人事考課に対し、社員から不服申し立て! 企業統治における対策は?
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人事考課には、適切な評価が欠かせません。宇都宮市では、市民の目から行政運営を適切に行われているかなどを可視化するため、平成13年度から、行政が行った業務を評価する行政評価制度を導入し、その結果を公表しています。もちろん、企業が行う人事評価とは異なる性質のものではありますが、たとえ行政評価であってもその基準が不透明であれば、市民に不信感を与えてしまうことでしょう。
この行政評価同様、各社で行われる人事考査も、公平かつその基準が明確でなければなりません。同じ実績を出していながら、評価が違い給与に差がつくようでは、社員のモチベーション低下や人材流出、業績低下にもつながりかねないためです。
本記事では宇都宮オフィスの弁護士が、人事考課に対しての不服申し立てに頭を悩ませている担当者に向けて、紛争を避けるポイントを紹介します。
1、人事考課の不服申し立てのリスクとは
人事考課とは、ご存じのとおり、労働者の勤務実績を通じて本人の能力や成果を評価し、賃金や昇降格、異動などの処遇を決めることです。公平な評価とそれに応じた適正な給与を得ることは、社員の労働意欲を高めます。
一方で、不当な人事考課が、損害賠償請求に発展するケースもあります。人事考課による降格・減給などに合理的な理由がなければ「裁量権の逸脱濫用」として違法と判断され、賃金や慰謝料の支払いを命じられる可能性があるのです。
訴訟ともなれば、人的・金銭的コストも非常に大きなものになることは間違いありません。
また近年は投資家の間でも、ただ売り上げや利益率だけを求めるのではなく、企業のコンプライアンス(遵法精神)やコーポレートガバナンス(企業統治)は非常に重視されます。不公平な人事考課が横行しているという労使トラブルが報道されてしまうと、企業イメージが著しく損なわれ、株価に影響が出る事態にもなりかねないでしょう。
人事考課に不服を申し立てられた場合、その不服を申し立てた社員と冷静に話し合い、認識の齟齬を確認し、お互い歩み寄ることで大きなトラブルになることを避けるべきと考えられます。
2、人事考課の仕組みを確認する
社内の人事評価を取りまとめる立場にあるならば、まずは人事考課の仕組み自体に問題がないか検討してみるべきでしょう。
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(1)一般的な人事考課項目
人事考課基準は一般的に、以下3つの項目から構成されています。
- 成績評価
- 能力評価
- 情意評価
営業などであれば数値目標など、定量的な評価ができます。しかし就業態度など数値にできない内容があることは否定できません。業種業態・規模によって異なりますが、評価項目について社として望ましい姿やありよう、数字などの基準が明確になっていて、かつ、それを周知しておく必要があります。
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(2)人事考課の基準に法的な問題はないか?
人事考課の判断基準に、法令に抵触するような内容があれば、すぐにでも見直しましょう。具体的には、以下のようなケースは法律や法令違反にあたる可能性があります。
●男女で差別的な評価をしている
性別を理由として賃金に差をつけることは、労働基準法第4条で禁じられています。同じ結果を出しているにもかかわらず、性別によって評価内容に差があるときは、是正が必要と考えるべきです。
●業務と無関係な事実を評価対象に含めている
国籍や出自で考課に差をつけることは明確な差別行為であり、人権侵害です。また、飲み会や社員旅行への出席率、休日の付き合いなども業務外であり、考課に影響すべきではありません。 -
(3)不公正な運用をしていないか?
人事考課の項目に問題がなくとも、公平に評価されていなければ意味がありません。
●評価者の個人的な感情で左右されている
個人的な好き嫌いで社員を評価する、報復的な評価をする、評価項目の優先順位が不合理であったりすることは、間違いなく従業員、ひいては会社そのものの不利益になりえます。
合理性および社会通念上の相当性を著しく欠く人事考課は、裁量権の濫用にあたるため、損害賠償請求をされる可能性があるのです。
●会社にとって都合が悪いという理由で評価を下げる
法的に正しい行動を、会社に都合が悪いという理由で不利益な扱いをしたり、報復的な人事異動をしたりしてはいけません。社員からの「このやり方は違法ではないか」という声を煙たがるのではなく、真摯に耳を傾けるべきです。内部告発をした社員に減給や降格など不当な扱いをすることは「公益通報者保護制度」でも禁じられています。
●契約社員と正社員で評価が違う
同じ結果を出しているならば、契約形態に関わらず等しく評価しなければなりません。
人事考課の公平性を高めれば、それだけ優秀な社員が残るようになります。
3、人事考課に不服申し立てがあった場合の対応法は?
では実際に、人事考課に不服申し立てがあった場合の対応について解説します。
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(1)双方から話を聞く
人事考課に対する不服を申し立てた従業員から、何に不満を持ったのか詳しく聞きましょう。評価者とも個別に話を聞きます。この段階から弁護士が同席することで、双方の意見をよりフラットに聞くことができるでしょう。
人事考課の根拠となる資料の開示が求められるため、準備が必要です。 -
(2)従業員の主張に正当性があれば受け入れる
先述のとおり、人事考課の基準が法令に抵触しておらず、公平に運用されていることが前提です。もし評価者に誤った判断があったのならば直ちに考課を見直しましょう。
人事考課のミスを正すことは、会社の価値を下げるどころか、風通しのよい職場環境だと従業員に評価される可能性が高まります。逆に、人事考課のミスを受け入れなければ会社に対する信頼が下がってしまいかねないでしょう。 -
(3)個別労働紛争解決のあっせんを受ける
評価者の考課に問題はなく、労働者が成果を過大評価したり、自分の価値を誤認していたりする場合もあります。
従業員がどうしても人事考課の内容に納得しないのであれば、労働基準監督署の総合労働相談センターに赴き「個別労働紛争解決のあっせん」を申し込むとよいでしょう。紛争当事者の間に、公平・中立の第三者として労働問題の専門家(弁護士・大学教授など)による紛争調整委員会が入り、双方の話を聞いて両者に具体的なあっせん案を提示します。
裁判よりも手続きが簡単・迅速です。手続きは無料で、非公開のためプライバシーも守られます。合意が得られた場合、受諾されたあっせん案には、民法上の和解契約の効力を持ちます。 -
(4)訴訟
それでも合意が得られない場合は、民事訴訟に持ち込まれる可能性があります。その場合は、証拠の収集や裁判の準備には弁護士のサポートが必須となるでしょう。
ただし、労使トラブルは訴訟へ至る前に解決したほうが、会社にとってもメリットが大きいものです。できるだけ早いタイミングで弁護士に相談することをおすすめします。
4、透明性の高い人事考課のためにすべきこと
透明性の高い人事考課を実現し、トラブルを回避するためにはどのような対策を行うべきでしょうか。
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(1)会社の理念を浸透させる
人事考課には会社の理念が多分に反映されています。
したがって、社員に対し、会社の理念、進むべき方向性、価値観を繰り返し伝えて、理解を深めていくことが重要です。会社が何を重視し、何を求めているかが従業員に理解されていれば、人事考課との齟齬も起きにくくなるものと考えられます。 -
(2)人事考課の基準を明確にする
人事考課の基準は、就業規則などとともに、社内で社員がいつでも見られるようにしておきましょう。
目標設定面接や、人事考課フィードバック面接のときも、基準を掲出し、確認しながら進めると齟齬が起きにくくなる可能性を高めることができます。また、管理職に対し人事考課の研修を実施し、判断基準の意思統一を図ることも有効な対策です。 -
(3)人事考課基準の修正には弁護士のチェックを
上司や経営層が「上司の言うことに黙って従え」「女性社員は寿退社」というような古い価値観を、人事考課を通じて部下に押し付けてしまうこともあります。
人事考課の基準は、経営者の理念を反映するものでもありますが、時代に合わせて企業内の価値観も刷新していかねばなりません。人事考課の基準を見直すとしたら、弁護士に第三者として参画してもらうことをおすすめします。社外の人間の意見が入ることにより、公平な基準に改革しやすくなるでしょう。
弁護士による法的な視点からのチェックや、最近の会社法・国際法の観点を含めた広い視野からアドバイスを得ることは、経営者にとっても大きなメリットとなるでしょう。
5、まとめ
人事考課には、どの企業も細心の注意を払っているものです。経営側の意図が正しく従業員に伝わらないと、トラブルに発展するケースもあるでしょう。
社員や管理職の関係性がどのような状況であっても、不服申し立てには冷静な対処が求められます。第三者である弁護士が話し合いを仲介することにより、より公平で客観性のある意見として、相手に意図を伝えることができる可能性が高まるでしょう。人事考課でのトラブルでお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスにご相談ください。労働問題への対応経験が豊富な弁護士が、状況に適したアドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています