人に睡眠薬を盛って性交したら犯罪になる? 罪状や刑罰を弁護士が解説
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睡眠薬(レイプドラッグ)を使用して性交に及ぶ行為は、凶悪かつ重大な犯罪行為です。軽はずみな気持ちで行為に及ぶことは慎まなければなりません。刑事事件として立件されれば、加害者には重大な不利益が生じるだけでなく、被害者に対しても回復困難な精神的苦痛を生じさせてしまいます。
今回は、相手の意思を無視し、睡眠薬(レイプドラッグ)を使用して性交することがどのような犯罪にあたるかについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、睡眠薬(レイプドラッグ)を用いた犯罪は社会問題になっている
安易に睡眠薬などの薬を飲み物や食べ物などに混ぜて、相手の意識を朦朧とさせ、抵抗できない状況にして性行為に及んだという事件がたびたび報道されます。婚活サイトやマッチングアプリなどの普及によって、増加しているともいわれているようです。
これらの犯罪被害で使用される薬は、病院で一般的に処方される睡眠薬です。不眠を訴えれば容易に処方される睡眠導入剤が用いられているといわれています。また、多くの睡眠薬は1日で体外に排出されるため、証拠も残りにくいということも、睡眠薬(レイプドラッグ)を用いた犯罪が増加している一因であると考えられるでしょう。
このような睡眠薬(レイプドラッグ)を使用した性犯罪は、被害者の記憶の喪失につけ込む卑劣な犯罪行為であるとして報道されており、社会問題のひとつとなっているともいえます。
2、睡眠薬を用いた犯罪は「準強制性交等罪」となる
睡眠薬を用いて性行為に及んだ場合には、「準強制性交等罪」という犯罪に該当する可能性があります。以下では、準強制性交等罪の概要や強制性交罪との違いについて説明します。
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(1)準強制性交等罪とは
準強制性交等罪とは、心神喪失または抗拒不能となった人に対して性交、肛門性交、口腔性交をした場合に成立する犯罪です(刑法178条2項)。
心神喪失とは、精神の障害によって事物の理非善悪を弁識する能力又はその弁識に従って行動する能力がない状態にあることをいいます。たとえば、泥酔状態であったり、睡眠薬を飲まされて意識を失っていたりするような状態であれば、心神喪失といます。
また、抗拒不能とは、暴行、脅迫以外の理由で物理的・心理的に抵抗することができないか、抵抗することが著しく困難な状態にあることをいいます。たとえば、睡眠薬などを服用させて身動きが取れない状態にすることや、錯覚・無知などから行為の意味を理解できないために心理的に抵抗することができない状態が抗拒不能に該当する可能性があります。
睡眠薬を用いた性交が準強制性交等罪にあたるかどうかは、単に睡眠薬を飲まされたという事情だけでなく、被害者が性交前後にどのような行動をとっていたかが重要となります。
たとえば、睡眠薬を飲まされたとしても、被害者が自分の足で歩いて移動をしていた、自分で衣服を脱いでいたという事情は準強制性交等罪を否定する方向に働く事情となります。他方、酔って寝てしまったり、自分で衣服を脱いだりできない、千鳥足になっていたという事情は、被害者が抵抗できない状態にあったことを推認する事情となりますので、準強制性交等罪を肯定する方向に働く事情となります。 -
(2)準強制わいせつ罪とは
準強制わいせつ罪とは、心神喪失または抗拒不能となった人に対してわいせつな行為をした場合に成立する犯罪です(刑法178条1項)。
準強制性交等罪と準強制わいせつ罪の違いは、準強制性交等罪が性交、肛門性交または口腔性交に該当する行為が対象となるのに対して、準強制わいせつ罪は、それ以外のわいせつ行為が対象となります。
したがって、睡眠薬(レイプドラッグ)を用いて性行為をしなかったとしても、わいせつな行為をしたときには、準強制わいせつ罪が成立する可能性があります。 -
(3)準強制性交等罪は法改正によって処罰範囲が拡大
なお、準強制性交等罪は、かつて「準強姦罪」という名称だったものが法改正によって変更になったものです。準強姦罪は、被害者を女性のみに限定していましたが、法改正によって性別の限定はなくなり、男性も被害者となり得る犯罪となりました。また、処罰対象となる行為も「姦淫」に限定されていましたが、法改正によって「性交、肛門性交または口腔性交」が処罰対象に含まれることになりました。
3、準強制性交等罪や準強制わいせつ罪の刑罰は?
準強制性交等罪や準強制わいせつ罪を犯してしまったときにはどの程度の罪となるのでしょうか。
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(1)準強制性交等罪について
準強制性交等罪の法定刑は、「5年以上の有期懲役」と規定されています。
執行猶予を付することができるのは、3年以下の懲役刑ですので、準強制性交等罪は減刑がなされなければ、執行猶予は付かず、実刑となる可能性がある犯罪です。実際の量刑については、法定刑の範囲内で裁判官が決めることになります。具体的には、犯行態様、手段、方法、動機、目的、計画性の有無、被害状況、被告人の余罪や前科の有無などを考慮して判断されます。 -
(2)準強制わいせつ罪について
準強制わいせつ罪の法定刑は、「6月以上10年以下の懲役」と規定されています。
準強制わいせつ罪には罰金刑がないため、仮に有罪となった場合は懲役刑となる可能性が高いです。執行猶予が付かない実刑判決になれば刑務所へ収監されることになるということです。量刑の判断については、準強制性交等罪と同様にさまざまな事情を考慮して裁判官が決めることになります。
4、睡眠薬を用いた犯罪をしてしまったら、弁護士に相談
睡眠薬を用いた性犯罪をしてしまったときには、すぐに弁護士に相談してください。
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(1)逮捕されていないが被害者から訴えられそうな場合
レイプドラッグを用いた性犯罪については、事件の重大性から、被害者から被害届の提出や告訴がなされた場合には、被疑者が逮捕・勾留される可能性は相対的に高い犯罪であるといます。
そのため、当初は逮捕されていなかったとしても、今後、被害者の動向次第では、逮捕されてしまうおそれがありますので、早期に弁護士に相談をし、対応してもらうべきでしょう。準強制性交等罪は、以前は、親告罪とされており、被害者からの告訴がなければ被疑者を起訴することができない犯罪であるとされていました。しかし、法改正によって、非親告罪となり被害者の告訴がなくても、被疑者を起訴することができるようになっています。
従来は、被害者から告訴を取り下げてもらうことで、起訴される事態を回避することができましたが、現在では告訴を必要としていないことから、起訴の回避が困難になりました。しかし、被害者との間で示談が成立しているということは、被害者に処罰感情がないことを示すことになるため、検察官が起訴するかどうかにあたっては、重要な考慮要素となります。そのため、被害者との間で示談を成立させることは非常に重要であるといえます。
事件の性質からすると、被害者が加害者や加害者家族と直接会って話をすることは、被害感情を刺激し、かえって示談が暗礁に乗り上げる可能性があります。そのため被害者と示談交渉をするためには、弁護士のサポートを受けることが、起訴回避のためには重要といえるでしょう。たとえ、被害者と加害者が知り合いであったとしても、直接交渉するのではなく弁護士を窓口として交渉することをおすすめします。 -
(2)レイプドラッグを用いた犯罪で逮捕されてしまった場合
レイプドラッグを用いた犯罪で逮捕されてしまった場合には、長期間身柄拘束を受ける可能性があります。
逮捕後も引き続き身柄拘束の必要性があるときには、勾留という身柄拘束を受けることがあり、勾留には期間の延長も認められています。そのため、逮捕・勾留をあわせると起訴前であれば最長23日間もの身柄拘束を受けることがあります。早期に身柄の釈放をしてもらうことや、起訴されることを回避するためにはやはり被害者との示談が重要となってきます。
また、合意による性交渉であったと主張するのであれば、取り調べの際に作成される供述調書の内容が、刑事裁判では重要な証拠となってきます。不利な内容の供述調書が作成されてしまうと、裁判で争っていくことが困難になることもありますので、取り調べに対する対応も重要となってきます。
弁護士に依頼することによって、身柄拘束中であっても接見をし、取り調べに対するアドバイスをもらうことができますし、合意による性行為であることを裏付ける証拠を収集するために活動してもらうこともできます。
5、まとめ
レイプドラッグを用いた性犯罪は、社会問題となっていることもあり、有罪となれば厳しい処罰を受ける可能性があります。その場で気が付かれなくとも、後日になってレイプドラッグを用いられたことを相手が気付くケースは多々あります。レイプドラッグを用いた犯罪を行ってしまったときは、被害者から訴えがない段階であっても早期に弁護士に相談するようにしましょう。
レイプドラッグを用いた性犯罪に関する弁護を希望する方は、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています