遺言書に不満があるときにはどうすべき? 弁護士が対処法を解説!

2020年11月11日
  • 遺留分侵害額請求
  • 遺言書に不満
遺言書に不満があるときにはどうすべき? 弁護士が対処法を解説!

令和2年7月からは、法務局において自筆証書遺言書保管制度がスタートし、遺言書を保管する方法の選択肢が増えることになりました。宇都宮市では、大通りに面した宇都宮地方法務局の本局で、遺言書の保管の手続きが行われています。

しかし遺言書に関するトラブルは多く、保管の問題によって解決できないこともたくさんあります。たとえば「生前は付き合いがなかった相続人が、自分に相続で有利になる遺言書を急に出してきた」、「介護をした自分でなく、介護をしなかった兄弟がすべて遺産を譲り受ける遺言書がでてきた」など、一部の相続人が遺言書の内容に不満を感じトラブルになることがあります。
本コラムでは、遺言書に不満があるときの対処法について、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説していきます。

1、遺言書に不満があるときには有効性を確認

遺言書に不満があるときには、まず遺言書が有効に成立するものであるか(無効主張できる点はないか)を確認した方がよいでしょう。
以下では、利用されることの多い「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の方式において、無効主張できる可能性があるケースを挙げていきます。

  1. (1)自筆証書遺言で無効主張できるケース

    自筆証書遺言は、手書きの遺言書です。自筆証書遺言は紙とペンがあれば作成できる反面、形式面の不備が生じやすく、遺言の有効要件を知らなければ無効になりやすい方式といえます。また、保管場所については法定されておらず、被相続人自身が決めた場所に保管するので、紛失や改変のリスクがある遺言形式であるともいえるでしょう。
    自筆が要件とされている理由は、筆跡により本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからです。

    自筆証書遺言で無効主張できるケースとしては、次のようなものが挙げられます。

    ●遺言書に記載漏れがあって形式要件を満たしていない
    自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自書して押印しなければ成立しません(遺言書に別添する財産目録については自筆でなくても可)。もし日付の記載漏れなどがあれば、その遺言書は無効になります。

    ●遺言書が代筆されている
    自筆証書遺言は本人が自書することによって真意であることを担保するものなので、代筆された遺言書は無効です。

    ●遺言者本人が認知症などで遺言能力が十分でないときに作成されている
    原則、15歳に達していれば遺言能力があるとされています(民法第961条)。しかし認知症などで遺言の意味を理解できなければ、遺言能力がないとされる場合もあります。そういった遺言能力がないときに書かれた遺言書は、無効となる可能性があります。

    ●以前の遺言書と内容が抵触する、新しい日付の遺言書がある
    遺言書の内容は、本人が内容の抵触する新しい遺言書を作成することで取り消すことができます。そのため不満がある遺言書よりも新しい日付の遺言書があり、その内容が互いに抵触するものであった場合、内容が取り消されたことを主張できる可能性があります。

    ●遺言書自体が偽造されている
    遺言書の筆跡が本人のものではないなどというケースでは、遺言者本人が作成していないこととして、遺言書が偽造されていることなどを主張して、無効主張を行うことができます。

  2. (2)公正証書遺言で無効主張できるケース

    公正証書遺言は、遺言者が公証役場などに所在する公証人に対して直接遺言の趣旨を口授して作成する方式の遺言書です。公証人が関与するため、自筆証書遺言よりは無効主張できるケースは、原則少なくなります。

    しかしたとえば、十分に遺言能力がない状態で口授が行われたときや、口授自体が適切に行われずに遺言書が作成されているといった場合には、無効主張できる可能性があるでしょう。

2、遺産分割協議でも遺産相続の内容を決められる場合がある

遺言書が有効であるときには、原則としてその遺言書にもとづいて遺産相続が行われます。

ただし、相続人同士が合意できれば、遺産分割協議で遺言書や法定相続分と異なる相続内容を決めることもできる場合があります。遺産分割協議は相続人全員が参加して行う必要があり、一部の相続人を除いて行った協議は無効になります。

しかし、遺言書の内容が遺産分割協議の内容よりも優先される場合があります。
①遺言書で、遺産分割を禁じている場合(民法第908条)。
②遺言執行者が選任されている場合
③相続人以外の第三者に遺贈が行われる場合

上記のような場合は、相続人全員の同意があっても、遺言の内容が優先されることが原則となります。

3、遺留分侵害額請求を検討する

遺言書に不満があるときには、「遺留分侵害額請求」が解決策になることがあります。遺留分侵害額請求について、みていきましょう。

  1. (1)遺留分侵害額請求とは

    まず「遺留分」とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に最低限保障されている財産のことをいいます。

    たとえば、妻と子どもがいる被相続人が「遺産はすべて第三者に遺贈する」といった遺言書を残していたときには、妻と子どもの遺留分が侵害されることになります。
    このような場合には、妻と子どもは第三者に対して「遺留分があるからその分に相当するお金を支払ってほしい」と請求できる権利が認められています。これが「遺留分侵害額請求」です。

    なお、相続法が改正されるまでは、「遺留分減殺請求」という制度がありました。しかし遺留分減殺請求はお金の支払いを求めるものではなく、不動産などの相続財産について第三者と遺留分権利者が共有状態となる、などの問題があったのです。これら問題点の改善を目指し、平成30年改正で変更されたものが遺留分侵害額請求という制度です。

  2. (2)遺留分侵害額請求の方法

    遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が遺留分を侵害する遺贈や贈与を受けた相手に対して意思表示をすれば足りるとされます。とはいえ、のちに「請求した」「請求されていない」といったトラブルになることを防ぐためにも「配達証明を付した内容証明郵便」で請求を行うことが大切です。

    遺留分侵害額請求の相手方としては、まず遺贈を受けた人が対象になります。遺留分に相当する支払いに満たないときには、最新の贈与を受けた人が対象になります。それでも侵害された遺留分が満たされないときには、新しい贈与から古い贈与へと順番に請求できます。

  3. (3)請求できる権利は期間制限があるので注意

    遺留分侵害額請求によって対処するときには、時効に注意する必要があります。なぜなら遺留分侵害額請求権は、1年間という短い期間で時効によって消滅する可能性があるからです。

    なお時効を数える起算点は、「相続が開始したこと」および「遺留分を侵害する贈与や遺贈があったこと」を知った日とされています。また、相続が開始したときから10年でも除斥期間にかかるので注意が必要です。

4、遺言書に不満がありトラブルに。対処法とは

これまでご説明してきたような方法で、スムーズに遺言書に対する不満を解消できれば、紛争が生じる可能性は少ないでしょう。しかし当事者間だけで話し合いをしても、意見が対立して話し合いが進まず争いになってしまうケースは少なくないでしょう。

そのような場合には、次のような対処法を検討することができます。

  1. (1)遺産分割調停・審判を利用する

    遺産分割協議を行っても、相続人間の話し合いがまとまらずトラブルになる可能性があります。また遺言書に従わないことによって不利益を受ける相続人は、協議に参加すること自体を拒否することも考えられます。

    そのような場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて解決を図る対処法があります。調停では、調停委員が関与して、相続人同士の話し合いによる合意を目指します。調停で合意できれば調停は成立して終了しますが、合意できなければ調停は不成立になります。
    調停不成立の場合には審判を申し立て、裁判所が審理を行い審判が言い渡されることになります。

  2. (2)遺留分侵害額の請求調停を利用する

    遺留分侵害額請求をする場合にも、家庭裁判所の調停手続きを利用して解決を図ることができます。ただし遺産分割と異なり、調停が成立しなかったときでも自動的に審判手続きに移行して結論が示されるわけではありません。遺留分侵害額請求については、裁判の判決で最終的に結論を得ることが可能とされます。

    なお遺留分侵害額の請求調停の申し立てができるのは、令和元年7月1日以降に亡くなった被相続人に関する相続に限られます。令和元年7月1日より前に被相続人が亡くなっているときには、改正前民法の規定にもとづいて遺留分減殺による返還請求などの調停手続や民事訴訟手続などを申し立て、あるいは提起することとされています。

  3. (3)訴訟を提起する

    遺言書の有効・無効をめぐって争いになったときには、裁判所に遺言書無効確認訴訟を提起することを検討することができます。ただし、遺言無効確認訴訟は、決して簡単に認めてもらえる請求ではありません。訴えを起こすのであれば、弁護士に相談しましょう。

    また遺留分侵害額の請求についても、調停を経る必要はありますが、調停後は訴訟を提起することが可能です。裁判になれば、最終的には裁判官が言い渡す判決による解決が期待できます。

  4. (4)弁護士に相談する

    遺言書に不満があるときには、弁護士に相談するという対処法もあります。弁護士に相談すれば、調停や裁判などの裁判所の手続きもスムーズに進められサポートが受けられます。またご相談者の代理人として、トラブルの相手方と直接交渉を進めることも可能なので、早期解決も期待できるでしょう。

5、まとめ

遺言書に不満があるときには、無効主張できるかどうか、そして有効であっても遺留分侵害額請求などができないかをチェックする必要があります。

弁護士に相談したときには、「どのような対応策をとることができるか」「裁判などにおける見込み」なども含めてアドバイスを受けられる可能性があります。ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスでも、遺言書のトラブルも含めた相続問題全般についての知見が豊富な弁護士が皆さまのご相談に応じています。おひとりで悩むことなく、ぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています