならない状態であるとします。この場合、扶養義務者である子どもは、同居して身の回りの世話をする、お金を援助してホームヘルパーを依頼する、あるいは介護付き老人ホームに入れてあげるなどすれば、扶養義務を果たしているといえるでしょう。

    しかし、上記のいずれも扶養義務者である子どもの生活に余裕がなければ、それを果たすことはできません。子ども自身の生活費を稼ぐためには当然、働く必要があります。さらには、子ども自身に幼い子どもがいるのであれば、親と同居して朝から晩まで献身的に介護することは難しいでしょう。また、子どもに金銭的な余裕がないのであれば、福祉サービスを依頼することや介護付き老人ホームに入れることも難しいはずです。

    したがって、介護や扶養するための時間的あるいは金銭的な余裕がないため、親を扶養することができない場合であると、直ちに親に対する扶養義務違反になるわけではありません。親に対する扶養義務は、子どもである自分自身やその家族の生活を壊してまで果たすべき義務とはされていないのです

  2. (2)経済的余裕の有無の目安は?

    扶養義務者に経済的余裕があるか・ないかについては、以下の事情を考慮しながら家庭裁判所が総合的に判断します

    • 資産はどのくらいあるのか
    • 扶養義務者の家族構成はどうなのか(未成年の子どもの有無など)
    • 扶養義務者の社会的な地位はどうなのか
    • 扶養義務者の収入と比較して、生活状況はどうな状態か


    また、扶養義務者の具体的な収入額の基準としては、「生活保護基準額」が挙げられます。

    生活保護基準額とは、憲法第25条で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために最低限度必要な費用です。この生活保護基準額を扶養義務者の収入額が下回っている場合、扶養義務を果たすための経済的余裕は乏しいといえるでしょう。

4、扶養を放棄することによる罰則はある?

先述のとおり、親への扶養義務は、果たせるときに果たすものです。しかし、正当な理由なく扶養義務を放棄したことが原因で扶養権利者が負傷したり死亡したりした場合、義務者には刑法第218条および第219条で規定する「保護責任者遺棄等致死傷罪」に問われる可能性があります。

保護責任者遺棄致死傷罪は、「老年者、幼年者、身体障碍者、又は病者を保護する責任のある者が、これを遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかった」場合に適用されます。

なお、扶養義務者がその義務を果たさなかった場合、保護責任者遺棄等罪として3月以上5年以下の懲役に処されるおそれがあります。また、扶養義務者による遺棄が原因で扶養を受けるべき人が死傷した場合、さらに罪が加重される可能性があります(刑法第219条)。

保護責任と扶養義務は、それぞれ刑法と民法という異なる法律の概念ですので、完全に一致するというものではありません。
しかし、扶養義務は、保護責任が生じるひとつの要因として考慮されますので、注意しましょう。

5、扶養や介護ができない場合はどうするべきか?

親を扶養・介護をしたくても、経済的な事情から難しいこともあります。そのようなときは、決して1人で悩まないことです。他の親族と協力したり、行政の支援を得たりするなどの対策を検討してください。

  1. (1)他の親族と協力する

    親の扶養義務は、権利者の親族1人だけに生じるものではありません。たとえば、親が扶養権利者である場合、兄弟姉妹が存在するのであれば、兄弟姉妹も同様に扶養義務が生じます。あなたが親を扶養できない場合、あなたの兄弟姉妹をはじめとする他の親族にも協力を仰ぎ扶養義務を分担することは、むしろ自然なことです。

    扶養義務を分担する方法は、いろいろと考えられます。たとえば、お金は平等に出し介護はローテーションで行う、あるいは誰かがお金を出す代わりに別の親族が介護するなどです。扶養義務をもつ当事者間でよく話し合い、扶養権利者を含む全員が納得する協力体制が築ければ無用な紛争を避けることができるでしょう

  2. (2)行政に相談する

    高齢者などの介護を援助するために行政が設けている制度は、積極的に活用することを検討してください。介護保険制度が始まり、介護における援助を受けることが容易になりました。しかも、介護を受ける人の状況次第では、民間の福祉サービスよりも安く活用することができます。

    また、扶養権利者にも扶養義務者にも介護のための十分な経済力がない場合は、扶養権利者により生活保護を申請することで、介護に必要な資金を調達することも検討できます

    生活保護を受けるための主な要件は、以下のとおりです。

    • 活用できる資産をほとんど保有していない
    • 病気や高齢のため、働くことができない
    • 親族からの介護や扶養を受けることができない
    • 生活保護の他に、最低生活費以上の金銭収入を受けることができる公的支援制度がない


    なお、扶養権利者が生活保護を申請したあと、親族であるあなたに福祉事務所など行政側から、あなたの資産状況や扶養・介護の可否について、確認されることがあります。

6、話し合いで解決できない場合の対策

親族の扶養に関することは、原則として当事者、つまり扶養を受ける人の親族が話し合いのうえで決めるものとされています。しかし、さまざまな事情から当事者の話し合いではまとまらないことも考えられます。

そのような場合において、取るべき対策を以下でご紹介します。

  1. (1)家庭裁判所に判断してもらう

    扶養に関し当事者間で議論となりがちな争点は、以下のようなものが考えられます。

    • 誰が扶養するのか
    • 扶養の程度や方法はどうすればよいのか
    • 扶養する義務のある人が複数以上いたり、扶養を受ける権利のある人が複数以上いる場合に、その順序はどうするのか


    上記をめぐって紛糾し、当事者間による協議がうまくいかないことも考えられますこのような場合は、民法第879条の規定により家庭裁判所が扶養の義務を負う人を決めるものとされています。したがって、家庭裁判所の審判を求めることも検討しましょう。

    特に三親等以内の親族については、民法第877条第2項の規定により特別な事情があるときにおいて、家庭裁判所が審判によって、三親等内の特定の親族に扶養義務を負わせることができます。

  2. (2)弁護士に相談する

    家庭裁判所の判断を仰ぐ前に他の当事者たちと交渉の余地が残っていると考えられる場合や、法的な紛争になりそうなときは、弁護士に相談したほうがよいケースがあります。

    弁護士であれば、あなたの代理人として不要に関する話し合い行うことが可能です。特に他の当事者と感情的なやり取りになってしまっている場合は、あなたに代わって弁護士が交渉することで、当事者どうしの話し合いによるものとは違った結果が期待できます

    また、弁護士は扶養義務者の審判を家庭裁判所に申し立てることになった場合も、あなたに代わって家庭裁判所への申し立て手続を代理することができます。司法手続については、一部の例外を除き、原則として弁護士以外の者に代理させることはできません。
    弁護士であれば、扶養義務者に関するあなたの考えを代弁し、さらには煩雑な家庭裁判所の手続の手間を省略することができるのです。

7、まとめ

親の介護や扶養は、センシティブなテーマのひとつです。そして介護する人は誰なのか、経済的負担はどうするのかなどの議論をめぐり、たとえ兄弟姉妹であっても険悪なトラブルになってしまうこともあり得るでしょう。場合によっては相続問題が絡んだ争いに発展することもあるのです。

親の介護や扶養をめぐり近親者とのトラブルが予想され、解決が難しい場合は、お早めに弁護士へご相談することをおすすめします。前述のとおり、弁護士であればあなたの代理人として他の扶養義務者と話し合い、あなただけではなく扶養権利者にとってもより良い結果になることが期待できます。

親の介護や扶養に関するトラブルのご相談は、ぜひベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスまでご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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