労働者に休職命令は出せる? 休職命令の注意点と企業がやるべきこと
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令和2年度に栃木県内の総合労働相談コーナーに寄せられた相談件数は1万4921件で、過去最多となりました。従業員が病気などによって満足に働けない状態の場合、会社主導で休職命令を行い、強制的に休ませることも考えられます。
ただし、休職命令を行う際には合理的な理由が必要であり、従業員の様子や周辺事情をよく観察して判断することが大切です。また、休職期間中の賃金を支払うべきかどうかについても、総合的な観点から検討しなければなりません。
休職命令について、どのように判断・対応すべきか難しい場合には、弁護士へのご相談をおすすめいたします。今回は、従業員への休職命令における法律上の取り扱いや、休職命令を発する会社が注意すべきポイントなどを、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(栃木労働局))
1、休職命令とは? どのような目的で発せられるのか?
休職命令とは、会社が従業員を解雇せずに雇用契約を維持しつつ、強制的に仕事を休ませる業務上の命令です。会社の従業員に対する指揮命令権の行使として、一定の場合に認められると解されます。
休職命令がなされる目的としては、以下の2点が例として挙げられます。
- ① 従業員の心身の健康に配慮するため
会社は従業員に対して、生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるように、必要な配慮をする義務を負っています(安全配慮義務 労働契約法第5条)。
心身の状態が万全でない従業員が働き続けると、さらに健康を害してしまう可能性が否めません。そのため、会社は安全配慮義務の一環として、従業員に対して病気休職を命じることがあります。 - ② 他の従業員への悪影響を避けるため
たとえば、職務怠慢の従業員が職場にいると、他の従業員の士気を下げる、フォローに無駄な時間を費やしてしまうなどの悪影響が生じることがあります。こうした悪影響を避けるためには、勤務態度などに問題がある従業員に対して休職命令を発し、仕事から遠ざけることが考えられます。
2、休職命令により、強制的に仕事を休ませることは可能か?
従業員が働くことを希望しているにもかかわらず、休職命令によって強制的に仕事を休ませることは適法なのでしょうか?
この点、休職期間中の給与を通常どおり支払うかどうかによって、休職命令の適法性に関する判断基準が異なる点に注意が必要です。
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(1)休職期間中も給与を全額支払う場合|原則適法だが、パワハラに注意
休職期間中も、通常どおり給与を全額支払う場合には、休職命令は原則として適法です。
会社は雇用契約に基づき、従業員に対して、どのような業務をどの場所で行うかを指示する権限を有しています。休職命令は、言い換えれば「仕事をせずに自宅で待機せよ」という業務命令にあたります。したがって、給与を通常どおり支払う限りは、このような業務命令も原則として適法になり得ます。
ただし、業務上の必要性・相当性がないのに、従業員を社内の人間関係から切り離したり、モチベーションをそいで退職を促したりする目的で休職命令を発した場合、休職命令が無効と解釈される可能性がある点にご注意ください。 -
(2)休職期間中の給与を減額・不支給とする場合|合理的な理由が必要
休職命令によって強制的に仕事を休ませつつ、その期間の給与を減額または不支給とする場合、休職命令が適法となるのは、以下のいずれかに該当するケースに限られます。
なお、会社の都合や帰責事由によって労働者を休職・休業させる場合には、給与を全額不支給とすることは不適法となりますので注意が必要です(労働基準法26条)。- ① 労働契約または就業規則上の根拠がある場合
労働契約または就業規則において、一定の要件に該当した場合には休職命令を発すること、および休職期間中の給与を減額または不支給とすることが明記されていれば、その要件に従った休職命令が認められる可能性があります。
この場合、休職命令に基づく休職と給与の減額・不支給につき、会社と使用者の間に合意が存在するからです。 - ② 休職命令を発すべき合理的な理由がある場合
労働契約や就業規則に根拠がない場合でも、従業員が提供する労務が不完全なものである場合、会社は休職命令によって労務の提供を拒否できると考えられます。
従業員の健康状態が悪く、安全配慮義務との関係上働かせることができない場合も同様です。
この場合、会社は従業員に対して給与を支払う義務を負いません。
- ① 労働契約または就業規則上の根拠がある場合
3、会社が休職命令を出すときの注意点
会社が従業員に対して休職命令を発する場合、少なくとも以下の事項について確認・検討しておきましょう。
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(1)労働契約・就業規則上の要件・休職期間を確認する
休職命令が労働契約または就業規則上の規定に基づく場合、当該規定に基づく休職命令の要件や休職期間などを正確に確認してください。
要件を満たさずに休職命令を発したり、休職期間の適用を誤ったりした場合、従業員からその点を追及されてトラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。 -
(2)休職命令は書面で行う
労働契約または就業規則上の要件を満たした場合でも、休職命令による休職期間へ移行したことを明確化するため、休職命令書を従業員に交付した方がよいです。
休職命令書には以下の事項を記載したうえで、従業員に対して郵送・メールなど記録に残る通知方法によって交付しましょう。- 休職命令の発令日
- 休職期間満了日
- 休職命令に係る労働契約または就業規則上の根拠条文 (根拠条文がない場合は、休職命令の合理的な理由)
- 休職命令の要件に該当する事実
- 休職期間における給与の支払い有無、金額
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(3)休職期間中の給与を支払うかどうか検討する
休職命令を発した原因について、専ら従業員側に責任がある場合には、会社は休職期間中の給与の支払いを負いません。また、労働契約または就業規則上の根拠がある場合には、給与の減額・不支給が認められる可能性があります。
その一方で、会社都合の側面が強い休職命令の場合は、休職期間における給与の減額・不支給が違法となり得るので注意が必要です。また、仮に給与の支払い義務を負わないとしても、従業員とのトラブルを回避する観点から、一定の休業手当を支給した方がよい場合もあります。
休職者に対して、休職期間中の給与を支給するかどうかは、法的な観点だけでなく、総合的な観点から判断すべきでしょう。
4、休職命令に関する従業員とのトラブルを防ぐには
従業員の意思に反する休職命令は、深刻な労務トラブルへと発展するリスクがあります。
会社としては、従業員とのトラブルを防ぐため、以下のポイントに留意した対策を講じることをおすすめいたします。
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(1)就業規則で休職制度のルールを明確化する
就業規則で合理的で明確な休職制度を定めておけば、休職命令の適法性が認められやすくなり、さらに従業員の納得も得やすくなります。
休職制度に関するルールが全く定められていない場合や、ルールの内容が不明確・不十分の場合には、この機会に就業規則の改定をご検討ください。 -
(2)従業員の業務負担や配置を見直す
休職命令を発さざるを得ないほど従業員が健康状態を害する背景には、社内の業務負担や配置に原因があるケースも多いです。
特定の従業員へ過度に業務が集中することを避けつつ、適材適所の人員配置を行い、仕事で疲弊してしまう従業員が極力少なくなるように努めましょう。 -
(3)休職期間中のサポートを提案する
従業員が休職を拒否することの背景には、人事評価や今後のキャリア形成への悪影響、休職期間中の生活不安などが存在する場合があります。
従業員の不安を払拭(ふっしょく)するためには、休職期間中につき、会社が必要に応じてサポートすることを提案するのが効果的です。たとえば、休職期間中も一定の給与を支給したり、産業医によるカウンセリングや、上司による定期的なフォローミーティングを提供したりすることが考えられるでしょう。
さらには、休職に代わるテレワーク制度など、従業員のニーズと会社のニーズをマッチングする制度の導入を検討し、従業員のキャリア形成に影響を与えずに利益の最大化を目指す施策も検討するとよいでしょう。
会社のサポートにより、従業員との信頼関係を形成することができれば、休職命令に関するトラブルのリスクを最小限に抑えられます。 -
(4)弁護士に相談する
休職命令を発することに法的な問題がないかについては、弁護士へのご相談をおすすめいたします。
弁護士は、労働契約・就業規則の内容や、休職命令を発する理由などに照らして、休職命令の適法性を精査いたします。事前にきちんと法的な検討を行えば、後に従業員との間でトラブルに発展したとしても、会社にとって有利に対応を進めることが可能となります。
休職命令に関する法律上のトラブルを避けたい場合には、必ず事前に弁護士へご相談ください。
5、まとめ
従業員に対する休職命令は、労働契約・就業規則上の根拠がある場合や、安全配慮義務などの観点から合理的な理由がある場合には認められます。
しかし、合理性の判断は法的判断になりますので、法律家のアドバイスが必要になることも多いでしょう。
休職命令の適法性や、休職期間中の給与を支給するかどうかについては、法律その他の総合的な観点から検討する必要があるため、弁護士への事前相談をおすすめいたします。
休職命令を発するに当たって、従業員とのトラブルを極力避けたい場合や就業規則の見直しなどをお考えの場合は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています