企業向け:裏垢調査は違法なのか? 採用活動時に注意すべき法的ポイントとは
- 一般企業法務
- 裏垢調査
厚生労働省の雇用に関する統計によると、2021年12月の栃木県内における有効求人倍率(パートを除く)は1.18倍でした。2020年12月の有効求人倍率は1.07倍であったことと比較すると、求人は盛り返している状況です。
企業が新規に人材採用を行う際、いわゆる「裏垢調査」を実施することがあります。しかし、企業が裏垢調査を実施するに当たっては、職業安定法などとの関係で注意すべき点が存在します。監督官庁から改善命令等を受けることがないように、裏垢調査に関する法律上の留意点を踏まえて対応しましょう。
今回は、企業が採用活動の一環として、候補者の「裏垢調査」を行うことに関する法律上の問題点につき、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「地域別求人倍率(原数値)(インデックス) 令和3年度11月・令和2年度11月」(厚生労働省栃木労働局))
1、「裏垢調査」とは?
俗に言う「裏垢調査(裏アカ調査、SNS調査)」とは、採用活動を行う企業が、採用候補者(就活生、転職希望者)のSNSアカウントなどを調査することを意味します。
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(1)「裏垢」=SNSなどのプライベートアカウント
「裏垢」とは、SNSなどのプライベートアカウントの俗称です。
「裏アカ」「裏アカウント」などとも呼ばれます。
「裏」とはプライベートであること、「垢」とは「アカウント」の略称を意味しており、いずれもインターネットスラングとして広く知られています。 -
(2)人材採用の場面では、裏垢調査が行われることがある
裏垢の投稿には、アカウント所有者の人柄や行動の特徴が赤裸々に表れることが多いです。
そのため、企業が採用活動を行うに当たって、事前に候補者の真の姿を知る目的で、裏垢調査を行うケースがあります。
SNS全盛の現在においては、人材採用時の裏垢調査が行われるのは、避けがたい風潮なのかもしれません。
最近では「裏アカ特定サービス」と呼ばれる、採用候補者の裏垢を調査・特定するサービスも存在しているようです。
2、裏垢調査に関する法律上の問題点
企業が採用活動に当たって、裏垢調査を行う際には、主に職業安定法との関係で注意すべきポイントが存在します。
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(1)プライバシー権侵害には当たらない可能性が高い
裏垢調査については、プライバシー権侵害の該当性も問題になり得ます。
しかし結論としては、企業が採用活動の一環として行う裏垢調査は、プライバシー権侵害には該当しない可能性が高いです。
SNSの投稿は、不特定多数の人に閲覧されることを前提としています。
そのため、企業担当者がその投稿を目にする可能性も当然あるわけです。
公開されている個人情報を収集することは、プライバシー権侵害の問題を生じないと解されています。
したがって、企業の裏垢調査は、プライバシー権侵害に該当しないケースが多いと考えられます。
ただし、鍵付きのアカウントに不正にアクセスして情報を得るなど、裏垢調査の方法が常軌を逸している場合には、プライバシー権侵害のみならず、不正アクセス等防止法など、個別の法令に違反する可能性があるので注意が必要です。 -
(2)目的によっては職業安定法に違反するおそれあり
裏垢調査は、職業安定法第5条の4に定められる、求職者等の個人情報の取扱いに関する規制に抵触する可能性があります。
同条では、本人の同意がない限り、企業が求職者の個人情報を収集・保管・使用できるのは、業務の目的の達成に必要な範囲内に限られる旨が定められています。
厚生労働省が定める指針では、職業安定法第5条の4に規定される、「個人情報」の意義や、情報の「保管」とは何を指すのかなどの解釈が示されています。特に以下の内容の個人情報については、本人から直接収集する場合を除いて、企業による収集を禁止しています。- 人種、民族、社会的身分、門地、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想および信条
- 労働組合への加入状況
(出典:平成11年労働省告示第141号(最終改正 令和3年厚生労働省告示第162号))
裏垢調査を通じて、上記のいずれかに該当する情報を収集した場合、職業安定法に違反する可能性があるので注意が必要です。
3、採用活動時に企業がやってはいけないこと
企業による採用活動に当たっては、求人票(募集要項)の記載や面接時の質問等に関して、法律上禁止されている事項や、公正な採用の観点から行うべきではない事項が存在します。
採用活動に臨む企業は、以下に挙げる禁止事項や避けるべき事項について十分留意しておきましょう。
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(1)求人票に記載してはいけない事項
企業が人材の募集・採用について広告等(求人票)を掲載する際には、以下のいずれかに該当する事項を記載してはいけません。
① 性別によって不当に雇用機会を限定する記載
事業主は、労働者の募集および採用について、性別にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません(男女雇用機会均等法第5条)。
そのため、合理的な理由がないのに男女どちらか一方のみを対象としたり、男性と女性で性別を理由に採用条件に差を設けたりすることは禁止されます。
② 不当な年齢制限に関する記載
事業主は原則として、労働者の募集および採用について、年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません(労働施策総合推進法第9条、同法施行規則第1条の3)。
具体的には、以下のいずれかの例外に該当する場合を除き、求人票において年齢制限に関する記載をすることは禁止されます。- (i) 定年年齢を上限とする場合
- (ii) 法律上の年齢制限がある場合(危険有害業務など)
- (iii) 長期間の継続勤務による能力開発・向上を目的として、若年層に限定して期間の定めなく募集・採用を行う場合
- (iv) 特定の職種に関する技術やノウハウを継承するため、特定年齢層に限定して期間の定めなく募集・採用を行う場合
- (v) 芸術・芸能表現の真実性等を確保するために必要な場合
- (vi) 高年齢者の雇用の促進を目的として、60歳以上の高年齢者の募集・採用を行う場合
③ 労働条件について求職者に誤解を与えるような記載
事業主は労働者の募集に際して、業務の内容等について求職者に誤解を生じさせることのないように、的確な表示に努めなければなりません(職業安定法第42条第1項)。
たとえば、求職者の目を引く目的で、実際にはあり得ない水準の歩合給を提示するような記載は禁止されます。 -
(2)面接時に質問してはいけない事項
裏垢調査の際と同様に、面接時の質問事項に関しても、職業安定法第5条の4に定められる、求職者等の個人情報の取扱いに関する規制に注意が必要です。
再掲となりますが、以下の事項について面接で質問をすることは、職業安定法違反に該当するおそれがあるため避けましょう。- 人種、民族、社会的身分、門地、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想および信条
- 労働組合への加入状況
(出典:平成11年労働省告示第141号(最終改正 令和3年厚生労働省告示第162号))
特に、「その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」については、様々な事項が該当する可能性がある点に留意しておかなければなりません。
たとえば、家族構成・住んでいる家の広さ・近隣施設なども、「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に当たり得るため、業務に関係がない場合は、質問は避けた方がよいでしょう。
4、顧問弁護士サービスを契約するメリット
人材採用の場面を含めて、企業が日々直面する法律問題へ適切に対処するには、顧問弁護士と契約することをお勧めいたします。
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(1)人材採用に関する法律問題について相談できる
人材採用に当たっては、個人情報保護法や職業安定法などの法令による規制に注意する必要があります。
顧問弁護士と契約しておけば、採用活動に関する法律上の留意点についてアドバイスが受けられます。
特に多くの採用応募がある企業は、応募者側に信頼できる企業であると認識してもらうためにも、弁護士から人材採用に関するリーガル・コンプライアンスチェックを受けることは有益です。 -
(2)その他の日常的な法律相談も可能|契約書レビュー・労務管理など
人材採用の場面に限らず、顧問弁護士からは、企業が直面する日常的な法律問題に関して、幅広く相談することができます。
たとえば取引に関する契約書の作成・チェックや、雇用している従業員に対する労務管理など、トラブルのリスクが潜んでいる法律問題につき、適切に対処できるようになります。 -
(3)突発的なトラブルにもすぐに対応してもらえる
企業内部での不祥事、顧客からのクレーム、他者からの訴訟提起など、突発的なトラブルに見舞われた際にも、顧問弁護士と契約しておけば安心です。
自社の事情に精通した顧問弁護士が、迅速に事態を収拾するため、すぐに相談に乗ってくれます。
顧問弁護士との契約は、法律トラブルのリスクについて予防・対処するために大きな効果を発揮します。
まだ顧問弁護士がいない企業は、この機会に顧問弁護士との契約をご検討ください。
5、まとめ
企業が採用活動に当たって、いわゆる「裏垢調査」を行うことは、職業安定法との関係で問題を生じる場合があるので注意が必要です。
もし採用活動に関して法律上の疑問点がある場合には、顧問弁護士へのご相談をお勧めいたします。
ベリーベスト法律事務所では、クライアント企業のニーズに合わせてご利用いただける顧問弁護士サービスをご提供しております。
企業法務に関する経験を豊富に有する弁護士が、きめ細かく企業経営者・担当者の方をサポートいたしますので、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています