労働基準法における年間休日の考え方|企業が押さえておくポイント
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令和3年度に栃木県内の総合労働相談コーナーに寄せられた相談の件数は、1万2704件でした。
労働基準法では、労働者に最低限与えなければならない休日のルールが定められています。会社として設定している「年間休日」の日数が少なすぎる場合には、労働基準法違反の可能性があることに注意しましょう。
本コラムでは、「年間休日」に関連する法律上のルールや、トラブルを避けるために企業が行うべき休日管理の方法などについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、「年間休日」とは?
「年間休日」とは、労働契約または会社の就業規則に従い、1年間において労働者に付与される休日の総日数です。
法律上の用語ではありませんが、会社における労働環境・労働条件を評価する際の指標のひとつとして用いられることがあります。
一般的には、年間休日には以下の休日が含まれます。
① 法定休日
労働基準法に基づいて、週1回または4週間を通じて4日間付与される休日です(同法第35条)。
② 法定外休日
法定休日以外に、労働契約または会社の就業規則に従って付与される休日です。
週休2日以上の場合、そのうち1日の法定休日を除いて法定外休日にあたります。また、祝日・夏季休暇・年末年始休暇なども、法定休日にあたらないものは法定外休日に該当します。
また、以下のような休日については、一般的には年間休日に含められません。
① 有給休暇
労働基準法に基づいて、勤務日数・労働時間・勤続期間に応じて付与される有給の休暇です(同法第39条)。
② 振替休日
法定休日と労働日をあらかじめ振り替えたことにより生じた休日です。
③ 代休
法定休日に労働した労働者が、事後的に労働日から変更することにより生じた休日です。
2、労働基準法における年間休日のルール
労働基準法には、年間休日数の最低ラインについて直接定めた規定はありません。
ただし、休日や法定労働時間の規制との関係で、実質的に「年間休日の最低ライン」といえるものは存在します。
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(1)年間休日の最低ライン
年間休日の最低ラインを考える際には、休日と労働時間の規制について検討する必要があります。
休日については、最低でも1週間に1回の休日を付与することが義務付けられています(労働基準法第35条第1項)。
1年間は365日または366日(=52週+1日or2日)ですので、年間休日は52日が最低ラインとなります。
ただし、労働時間の規制との関係で、年間休日の最低ラインはさらに引き上げられる場合があります。
労働時間は原則として、「1日8時間・1週間40時間」が上限とされています(同法第32条)。
これを「法定労働時間」といいます。
たとえば1日の所定労働時間を上限の8時間としている場合、最大で1週間に5日間しか労働者を働かせることはできません。
この場合、年間休日は少なくとも104日以上とする必要があります。
また、高度プロフェッショナル制度を適用する労働者については、年間休日を104日以上確保することが必須とされています(同法第41条の2第4号)。 -
(2)年間休日が少なくても違法ではないケースの例
休日に関する規制との関係では、年間休日の最低ラインは52日です。
高度プロフェッショナル制度が適用される労働者を除き、1日の所定労働時間を調整すれば、年間休日を52日の最低ラインに設定することも法律上は可能です。
たとえば、月曜から金曜の所定労働時間を7時間、土曜の所定労働時間を5時間に設定すれば「1日8時間・1週間40時間」の法定労働時間には違反しません。
祝日についても、就業規則等で労働日とすることは法律上問題ないため、1年間を通じて週休1日制を貫けば、年間休日を52日しか与えずに労働者を働かせることができます。
しかし、このような過酷な労働条件を設定した場合、労働者のモチベーション低下や健康状態の悪化、離職など、さまざまな問題を招く可能性があります。
基本的には、一般的な企業のように、年間休日は104日以上設定したほうがよいでしょう。
3、労務トラブルを避けるために企業が行うべき休日管理
労働者とのトラブルを避けるため、企業は労働基準法を正しく順守しつつ、従業員の健康にも配慮した休日管理を行うべきといえます。
具体的には、休日管理に関して以下の取り組みを行うことが求められます。
- ① 休日・労働時間等のルールの順守状況を総合的に確認する
- ② 違反が生じている場合は就業規則を変更する
- ③ 従業員の健康管理にも配慮する
- ④ 同業他社とのバランスを考慮する
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(1)休日・労働時間等のルールの順守状況を総合的に確認する
休日をどの程度の日数付与すべきかについては、労働基準法における休日および労働時間のルールをふまえて、総合的に検討する必要があります。
休日に関するルールだけを考慮すれば、年間休日の最低ラインは52日です。
しかし、所定労働時間や高度プロフェッショナル制度の適用状況によっては、年間休日の日数を増やさなければならない場合があります。
また、年間休日に含まれない有給休暇についても、労働基準法に従って付与しなければなりません。
さらに、法定休日に労働者を働かせるためには労使協定(36協定)を締結しなければならず(同法第36条第1項)、休日労働をした労働者には35%以上の割増賃金を支払う必要があります(同法第37条第1項)。
適切な休日管理を行うためには、休日・労働時間・有給休暇・割増賃金などの複数の要素をふまえながら、会社全体での労働基準法の順守状況をチェックすることが必要になります。
労働基準法におけるいずれかの規定に違反した場合は、労働基準監督署による行政指導を受ける可能性があるだけでなく、関係者や会社が処罰を受けるリスクもある点に注意してください。 -
(2)違反が生じている場合は就業規則を変更する
コンプライアンスチェックの結果、休日の付与状況について労働基準法違反の状態が判明した場合には、速やかに就業規則の変更を行いましょう。
迅速に違法状態を是正すれば、労働基準監督署による行政指導や、関係者・会社の刑事処分を回避できるケースが大半です。
就業規則を変更する際には、取締役会などの意思決定機関において決議した後、以下のいずれかの方法によって労働者に変更内容を周知する必要があります(労働基準法第106条第1項、同法施行規則第52条の2)。- ① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付ける
- ② 書面を労働者に交付する
- ③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する
さらに、常時10人以上の労働者を使用する事業場の就業規則を変更した場合には、労働基準監督署への届け出も必要になります(同法第89条)。
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(3)従業員の健康管理にも配慮する
従業員に対して付与する休日の日数は、労働基準法の最低ラインだけでなく、従業員の健康管理の観点にも配慮して決定すべきです。
年間休日の最低ラインが52日だからといって、祝日も休ませずに働かせ続けると、労働者には肉体的・精神的な疲労が蓄積されます。
その結果、労働災害(労災)が起こったり、離職されたりするリスクも高まってしまうでしょう。
労働者の健康管理の観点からは、ある程度余裕を持った休日の付与を行うことが望ましいといえます。
週休2日以上かつ祝日を休みにするなど、労働者が疲労を十分に回復できるような休日設定を行いましょう。 -
(4)同業他社とのバランスを考慮する
同業他社に比べて休日の日数が少ないと、従業員の退職や同業他社への流出を招くおそれがあります。
そのため、休日の付与日数は、同業他社とのバランスを考慮したうえで決定すべきといえます。
労働者を使いつぶしてしまうのではなく、長期的に会社に貢献してもらうためにも、労働者のモチベーションを維持できるような休日設定をしてください。
4、休日のルール作り・労務管理については弁護士にご相談を
休日に関するルール作りや、その他の労務管理を行うにあたっては、労働基準法を含めた、総合的な観点からの検討が必要です。
会社の実情に即した適切な労務管理を行いたいと考えられる経営者の方は、弁護士に相談してください。
弁護士は、休日・労働時間・時間外労働・有給休暇などについて、労働基準法のルールをふまえた適切な労務管理の方法を提案することができます。
また、会社の状況をお伺いしたうえで、労働者の健康管理やモチベーション維持の観点もふまえながら、現実的な労務管理対策についても具体的にアドバイスすることができます。
労務管理の改善を図られている経営者の方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
5、まとめ
労働者に付与する年間休日の日数は、労働基準法における休日・労働時間等の規制に加えて、労働者の健康管理やモチベーション維持の観点も考慮して決定すべきです。
休日に関するルール作りを適切に行うため、弁護士にアドバイスを求めましょう。
ベリーベスト法律事務所は、労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。労働基準法の観点からのコンプライアンスチェックに加えて、労働実務をふまえた総合的なアドバイスにより、企業における労務管理の改善をサポートいたします。
労務管理についてお悩みの企業経営者の方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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