電車事故を起こしたときに請求される損害賠償や、科される刑罰について解説

2023年06月27日
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電車事故を起こしたときに請求される損害賠償や、科される刑罰について解説

令和5年6月、三人組がJR宇都宮線の線路付近に侵入し、走行していた寝台列車「カシオペア」を停止させる映像がテレビで放送されました。栃木県警は「列車往来危険や鉄道営業法違反の疑い」を視野に入れながら、SNSで拡散された動画や防犯カメラなどを参考に三人の特定や当時の状況などの捜査を進めてるほか、「悪質な鉄道写真撮影者を見たら通報を」と呼びかけています。

線路に侵入するなどの危険行為をしながら走行している電車を外から撮影する「撮り鉄」行為に対する社会的な視線は厳しくなっており、「遅延によって発生した損害を賠償すべきだ」と主張する意見も多く噴出しています。
また、撮り鉄行為のほかにも、人身事故や子どものいたずらが原因の事故によって鉄道会社に損害が発生した場合には、遺族や保護者が鉄道会社から損害賠償を請求されることがあります。

本記事では、電車の事故が起きた時に発生する損害賠償や問われる可能性のある犯罪について、ベリーベスト法律事務所宇都宮オフィスの弁護士が事故の種類ごとに解説します。

1、電車の事故が発生……賠償責任は?

  1. (1)民法の基本的な考え方

    民法第709条では、「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害」することを、不法行為としています。そして、不法行為をした者は「これによって生じた損害を賠償する責任を負う」としています。

    電車の事故には、飛び込み自殺、踏切や駅のホームでの接触、線路への置き石、走行中の電車への投石など、さまざまなものがあります。

    鉄道会社の立場からすると、電車の事故はそれによるダイヤの乱れや他鉄道会社への振り替え輸送、車両や線路への損害、それに対応する人件費など、多額の損害が発生します。これは、数億円単位になることもあるようです。さらに事故によっては乗客へ実際の損害が発生することもあります。

    そして、先述した民法第709条の規定に基づき、被害を受けた鉄道会社は事故を起こした者に対して損害賠償を請求し、事故を起こした者は損害を賠償しなければならない可能性があります

  2. (2)実際の損害賠償請求は?

    では、第三者の故意または過失によって起こされた電車事故の損害賠償請求は、どのような実情なのでしょうか。

    結論からいいますと、よほど悪質な動機や過失に基づくものでもないかぎり、電車事故によって生じた損害を鉄道会社が額面通りに請求するというケースは、あまり多くないといわれています。特に飛び込み自殺などの場合は、損害賠償請求そのものが行われないというケースは少なくありません。

    なぜかといえば、主に次の2事情が関係します。
    第一の事情としては、自殺した人の住所・氏名・家族の情報などは個人情報に該当することが関係します。遺族の同意がないかぎり警察や消防は鉄道会社から照会があったとしても、自殺した人の身元については開示することはありません。これにより、鉄道会社としては相手が不明な状態であるため、損害賠償請求を断念せざるをえないというケースです。

    2点目の事情としては、金額や支払い能力などの面から、損害賠償請求そのものが現実的ではないケースが多いことが関係すると考えられです。鉄道会社が事故を起こした者に損害賠償請求しようとしても、金額が非常に大きいことから、加害者に請求しないケースは少なくないといえます。特に自殺のケースは、鉄道会社の配慮が大きく影響しているようです。

    ただし、このようなケースがあるからといっても、損害賠償請求は行われない、もしくは減額されるとは断言できませんすべては事故の状況や鉄道会社の判断次第になります

2、人身事故の場合、相続放棄による解決

  1. (1)加害者の身内が死亡した場合、損害賠償請求はどうなる?

    飛び込みや線路立ち入りなどによって電車事故を起こし、その結果死亡したというニュースは頻繁に耳にします。このようなケースの場合、鉄道会社が受けた損害が、加害者の行為によって生じたと立証できた場合、鉄道会社は損害の賠償を加害者に請求することができるといえるでしょう。

    しかし、このようなケースでは、結果的に加害者となった本人はすでに他界しています。この場合、鉄道会社は加害者の配偶者、親、子どもなど、亡くなったご本人の法定相続人に対して損害賠償請求を行うことになります

  2. (2)相続放棄を検討

    もし故人である身内の方が起こした電車事故に関し、その法定相続人として鉄道会社から損害賠償請求を受けた場合は、「相続放棄」を検討したほうがよいかもしれません。

    相続放棄とは、相続人として被相続人(亡くなった人のこと)の遺産を相続する権利の一切を放棄し、「何も相続しない」とすることです。

    相続人が相続する遺産は、現預金や不動産などの「積極財産」に限られず、借金などの「消極財産」も含まれます。電車事故に関する鉄道会社から損害賠償請求は、加害者に対する債務であるため、「消極財産」に該当します

    したがって、多額の消極財産を相続することを回避するために、相続放棄の制度を活用することが考えられます

    なお、相続放棄には、手続き上の期限があり、自己に相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、所定の手続きをしなければなりません(民法915条1項、938条)。そのうえで、相続放棄が認められると、同法939条の規定により、その相続に関しては最初から相続人とならなかったものとみなされます。

3、子どものいたずらなどが原因で電車の運行を止めた場合は?

  1. (1)加害者の保護者が損害賠償責任を負うケース

    未成年の子どもが置き石などの悪ふざけで電車の運行を止め、それにより鉄道会社に生じた損害については、保護者に対して賠償請求がなされる可能性があります。

    この理由は、親は責任能力のない未成年の子どもに対する監督義務を負っており、親が子どもの監督を怠ったと判断された場合には、親が賠償しなければならないためです(民法712条、714条)。

    責任能力とは、簡単にいえば、自分がした行為によりどのような結果をもたらすかについて理解したり想定したりできる知能を指します。未成年の子どもの責任能力については、過去の裁判例からすれば、子どもが10歳以下の場合には責任能力がないと判断され、親が賠償責任を負う可能性があると考えられます

  2. (2)置き石をした事実を知っていたが止めなかった者に損害賠償責任を認めた事例

    昭和55年2月、中学生5人の悪ふざけによる線路への置き石が原因で、大阪府枚方市を走行中の電車が脱線転覆、電車の1両目が民家の庭先に突っ込んで全損、民家は損壊、電車の2両目が横転大破し乗客104名が負傷したという事件がありました。

    この事件では、置き石の事実を知り傍観していた少年に損害賠償責任があるかが争われました。
    最高裁は、置き石の事実を知っていたにもかかわらずそれを止めず、事故発生防止義務を果たさなかったといえる場合には、損害賠償責任があると判断しています(昭和62年1月22日/最高裁判決)。

  3. (3)置き石には刑事罰も

    加害者の子どもが刑事未成年(14歳未満)でないかぎり、線路への置き石には以下の刑事罰が科される可能性があります。

    • 往来危険罪(刑法125条1項)……2年以上20年以下の懲役
    • 往来危険汽車転覆等罪(刑法127条)……無期、または3年以上20年以下の懲役


    このほか、置き石による事故が原因で乗客や周辺の人を死傷させた場合は、汽車転覆等致死罪(刑法126条3項)が適用される可能性があり得えます。

4、踏切事故の場合はどうなるのか?

  1. (1)損害賠償は?

    令和2年交通白書によりますと、令和元年、駅のホームから転落したりホーム上で電車と接触したりするホーム事故が156件であったのに対して、踏切事故は208件です。減少傾向にあるとはいえ、踏切事故は電車事故のなかでもっとも多く、2日に1件以上発生しているのです。

    踏切事故で多い踏切内で車と自動車が接触するケースでは、主に以下の項目に基づき鉄道会社と自動車のドライバーの過失割合が決められます。

    • ドライバーの道路交通法上の違法行為(無理な横断など)の有無
    • 自動車の整備不足の有無
    • 踏切および非常停止ボタンの機能不具合の有無


    通常の交通事故と同じように、この過失割合と実際の損害額により、鉄道会社からドライバーに対する損害賠償の金額が決まります。自動車の踏切事故は電車本体だけではなく線路や踏切に被害が出ることもありますので、損害賠償金は相当な額になることが考えられます。
    ただし、任意保険の対物賠償保険に加入している場合は、基本的に保険会社から損害賠償が支払われます。しかし、故意に事故を起こした場合や、重大な過失によって踏切事故を起こした場合には、保険会社の約款で免責されている可能性があります。免責された場合には、保険会社から賠償金が支払われませんので、ご自身の保険約款を確認されるとよいでしょう。

  2. (2)刑事罰は?

    ドライバーに原因がある踏切事故でドライバーに科される刑事罰は、故意か過失で大きく分かれます

    故意であれば、先述した刑法125条第1項に規定する往来危険罪が適用され、2年以上20年以下の懲役が科される可能性があります。

    一方、過失であれば刑法129条に規定する「過失往来危険罪」が適用され、30万円以下の罰金が科される可能性があります。

5、まとめ

電車事故の原因となる行為をした場合、刑事責任が発生することがあります。また、民事上の損害賠償額は巨額になってしまうケースは少なくありません。さらに、加害者の家族に請求がなされる可能性もあります。

電車事故の加害者容疑がかけられ警察から連絡がきたときや、亡くなった加害者の相続人として慰謝料を請求された場合は、まずは弁護士にご相談ください。ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士は、刑事事件の弁護活動はもちろん、鉄道会社などとの交渉を行うなど、適切な結果となるようあなたの代理人として力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています