電車でAirDrop痴漢をしてしまった……“触らない痴漢”は罪に問われる?
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痴漢と聞いて多くの方がイメージするのは、満員電車の車内などで女性の身体に触れる行為でしょう。相手の意に反して身体に触るなど、性的行為をすることをいう痴漢ですが、近年、相手の身体に直接触れることなく性的な嫌がらせをする“デジタル痴漢”が新たな問題となっています。iPhoneのAirDrop機能を使った手口であることから、「AirDrop(エアドロップ)痴漢」と呼ばれるものです。
このAirDrop痴漢、相手に触っていなくとも、通常の痴漢と同様の犯罪として扱われるのでしょうか? それとも、“デジタル”・“触らない”といったAirDrop痴漢の特徴に応じた罰則が適用されるのでしょうか? AirDrop痴漢について、逮捕事例とあわせて宇都宮オフィスの弁護士が解説いたします。
1、AirDrop痴漢とは
AirDrop痴漢は、iPhoneのAirDrop機能を使って行われることから、そう呼ばれています。iPhoneにもともとついているAirDropという機能は、近距離にいるApple製品のユーザーに、メールアドレスや電話番号を使わず簡単に画像や動画を共有できます。この機能を使って不適切な画像を見ず知らずの人に送りつけ、無理やり視界に入れるというのがAirDrop痴漢です。
画像を共有する際、「Hanako's_ iPhone」のように、近くにあるiPhoneやiPadのデバイス名が表示されるため、送信者はこのデバイス名が女性と思われるものを狙うとされています。主に電車内などの人が密集している場所で行われ、被害者の多くは女性です。
2、AirDrop痴漢はどんな罪に問われる?
便利な機能を悪用したAirDrop痴漢ですが、実際にAirDrop痴漢を行ってしまった場合、どのような罪に問われるのでしょうか。
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(1)「わいせつ電磁的記録送信頒布の罪」に問われる可能性がある
AirDrop痴漢は、刑法第175条第1項後段に規定されている「わいせつ電磁的記録送信頒布の罪」に問われる可能性があるといえます。
刑法第175条第1項後段には、「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、または公然と陳列した者は、2年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金もしくは科料に処し、または懲役および罰金を併科する」、「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする」と規定されています。
簡単に要約すると、「わいせつなもの」を、「不特定の人や多数の人に見せるために配ったり並べたりした者」は、「2年以下の懲役」か「250万円以下の罰金」、あるいは「懲役と罰金どちらも」の刑罰を受けるという内容です。
たとえば、Twitterで自分や第三者の全裸写真を公開したり、YouTubeなどにわいせつ動画を投稿したりする行為が該当するのですが、AirDrop痴漢も同様の罪に問われる可能性があるといえます。ちなみに、AirDrop機能を使った画像共有では、受信した時点で「受け入れる」か「辞退」するかを選択できますが、その時点ですでに画像のプレビューが画面に表示されているため、たとえ受信者が「辞退」のボタン操作をしても犯罪は成立する可能性があります。過去の裁判例では、画像が直接表示されていなくても、わいせつ画像の保存先URLが貼られているものであっても、頒布罪が成立するとしたものも存在します。 -
(2)迷惑防止条例違反となる可能性も
前述の「わいせつ電磁的記録送信頒布の罪」には問われなかった場合でも、AirDrop痴漢は各都道府県が定める迷惑防止条例に違反する可能性があるといえます。都道府県によって条例の名称は異なるのですが、栃木県内における犯行の場合には「栃木県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例」という条例が定められており、痴漢をした場合の刑罰は同条例第3条第1号、第9条第2項により、常習として痴漢を行った場合には「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」と重い刑罰が科されています。
また、同条例では、わいせつな写真を公共の場所で撮影した場合には、第8条第1項第3号、第11条第1項により30万円以下の罰金、常習として行えば、50万円以下の罰金に処されます。被害者の下着などの、のぞき写真を撮影してから、AirDropで画像を送りつけると、同条例に違反する可能性があります。
後ほど解説しますが、過去のAirDrop痴漢による逮捕者の罪状はこの条例違反です。ちなみに、通常の痴漢(相手に触れるなど)の場合も、程度によりますが条例違反として処罰(行為の内容が悪質な場合にはもっと重い罪に問われます)されることが多くなっています。条令違反で逮捕された場合も、通常の刑事事件と同様に刑事手続が進められます。
3、AirDrop痴漢で逮捕される可能性はある?
実際にAirDrop痴漢によって逮捕されたケースをみていきましょう。
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(1)AirDrop痴漢で逮捕
平成30年7月、JR山陽線の姫路-神戸間の電車内で正面に座った20代女性にわいせつ画像を送りつけた(AirDrop痴漢をした)として、兵庫県の30代男性が、迷惑防止条例違反の疑いで逮捕されています。犯行が行われたのは同年5月で、兵庫県警サイバー犯罪対策課によると、男性は通勤中、iPhoneを持った女性に気付き、犯行に至ったということです。不審な動きをしていた男性の写真を女性が撮影していたため、逮捕につながりました。
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(2)AirDrop痴漢で書類送検
大阪府でも似たような事案が起きています。こちらは、AirDrop痴漢をしたとして男性(和歌山県在住)が迷惑防止条例違反で書類送検されています。
書類送検とは、事件記録や捜査資料などを検察に送る手続きのことです。検察官は送られてきた書類の内容を踏まえて、被疑者の「起訴」・「不起訴」を決定します。在宅のまま書類送検された場合、逮捕された場合とは違って身柄の拘束は、なされないことがあります。
軽い気持ちでAirDrop痴漢をしたことで、その後の人生が大きく変わってしまう可能性も十分にありえます。もし、「AirDrop痴漢をしている」、「過去にAirDrop痴漢をしてしまった」と、逮捕の可能性などでお悩みでしたら、一度、弁護士に相談することをおすすめします。
4、AirDrop痴漢で逮捕! その後の流れは?
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(1)警察で取り調べを受ける
AirDrop痴漢に限らず、刑事事件で逮捕された場合、まずは警察で取り調べが行われ、供述調書が作成されます。供述調書は、警察官や検察官が被疑者に対して様々な質問をし、聴取した内容を被疑者に読み聞かせて、話した内容と相違なければ署名指印を被疑者に求めて作成する文書です。供述調書の内容は裁判においても重要なものとなりますので、納得できない内容の調書に署名してしまわないよう注意しなければなりません。しかし、逮捕されてパニック状態に陥っている状況で冷静な判断をすることは非常に難しいと考えられます。早い段階で弁護士を依頼し、法的な観点から適切なアドバイスを受けるのが望ましいでしょう。
なお、逮捕後に警察が被疑者を拘束できる時間は48時間以内と決められており、その後は検察へ身柄が送られます(前述の事例のように送致後釈放となり、書類送検となる場合もあります)。 -
(2)検察への送致
被疑者の身柄が検察へ送られたなら、検察官は24時間以内に、その被疑者に勾留の必要があるかどうかを判断します。そして、勾留の必要があると判断した場合には、裁判官に対して(被疑者の)勾留請求を行います。
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(3)最大20日間の勾留
検察官による勾留請求が裁判官に認められた場合、被疑者は勾留請求後最大で20日間、刑事施設(留置所など)に勾留されることになります。勾留は原則10日間ですが、さらに10日間延長される可能性があります。
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(4)起訴・不起訴が決まる
勾留期間中に、検察官によって「起訴」または「不起訴」の判断がなされます。AirDrop痴漢は比較的新しい手口の犯罪ですから、過去の事例が少ないですが、一般的には行為の悪質性や被害者との示談成立の有無などから総合的に判断されます。
なお、不起訴となった場合には、釈放となり前科もつきません。 -
(5)刑事裁判
検察官によって起訴すべきと判断された場合には、公判が請求され、刑事裁判を受けることになり、その裁判を経て、有罪(刑罰の内容)あるいは無罪が決まります。
5、まとめ
今回は、AirDrop痴漢に科される刑罰や実際に起きた事例について解説しました。AirDrop痴漢は、相手に触れていなくても犯罪となる可能性が十分にある行為ですから、決して行わないことが一番大切です。もし、「すでにAirDrop痴漢をしてしまい今後に不安を感じている方」や「ご家族が逮捕された方」がいましたら、すぐにでも弁護士に相談してください。
ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスでは、経験豊富な弁護士が事案ごとに最適な解説方法を提案しています。おひとりで悩むことなく、お気軽にご相談ください。
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