隣の迷惑な空き家をなんとかしてほしい! 法的に可能な対応方法とは

2023年02月20日
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隣の迷惑な空き家をなんとかしてほしい! 法的に可能な対応方法とは

全国的に「空き家問題」が注目されていますが、宇都宮市も例外ではありません。令和4年3月に作成された「第2次宇都宮市空き家等対策計画」によると、平成30年時点で宇都宮市における空き家率は16.9%でした。また令和2年に宇都宮市で実施された、戸建て空き家を対象とした「空き家実態調査」では、空き家総数が5587戸となっており、平成29年の総数が4831戸だったことと比較すると増加しています。

自宅の隣に空き家があり、空き家が原因でトラブルが発生している場合や倒壊の危険などがある場合など、どのように対応すればよいのでしょうか。

本コラムでは、倒壊などによる損害が発生するおそれのある近隣の空き家についてどのような対策ができるのか、実際に損害が出たときにすべきことについて、宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、空き家の問題解消を交渉する相手は誰なのか?

近隣の住宅について何らかのトラブルがあれば、まず「なんとかしてほしい」と交渉する相手はその住宅に住む人でしょう。ところが、問題となっているのが誰も住んでいない空き家であれば、そこを訪ねても誰もいません。つまり、すぐには交渉できないということです。

では、空き家に関する問題を解消するためには、誰を相手に交渉を進めていくことになるのでしょうか?

  1. (1)空き家の所有者

    土地や建物について責任を負うことになる者については、民法第717条によって以下のとおり定められています。

    民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
    土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。


    条文のとおり、工作物の占有者が第一に責任を負うと規定されています。ここで登場する「工作物」とは建物や橋、道路や擁壁、など土地に固定されたものが主に該当します。また、竹木は、民法717条第2項によって同条第1項が準用されていますので、竹木も工作物として扱われます。
    占有者とは、該当の土地や建物を事実上支配している人、主に使用している方を指します。所有者は、土地建物の所有権を有する者であり、賃貸住宅の場合は賃借人が占有者に該当します。

    しかし、空き家が発生する典型例は、住人が死去して子どもが相続したが、誰も住んでいない、あるいは賃貸用物件とされているが借主がいないという状況だと思います。つまり、空き家は住んでいる人がいないわけですから、建物の管理不足によって損害を負った場合の責任は、「持ち主が負う」という、ごく一般的な感覚が当てはまります。

    つまり、空き家が原因でトラブルが起きた、もしくは起きそうなとき、だれも住んではいないわけですから、交渉に行く相手は、所有者となるケースが多いでしょう。

  2. (2)空き家の占有者

    前述のとおり、空き家は土地の上に建った工作物にあたるため、もし空き家が原因となって他者に何らかの損害が発生した場合、まず空き家の占有者がその責任を負います。しかし、現状空き家になって放置されているということは、賃貸契約が結ばれていないか、結ばれていても状態であっても「賃借人(借主)は家賃を支払いながらもその住宅に住んでいない」ということになります。占有者が住んでいないにもかかわらず、責任を負うケースは、占有者が工作物の危険性を知りながら、あえて放置、あるいは危険な状況を助長するような措置を講じた場合など、かなり限定的な状況だと考えられます。

    したがって、空き家が原因で何らかの被害をうけたときは、所有者に対して何らかの対応を依頼するケースが多いと思います。特別な事情があるときは、弁護士に相談することをおすすめします。

    なお、賃貸住宅のように、所有者と占有者が異なるケースは珍しくはありません。空き家ではなく実際に賃借人が住む賃貸住宅において、賃借人がしっかりと管理をしているにもかかわらず損害が発生したようなケースもありえます。この場合、実際に使用している占有者は過失がないことになり、所有者である大家が責任を負うことになります。所有者は、土地工作物責任においては、占有者に過失がなければ、所有者にも過失がなかったとしても、責任を負うことになります。

2、行政への依頼でも解決できる可能性がある

空き家が原因で発生した損害の責任が、占有者・所有者にあることは民法の定めからも明らかです。それにもかかわらず全国的に空き家が問題となっているのは、空き家の占有者・所有者が不明となっているなどの、高齢化社会、少子化などの社会情勢の変化があるからです。

そこで国は、行政による対応が可能となるように「空き家対策特別措置法」を平成27年に施行しています。同法が施行されたことを受けて、各地方公共団体は同法が定める趣旨目的を実現するため、各地方の空き家問題の地域特性に合わせ、空き家管理適正化条例等を定め、ロードマップともいえる、空き家対策計画を策定しています。

  1. (1)空き家対策特別措置法による対応が期待できる

    平成26年に制定された「空家等対策の推進に関する特別措置法」、通称「空き家対策特別措置法」は、全国的に問題となっている空き家について、管理や修繕の責任を明確にするとともに、問題解消に向けて行政が支援、介入できるように定めています。

    この法律が定めるポイントは次のとおりです。

    • 居住その他に使用されていないことが常態である住宅を「空き家等」と定義した。
    • 「特定空き家」に指定された場合、行政からの指導に従って所有者が状況を改善しなければならない。
    • 指導・勧告に従わない場合、除却命令等が出されることがあり、その命令に従わない場合には、行政代執行がおこなわれることもある。
    • 行政代執行によって修繕などの工事がおこなわれた場合、その費用は所有者が負担する。
    • 特定空き家に指定されて行政代執行がおこなわれた場合、情報が公開される。

    同法によれば、空き家に関する責任が明確化されただけでなく、行政による立ち入り・指導・勧告が可能となりました。また、空き家の所有者を特定するために、自治体が固定資産課税台帳の情報を利用することや、所有者の同意が得られればですが、外部の民間事業者に情報を提供することも可能です。

    空き家となっている住宅のなかには、本来の所有者がすでに死去しており、相続登記がなされていないままというケースもめずらしくありません。誰に相続されたのかもわからなければ、対応を依頼することも難しくなってしまいます。

    そのようなとき、空き家の所有者を特定するために必要な情報を、多角的に利用できるようになったというのは、空き家問題を解消するにあたって大きな前進になるかもしれません。さらに、行政代執行による取り壊しや、空き家に関する情報公開がおこなわれるという強制的な措置が取られることもあります。

    たとえ行政代執行を受けたとしても、解体などにかかる工事費用は所有者が負担することになるという点にも注目すべきでしょう。

  2. (2)対象となる空き家の条件

    空き家対策特別措置法第2条2項が定める「特定空き家」と認められるには、次のような状態である必要があります。

    • そのまま放置すれば、倒壊など著しく保安上危険となるおそれがある
    • 著しく衛生上有害となるおそれがある
    • 適切な管理がおこなわれていないことで、著しく景観を損なっている状態である
    • その他、周辺の生活環境の保全を図るためには放置が不適切である状態である

    倒壊や屋根・外壁などが崩れるおそれがあり、近隣の住宅や通行人などが負傷する可能性がある、あるいは、ゴミ置き場のようになっている、庭木が生い茂って害虫が発生しているなどの状況があれば、特定空き家として行政の対応が検討できる状態といえるでしょう。

3、危険があれば裁判所に訴えることも可能

空き家対策特別措置法は、制定・施行されてまだ間もない法律であり、自治体によっては運用実績に乏しく、先例も十分に存在するとまではいえないところもあります。

宇都宮市では、老朽化して危険な状態にある空き家の解体・除去について費用の一部を補助するなどの施策も実施されています。それでもやはり「空き家対策特別措置法で、行政に対応してもらえる?」と判断に迷う状況もあるでしょう。

そこで、以前から存在する対策として、裁判所に「妨害排除請求権」「妨害予防請求権」の訴えを起こすという解決方法も検討できます。

  1. (1)妨害排除請求権・妨害予防請求権とは

    妨害排除請求権および妨害予防請求権は、物を完全に支配できる物権に当然に認められる権利であると考えられています。自分が隣地所有者であった場合、自分の土地や建物に危険が発生する蓋然(がいぜん)性が高い場合は、物権に基づいて、自分の財産を守る権利として、返還請求権、妨害排除請求や、妨害予防請求などが認められます。
    また、民法第198条は「占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止および損害の賠償を請求することができる」と定めています。ここでいう占有保持の訴えが「妨害排除請求権」の一内容であるという意味合いがあります。

    妨害排除請求権に基づけば、自己の財産である土地建物に対し、発生している権利侵害に対して「侵害行為をやめよ」と求め、さらに、物権に基づき、発生した損害を「賠償してほしい」と求めることが可能です。周辺の空き家によってすでに損害は発生している場合は、権利侵害の状態を停止させ、さらに賠償を求めることを検討できる、ということになります。

    また、権利侵害が発生するおそれのある状態について事前に阻止するのが「妨害予防請求権」です。「このままでは隣家が倒壊してわが家に危険が生じるため、倒壊を防ぐための措置を取ってほしい」と求める訴えを起こすことで、将来の危険が回避できる可能性があります。

    ここで注意しておきたいのが、妨害排除請求権・妨害予防請求権の訴えを起こしても、すぐに裁判所が「改善・賠償せよ」と判決を言い渡してくれるわけではないということです。

    裁判が長期化すれば、その期間も倒壊などの危険にさらされ続けるのは必至でしょう。そこで、これらの訴えに先立ってまずは「仮処分」を申し立てるのが賢明です。

    仮処分の申し立てが認められれば、裁判所は暫定的な措置として倒壊などが発生しないように措置を講じる命令を発します。まずは仮処分申立によって、とりあえずの損害発生を防ぎ、その後は妨害排除・妨害予防を求める訴えを起こすのが合理的な手順といえるでしょう。

  2. (2)代替執行による工事も可能

    裁判所に訴えを起こし、裁判所が「倒壊した空き家を排除せよ」「倒壊防止のための措置を講じること」といった判決を下しても、空き家の所有者がこれに従わないおそれがあります。

    この場合、裁判所の許可を受ければ、民事執行法171条に基づき、所有者に代わって執行する「代替執行」が可能です。なお、代替執行によってかかった工事費用は所有者の負担とすることができます(同法同条第4項)。除却費用を立て替えた場合は、所有者に請求できるため明細はしっかり保存しておきましょう。

4、弁護士に依頼すれば解決が期待できる

自宅の周囲に老朽化した空き家が建っており、倒壊などの危険にさらされている場合は、まずは自治体に対して特定空き家としての認定を申し入れることを検討しましょう。

自治体の対応が思わしくないときは、弁護士への相談をおすすめします。弁護士が代理人となることによって、行政の介入がスムーズになる可能性がありますし、行政が対応できない場合でも、裁判所に妨害排除請求権・妨害予防請求権の訴えや仮処分の申し立てをすることが可能です。すでに発生してしまった損害に対する賠償や将来的な危険の排除も検討できます。

5、まとめ

あなたの住まいの隣に、いまにも倒壊しそうな危険な空き家が建っている、すでに空き家が老朽化して一部が倒壊し敷地を超えて廃材などが侵入しているといったケースでは、空き家の所有者に対して対策を講じるよう求めることが可能です。

国は、空き家対策特別措置法を施行して空き家問題の解消を目指していますが、強制的な措置の対象となる特定空き家の指定には慎重な場合があります。したがって、思うように対応してもらえない可能性もあるでしょう。近隣周辺の空き家によって何らかの危険や損害が発生している場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを受けることをおすすめします。

空き家による危険や損害などの問題について解決を目指しているなら、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスへご相談ください。空き家問題に知見を有する弁護士が、空き家によるトラブルの解決を手厚くサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています