介護事業者が把握しておくべき法律とは? トラブルを回避する方法
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宇都宮市は、令和2年度の施政方針で「高齢期の生活を充実する」というテーマを掲げ、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らすことができるよう取り組むことを宣言しています(「宇都宮市令和2年度施政方針」より)。
高齢化に伴い、介護事業への参入を検討している方もいるでしょう。介護事業は高齢者の生活を支える重要な事業ですが、法的な規制も多く、参入する場合にはすべての規制をクリアする必要があります。本コラムでは、介護事業に参入を検討中の方のために、規制や罰則、介護事業で予想されるトラブル回避の方法について、宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、介護保険関連の法律
介護事業を始めるにあたって、まず押さえておくべき法律はなんといっても介護保険法です。事業の柱になる重要なポイントですので、しっかり理解しておきましょう。
介護保険法とは、介護が必要となった方の生活の自立を支援するため、介護、介助、そしてリハビリなどのサービスの給付について定めた法律です。2000年の介護保険法施行後、老人福祉法上の介護老人福祉施設やサービスを利用する際に介護保険制度が原則として適用されることになっています。介護保険法に基づく給付は、国民が負担する介護保険料や税金を財源としていますので、適切な運用のために規制がしっかり決められているのです。
介護保険法に基づく介護サービス事業を行うためには、保険者である都道府県から、介護保険指定事業としての指定・許可を受ける必要があります。また、指定・許可を受けた後も、6年ごとの更新が義務付けられています。
なお、介護保険法では、以下のように、介護サービスの内容によって、それぞれ指定・許可を受ける必要があるとしています。
- 訪問介護を行う場合=介護保険法に基づく訪問介護事業
- 居宅サービス全般を行う場合=介護保険法に基づく居宅サービス事業
- 介護予防サービス全般を行う場合=介護保険法に基づく介護予防サービス事業
まずは自分がどの事業を行うのか、はっきりさせたうえで指定事業者としての申請を行いましょう。
2、建築基準法と消防法
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(1)介護施設と建築基準法
介護サービス事業をスタートするとき、避けては通れないのが建築基準法の手続きです。建築基準法では、建物の利用用途によって、満たすべき基準がそれぞれ異なります。つまり、同じ建物でも、用途を変更することで適用される基準が変わり、建築基準法上違法となる可能性があるのです。
介護保険施設として利用を検討している建物が、建築基準法に定める基準を満たすかどうかは、建築士による専門的な判断が必要です。建物を新築する場合は、設計段階から建築基準法上の基準に沿った手続きをすべて踏んでいく必要があります。介護事業所の各種法令に詳しい建築事務所に依頼して、不備がないように進めていきましょう。
また、既存建物を利用する場合は、用途変更や、基準に合った建物の仕様変更などが必要となる場合がほとんどです。この場合も、事前に介護事業に詳しい建築士などに相談するとともに、行政の担当部署にも確認し、慎重に進めるようにしてください。 -
(2)消防法にも注意
消防法とは、火災の早期発見、通報、初期の消火、迅速かつ安全な避難を行わせるために、各種の規制を設けている法律です。
介護保険事業の指定を受けるには、消防法に沿った届け出や行政による確認も必要です。消防法に関する届け出は、防火対象物を管轄する消防署に対して行います。そして、建物の工事を行う場合は、着工の7日前までに「防火対象物工事等計画届出書」等を提出しなければなりません。
また、建物の使用用途や面積によって、消火器や自動火災報知設備等の消防用設備の設置が義務付けられており、これらの基準をすべて満たしていく必要があります。基準を満たしているかどうかは、事業所指定の申請までに行われる消防の立ち入り検査によって判断されます。
なお、事業開始後に建物の仕様を変更する場合にも、消防署への届け出が必要です。消防法は、建築基準法や介護保険法に比べて認知度が低く、介護事業を開始する際に、後回しになりがちです。
しかし、万が一消防法の基準を満たしていなければ、たとえば火事などが起きたときに被害が拡大し、事業主が大きな責任を追及されるリスクが高まります。利用者の生命と身体の安全を確保することは、事業主自身を守ることにもつながります。介護事業を開始する際は、消防法もしっかりと押さえるようにしましょう。
3、会社法と労働法
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(1)介護施設と会社法の関係
介護保険法に基づく介護事業を開始できるのは、法人に限られます。つまり、法人格を取得しなければ、そもそも介護事業を始めることはできないのです。
介護事業を行う法人格としては、株式会社、合同会社、医療法人、社会福祉法人、NPO法人などがあります。どの法人格を用いるのかは、事業計画や事業主の資格などを考慮して決定することになります。そして、株式会社や合同会社を選択した場合は、会社法が適用されることになるのです。
なお、平成18年には新会社法が施行され、以下の通り、かつてよりは会社を設立するためのハードルが大きく下がっています。- 最低資本金(1000万円)の制度が廃止され、1円から株式会社を設立できる
- 株式会社の取締役最低必要人数が3人から1人に減った
- 株式会社に取締役会の設置義務が無くなった
介護事業の参入にあたり会社設立をする場合、会社法の規定に基づいて設立手続きを踏む必要があります。
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(2)介護施設と労働法
労働法とは労働基準法等、労働に関連する法律をまとめて称したものです。
介護事業者は慢性的な人手不足が続いており、厳しい労働条件が社会問題となったこともあります。そこで、平成24年4月施行の改正介護保険法により、労働法規を遵守しない事業者に対しては、都道府県または市町村から、介護事業者としての指定を取り消される可能性が明記されました。
具体的には、以下のようなケースが労働法規違反となる可能性が高いです。- 労働時間の虚偽(過小)申告
- 研修を義務付けておきながら、研修時間を労働時間と認めず、賃金を払わない
介護事業者としては、利用者の安全とともに、労働者の権利も守るように法律で固く義務付けられているわけです。なお、労働法は、働き方改革などの社会情勢の変化に伴って頻繁に改正されています。知らないうちに違法な状態になっていたという事態に陥らないようにするために、弁護士や社労士などにアドバイスやチェックを依頼しておくことをおすすめします。
4、顧問弁護士を雇うメリット
介護事業者がぶつかるトラブルの代表は、サービス利用者やその家族からのクレームトラブル、そして、従業員との労働トラブルです。
地域密着型サービスであり、利用者の信用が第一ともいえる介護事業者としては、①できるだけトラブルが起きないように防止すること、②トラブルが発生したら速やかに解決すること、が重要です。そして、この2点を両立するために、顧問弁護士を持っておくことがおすすめです。以下に、介護事業者が顧問弁護士を持つメリットをご説明します。
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(1)サービス利用者や家族からのクレーム対応
介護事業を行う以上、サービス利用やその家族からのクレームは、避けて通れません。そして、発端は小さなクレームだったところ、クレーム時の事業者側の対応によって相手の感情に火をつけてしまい、賠償問題に発展することも珍しくありません。
また、最近では、カスハラと言われるクレーム問題も増加しており、現場の担当者の努力だけでは対処しきれないケースも増えています。さらに、単なるクレームではなく、実際に介護事故があった場合は、過失や賠償について具体的な検討が必要です。しかし、介護上の事故は微妙なケースも多く、法的な判断や交渉は難航しがちです。
このようなとき、顧問弁護士がいれば、以下のようなメリットを得られます。- ①利用者や家族からのクレームがあればすぐに相談でき、事業所の事情に応じた適切な対処方法についてアドバイスをもらえる
- ②法的問題があり自社による対応が難しいケースでは、顧問弁護士をクレーム対応窓口として依頼できる
- ③介護事故について、事業者の過失や法的な責任の範囲を確認でき、必要に応じて賠償などの交渉を任せることができる
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(2)職員との労働トラブルの相談
介護事業は、介護状態にある方を支えるという仕事の性質上、多くの人員を必要とするうえ、負担のかかる仕事でもあります。そのため、職員の労務トラブルが生じやすい環境にあるといえるでしょう。
実際、介護事業者と労働者のトラブルは頻繁に発生しており、労働時間や賃金トラブルだけでなく、最近ではパワハラやセクハラに関するトラブルも増えています。そして、頻繁に行われる労働法改正に合わせた対応も必要であり、対応が遅れると介護保険法の事業者としての地位が危うくなるというリスクも存在しています。
こうした労働問題についても、いつでも顧問弁護士に相談できる体制を整えておくと安心です。なお、労働者とのトラブルについては、初期対応を誤ると、裁判に発展する恐れがあります。裁判になると膨大な手間と費用がかかりますので、適切な初動をとるためにも、速やかに弁護士に相談できる顧問弁護士制度の利用は大きなメリットといえるでしょう。 -
(3)不測の事態でもすぐに対応できる安心感
ビジネスを行う以上、トラブルはつきものです。しかし、あらゆるトラブルについて事前に予測して対策を立てておくことはできません。
昨今の新型コロナウイルスの感染拡大など、想定していないような事態が起きることも実際にあり得るのです。どんな事態になっても、経営者としては、それに対応してビジネスを維持する必要があります。
そのようなとき、法的な観点について気軽に相談でき、的確なアドバイスをもらえる顧問弁護士の存在は、経営者にとって大きな支えになります。法的な課題は顧問弁護士に任せることで、経営者はビジネスの課題に集中して取り組むことができます。さらに、不測の事態にも対応できる事業の力を持つことができるでしょう。
5、まとめ
介護事務所への参入にあたっては、さまざまな法規制をクリアしなければなりません。そして、事業を開始した後は、法改正に対応しつつ、利用者や介護者である職員とのトラブルをひとつひとつ解決していく必要があります。
顧問弁護士を利用することで、介護事業を円滑に進めるための幅広いアドバイスを速やかに受けることができます。ベリーベスト法律事務所では、介護業界について経験豊富な弁護士が多数在籍し、介護事業に特有のトラブルの防止と解決のため、積極的なアドバイスを提供できる顧問弁護士サービスをご用意しています。介護事業の展開をご検討中の方は、ぜひご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています