路面電車との交通事故|自動車運転の注意点や事故後の対応を解説

2024年06月18日
  • 慰謝料・損害賠償
  • 路面電車
  • 事故
路面電車との交通事故|自動車運転の注意点や事故後の対応を解説

交通事故というと自動車同士の衝突や接触がよくあるケースですが、路面電車との事故も起こりえます。令和5年8月26日に開業した次世代型路面電車(LRT)、宇都宮芳賀ライトレール線は、私たち宇都宮在住者にとってとても便利な公共交通機関のひとつとなりました。しかし、開業からたったの3週間で路面電車と車の接触事故が3件も起きてしまったという事実が報道されています。

もし自動車の運転中に路面電車と衝突した場合は、運転手や運営会社(または自治体)に対して損害賠償請求を行うことで、補償を受け取ることができます。手続きに不安がある場合は弁護士に相談し、適正額の損害賠償を受けられるようにサポートを受けましょう。

本コラムでは、路面電車との交通事故に関する損害賠償の請求先や流れなどを、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、路面電車の軌道敷内の通行に関する交通ルール

道路上における路面電車の通行に必要な部分を「軌道敷(きどうしき)」といいます。軌道敷は原則として敷石や線で示されていますが、表示がない場合は、レールの幅に、左右それぞれ610mmを加えた部分が軌道敷に当たります(軌道建設規程第11条)。

軌道敷内における交通ルールは、道路交通法第21条によって定められています。

  1. (1)自動車による軌道敷内の通行

    車両(トロリーバスを除く)は、左折し、右折し、横断し、もしくは展開するため軌道敷を横切る場合又は危険防止のためやむを得ない場合を除き、軌道敷内を通行してはなりません(道路交通法第21条第1項)。路面電車の円滑な通行を確保し、接触事故等を防止するためです。

    もっとも、以下①から③の場合には、上記の場合に関わらず、車両は、軌道敷内を通行することができます。もちろん、そのような場合であっても、車両は、路面電車の通行を妨げてはなりません(道路交通法第21条第2項)。

    • ① 道路の左側部分から軌道敷を除いた部分の幅員が、車両の通行のため十分なものでないとき(道路交通法第21条第2項1号)
    • ② 車両が、道路の損壊、道路工事その他の障害のため当該道路の左側部分から軌道敷を除いた部分を通行することができないとき(同項2号)
    • ③ 道路標識等により軌道敷内を通行することができることとされている自動車が通行するとき(同行3号)


    このように、自動車も例外的に、軌道敷内を通行することができますが、上記以外の場合に路面電車と接触した場合には、自動車側に大きな過失が認められやすいのでご注意ください。

  2. (2)軌道敷内を通行中の自動車が遵守すべきルール

    軌道敷内を通行する自動車は、後方から路面電車が接近してきたときは、その路面電車の正常な運行に支障を及ぼさないように、速やかに軌道敷外へ出るか、または路面電車から必要な距離を保つようにしなければなりません(道路交通法第21条第3項)。

2、路面電車との交通事故に関する損害賠償の請求先

自動車の運転中に路面電車と接触した場合は、被った人身損害や物的損害について、賠償請求を行いましょう。

路面電車との交通事故に関する損害賠償の請求先は、路面電車の運転手および路面電車を運営している民間事業者または自治体となります。

  1. (1)民間事業者が運営している場合|路面電車の運転手・運営事業者に請求

    民間事業者が路面電車を運営している場合、自動車の運転手は、路面電車の運転手および運営事業者に対して損害賠償を請求することができます

    路面電車の運転手は、故意ないしは過失で、交通事故の被害者(ここでいう自動車の運転手)に損害を生じさせた場合、不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法第709条)。一方で、運営事業者は、従業員である路面電車の運転手の故意ないしは過失による交通事故につき、使用者責任に基づく損害賠償責任を負います(民法第715条第1項)。

    自動車の運転手は、路面電車の運転手と運営事業者に対し、共同の不法行為によって他人に損害を加えた者であるとして、両方に対して損害全額の賠償を請求できます(民法第719条第1項、ただし二重取りは不可)。

  2. (2)自治体が運営している場合|運転手・自治体に請求

    路面電車を自治体が運営している場合にも、交通事故の損害賠償は、路面電車の運転手および自治体に対して請求できると考えられます

    自治体が運営する路面電車との交通事故では、国家賠償法との関係で、路面電車の運転手への損害賠償請求が認められるかどうかが問題となります。

    自治体が運営する路面電車の運転手は公務員ですが、裁判所は、公務員が、その職務行為に基づいて他人に損害を与えた場合、その責任は国や公共団体にあり、公務員は、公務員としても個人としても、被害者に対して責任を負わない、と判示しています(国家賠償法第1条、最高裁昭和30年4月19日判決)。

    すなわち、自治体が路面電車を運用していた場合、その運転手が事故を起こしてしまったとき、その路面電車の運転手の運転行為自体が「公権力の行使」にあたる場合には、被害者は、自治体に対し、国家賠償法に基づき、賠償責任を問うことができます。

    そして、路面電車の運転が「公権力の行使」に当たらないとすれば、国家賠償法によって路面電車の運転手の個人責任が否定されることはなく、被害者は路面電車の運転手に対して不法行為に基づく損害賠償を請求できます。また、運営者である自治体は国家賠償責任ではなく、民法上の使用者責任を負うことになります。

3、路面電車事故の損害賠償を受けるまでの流れ

路面電車との交通事故について、被害者が損害賠償を受けるまでの流れは以下のとおりです。



  1. (1)ケガの治療

    まずは、交通事故によるケガの治療を受けましょう。

    入通院慰謝料などを含めて適正額の損害賠償を受けるためには、医師の指示に従って通院を継続することが大切です。勝手に通院を止めてしまうことなく、医師から完治または症状固定の診断を受けるまで通院を続けましょう

  2. (2)弁護士への相談

    路面電車との交通事故の損害賠償請求については、早めに弁護士へ相談することをおすすめします

    弁護士は、損害賠償請求の見通しや手続きなどにつき、被害者の状況に応じてアドバイスいたします。早い段階で弁護士にご相談いただければ、スムーズに損害賠償請求の準備を整えることが可能です。

  3. (3)後遺障害等級認定の申請

    医師から症状固定の診断を受けた時点で後遺症が残っている場合は、後遺障害等級の認定を申請しましょう。認定される後遺障害等級に応じて、多額の後遺障害慰謝料および逸失利益を請求できる可能性があります。

    後遺障害等級認定の申請は、加害者側の保険会社に任せる方法(=事前認定)と、被害者自ら行う方法(=被害者請求)の2通りがあります。

    適切な等級認定を受けるためには、被害者請求がおすすめです被害者請求には手間がかかりますが、弁護士に依頼することで、被害者ご本人の労力は大幅に省けます

  4. (4)示談交渉

    後遺障害等級の認定を含めて、損害に関する資料・情報がすべてそろった段階で、加害者側との示談交渉を行いましょう。

    路面電車との交通事故については、運転手および運営者が損害賠償の請求先となりますが、請求先が任意保険に加入している場合は、保険会社との間で示談交渉を行います。

    示談交渉をまとめるためには、交通事故の客観的な資料を基に話し合うことが大切です。ドライブレコーダーの映像や、警察官が作成する事故現場の実況見分調書などを活用しましょう。

  5. (5)交通事故ADR

    示談交渉がまとまらない場合は、交通事故ADR(裁判外紛争解決手続)の利用を検討しましょう。

    交通事故ADRの特徴は、弁護士などの専門家による示談あっ旋などのサポートを受けられる点です。交通事故紛争処理センターや、日弁連交通事故相談センターが交通事故ADRを取り扱っています。

    参考:公益財団法人交通事故紛争処理センターHP
    参考:公益財団法人日弁連交通事故相談センター

  6. (6)訴訟

    路面電車との交通事故による紛争を終局的に解決するには、訴訟を提起する必要があります。

    損害賠償請求訴訟では、被害者側が加害者側の過失や損害額などを立証しなければなりません。また、訴訟は長期間に及ぶこともよくあります弁護士を代理人として、適切な準備を整えた上で、訴訟に臨みましょう

4、路面電車事故の損害賠償請求は弁護士に相談を

路面電車との交通事故は、自動車(乗用車)同士の交通事故とは異なり、路面電車特有の交通ルールを踏まえた検討が必要です。

路面電車事故の損害賠償請求は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします弁護士は、路面電車事故の特徴や適用される法令を踏まえた上で、被害者が適正額の損害賠償を得られるようにサポートします

5、まとめ

自動車の運転中に路面電車と接触した場合は、運転手や運営者である民間事業者・自治体に対して損害賠償を請求しましょう。適正額の損害賠償を受けるためには、弁護士に対応を依頼したほうがよいといえます。

ベリーベスト法律事務所は、交通事故に関するご相談を随時受け付けております。路面電車との交通事故の損害賠償請求については、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています