秘密保持契約(NDA)を違反するとどうなる? 弁護士が法的な観点から解説

2021年09月30日
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秘密保持契約(NDA)を違反するとどうなる?  弁護士が法的な観点から解説

栃木県には、約9万3000もの事業所があります。(令和元年経済センサス-基礎調査(令和2年12月25日公表)より)
事業においては、機密事項などが扱われることが多いことから、新規取引などにおいて秘密保持契約(NDA:Non-disclosure agreement)を結ぶことは珍しくないでしょう。

秘密保持契約とは、個人もしくは法人が保有している秘密情報を第三者に漏らさないことを、他者(他社)と交わす約束を言います。守秘義務契約や非開示契約とも呼ばれ、とりわけ企業間取引でよく用いられる契約です。

本コラムでは、秘密保持契約の必要性や行動制限の内容を確認した上で、契約違反した場合に考えられることを、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。あわせて秘密保持契約に関するトラブルを回避する方法もご紹介しているので、円滑な取引を実現する術としてご参考ください。

1、秘密保持契約(NDA)はなぜ必要なのか

最初に、そもそもなぜ秘密保持契約を交わす必要があるのか解説しましょう。主な理由は、次の2つです。

●不利益を被らないようにするため
1つめは、開示当事者(情報を開示する会社)が、受領当事者(開示情報を受け取る会社)に情報を開示したことで、不利益を被らないようにするためです。

秘密保持契約を結ばなかった場合、開示当事者が独自に保有している技術情報を元に、受領当事者が自由に商品を生産してしまう可能性が生まれるでしょう。そうなれば、開示当事者が、いざ技術情報を用いて商品を生産しても、なかなか売れない事態にもなりかねません。

また、秘密保持契約を結ばず、開示情報を第三者に簡単に知られてしまうような状態にしてしまっている場合、特許を得ることも難しくなります。特許法第29条第1項で、公然と知られていない場合にかぎり、特許を受けられると定められているからです。

特許を取得することができると、他社による模倣を防ぎつつ、自社製品の売上を伸ばせる等の大きなメリットがあります。今後、特許の取得を考えているのであればもちろんですが、現段階ではそこまで視野に入れていない場合でも、いざというときに取得できるように、秘密保持契約は締結しておくべき契約と言えるでしょう。

●営業秘密である根拠を示すため
2つめは、開示当事者が提供した情報が、営業秘密である根拠を示すためです。

受領当事者が技術情報を元に商品を生産したとき、開示当事者は不正競争防止法にもとづき、違法性を指摘できる場合があります。

しかし、それをするためには、開示情報が、原則として同法が定める営業秘密の要件を満たしている必要があります。すなわち「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」(不正競争防止法第2条第6項)である根拠を示さなければいけません。

受領当事者が違法行為をしているという主張を通しやすくするためにも、秘密保持契約は必要な契約となります。

2、秘密保持契約(NDA)によって制限される行為

秘密保持契約は、情報開示によって発生するリスク(開示当事者が不利益を被るなど)を回避するために交わされる契約です。そのため、受領当事者は主に次の制限を受けることになります。

  1. (1)情報を複製すること

    秘密保持契約では、提供された情報の複製が制限されるのが一般的となっています。具体的には、秘密情報が記載された書類をコピーしてはいけない、スキャナーを使ってパソコンに取り込んではいけない、メールに添付して送信してはいけないなどです。

  2. (2)情報を分析すること

    秘密保持契約情報の分析をすることも、しばしば制限されます。その理由は、システムの根幹となる構築情報や、製品開発の元となったノウハウの取得を防ぐためです。開示当事者側からすると、秘密情報が漏洩しているのか特定しにくくなるため、こうした行為を禁止する文言がよく記載されます。

    具体的に対象となるのは、リバースエンジニアリングや逆アセンブルなどが挙げられるでしょう。ソースコードやアルゴリズムを取得する行為が基本的に制限されます。

  3. (3)情報の目的以外で使うこと

    秘密保持契約を交わすと、原則として、その契約で定められた目的以外で使用することが制限されます。

    たとえば契約において、開示当事者の秘密情報を元に、双方の会社が協力して新システム開発をすることが目的として定められていたとしましょう。そのときに、受領当事者が手に入れた情報を元に自社内で勝手にシステムを構築すれば、受領当事者の契約違反になります。

  4. (4)情報の返還や破棄するときの方法

    情報の返還や破棄するときの方法についても、よく制限される事項です。

    よくある文言としては、「受領当事者は、契約が終了もしくは中止の段階で、秘密情報が記された書類や媒体、それ以外のすべての複製物を返還(あるいは破棄)する」といったものが挙げられるでしょう。破棄の場合は、開示当事者への破棄証明書の提出が義務づけられることもあります。

  5. (5)情報の開示範囲

    秘密保持契約では、誰にどの程度の情報を開示できるのか、その範囲が決められていることがほとんどです。

    受領当事者側からすると、自社で働く役員や従業員に、開示当事者の情報をまったく知らせないまま秘密保持契約の目的を果たそうとするのは現実的ではありません。しかし、開示当事者側からすると、知っている人が多ければそれだけ情報漏洩のリスクがあるため、開示するにしても人数は少ないほうが安心でしょう。

    そこで、秘密保持契約で、誰だったら情報を提供していいのか定められるのが通例となっています。開示していいとされる第三者には、役員や従業員のほかに、弁護士、公認会計士、税理士などが含まれることもあります。ちなみに第三者に対して情報提供が許可されているときは、その第三者も受領当事者と同等の情報管理義務を負う、と規定されているのが一般的です。

3、秘密保持契約(NDA)に違反するとどうなる?

秘密保持契約が締結されたとき、受領当事者には、一定の行動制限が課されることになります。では、もし受領当事者が、制限された行為をするなどして秘密保持契約に違反するとどうなるのでしょうか。

  1. (1)差止請求や損害賠償請求を受ける可能性がある

    秘密保持契約に違反した場合、もし契約内で、違反した場合の条項について定められているのであれば、それに準じた処分を受けなければならない可能性が出てくるでしょう。具体的には、差止請求(秘密情報の利用をやめさせる請求)への対応、損害賠償金(秘密情報の利用によって生じた損害に対する補償金)の支払いなどです。

    また、仮に違反した場合の条項がなかったとしても、開示当事者の秘密情報が、不正競争防止法が定める営業秘密に該当すれば、同様の処分が課される可能性もあります。

  2. (2)契約の解除について

    一般的な契約では、違反した場合の措置として、契約の解除が見られます。しかし、秘密保持契約の場合、契約の解除をしてしまうと、受領当事者が開示情報の守秘義務から解放されることになります。開示当事者にとっては、より情報漏洩のリスクを広げることになるため、あまり行われないのが実状です。

4、秘密保持契約を締結するときのチェックするべき項目

そのほかの契約同様、秘密保持契約においては、きちんと守ることが何よりも重要です。たとえうっかりでも違反してしまえば、開示当事者に訴訟を起こされる可能性が出てくるでしょう。仮に相手方の損害賠償請求が認められなかったとしても、自社の心証が悪くなる場合もあります。

このような法的なトラブルを避けるためには、秘密保持契約を締結する前に、どんな内容なのか確認することが大切です。特に次の項目をチェックしてみてください。

●どのような情報が対象となっているのか
何が秘密情報として含まれていて、何の情報が除外されているのか、必ず確認するようにしてください。基本的に開示当事者は情報の定義を広くしようとし、受領当事者は狭くしようとする傾向にあり、食い違いが起きやすいからです。

●どのような義務が発生するのか
秘密情報を保持したときに、発生する義務(制限)にはどのようなものがあるかも確認すべき事項です。特に上述した4項目(情報の複製や分析、目的外使用など)はきちんとチェックしておきましょう。あわせて、義務が発生しない部分についても見ておくとベストです。

●片務契約か双務契約か
片務契約とは当事者の一方だけに債務を負わせる契約、双務契約とはお互いが債務を負担する契約を言います。取引内容によっては、受領当事者側が情報を開示することもあるでしょう。その場合、片務契約だと一方的にこちらが負担を負うことになってしまうため、双務契約への変更の要求を検討する必要があります。

●知的財産権の扱いはどのようになっているか
知的活動によって生み出され、財産的な価値を持った発明や技術などを知的財産と言い、それらのうち法律で保護されたものを知的財産権と言います。秘密保持契約の場合、開示される情報の知的財産権は開示当事者に帰属することがほとんどなので、その点については遵守すれば問題ないでしょう。

むしろ、ここで注意したいのは、秘密情報を合法的に利用して生み出した、知的財産の権利の扱いです。契約によっては、その権利も開示当事者が取得するとしている場合があるので、どのように規定されているのかの確認は重要と言えます。

●違反した場合の措置はあるか
違反した際に損害賠償請求や差止請求があるか確認しましょう。損害賠償の項目がある場合は、あらかじめ金額や計算方法が定められているかもチェックしてみてください。

●契約期間や存続期間はいつからいつまでか
秘密保持契約では、契約自体の期間とは別に、存続期間という期間があります。これは契約が終了してからも、契約の内容(の一部)が有効となる期間のことです。たとえば目的外使用の禁止の存続期間が5年と定められている場合、契約が終了となっても、向こう5年間は開示情報を用いて新商品の開発をすることはできません。

5、まとめ

秘密保持契約に違反してしまったケースの中には、開示当事者との認識の食い違いで起きたものもあります。締結前には内容によく目を通し、曖昧な点があれば相手方に確認を取るようにしましょう。また、締結後も、自らがしようとしている行為が抵触しないか逐一チェックすることも大切です。

ただ、状況によっては、相手方との話し合いやセルフチェックをしても、トラブルが起きたり解決しなかったりする場合もあります。

そのときは、ぜひベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスでご相談ください。弁護士が実際の契約内容と双方の状況を鑑みながら、最適な手段を提示します。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています