一定期間だけ現場を手伝ってもらいたい! 建設業の雇用契約書の書き方

2019年12月27日
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一定期間だけ現場を手伝ってもらいたい! 建設業の雇用契約書の書き方

近年政府によって進められている働き方改革のもと、建設業においても週休二日制や月給制実現の取り組みが進められています。しかし、建設業という特殊性から、労働環境を整備するのが難しい面もあります。しかしながら、短期間でも技術者や職人を雇う場合には雇用契約が必要になることなどは建設業でも変わりありません。
ここでは、建設業で必要になる雇用契約書とはどのようなものか、また雇用と請負の使い分けなどについて、宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、建築業でも雇用契約書が必要な法的根拠

建設業は労働条件が特殊ですが、それでも他業種同様、労働者を雇用する場合には、雇用契約書が必要になります。労働者を雇い入れるときは、賃金や労働時間その他の労働条件について書面の交付により明示しなければならないことが労働基準法第15条で定められています(労働条件の明示)。

なお、労働条件の明示は、両者が押印する雇用契約書の形ですることまでは法律は求めておらず、会社からの一方的な通知という形でも可能です(一般的にこの通知を、「労働条件通知書」といいます)。しかしながら、後に「言った、言わない」などのトラブルが生じるのを防ぐため、雇い入れにあたり、労働条件を可能な限り両者が押印(またはサイン)した雇用契約書で明示することが非常に重要と言えるでしょう。

また、建設労働者の雇用の改善等に関する法律第7条も、雇用に関する文書の交付を定めているため、雇用契約書はこの書面を兼ねることになります。

2、雇用契約書の必須項目

  1. (1)雇用契約書に必要な項目

    すでにご紹介した通り、労働基準法第15条は労働条件の明示事項を定めており、建設業において、一人親方を期間を定めて雇用する場合であっても、この明示事項を欠くと法令違反となりますので、これを含めた雇用契約書を作成することが必要になります。

    <明示しなければならない事項>
    ①労働契約の期間
    雇用期間について、いつからいつまでか具体的に明記します。また、試用期間を設ける場合には、同様に試用期間を記載します。

    ②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
    契約の更新の有無、更新する場合またはしない場合の判断基準を明示します。

    ③就業の場所・従事すべき業務
    雇い入れ直後の業務等を記載することで足りますが、将来の就業場所や従事させる業務を併せ網羅的に明示することも可能です。現場作業以外にも行ってもらいたい業務がある場合は、その点についても明示しておく必要があります。雇い入れた後に就業場所や業務内容を変更することもあるため、雇用者が業務に必要がある場合には、就業場所、業務の内容を変更することができる旨を記載しておくとよいでしょう。

    ④始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働(早出・残業など)の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
    労働者に適用される具体的な条件を明示します。休日については、所定休日について曜日または日を特定して記載します。休暇については、年次有給休暇は6か月間勤続し、その間の出勤率が8割以上であるときに与えるものであり、その付与日数を記載します。
    また、その他の休暇については、制度がある場合に有給、無給別に休暇の種類、日数(期間など)を記載します。

    ⑤賃金の決定、計算・支払いの方法、賃金の締め切り・支払いの時期、昇給に関する事項
    賃金につき記載すべきことは以下の通りです。

    • 基本給(有給休暇以外の休暇の場合にも給与を支払うか否かも明記)
    • 賞与(支払い日、金額など)
    • 残業代の計算方法
    • 給与の締め日と支払い日
    • 交通費などの経費の負担と支払い方法


    賃金については、基本給などについて具体的な額を明記します。ただし、就業規則に規定されている賃金等級などにより賃金額を確定する場合、この等級などを明確に示すことでも可能です。

    ⑥退職に関する事項(解雇の事由等を含みます)
    退職の事由および手続、解雇の事由等を具体的に記載します。この場合、明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことも可能です。

    <定めがある場合に明示しなければならない事項>
    ⑦退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法および支払い時期
    退職金の支給要件、金額の計算方法やその支払い方法や時期などを記載します。

    ⑧臨時に支払われる賃金、賞与などおよび最低賃金額に関する事項
    勤務態度や能力・実績によって報奨金がある場合は記載します。また、賞与の有無や、賞与がある場合の支給回数や金額について定めます(年2回・基本給何か月分など)。

    ⑨労働者に負担させる食費、作業用品などに関する事項
    勤務するにあたって必要な道具や衣服などは支給なのか自己負担なのかについても明記します。

    ⑩安全・衛生に関する事項
    労働基準法、労働安全衛生法に基づき、企業は従業員の安全の確保や衛生管理のための就業規則を定める必要があります。たとえば、就業前の機材点検の実施や、健康診断を年に1回受診する義務などがあります。

    ⑪職業訓練に関する事項
    職業訓練に関する定めがあれば記載します。

    ⑫災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
    労働者が業務上で負った災害に対し、企業が療養・傷害・休業・遺族補償などを行うことを定めます。

    ⑬表彰、制裁に関する事項
    就業規則に表彰制度について定める場合はその要件を明示します。たとえば、企業への貢献度、勤続年数、社会的な功績などがあります。逆に、制裁の対象になる要件も明示します。

    ⑭休職に関する事項
    産休や育休制度について明示します。

    また、①~⑦の事項(昇給に関する事項は除く)については、書面の交付により明示が必要であり、それ以外の事項については、口頭による明示で足ります。

  2. (2)雇用にあたり必要になる手続き

    初めて人を雇い入れる場合には、新たに次のような手続きが必要になる場合があります。

    ①雇用保険
    労働者を一人でも雇えば雇用保険の加入手続が必要ですので、事業主は、労働保険料の納付、雇用保険法の規定による届け出などの義務を負うこととなります。労働者の加入条件は次の通りです。

    • 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。
    • 1週間の所定労働時間が 20時間以上であること。


    ②社会保険(健康保険、年金)
    正社員であれば問題なく「常時使用」にあたり社会保険の対象となりますが、非正規雇用労働者でも、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上であれば「常用使用」となり、社会保険に加入させる必要があります。
    また、平成28年から、従来の加入条件を満たさない短時間労働者についても、新たに定められた特定の条件を満たす場合に限り、社会保険に加入できることとなっています。

3、状況によっては業務委託契約を選択

  1. (1)請負契約(業務委託契約)とは

    請負とは、一方が特定の仕事をし、その仕事に対して相手方が報酬を支払うことを内容とする契約です。請負契約は雇用契約と異なり、使用者と労働者というような主従の関係にない独立した事業者間の契約という点がポイントです。すなわち、請負契約を締結する場合、労働者に適用されるべき労働基準法や労働契約法による保護は生じないことになります。
    請負契約とみなされるための要件は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(労働省告示37号)によって、①労務管理の独立性と②事業経営上の独立性という2つの要素によって判断されるものとされています。そして、その二つの要素を認定するにあたって、下記のような事情が考慮されます。

    ①労務管理の独立性

    • 作業に関する指示
    • 業務の評価
    • 労働時間の管理
    • 残業休日出勤の指示
    • 服務規律や配置に関する指示や管理
    • 労働者の配置の決定・変更


    ②事業経営上の独立性

    • 自己資金の調達・支弁
    • 事業主としての民法・商法等の法律に基づく事業主としての責任の負担
    • 単に肉体的な労働力を提供するものではないこと
    • 自己責任・負担での機械・設備・器材・材料・資材の調達
    • 自己の企画・専門的技術・専門的経験による業務処理
  2. (2)建設業における請負契約の注意点

    建設業を営む場合、雇用責任が生じることを回避するため、請負契約を選択する場合もあります。職人や一人親方は、独立した個人事業主であり請負契約となりますので、発注者側が雇用責任(残業代、不当解雇など)を負うリスクを避けることができます。上記で述べた条件に照らすと、請負契約で仕事をしてもらう場合、次のような点に注意する必要があります。

    ①労務管理の独立性
    注文者と職人が同じ建設工事現場で働いている場合には職人に対して指示をしがちですが、請負契約では、仕事の仕方を細かく指示することはできません。現場の監督が、請負契約をしている者に具体的な指示・命令を行うと、後にその請負人が争いを起こした場合に、会社に対して雇用責任が認められてしまうおそれがありますので、請負と雇用の区別については、現場の担当者が把握している必要があります。また、請負契約の目的は仕事の完成ですので、雇用契約のように必ずしも決められた時間働いていることは必須ではなく、結果に対してのみ責任を持ちます。

    ②事業経営上の独立性
    職人や一人親方は、自己責任で資金を調達し、事業者としての責任を自ら負う必要がありますので、注文者は、職人や一人親方の事業経営上の独立性を奪ってはならないことになります。

4、判断が難しいときは弁護士に相談

請負と雇用は、特に建設業においては区別が難しい部分があるのが実態です。実態は雇用状態にあるのに請負契約を締結し請負として扱ってしまうと、注文者は雇用責任を負うリスクがあります。
このようなリスクをさけるためには、目的と実態にあった契約形態とし、実際の管理も違法にならないようにする必要があります。つまり、雇用責任を負わない請負の形で実施したい場合には、請負契約書を適切に取り交わしたうえで、指揮命令や労務管理をしないことを徹底する必要があります。一方、雇用責任を負うことを前提として現場に入ってもらう場合には、使用者としての義務を果たすため、適切な雇用契約を締結したうえで、労務管理を徹底する必要があります。

いずれの契約形態をとるにせよ、違法状態を生じさせないためには、法の定める要求に従った契約書を準備し、法にのっとった適切な管理をする必要がありますので、専門知識をもった弁護士に相談することも検討するとよいでしょう。

5、まとめ

労働条件の通知は法律上必須のものですので、明示しないことで労働者から訴えられたり、労働基準監督署に相談されてしまったりすることも考えられます。
また、建設業においては、そもそも雇用と請負のどちらが適切なのか、また各々の管理はどうすべきか判断に迷うこともあるでしょう。このようなとき、弁護士と顧問契約を締結していれば、雇用契約書や就業規則の作成だけではなく、労働者とのトラブル全般にわたって、気軽に相談することが可能です。ベリーベスト法律事務所は、低価格で始められる顧問契約サービスを用意しておりますので、顧問弁護士を検討されている方はぜひ一度宇都宮オフィスまでご相談いただければと思います。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています