業務委託契約の注意点とは。 受託者が気を付けるべきポイントをご紹介
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業務委託で仕事を受ける際には、「業務委託契約書」というタイトルの契約を締結することがあります。業務委託契約を結ぶ際には、内容をよく吟味したうえで締結しなければ、あとになってこんなはずではなかった、という事態になりかねません。
業務委託契約を締結するにあたっては、押さえておくべき注意点があります。また、大企業と、中小企業あるいは個人との契約については、下請法にも注意が必要です。中小企業庁による市区町村別中小企業数の統計(2016年6月時点)によると、宇都宮市の中小企業の数は13,828社でした。これらの企業は、下請法により保護されている可能性があります。
今回は、業務を受ける側の方々が業務委託契約書を結ぶにあたって何に注意したらよいのかを解説します。
1、業務委託契約とは
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(1)業務委託契約書とは
業務委託契約書とは、業務の遂行を他者に委託する際に作成する契約書です。
業務委託契約とは、業務の発注者(委託者)から、業務の受注者(受託者)に対して、何らかの業務の遂行を委託し、受託者はこの業務遂行の報酬を受け取るという内容の契約です。
業務委託契約にいう業務は、当事者間で設定することができますので、この契約類型は、企業の取引において幅広く利用されています。
一例ですが、次のような契約において業務委託契約書が利用されることがあります。
【例】- 清掃等の不動産の管理を委託する契約
- システム開発契約、システム保守契約
- コンサルティング契約
- イラストやデザイン、記事などの作成についての契約
- 建設の設計監理についての契約
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(2)2種類の業務委託契約
業務委託契約は、内容によって、おおまかに2つのタイプに分かれます。このタイプごとに、委託者・受託者それぞれの権利義務が異なる場合がありますので、注意して使い分けることが必要です。
業務委託契約という契約類型は、明文としては法律には定められていません。業務委託契約は、民法に定められている契約類型のうち、請負契約、準委任契約のいずれかであることがほとんどです。これが業務委託契約の2つのタイプです。順にみていきます。
- 準委任:「法律行為でない事務の委託」のことです(民法656条)。
- 請負:「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払う」契約(民法632条)。(「」内は民法からの引用)
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(3)業務委託契約書に定める内容
- 契約の目的
受託者に業務を委託する目的を記載します。 - 委託する業務の内容等
委託する業務の内容、成果物、委託報酬、支払い方法、契約期間などを定めます。 - 再委託の可否
受託者が、委託業務をさらに誰かに委託することを認めるか否か、認める場合は、そのルールについて定めます。 - 知的財産権の帰属など
委託業務を遂行する過程で、知的財産を利用する場合や、新たに知的財産が発生した場合、誰に帰属するのかなど、知的財産の扱いについて定めます。 - 秘密保持規定、個人情報の保護
業務委託にあたって、一方または双方から開示される、秘密情報や個人情報の取り扱いについて定めます。 - 反社会的勢力の排除
契約当事者やその役員、従業員などの関係者が、暴力団などの反社会的勢力とかかわりを持っている場合や、反社会的な行為をした場合に直ちに契約を解除することができるという規定です。 - 損害賠償
契約当事者間で、契約違反などがあった場合の損害の賠償についての内容や、条件などを定めます。 - 紛争解決
国際的な事案になった場合、どこの国の法律を使って紛争を解決するのかや、紛争になった場合にどこの裁判所で審理してもらうかについて定めておきます。
- 契約の目的
2、業務委託契約書で確認すべき注意点
● 業務内容等をできる限り特定しておくこと
業務委託契約において、委託する業務が抽象的にしか記載されていないことがあります(たとえば、●●に関するコンサルティング業務、●●システムの保守業務としか記載されていないなど。)。
これでは、具体的にどこまでの業務をやることになるのかがはっきりしておらず、後のトラブルにつながりかねません。委託する業務の内容は、たとえば契約書に添付する別紙や細目などにおいて、なるべく具体的かつ詳細に定めておきましょう。
● 受託者の作業状況等について、確認をする体制の整備
委託者側としては、受託者側での作業環境や進行状況の確認をすると定めれば、トラブルの発生を未然に防げる可能性が高まります。
そのため、受託者に対して、必要に応じて協議会の開催や報告書の提出を義務付けたり、委託者の作業場への立ち入りを定めている例もあります。
● 再委託についての定め方
業務委託契約においては、再委託についての定めがあることが一般的です。
委託する側としては、せっかく信頼できる業者に委託したはずが、他の業者に丸投げされていたとなれば、業務の質が低下するリスクを抱えることになります。
そのため、そのリスクを予防するため、再委託を一律に禁止するという方法がとられることがあります。他方で、再委託を活用することで、各専門業者に再委託してもらうことで、業務が円滑に進行できるというメリットも考えられますので、委託者の事前の承認を条件として、再委託を認めることもあります。
● 損害賠償条項の定め方
損害賠償条項は、業務委託契約に関わるトラブルが起こった際に大変重要な条項となるので、念入りなチェックが必要です。
ポイントは、損害賠償の内容について制限が設けられているかどうかです。
受託者としては、賠償しなければならない金額を少しでも小さくする方向に働きかけを行うことになります。
損害賠償の内容の制限の方法としては大きく2通りあります。上限金額による制限と、損害の種類による制限です。種類による制限とは、たとえば「間接損害は賠償の対象から除く」「賠償の範囲は現実に生じた損害に限る」などのような定め方です。
3、下請法にも注意
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(1)下請法とは?
下請法とは、下請取引の公正化や下請事業者の利益保護のために、下請を頼む事業者(親事業者)が守るべきルールなどを定めた法律です。下請法は略称で、一般的には、「下請代金支払遅延等防止法」といいます。
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(2)下請法の適用対象
下請法が適用される取引の範囲は、取引の内容と、資本金の2つの面から定められています。具体的には、以下のとおりです。
- 物品の製造委託や修理委託を依頼するとき
- 情報成果物の作成を委託するとき
- 役務提供の委託をするとき
(プログラムの作成、運送、物品を倉庫で保管すること、および情報処理に係るもの)
親事業者 下請事業者 資本金3億円超 ⇒ 資本金3億円以下(個人を含む) 資本金1000万円超3億円以下 ⇒ 資本金1000万円以下(個人を含む)
情報成果物作成委託・役務提供委託
(プログラムの作成、運送、物品を倉庫で保管することおよび情報処理に係るものを除く)親事業者 下請事業者 資本金5000万円超 ⇒ 資本金5000万円以下(個人を含む)) 資本金1000万円超5000円以下 ⇒ 資本金1000万円以下(個人を含む) -
(3)親事業者の義務・禁止事項
親事業者には、次の4つを守らなければならないと義務付けられています。
- 発注書面の交付すること
- 取引に関する書類の作成・保存すること
- 下請代金の支払期日を定める
- 遅延利息の支払義務
ここでいう「書面」とは3条書面とよばれるもので、契約を結ぶ両事業者の名称や行う仕事、代金の額などを書面に記載する必要があります。
また、下請法には親事業者の禁止事項も定められています。具体的には、
- 成果物の受け取りを拒否すること
- 下請代金の支払いを遅らせること
- 下請代金を減額すること
- 返品すること
- 買いたたくこと
- 親事業者が何らかの品の購入を強制すること、それを利用することを強いること
- 親事業者が不正を行っていることを下請事業者が行政に伝えた場合に、それに対して報復措置をとること
- 親事業者が仕事に必要な原材料を有料で受託者に渡している場合に、その代金を先払いさせたりなどの早期決済をすること
- 支払期日までに割引困難な手形で代金を払うこと
- 他の仕事を無償でさせるなど、不当に利益提供させたり、労働力を提供させたりすること
- 下請事業者がきちんと仕事をしたのにやり直しをさせるなど、不当な理由で、仕事の内容を変更したり、やり直しをさせたりすること
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(4)業務委託契約書作成上の下請法の注意点
下請法上の親事業者に該当する企業は、業務委託契約書を締結するにあたって、下請法に違反する事項が定められてないか確認する必要があります。下請法に違反すると、公正取引委員会からの勧告を受けたり、罰金を科せられたりする可能性があるからです。
下請事業者としても、下請法に定める取引に該当する場合には、下請法に違反する規定がないかを確認し、あった場合には親事業者に是正を求めましょう。
4、顧問弁護士サービスの検討を
契約書の締結や、そのほかの事業を進めるにあたって直面する法律に関する問題について、社内ですべて対応することは容易ではありません。特に、受託者として仕事をする経験が少ない中、契約書を結ぶとなると、トラブルが起こった際に思わぬ損害を受けることにもなりかねません。そういった事態を避けるためにも、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
当事務所では、新たに事業を始めるのであれば、業務委託契約書の確認だけではなく、それ以外の法的助言を行うサービスもございますので、ぜひご検討ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています