覚書と契約書の違いは? それぞれどのように使い分ける?
- 一般企業法務
- 覚書
- 契約書
- 違い
「令和元年経済センサス-基礎調査(令和2年12月25日公表)」によりますと、栃木県内には約9万3000の事業所が存在しています。個々の企業が経済活動を行う上で、欠かせないもののひとつが契約書です。また、契約書に似たものとして覚書というものがあり、この両者の使い分けについて迷ってしまう企業のご担当者の方も多いようです。
そこで本コラムでは、契約という言葉の法的な定義から覚書と契約書の違い、そして両者の使い分け方と覚書の作成方法について、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、覚書と契約書の違いは?
-
(1)そもそも契約とは?
日頃、私たちは契約という単語を何気なく使用していますが、以下のように契約には法的な定義があります。
- 法律上の効果を生じさせる目的で、当事者等の間に約束を取り交わすこと。またはその約束のこと。
- 法律上、互いに相対する2個以上の意思表示の合致 (合意) によって成立する法律行為のこと。
- 契約は複数の意思表示からなる点で単独行為と異なり、相対する意思表示からなる点で合同行為と異なる。
契約の定義を理解する上では、「法律上の効果」・「意思表示」・「合意」・「法律行為」という言葉の解釈がポイントとなります。
まず、「法律上の効果」とは、個人の間の約束を具体化させ、それに法律上の効果を持たせることをいいます。
続いて「意思表示」ですが、これは「相手方との関係で一定の法律上の効果の発生・変更・消滅を希望する旨の外部への表明」を意味します。そして「ある一定の法律上の効果の発生・変更・消滅を希望する相対立する当事者間の意思表示の合致」が法的な意味での「合意」であり、「契約」ということになります。
また、「法律行為」とは、申し込みや承諾といった意思表示を内容とする、一定の法的な効果を発生させる当事者の行為です。
以上をまとめると、契約とは「当事者の合意のうち法律上の効果を発生させるもの」ということができます。 -
(2)覚書と契約書の関係は?
覚書は、当事者たちがお互いに履行することを約束したこと、つまり契約したことを証する書面です。しかし、契約は口頭ベースでも有効に成立することから、覚書と契約書という書面について法的に明確な定義はありません。
実務的には、契約書は当事者間の約束ごととその内容について合意したことを証する書面、つまり契約の内容の根幹を示した書面としての位置づけです。
一方で、覚書は一般的に契約の内容を事前あるいは事後的に補完するものとして、契約書と区別して作成・使用されています。このことから、契約書と覚書は、それぞれ役割が異なる文書であるとして、使用されているといえるでしょう。
2、覚書と契約書の使い分けについて
契約書は、契約時点における当事者間の法律上の効果についての取り決め事項を明文化したものです。これに契約当事者が記名・押印することによって取り決め事項に合意したことを表示し、契約が成立したことになります。
これに対して覚書は、たとえば以下のように主たる位置にある契約書の内容を補完する役割、あるいは実質的な契約書の役割を果たします。
- 契約締結前に、今後契約を締結する意思があることを確認する。
- 契約書の代わりに、覚書のタイトルで契約を締結する。
- 契約締結後、その内容の一部を変更あるいは追加する。
- 契約書の記載があいまいなため、その事実関係を明確化する。
- 契約書の細目部分を覚書で一覧のように示す。
上記後段3項のケースは、何らかの事情で当初締結した契約書の内容を変更、補完することに合意し、かつ、契約書そのものを再作成するまでもないと当事者たちが合意した場合に覚書を締結することで、手続きの簡略化を図るものです。このとき、主たる位置にある契約書の内容のことを、「原契約」と呼ぶ場合もあります。
また、すでに契約書が存在している中で改めて契約書のタイトルで契約ごとを取り決めることに抵抗がある場合、契約書ではなく覚書で取り決めることもあるようです。
3、覚書の法的拘束力は?
契約書は、当事者たちが契約の内容について合意したことを証する書面です。それは後日の言った・言わないという当事者間におけるトラブル発生時に証拠となり得るものですから、合意の存在など、証拠として重要な意義を持つものです。
一方で、覚書が法的拘束力を持つかという点については、覚書の内容次第になります。具体的には、覚書の内容が「契約」であれば、その覚書は契約の内容につき定めたもの、という意味を持ちます。これはタイトルが念書であろうと借用書であろうと確約書であろうと変わりません。つまり文書のタイトルが何であれ、文書の内容とその趣旨が契約であればその文書に法律上の効果が生じるのです。
4、覚書の書き方・作成方法
-
(1)変更の覚書
対象となる原契約書の変更または追加する部分を示し、どの語をどのように変更するかを明確に示します。一般的には契約書の一部の変更になりますが、覚書において契約書全文の変更を行うケースもあるようです。
-
(2)覚書のタイトルの設定
当初の契約書内容の一部を変更することが目的である場合には、そのことがわかるように、簡単に「○○契約の変更に関する覚書」などとする方法が合理的であると考えられます。「変更」という語が含まれた適宜のタイトルでよいでしょう。
ただし、当初の契約書の全般にわたり変更する場合は、「変更」の語を入れずに通常の新規の契約書のようなタイトルをつけます。新規の契約書と違う点は、次に述べるような客観的に原契約の変更が目的であるとわかる文言があることです。 -
(3)変更文言と対象の契約書の特定
まず、タイトルの次の前文に変更の対象とする契約内容を契約当事者と締結日で特定します。それに続き、覚書で指定した部分が変更するという趣旨を書きます。なお。これには「一部変更」と「全部変更」があります。また、変更の経緯・目的、趣旨等も織り込めば後々の参考にもなるでしょう。
以上を踏まえて前文の例を以下に示します。
「A株式会社(以下「甲」という)とB株式会社(以下「乙」という)とは、今般、………のため、甲乙間で締結した平成○年○月○日付 ○○契約(以下「原契約」という)の一部を次のとおり変更することを合意した。」
もし原契約の全部を変更する場合は、上記一部変更契約の最後の部分を「の全部を次のとおり変更することを合意した。」とすればよいのです。
なお、対象の契約書にある契約変更の根拠となる条項を、「原契約第○条により」などと引用して示すこともあります。原則、原契約に変更の根拠条項がなくても契約当事者が合意すれば、変更も覚書によって可能ですが、契約内容を事後に変更することを制約する趣旨が原契約の趣旨から読み取れる場合には、それに対応する変更根拠条文が必要となり、その場合には変更根拠条文を示す方がよいでしょう。 -
(4)変更内容の書き方
前文に続いて、変更する内容を明示します。全部変更の場合は、前文の次に新しい契約条項全部を示しますが、一部変更の場合は、原契約である変更対象の契約のどの部分を変更するかを示し、変更後の内容を記載します。
法令の一部改正の場合は、たとえば、第○条中の「……」を「~~」に改める、などと、なるべく少ない文字で改正規定を作っているケースが多いものです。これにならい、覚書の目的が契約書の一部変更も場合はわかりやすさを優先して、変更の対象となる契約の対象部分の条項を特定し、変更後のその条項全体を書くのがよいでしょう。 -
(5)条、項、号を新たに付け加える場合
まず、付け加えられる条、項、号が、原契約の最後につく場合は、次のような対応が考えられます。
「原契約第5条の次に次の1条を加える。
第6条……」
「原契約第2条に次の1項を加える。
5 前4項の場合において、……」
覚書において付け加えられる条、項、号が、原契約の条、項、号の間に入る場合は、もとの契約の条、項、号を繰り下げて、新しいものが入る場所を作り、上の方法をとることになります。
たとえば、原契約第2条と第4条の間に2条追加する場合は次のとおりです。
「原契約第5条を第7条とし、第4条を第6条とし、第2条の次に次の2条を加える。
第4条 甲は、……
第5条 乙は、……」
繰り下げは、最後尾の条から順次繰り下げていきます。
この方法のほかに、法令改正の場合は新しく挿入する条に「第3条の2」など枝番をつけて、繰り下げを行わないこともあります。これは、繰り下げの対象となる条が多くて煩雑になることや、繰り下げられる条がその法令やその他の法令で多く引用されており、その関連の改正も加わり複雑になるのを避けるためです。覚書の場合は法令ほど変更条項が引用されることは一般的ではないと考えられますので、繰り下げる方法を採用するするのが一般的です。 -
(6)末尾文言等
覚書においてもしめくくりに、次のような末尾文言を記載します。
「以上のとおり変更することに合意したので、本書2通を作成し、甲および乙が記名捺印し、各1通保有する。」
また、変更事項が適用になる日を変更日として特に規定する例もありますが、特に断らないかぎり変更契約書、覚書に表示された日付が契約変更の日と考えられます。 -
(7)一部変更の場合の「溶け込み」
契約の全部変更の場合は、変更前の契約が変更後の契約書あるいは覚書に入れ替わるだけです。しかし、一部変更の場合は、原契約と変更契約書あるいは覚書の関係はどう考えたらよいか、という問題があります。
わが国の法令の一部改正では、改正法を対象とした既存の法令の中に溶け込ませていく方式が採られています。これによると、既存の法令の一部を改正する法令は、それ自体ひとつの別個の法令です。ところが一度施行されると、その内容にしたがって既存の法令を改正してその中で無理なく解釈できるよう既存の法令の一部のように解釈される、という扱いがなされます。
契約変更に関する覚書についても、法令と同様に考えることができます。原契約の一部を変更する覚書が成立すると、契約変更に関する覚書の内容は、対象となった原契約の内容の齟齬なく解釈できるよう、原契約の一部として解釈され、原契約は変更契約に関する覚書の締結で内容が変更を受け、継続していくことになります。
したがって、それ以降に原契約を示すことは、変更後の契約を示すことを意味します。日付は当初の原契約時のままなので覚書による変更が反映されていない状態とも思えますが、引用した時点までの変更がなされた契約を示しているといえます。過去に何回も変更されている契約をさらに覚書によって変更する場合、原契約のほかにそれまでの変更の履歴を覚書に列記する例があります。
契約が覚書によって変更されたか否かは、後に紛争が生じた場合、重要な争点となる可能性があります。事後に紛争を回避するためには、当事者の合意の趣旨や経緯を、できる限りわかりやすく明記しておくことも、覚書や変更契約書の役割ともいえます。
5、まとめ
覚書にするか、あるいは契約書にするかについては、対象となる個別事情を踏まえた上で判断するといいでしょう。覚書にせよ契約書にせよ、大切なのはその内容です。あなたに不利な内容にならないように、そして法的な要件を充足したものにするためには、弁護士と相談しながら覚書や契約書を作成することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスでは、ワンストップで対応可能な顧問弁護士サービスをリーズナブルな料金でご提供しております。顧問弁護士サービスをご検討の際は、ぜひベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています