経営者の個人保証なしでも銀行から融資は受けられる? 民法改正も解説
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宇都宮市内をはじめ栃木県内では観光客などの激減により、複数のタクシー会社が休業や廃業に追い込まれています。融資を受けなければ、同じように事業を続けられなくなる会社もあるはずです。新型コロナウイルスの影響により経営危機に陥り、手元資金を増やすために金融機関からの融資を検討している会社は多いでしょう。
これまで特に中小企業においては、融資を受ける際に社長が保証人となるケースが多い傾向にありました。ですが「経営者ガイドライン」の公表や民法改正により、個人保証の仕組みが大きく変わり、個人保証なしでも融資を受けやすくなったことをご存じでしょうか。
そこで今回は融資を受ける前に知っておきたい、ガイドラインや民法改正のポイントについて、宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、会社の融資に使われる「個人保証」とは
銀行に融資を頼んだ場合、「個人保証」を求められることが少なくありません。ではそもそも個人保証とはどのような仕組みで、なぜ必要なのでしょうか。
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(1)個人保証とは
「個人保証」とは、個人が保証人となる制度であり、特に中小企業が銀行などの金融機関から融資を受ける際に、社長などがその債務の保証人となる場合には、「経営者保証」と呼ばれることもあります。
中小企業では経営者が会社の大株主であったり、会社と経営者の資産が一体化し財布が一緒になっていたりすることが珍しくありません。また会社よりも中小企業経営者の方が、財産が多いケースもあります。
そのため融資の際に個人保証をつけることが慣習化していました。 -
(2)個人保証のメリット・デメリット
融資を受ける会社にとっては、保証人をつけることで信用力が高まり、融資を受けやすくなるというメリットがあります。金融機関にとっても、経営者への規律付けや倒産した場合の貸し倒れリスクの軽減というメリットがあります。
一方で個人保証にはさまざまなデメリットがあります。
たとえば返済が滞った場合や会社が倒産した場合、保証人は多額の債務を負うことになり、返済できずに自己破産してしまうケースに陥ってしまいます。債務を負うリスクはまた、新規事業の立ち上げや業務拡大の足かせとなり、機動的な経営を阻んでいました。
事業承継の際にも一般的には後継者が個人保証を引き継ぐ、または新たに保証人として加わるため、後継者が事業承継に二の足を踏む原因となっていたのです。 -
(3)個人保証なしの融資拡大へ
個人保証がなければ融資が受けられないというわけではありません。しかし、実際には経営状態が良い会社でも個人保証を求められる傾向があり、制度への批判が高まっていました。
そこで策定されたのが「経営者保証ガイドライン」です。民法も改正されたことにより、個人保証なしでも融資を受けやすくなったのです。
2、経営者保証ガイドラインとは
前述のとおり、個人保証なしの融資を推進するために作られたのが「経営者保証ガイドライン」です。その内容について、改正民法と合わせてご説明します。
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(1)経営者保証ガイドラインの内容
「経営者保証ガイドライン(経営者保証に関するガイドライン)」とは、日本商工会議所と全国銀行協会が設置した研究会が策定した、個人保証に関するルールです。
経営者保証ガイドラインでは、大きく分けて次の3つについて検討するよう、金融機関に促しています。- 要件を満たした場合に、個人保証なしで融資する、または個人保証を解除・減額する。
- 事業再生や廃業を早期に決断した際に、一定期間の生活費や「華美でない」自宅を残すことを認める。
- 要件を満たした場合に、返済後の残債を免除する。
ガイドラインは平成26年2月から運用されており、法的拘束力はありませんが、自主ルールとして守るように求められています。
また令和2年4月からは旧経営者と新経営者の両方に個人保証を求める、いわゆる「二重取り」を原則禁止する特則が適用されるようになりました。これにより旧経営者が個人保証から外れやすくなり、後継者に事業を任せる決断をしやすくなりました。 -
(2)経営者保証ガイドラインの適用対象者
経営者保証ガイドラインを利用するためには、前提として次の4点を満たしている必要があります。
- 主債務者が中小企業
- 保証人が中小企業経営者などの個人
- 会社と経営者が弁済に誠実、かつ財産状況などを適切に開示
- 反社会勢力ではなく、そのおそれもない
個人保証を外すための具体的な条件については、次章でご説明します。
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(3)個人保証に関する民法改正
民法改正により令和2年からは個人保証に関して主に次のような点で変更がありました。
- 公正証書による保証人の意思確認
- 3段階での保証人への情報提供
「公正証書による保証人の意思確認」とは、経営者の家族や知人らが保証人になる場合、保証契約締結の前1か月以内に、保証を行う意思を公正証書にして残しておかなければ、契約が無効になるというものです(民法第465条の6)。ただし主たる債務者が法人で、取締役や理事らが保証人となる場合には適用されません。
また、保証人に対する「契約締結時」「債務履行前」「期限の利益喪失時」の3段階における情報提供も義務付けられました。
まず契約締結時に、主たる債務者である会社は、保証人に会社の財産や収支、ほかの債務の状況、担保の有無について情報提供をしなければいけません(民法第465条の10)。債務者がわざと情報提供をしなかったり、虚偽の情報を提供したりした場合、保証人は契約を取り消すことができます。
次に債務履行前に、銀行などの債権者は保証人の求めに応じて返済の状況について報告しなければいけません(民法458条の2)。
期限の利益喪失時とは、分割払いなどで期限までに返済がない、いわゆる「期限の利益喪失時」、2か月以内に保証人にその状況を通知しなければ、債権者は期限の利益喪失時から通知が行われるまでの遅延損害金を請求できないというものです(民法第458条の3)。
3、社長の個人保証を外すためのポイント
経営者ガイドラインに基づき社長の個人保証を外すためには、適用対象者であることのほか、次の条件を満たさなければいけません。
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(1)個人保証なしで融資を受ける3つの条件
経営者保証ガイドラインでは、個人保証なしで融資を受ける要件として、企業側に次の3つを求めています。
- 法人(会社)と経営者の関係の明確な区分・分離
- 財務基盤の強化
- 財務状況の正確な把握や情報開示などによる経営の透明性確保
「法人と経営者の関係の明確な区分・分離」とは、適切な範囲を超えて行う法人と経営者間の貸し付けをなくすなどして、中小企業にありがちな法人と社長の財布が一緒になっている状況を改善し、財産を明確に分けることです。
「財務基盤の強化」とは、個人保証がなくても会社が必要な資金を調達できるよう、財務状況や業績を改善し、返済能力をアップさせることです。
「財務状況の正確な把握や情報開示」とは、債権者である銀行などから求められた場合に、決算や業績見通し、資産・負債の状況などの情報を開示することです。
個人保証の見直しの際は、まずはこれらの達成を目指しましょう。 -
(2)銀行とのコミュニケーション
「個人保証なしで融資を受けたい」「個人保証をやめたい」という場合は、融資を行う金融機関の同意を取り付けることも大事なポイントです。
金融機関としてはガイドラインがあるとはいえ、簡単に保証なしでの融資はできないでしょう。一方的に「個人保証をやめる」と言っても、まず受け入れてもらえません。
そのため経営状況の改善など、担当者を納得させられるだけの状況をつくり、さらにきちんとコミュニケーションをとって信頼関係を築いておくことが重要といえます。
4、事業承継や相続に向けた個人保証の対策
個人保証を整理しておくことは、スムーズな事業承継や相続トラブル回避にもつながります。事業を長く安定して行っていくために、個人保証のあり方を検討しておきましょう。
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(1)個人保証は事業承継や相続の障害になる
近年、経営者の高齢化や少子化の影響により、中小企業の後継者不足が社会問題になっています。特に経営者が個人保証をしている場合、経営者の子どもらが事業承継を嫌がることは珍しくありません。
また個人保証は、相続トラブルの原因にもなります。相続で預貯金などのプラスの財産を相続した場合、借金などマイナスの財産も相続しなければいけないため、被相続人の個人保証を相続人は引き継がなければいけません。
特に被相続人が保証人になっていることを周囲が知らなかった場合、大きなトラブルになる可能性があります。 -
(2)個人保証の見直しは早めにする
個人保証なしの融資や個人保証契約の減額・解除には、金融機関との協議が必要です。ガイドラインは自主ルールであるため、債権者である銀行には個人保証を外す義務はありません。つまり相手次第なのです。
個人保証をなくすためには、まずは経営者ガイドラインの条件を満たした経営を行ったり業績をアップさせたりし、その後金融機関と話し合いをしましょう。
交渉は簡単にはいかないため、事業承継や相続が始まる前に、早めに対策を始めることをおすすめします。金融機関との協議が不安な場合は、弁護士に相談すれば交渉のサポートを行うことが可能です。まずはご相談ください。
5、まとめ
個人保証をすれば、融資金額や条件の面で金融機関からより良い提案を受けられるかもしれません。他方、将来大きな債務を負うリスクもでてきます。メリット・デメリットを踏まえて検討するために、まずは弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスでは、個人保証など中小企業からのさまざまな課題解決をサポートします。リーズナブルに始められる顧問弁護士サービスも提供しており、弁護士が現在の会社の状況についてお伺いしたうえで、法的なアドバイスを行うことが可能です。お気軽にご相談ください。
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