遺産分割のやり直しができる5つのパターンと注意点を弁護士が解説

2020年12月07日
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遺産分割のやり直しができる5つのパターンと注意点を弁護士が解説

平成30年の栃木県の人口動態統計によると、同年中の栃木県内の死亡者数は21885名で、出生者数の13495名を大きく上回っています(出典:「平成30(2018)年度版栃木県保健統計年報 人口動態統計編」(栃木県))。全国的な傾向と同じく、死亡者数は年々増加しており、私たちにとって相続はますます身近な問題となっているといえるでしょう。

遺産分割をいったん終えたとしても、後から一部の相続人に対する生前贈与が発覚するなど、正しい遺産分割が行われなかったことが後からわかった場合には、遺産分割のやり直しを求めることができます。この記事では、遺産分割のやり直しができるケースについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、遺産分割をやり直すことはできる?

そもそも、一度行われた遺産分割をやり直すことはできるのでしょうか。
この点、原則としてやり直しは認められませんが、一定の要件を満たす場合には、遺産分割をやり直すことが可能です。

  1. (1)有効な遺産分割をやり直すには相続人全員の同意が必要

    法的に有効に成立した遺産分割の内容は、遺産分割協議が、相続人全員が手続きに参加して決定したことが前提になっているため、当事者であるすべての相続人を拘束します。そのため、一人の相続人の一存でやり直しを行うことは認められません。

    しかし、すべての相続人がやり直しについて同意している場合には、相続人の保護に欠ける点はありませんので、遺産分割の合意解除が認められます。

  2. (2)無効な遺産分割はやり直しになる

    また、次の項目で具体的に解説しますが、遺産分割自体が無効の場合には、再度正式な形で遺産分割を行う必要があります。

    この場合には、必然的に遺産分割のやり直しを行うことになります。

2、遺産分割をやり直すことができるケースとは?

具体的に、遺産分割をやり直すことができるケースのパターンについて見ていきましょう。

  1. (1)相続人全員の同意がある場合

    前述のとおり、有効な遺産分割が行われた場合であっても、共同相続人全員の同意がある場合には、遺産分割のやり直しが認められます。

  2. (2)財産隠しがあった場合

    相続財産を管理している一部の相続人により、重要な財産が隠されていた場合には、遺産分割のやり直しが認められる可能性があります。

    このような場合には、隠されていた財産が相続財産に含まれていることを他の相続人が知っていれば、遺産分割の内容に同意していなかったと考えられるでしょう。

    したがって、民法上の「錯誤」(民法第95条第1項)または詐欺(民法第96条第1項)により、遺産分割に関する意思表示を取り消し、遺産分割協議の効力を遡及的に取り消すことを主張することが考えられます。錯誤や詐欺による取り消しは、それぞれ要件が規定されていますから、これらの要件を満たす場合は、錯誤または詐欺取り消しを主張することができます。

    一部の相続人による意思表示の取り消しが認められれば、遺産分割は一部相続人が不参加であったということになり、無効・やり直しとなります。

  3. (3)後から一部の相続人に対する生前贈与が発覚した場合

    被相続人から一部の相続人が生前贈与を受けていたという事実が、遺産分割完了後に発覚した場合には、遺産分割のやり直しが認められる可能性があります。

    生前贈与については、「特別受益」として相続分の算定において考慮され可能性があり、利益を受けた相続人と受けていない相続人の間で相続分から遺贈や贈与の価額を控除した残額をもって相続分とするという調整が図られています(民法第903条第1項)。
    そのため、特別受益を受けた相続人がいる場合といない場合では、遺産分割の内容は異なってきます。

    よって、相続人は遺贈や贈与による特別受益が存在していれば、遺産分割協議で合意しなかったと認められる状況だった場合、民法上の錯誤または詐欺を主張して、遺産分割に関する意思表示の取り消しを主張する可能性があり、認められれば遡及的に遺産分割に関する合意が、意思表示がなかったことになり、遺産分割はさかのぼって無効・やり直しとなります。

  4. (4)一部の相続人に対して強迫が行われていた場合

    遺産分割協議の裏で、一部の相続人に対して、他の相続人による脅しなどが行われ、遺産分割に同意するように強迫されていた場合には、その遺産分割に対する同意の意思表示は取り消しの対象となります(民法第96条第1項)。

    意思表示が取り消された場合には、遺産分割協議に関する意思表示はさかのぼって消滅し、遺産分割は無効として、やり直すことになります。

  5. (5)遺産分割協議に相続人全員が参加していなかった場合

    遺産分割協議は、遺産を相続する権利を有する相続人および遺言による包括受遺者(民法第990条)のすべてが参加して行われる必要があります。

    しかし、一部の相続人が協議に参加していない場合や、一部の相続人を排除して遺産分割協議が行われた場合、または後から他の相続人が知らなかった相続人が判明した場合などには、遺産分割の有効要件を充足しません。

    したがってこの場合は、遺産分割のやり直しが必要となります。

3、遺産分割をやり直す際の注意点とは?

遺産分割をやり直す際に、相続人が注意しなければならないことについて解説します。

  1. (1)期限はないができるだけ早めの段階がよい

    遺産分割のやり直しは、特にいつまでに行わなければならないということが法律で決まっているわけではありません。そのため、後から遺産分割のやり直しをすべき事情が判明した時点で、やり直しに着手すれば足ります。

    ただし、当初の遺産分割完了から時間がたってしまうと、それぞれの相続人が遺産を使ってしまうなど、財産の状態が大きく変化する可能性もあります。

    遺産分割のやり直しは、相続開始当時に存在した財産の内容を前提として行われるため、当時と大きく財産の状態が変化すると不都合を生じてしまいます。
    そのため、遺産分割のやり直しをすべき事情が判明したら、速やかに弁護士に相談をして準備を進めることが必要です。

  2. (2)所得税・贈与税が改めて課税されてしまう

    遺産分割をやり直す場合、やり直しの内容によっては、相続人の税務負担が大きくなってしまう場合があります。

    税法上、遺産分割をやり直す場合であっても、当初の相続税課税が撤回されるわけではありません。それどころか、新たに相続人間で財産の譲渡や贈与が行われたものとして、所得税と贈与税が追加で課税されることになってしまいます。

    遺産分割のやり直しを行うために税務上のコストがかかるのは、非常にもったいないことです。そのため、当初の遺産分割の段階で弁護士に相談をして、相続人や相続財産などをしっかり確定してから遺産分割協議を行うようにしましょう。

    それでも万が一、遺産分割のやり直しをしなければならない場合には、税務上の問題も併せて考慮する必要があります。税理士との連携が取れる弁護士に依頼するとスムーズな対応が可能となるでしょう。

4、遺産分割やり直しの流れとは?

実際に遺産分割のやり直しを行う際の流れについて見ていきましょう。

  1. (1)最初の遺産分割協議と同様に相続人間で話し合う

    遺産分割やり直しの手続きは、基本的には当初の遺産分割と同様です。相続人全員(包括受遺者も含む)の話し合いによって行われます。話し合いの形式は問いませんが、冷静な話し合いを行うためにも、弁護士に依頼をして間に入ってもらうのがよいでしょう。

    なぜなら、やり直しの時点では相続開始から時間がたっているケースも多く、当初の遺産分割よりも事情が複雑化しがちとなるためです。また、相続登記を改めて行ったり、贈与税・所得税の課税を考えたりと、通常の相続手続きと比較しても、処理すべき内容は非常に多岐にわたります。可能であれば、税理士と連携をとって対応ができる弁護士に依頼したほうがよいでしょう。

  2. (2)遺産分割協議書を作成する

    遺産分割の内容が確定したら、その内容を反映した遺産分割協議書を作成します。

    遺産分割協議書には、具体的に遺産をどのように分けるのかについて、明確な文章により記録し、遺産分割協議に参加したすべての相続人・包括受遺者が署名または記名・押印を行います。

    遺産分割協議書の内容が曖昧であったり、遺産分割の対象となる相続財産についての記載漏れがあったりすると、後から紛争を生じる原因になりかねません。
    弁護士に遺産分割協議についての依頼をしておけば、遺産分割協議書の作成についてもサポートを受けられるので安心です。

  3. (3)必要に応じて遺産分割調停を申し立てる

    遺産分割をやり直す際に、財産の分け方について、相続人間の話し合いだけでは合意に至らない場合もあります。その場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることも検討できます。

    遺産分割調停では、調停委員が各相続人の言い分を聞きながら、調停案を作成します。

    調停案にすべての相続人が同意すれば、調停成立によって遺産分割の内容が確定します。調停手続きについての詳細は、弁護士にご確認ください。

5、まとめ

一度成立した遺産分割をやり直すことは、原則として認められません。しかし、相続人全員の同意がある場合、遺産分割に関する有効要件を欠く場合、遺産分割に関する相続人の意思表示が取り消された場合などには、例外的に遺産分割のやり直しが認められる場合があります。

ベリーベスト法律事務所では、数多くの遺産分割トラブルの案件を取り扱ってきた経験を生かして、親身になって相続相談のご対応をいたします。また、グループ法人に所属する税理士や司法書士と連携を行い、最終的な遺産分割の完了までサポートします。

遺産分割のやり直しをしたいと思っている方、遺産分割についてトラブルを抱えている方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

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