ペットに餌をあげないと動物虐待? 動物愛護管理法改正のポイント

2021年02月22日
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ペットに餌をあげないと動物虐待? 動物愛護管理法改正のポイント

一般社団法人ペットフード協会による「2019年(令和元年)全国犬猫飼育実態調査」の結果によると、全国でペットとして飼育されている犬は879万7000頭、猫は977万8000頭、犬猫を合計すると1857万5000頭でした。

令和2年度はコロナ禍によってペット需要が非常に高まっており、飼育頭数はさらに増加するものと見込まれますが、同時に無責任な飼育放棄も大きな社会問題になっています。

犬・猫などの愛護動物に対する飼育放棄や虐待行為は犯罪です。宇都宮市のホームページでも「動物の遺棄・虐待は犯罪です」と題したページが開設されており、遺棄・虐待に関する注意喚起がなされています。

本コラムでは、ペットの飼育放棄や虐待などがどのような罪になってしまうのかについて、改正された「動物愛護管理法」の内容に触れながら、宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、動物虐待は犯罪になる

ペットを含めた動物に虐待を加える行為は「動物虐待」と呼ばれています。
一般的な用語として広く使用されていますが、動物を虐待する行為は単なるモラル違反ではありません。

「動物の愛護及び管理に関する法律(通称、動物愛護管理法)」という法律で定められた犯罪に該当するのです。

  1. (1)「動物虐待」の定義

    「動物虐待」の行為は大きく2つの種類に分類できると考えられます。

    • 積極的・意図的な虐待
    • 飼育放棄による虐待


    積極的・意図的な虐待とは、動物に対して殴る・蹴るなどの暴力を加える行為や毒を混入させた餌を与える行為、心理的抑圧や恐怖を与える行為などをいいます。一般的な動物虐待のイメージはこちらが主でしょう。

    他方、飼育放棄による虐待とは、健康管理をしないで放置する、病気を放置する、餌や水を与えないで放置するなどの行為です。わが子の育児を放棄する「ネグレクト」と同様で、これらの行為も動物虐待に該当すると定義づけられています。

  2. (2)自宅のペットへの虐待は動物愛護管理法に違反する

    ペットは、民法上は個人の所有物ですが、動物愛護法によれば、虐待行為が許されるわけではありません

    動物愛護管理法第44条でも、愛護動物に対する虐待行為について厳しい罰則が設けられています。

    愛護動物に指定されているのは、犬・猫のほか、牛・馬・豚・めん羊・山羊・いえうさぎ・鶏・いえばと・あひる、そのほか人が占有している哺乳類・鳥類・爬虫類です。

    動物愛護管理法では、愛護動物をみだりに殺傷する行為に対して罰則を設けています。

    また、みだりに給餌または給水をやめる、酷使する、健康や安全を維持できない場所に拘束するなどによって衰弱させるなどの行為も「虐待」として同様に厳しく処罰されます。

  3. (3)他人のペットを傷つければ器物損壊罪が成立する

    他人のペットは、民法や刑法の考え方に基づけば「他人の所有物」にあたります

    他人の所有物を傷つける行為は、刑法第261条の「器物損壊罪」に該当します。器物損壊罪の法定刑は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料です。ただし、令和2年6月1日以降は、行為の内容によっては、動物愛護管理法に基づき処罰を受けることになります。

2、餌や水をあげないと犯罪になる! 改正動物愛護管理法の注意点

近年、動画投稿サイトでペットや野生動物を虐待する動画がアップロードされて注目されたケースが多々ありますが、虐待にあたるのは殴る・蹴るなどの積極的・意図的な行為に限られません。

餌や水を与えない、病気を放置する、遺棄するなどの行為も、動物愛護管理法第44条に違反する虐待に該当します。

動物虐待を規制する「動物愛護管理法」は、令和元年6月に改正が加えられ、令和2年6月1日に施行されました。この改正によって、動物虐待に対する規制は大幅に強化されています。

改正された動物愛護管理法における注意点をみていきましょう。

  1. (1)不適正飼養に対する指導の拡充

    従来は、不適正な飼養のため動物が衰弱するなどの虐待が見受けられた場合でも、行政は「勧告または任意の立ち入り検査」ができるだけでしたが、改正によって、強制的な立ち入り検査もできるようになりました。

    また、改正前は「多数の動物」の不適正飼養のみが対象でしたが、今回の改正によって数量の制限がなくなりましたつまり、動物が1頭でも不適正飼養があれば立ち入り検査の対象となります

  2. (2)犬・猫の繁殖制限の義務化

    改正前の動物愛護管理法では、犬・猫の所有者が「みだりに繁殖してこれを適正に飼養できない」場合の繁殖防止措置について、各所有者の努力義務としていました。

    今回の改正では、繁殖を適正に管理できない犬・猫の所有者に対する繁殖制限が義務化されています。

    繁殖による過密化で動物の健康状態が損なわれる、飼育の手間や費用が過大になり給餌・給水ができない状態になることも「虐待」となるため、繁殖にも強い制限が課せられることになりました。これによって、飼いすぎて劣悪な環境で飼育し、餌が行き渡らないなどの事態が生じても「虐待」に該当する可能性があります

  3. (3)獣医師の通報義務化

    改正前の動物愛護管理法では、虐待の疑いがある動物について獣医師が診察した場合、関係機関への通報を求める努力義務が課せられているのみでした。

    改正によって、獣医師の通報は「遅滞なく通報しなければならない」とされたため、獣医師の判断によっては関係機関へ確実に通報されることになります(同法第41条の2)。

  4. (4)動物殺傷等の行為の厳罰化

    従来の動物愛護管理法でも、愛護動物の殺傷には罰則が規定されていました。ただし、法定刑は2年以下の懲役または200万円以下の罰金で、殺傷に至らない虐待では100万円以下の罰金にとどまっていました。

    改正された動物愛護管理法では、動物の殺傷等の行為に対する刑罰が大幅に引き上げられています
    具体的には以下の通りです。

    ●殺傷行為
    5年以下の懲役または500万円以下の罰金
    (改正前:1年以下の懲役または100万円以下の罰金)

    ●虐待行為
    1年以下の懲役または100万円以下の罰金
    (改正前:50万円以下の罰金)


    動物虐待の動画に見られるような自宅のペットを殺傷する行為には、最大で懲役5年という非常に重い刑罰が科せられます。

    また、他人のペットを傷つける行為についても、従来は法定刑が重たい器物損壊罪で処罰されてきましたが、今後はさらに法定刑が重たい動物愛護管理法違反として処罰されるでしょう。

3、逮捕された場合の流れ

動物愛護管理法の改正・厳罰化によって、行政による指導や警察の取り締まりはさらに強化されるでしょう。
令和2年1月には、栃木県宇都宮に住む男が、逮捕される事件が起こりました。負傷した犬に適切な治療を行わなかったため、衰弱させてしまった疑いと報道されています。

動物愛護管理法に違反して逮捕されてしまうと、その後はどのような流れで刑罰を受けるのでしょうか?

  1. (1)逮捕・勾留によって身柄拘束を受ける

    警察に逮捕されると、検察官への送致までに48時間以内、検察官が勾留を請求するまでに24時間以内、最長で72時間の身柄拘束を受けます。逮捕された段階で自由な行動が制限されるため、自宅へ帰ることも、会社や学校へ通うことも、自由に電話連絡を取ることも許されません

    さらに、検察官からの請求を裁判官が許可すれば、勾留を請求された日から原則10日間、延長によって最長20日間まで身柄拘束を受けます。

  2. (2)刑事裁判を受けて刑罰が下される

    勾留期間が満期を迎える日までに検察官が起訴すると、刑事裁判に移行します
    起訴されると被告人として刑事裁判で審理される身となり、最終的に判決が言い渡されます。

4、動物虐待の容疑をかけられてしまった場合は弁護士に相談を

自身のペットに厳しくしつけをしていたところを通報されてしまった、何らかの事情で満足な飼育ができなかったところを虐待ととらえられたなど、動物虐待の疑いをかけられてしまった場合は直ちに弁護士に相談しましょう。

任意での事情聴取や取り調べが行われる段階であれば、警察に対してどのような供述をすればよいのかなどのアドバイスを受けることができます。「虐待ではない」と主張するために必要な証拠集めや行政の立ち入り検査への対応方法も具体的に知ることができるでしょう。

動物虐待の疑いで逮捕されてしまった場合は、社会生活への影響を考えると早期の身柄釈放や不起訴処分の獲得を目指す必要があります。

逃亡や証拠隠滅などのおそれを否定して早期釈放につなげたり、虐待容疑を否定するための証拠集めなど不起訴処分を獲得したりするための弁護活動が期待できるでしょう

5、まとめ

犬・猫などのペット飼育は、相手が生物であるために難しい面があります。
日ごろの世話やしつけが行き届かないことも少なくありませんが、動物愛護管理法の定めに違反してしまえば刑事事件になってしまうおそれがあるので注意が必要です。

ペットの世話が予想以上に大変でこれ以上は飼育できないと考えるなら、保健所・動物愛護センター・民間団体等による里親制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。しつけが難しければ、しつけ教室への参加やしつけトレーナーにアドバイスを受けるのも有効です。

もし、ペットへの虐待を疑われてしまい逮捕や刑罰に不安を感じているなら、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスへご相談ください。

自分自身では適正な飼育・しつけの範囲だと感じていても、法律に照らせば問題となるケースもあるので、弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています