推定相続人とは? 法定相続人や相続人との違いについて弁護士が解説
- 遺産を残す方
- 推定相続人
令和元年、栃木県内では2万2137名の方が亡くなっています。この数字が意味するところは、遺産が多寡に関係なくこれに近い相続が発生していたということです。
近く相続が発生することが予想されるのであれば、だれが相続人になり得るのか、つまり推定相続人とはだれなのかということを認識しておいたほうがよいでしょう。それが相続対策に直結することもあり得ますし、あるいは相続トラブルの芽を把握しておくことにもつながり得るからです。
そこで本コラムでは、推定相続人の概要から問題のある推定相続人への生前への対応、さらに相続において他の推定相続人とトラブルになったときの対応について、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、推定相続人とは?
まずは、推定相続人の用語説明をはじめ、混同されがちな「法定相続人」「相続人」といった各キーワードについて解説します。
-
(1)推定相続人の意味
推定相続人とは、仮に現時点で相続が開始した場合に、直ちに相続人となることができると推定される人のことです。このことから、推定相続人とは現実に相続が開始する前における相続人になる予定者と考えることもできます。
推定相続人の範囲には代襲相続も含まれています。したがって、もし相続人よりも先に子どもが死亡していた場合、孫が推定相続人となります。
なお、民法で相続人になることが認められていない以下の方は推定相続人に該当しません。- 内縁の夫や妻
- すでに離婚している先夫や先妻
- 認知されていない子ども
- 継父母・継祖父母
- 配偶者の父母・祖父母や兄弟姉妹
-
(2)法定相続人との違いは?
推定相続人とは、あくまで現時点で相続が発生したときに相続人になると推定される方のことです。これに対して法定相続人とは、民法の規定により相続人になることができると決められている方を指します。
推定相続人はだれという定義は、民法第5編第2章の規定により定まります。調べる方法は、現時点における当事者の法定相続人を調査する際と同じ手順です。 -
(3)相続人との違いは?
相続人は、実際に相続が発生したときに相続人となる人のことです。なお、相続されるべき遺産を持つ方のことは、法律上、被相続人と呼ばれています。
推定相続人は、後述する欠格や廃除、あるいは相続開始時に、相続財産を受け取るべき相続人が現れないかぎり、相続が発生した時点でそのまま相続人となります。
2、推定相続人の範囲は?
ここでは、推定相続人の範囲と属性、および注意点についてご説明します。なお、推定相続人の範囲は民法で規定する通常の相続人の順位と一般的には同一です。以下の身分は、被相続人からみて、どのような関係なのかが記載されています。
-
(1)配偶者
配偶者は常に推定相続人となります。民法第890条の規定により、配偶者は被相続人に血縁関係のある血族相続人がいたとしても、その順位を問わず相続発生時は血族相続人と共同相続します。また、被相続人に血族相続人がいなければ単独の推定相続人となります。
なお、配偶者とは法律上の夫婦、つまり役所に婚姻届を提出した配偶者だけです。したがって、いわゆる愛人や内縁関係にある人は配偶者に含まれません。また、配偶者の相続権は婚姻期間の長短に左右されることはありません。したがって、たとえ1日だけでも法律上の夫婦であれば、配偶者として、相続が認められます。 -
(2)子ども
民法第887条の規定により、被相続人の子どもは、直系尊属や兄弟姉妹が存在していても、推定相続人となります。
ここでいう子どもとは、被相続人と法律上の親子関係にある方を指し、通常は戸籍上の記載と一致します。そして被相続人の子どもであるかぎり、性別、年齢、既婚・未婚、実子・養子、嫡出子・非嫡出子、氏の相違・国籍等は問われることはありません。また、胎児についても、生きて産まれることを条件に相続権が認められます(民法第886条第1項、第2項)。
なお、父親が被相続人の場合には、認知されていなければ、事実上の実子であっても相続では子どもに該当しません。ただし、判例および通説では、母子関係は分娩という事実により当然に生じ、認知や戸籍の記載を要せずに相続人となります。
また、他の夫婦と普通養子縁組をした子どもは実父母の推定相続人となります。ただし、特別養子縁組の場合は、民法第817条の9の規定により縁組によって養子になった子どもと実父母および血族との親族関係は終了します。したがって、特別養子縁組により養子となった子どもは、実父母や実兄弟姉妹の推定相続人になることとはできません。 -
(3)直系尊属
直系尊属とは、前の世代に属する直系血族のことで、被相続人の父母や祖父母が該当します。直系尊属は、被相続人に子ども、代襲相続人(孫)および再代襲相続人(ひ孫)がいない場合に初めて推定相続人になります。
直系尊属全員が固有の相続権を有しますが、父母と祖父母のように親等の異なる血族がいる場合は親等の近い者、つまり父母だけが推定相続人となります。また、養子に子どもがいないときは、養親と実親がともに推定相続人(共同相続人)になります。 -
(4)兄弟姉妹
兄弟姉妹は、被相続人に子ども(代襲相続人・再代襲相続人も含む)や直系尊属がいない場合の推定相続人となります。
相続においては、先妻(夫)との間の子どもと、後妻(夫)とのあいだの子どものように、親の双方を共通にする人と一方のみを共通にする人も、兄弟姉妹となります。
3、相続させたくない相続人がいるときにできる「相続廃除」とは?
相続させたくない方が親族内にいる場合、どうにかして相続させないようにしたいと考えるケースは少なくありません。その場合、被相続人自身が「相続廃除」と呼ばれる手続きを行うことによって、相続をさせないようにすることができます。
-
(1)相続廃除とは?
民法第892条および第893条に規定する相続廃除とは、被相続人の申し出により家庭裁判所が推定相続人の地位を奪う制度のことです。
相続廃除は被相続人が家庭裁判所に申し立て、廃除判決が確定することによって、推定相続人の地位が喪失します。したがって、推定相続人の行為などにより当然に相続人としての地位が失われる「相続欠格」(民法第891条各号)とは異なります。また、相続廃除は被相続人の意思を原因としているため、被相続人は相続廃除の意思表示に対して「取消」を家庭裁判所に請求することもできます(民法第894条第1項)。 -
(2)遺留分がある推定相続人はどうなる?
法定相続人が権利としてもつ最低限の遺産の取り分を、遺留分といいます。被相続人は、遺言書で相続分を指定することなどができます。ただし、法定相続人がもつ遺留分を超える分を指定すると、いざ相続が始まったとき、遺留分侵害額請求などが行われる可能性があるため、親族間でトラブルになる可能性があります。
他方、相続廃除の手続きを行っていれば、推定相続人がもつ相続する資格そのものが失われることになります。そのため、推定相続人は、その地位を根拠にしている遺留分もなくなると考えられています。民法の規定でも「遺留分を有する推定相続人」とあり(民法第892条)、遺留分を有する推定相続人が、その地位を喪失するのですから、特定の相続人であることを根拠とする遺留分権者の地位も喪失するというのが法の立場だと考えられます。 -
(3)相続廃除の要件
民法第892条では、相続廃除の要件として被相続人に対する「虐待」、「重大な侮辱」、又は推定相続人に「著しい非行」が認められることのいずれかが存在することが要件となっています。
ただし、相続廃除は推定相続人に与える影響が大きいものです。そのため、廃除の要件を満たし家庭裁判所に申し立てが認められるためには、単に被相続人の主観的な感情だけでは不十分といえるでしょう。被相続人の感情に加えて、家庭裁判所は推定相続人が相続廃除の原因になる行為に至った背景を踏まえながら、社会通念に照らして相続廃除の妥当性を判断するものと考えられます。裁判所は、具体的に排除事由が存在するか否かを慎重に判断しますので、具体的に主張立証を行うことを想定しておきましょう。 -
(4)遺言書による相続廃除の意思表示
遺言書による廃除またはその取消の意思表示があるときは、遺言執行者が家庭裁判所に対して申し立てを行い、審判等をしてもらうことになります。
なお、相続廃除の意思表示を遺言書で行う場合、相続廃除の文言を使う必要は特にないとされています。また、被相続人が推定相続人を相続廃除するに至った原因・経緯を示す必要もありません。推定相続人に相続上の利益を一切与えないという趣旨が明示されていれば事足りるのです。もちろん、「廃除する」と記載されていることも廃除の意思を示したことになり得るものですので、使用してはいけないというわけではありません。
したがって、正式な遺言書によって「○○には一切財産を相続させない」という趣旨の記載がある場合に相続廃除の意思表示があると思うかもしれません。しかし、それが相続廃除の意思表示なのか、それとも当該推定相続人に対する相続分をゼロとする指定なのか判然とせず、トラブルが生じることがあります。つまり、後者とされた場合は前述した推定相続人に対する遺留分の侵害とされ、遺留分に満たない額につき、金銭的請求としての遺留分侵害額請求をされてしまうこともあり得るのです。
したがって、遺言書へ記載する相続廃除に関しての文言は、慎重を期して弁護士に相談しながら進めることを強くおすすめします。
4、弁護士に相談するメリット
近く予想される相続の発生において、何らかの不安がある場合、あるいはトラブルの予想が発生することが考えられる場合は、できるかぎり早めに弁護士に相談したほうがよいでしょう。
弁護士に相談することで、法的なアドバイスだけではなく以下のようなさまざまなメリットを受けることが期待できます。
-
(1)推定相続人の調査を依頼できる
相続が発生する前に推定相続人を漏れなく把握しておくことは、今後発生する可能性のあるトラブルに備えておくために重要です。
推定相続人の調査は、役所へ赴き戸籍謄本を取得する方法で行います。しかし、戸籍謄本は被相続人の本籍地の役所でしか取得できないため、現地の役所まで調査・請求を行う必要があり、かなりの負担が生じます。
また、すでに死亡している推定相続人がいる場合は、その子どもなどの相続人の関係から、調査しなければならない戸籍謄本は膨大な数になることも考えられます。さらに、戸籍謄本はその作成時期により独特な書式で作成されているため、解読・分析することが難しいという難点もあります。
このような背景事情から、推定相続人を調査するための戸籍謄本の取得と分析については、弁護士に依頼することがおすすめです。 -
(2)財産調査を依頼できる
相続においては、推定相続人の調査と同様に被相続人の相続財産を調査することも重要です。しかし、相続財産の調査は手間がかかるものです。特に、多くの仕事をしている方にとって、相続財産の調査のためには平日の昼間に役所や金融機関などに赴かなくてはならないため、これが大きな負担となり得ます。
また、被相続人が生前に作成した遺言書や財産目録があったとしても、被相続人が記載を漏らしていたり把握すらしていなかった相続財産が存在するケースもあります。このことから、遺言書や財産目録の存在にかかわらず相続が発生した場合、相続財産を把握するための調査が重要となるのです。
もし相続財産の調査が難航することが予想される場合、あるいは仕事などの関係から平日の昼間に時間が取れない場合は、依頼者の代理人として職権により財産調査が可能な弁護士に依頼するとよいでしょう。 -
(3)トラブルの対処を依頼できる
弁護士は、法律により、法律事務に関して、依頼者の代理人になること認められています。このことから、もし相続でトラブル発生した場合、その相手方である他の相続人との交渉、さらには、遺産分割調停や遺産分割審判あるいは裁判にも、あなたの代わりに出席することが可能です。
トラブルの相手方と冷静な話し合いが期待できない場合、あるいは仕事などの関係から遺産分割調停や遺産分割審判、裁判への出席が難しい場合は、弁護士に依頼することがおすすめです。
5、まとめ
近々、相続の発生が予想される場合は、推定相続人の調査や財産調査などについてお早めに弁護士に相談ながら進めたほうがよいでしょう。弁護士に相談しておくことにより、早いうちにトラブルの芽について先手を打って対策を講じておくことができます。
ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスでは、相続に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|