4月から施行されている勤務間インターバル制度の努力義務とは?
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働き方改革の中で昨今のニュースといえば、勤務間インターバル制度の導入です。この制度は終業時刻と始業時刻の間に一定以上のインターバルを設ける労働体制を作る目的を持ちますが、今の所は努力義務にとどまるようです。
こちらでは、そもそも勤務インターバル制度とは? 努力義務とは結局何をどう努力すれば良いの? と気になる労務担当者のために、宇都宮オフィスの弁護士が本制度を紹介します。
1、勤務間インターバル制度とは?
勤務間インターバル制度は2019年4月1日に行われた労働時間等の設定の改善に関する特別措置法改正で認められ始めた制度です。
国によっては20世紀から導入されていますが、わが国ではこれから広がっていくものと予想されます。働き方改革は、時として会社側の負担になることがあるでしょう。しかしどの制度も正しく導入すれば、会社の自由度と生産性向上が期待できます。
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(1)毎日安定した休息を確保するための制度
勤務間インターバル制度とは、終業時間から次の始業時間までの間に、一定のインターバル(休息)を設ける制度のことです。
これまでは残業時間やフレックスタイムなど、「いつ、どのくらい働くか」という論点に集中していましたが、本制度は働いていない時間に着目した点に大きな意義があります。
勤務間インターバル制度導入の目的は、生産性の向上、ワークライフバランス、過労死の減少が主です。人間は生物ですから、どうしても休息時間が必要です。そして休息時間の減少は必然的に睡眠時間減少につながります。
睡眠は脳と体の維持に欠かせない機能で、睡眠時間を無理に減らせば生産性が下がってしまいます。最近は慢性的な寝不足による身体的不調、いわゆる睡眠負債も話題になっているようです。
そこで、勤務間インターバル制度は、残業した時でも一定時間の休息を確保しようとして導入されました。
たとえばインターバルを11時間と定めていた場合、19時終業なら、翌6時以降が始業時刻となります。もし、24時に終業した場合は翌11時以降が始業時刻となります。
このように勤務インターバル制度は、残業が多くてもしっかり労働者を休ませる体制を作ります。 -
(2)インターバルと終業時刻の調整は?
このような説明をすると、勤務間インターバルによって始業時刻が繰り下げられた場合、終業時刻も当然繰り下げられるように思いませんか?
たとえば9時始業18時終業なのに繁忙期で残業が24時まで続いてしまった場合。11時間のインターバルを取れば翌11時まで始業できないことになります。ここから8時間+休憩1時間働いたとすれば、20時が終業時刻となってしまいます。
残業が続けば、始業時刻がどんどん繰り下がっていき、やがて会社が回らなくなる危険性もあります。そこで、終業時刻はある程度合わせて、インターバルと通常の始業時刻が重なる部分はみなし賃金を支払うことも認められています。
先ほどの例においては、始業時刻11時は動かせないので、終業時刻のみを18時に切り上げます。そして本来の始業時刻である9時からインターバルが満了する11時までの2時間は賃金だけを支払います。
そうすれば、みなし労働と引き換えに、安定した就業リズムを作れることになるのです。 -
(3)勤務間インターバルの導入目標
わが国で作られた過労死等の防止のための対策に関する大綱では、2020年までに勤務間インターバルの導入を全会社の10%、勤務間インターバルの認知度を全企業の80%以上に高めることを目標にしています。
法改正時の認知度が1.4%ほどであることを考えれば、容易でない目標と言えます。それでも根強い周知活動や各種助成金などを通して、国は自由な働き方の実現を目指しています。 -
(4)勤務間インターバルで残業は減る?
勤務間インターバルは、残業するほど始業時間が繰り下げられる制度です。そのため、時刻による制限が強い会社の場合は、残業を減らすための強い動機になるでしょう。一方で、その日のうちなら何時から働いても良い環境であれば、勤務間インターバルは残業の抑止につながりにくいでしょう。
企業としては、生産性の高い労働者を見極める良い機会として活用したいところです。 -
(5)勤務間インターバル制度に適用除外を作ることができる
いくら勤務間インターバル制度を導入したからといって、インターバル中、労働者をまったく働かせられないのは、企業にとって大きなデメリットです。そこで、会社の重要事や打合せなど「絶対に出席してほしい場合」のみ勤務間インターバル制度を適用除外することも可能です。
会社の重要事とは、大きなクレームや災害、納期の切迫などを指します。
2、努力義務ということは導入しなくて良い?
勤務間インターバル制度は、労働者の生活に欠かせない休息の重要性を高め、企業が適切な労働管理をすることで、従業員のモチベーション向上にもなることが予想されます。しかし、新しい制度をいきなり導入すると、恩恵よりも弊害が生じることが多いのもまた事実です。
そのためか、国も勤務間インターバル制度の導入を「努力義務」として定めています。
この努力義務は通常の義務と何が違うのでしょうか?
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(1)導入義務はない
結論から申し上げれば、勤務間インターバルの導入義務はなく、「いつまでに導入すべし」という取り決めもされていません。努力義務とは努力する義務のことで、実際に何かを実行する義務とは異なります。ゆえに勤務間インターバルを導入しないことによる罰則もありません。
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(2)内容も基本的に自由
そのうえ、勤務間インターバルの内容は、たとえば、
- インターバルを何時間にするか
- インターバルに合わせて始業時間を繰り下げるか
- インターバルを認めた上で重複する所定労働時間に賃金を認めるか
- 勤務間インターバルが適用除外される条件をどうするか
など、各企業にて自由に決められます。
ちなみに、1993年より本制度を導入しているEUでは、11時間のインターバルが法的に義務付けられています。 -
(3)今の内に導入すべきか?
現在は無理に勤務間インターバルを導入しなくても罰則などの規定はありません。国も、勤務間インターバルを各企業が導入した結果を見て、今後の制度設計を考える見通しにあるようです。
しかし働き方改革は大きな論点で、より自由かつ多様性を認める方向に動いていることは確かです。自由に内容を定めることのできる努力義務である今だからこそ、早めに自社で勤務間インターバルをいろいろ試してみるという考え方も一理あります。
3、勤務間インターバル導入の流れ
勤務間インターバルを導入するための流れを紹介します。わが国においては自由に定められるので、「自社にあった制度設計」を第一に考えましょう。
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(1)労働条件通知書を変える
勤務間インターバルという選択肢を認めるということは、それに合わせて労働条件通知書で示す必要があることを意味します。ただし、直ちに労働者全員に適用されるわけではありません。
勤務間インターバルは義務でなく、制度導入した場合であっても労働者の選択によって利用できます。そのため、制度を利用する場合は雇用契約の更新が必要となります。勤務間インターバルについての申請方法や適用開始日についての取り決めも必要です。 -
(2)就業規則を変える
就業規則に書かれていないのに勤務間インターバルを適用すれば、後々契約をめぐる問題に発展しかねません。新しい制度として企業にあった内容で設計し、就業規則に記載するようにしましょう。
新しい制度の設計は、労使の話し合いで行うことがベストです。
なお、勤務間インターバルは、誰でも使えてかつ選択可能であることから、不利益変更に当たりません。 -
(3)労務管理のシステムを変える
勤務間インターバルに合わせた労務管理システムを整えることも重要です。新制度を適切に運用できるように、企業側が必要な準備を行いましょう。
4、勤務間インターバルのメリットは?
勤務間インターバルのメリットは次のものがあります。
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(1)働きやすい会社と認知される
勤務間インターバルが採用されていれば、労働者は休息時間が得られる安心ができます。そのため働きやすい会社と認知されやすく、退職率の低下や採用応募数の増加などが見込めるでしょう。
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(2)従業員の生産性アップ
十分な休息時間が取れるということは、従業員の集中力が高まることにより、生産性の向上にも役立ちます。重要な場面での判断ミスが減ったり、感情のコントロールができるようになったりすれば、職場環境も良くなるでしょう。
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(3)業務にメリハリがつく
勤務間インターバルが労働時間に制約を加える制度であることは否定できません。しかし、惰性的に残業が続いてしまっているような環境の場合、労働者が残業について真剣に考える機会となることも期待できます。業務にメリハリをつけ、可能な限り始業時間をずらさないため、効率の良い働き方にシフトしていくことも見込めるでしょう。
残業が減れば残業代節約にもつながるため、企業側のメリットと言えます。
5、勤務間インターバルのデメリットは?
勤務間インターバルは、まだまだ国内では実験段階にある制度です。よく考えずに導入すると以下のようなデメリットが生じるかもしれません。
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(1)労務管理が難しくなる
単純に勤怠記録を見て給与を算出できない、始業時間を間違えないように気をつけなければいけないなど、労務管理が今まで以上に難しくなる可能性があります。運用するために必要な制度設計と準備を事前にしておくことが求められるでしょう。
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(2)会社が安定して回らないかも
勤務間インターバルで始業時間や就業時間がずれると、予期せぬ人手不足が発生しやすくなります。人数が足りない職場であれば、会社が安定して動くような制度設計が必要です。
6、まとめ
勤務間インターバルは労働者に自由と休息を与え、企業にとっては生産性の維持と労働者の意識向上というメリットを与えます。しかし勤務間インターバル制度を導入すれば労務管理を一手間増やし、出勤時間がずれてもよい体制づくりを強いられることも忘れてはいけません。
まだまだ始まったばかりの制度です。導入方法に迷った時、就業規則の変更などをお考えの際は、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスでご相談ください。経験豊富な弁護士が御社にとっての最適を導きます。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています