後妻との相続トラブル解決方法は? 子どもの相続割合や隠し財産も気になる方へ
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離婚が当たり前とまで言われるようになった時代です。相続の場面において、先妻、後妻、その子どもたちを含めた相続争いに発展することは珍しくありません。毎年1000件前後の夫婦が離婚している宇都宮市においても例外ではないでしょう。
離婚と再婚歴があり、それぞれの配偶者との間に子どもがいる人が亡くなった場合、誰がどれくらい相続するのか、ご存じでしょうか。思わぬもめ事に発展しないように、本コラムでは、先妻と後妻、その子どもたちの相続権について、宇都宮オフィスの弁護士が解説します。よくあるケースを想定しながら見ていきましょう。
1、父が亡くなると後妻にすべて相続されるの?
Xさんの父は、母と離婚した後再婚し、後妻との間に子どもをもうけています。
このたび父が亡くなったという報を受け取りました。娘であるXさんは、後妻やその子どもが父の財産を相続し、自分は一切財産が受け取れないのではないかと不安に感じているようです。
登場人物は次のとおりです。
- 父(被相続人)
- 先妻(離婚)
- 先妻の子どもX
- 後妻
- 後妻の子どもA(父と後妻の間にできた子ども)
- 後妻の子どもB(後妻の連れ子で父との血縁関係はない)
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(1)先妻と後妻は大きな差
まずは先妻と後妻について確認しましょう。
民法は、配偶者は常に相続人となると定めています。したがって、現在の妻である後妻は相続人であることはご理解いただけるでしょう。他方、先妻は離婚して被相続人とは赤の他人ですから、相続権はありません。
ときどき「婚姻中、夫には非常に苦労させられた」ことを理由に権利を主張される先妻がいますが、離婚した以上、残念ながら法律上は何の効果もないのです。 -
(2)子どもは条件によって相続の有無が変わる
子どもは第1順位者の相続人と定められています。
先妻の子どもXさんと、後妻の子どもAさんは被相続人と血縁関係にあります。したがって、当然相続権があります。
他方、後妻の子どもBさんは被相続人と血縁関係がないため、自動的には財産を受け取ることができません。しかし、被相続人と養子縁組を結んでいれば法律上の親子となり、相続権が生じることになります。
後妻の子どもBさんが養子縁組を結んでいたか否かは、先妻の子どもXさんにとっても大きな問題です。Bさんに相続権があれば、その分、Xさんが受け取れる財産の割合が変わってくるからです。 -
(3)後妻と子どもたちの相続割合は?
大前提となる知識として、「配偶者+子ども」が相続人だった場合の相続割合は、配偶者が1/2、子どもが1/2です。子どもが複数人いる場合は、1/2について子どもの人数で割ります。さらに子どもの相続割合は、実子と、養子縁組をした子どもで変わることはありません。
今回のケースで後妻の子どもBさんが相続人だった場合、各相続人の割合は次のとおりです。
【後妻の子どもBが相続人の場合】- 後妻……1/2
- 先妻の子どもX……1/6
- 後妻の子どもA……1/6
- 後妻の子どもB(養子縁組あり)……1/6
一方で、後妻の子どもBと父が養子縁組をしていないケースの割合は次のとおりです。
【後妻の子どもBが相続人ではない場合】- 後妻……1/2
- 先妻の子どもX……1/4
- 後妻の子どもA……1/4
- 後妻の子どもB(養子縁組なし)……なし
2、後妻に有利な遺言書が残されていたときの対処法
後妻に有利となる内容の遺言書があるケースではどうでしょうか。正式な方法で書かれた遺言書であれば、その遺言書は有効となりますので、後妻は遺言書のとおりに相続することができます。
ただし、その場合であっても、先妻の子どもXは、遺留分減殺請求権を行使することで不利益を回避することができる場合があります。
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(1)遺留分とは
遺留分とは、一定の相続人について最低限保証された財産の取り分です。遺言書で自分にとって不利な内容の相続割合や相続人の指定があった場合でも、遺留分の認められる範囲で、相続人の財産は守られます。
遺留分を主張できる人は、配偶者、直系卑属(子ども、孫など)、直系尊属(父母、祖父母など)です。なお、兄弟姉妹に遺留分はありません。
たとえば「配偶者+子ども」が相続人の場合、遺留分は法定相続分の1/2です。したがって、それぞれが主張できる遺留分の割合は、配偶者が1/4、子ども1/4となります。さらに、子どもが複数いる場合は、1/4からさらに子どもの人数で割った分となります。
つまり、子どもが3人いれば、それぞれ1/12ずつ主張できるわけです。 -
(2)時効前に遺留分を請求する
遺留分減殺請求権の時効期間は、相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ったときから1年です。ここでいう「知った」とは、遺留分権利者が単に被相続人の財産の贈与または遺贈があったことを知っているだけでは足らず、それが減殺し得るものであることを知っていることが必要だとされています。
なお、時効前に1度でも請求してあれば、遺留分の時効を中断させることができ、時効の成立を回避できます。したがって、できるだけ早めに遺留分を請求しましょう。具体的には、配達証明付きの内容証明郵便で請求しておけば、通知した事実が残るため、遺留分の時効を中断させることができます。
3、後妻が勝手に相続手続きを完了することはできるのか
先妻の子どもとしては、後妻が勝手に相続手続きを進めて完了させてしまわないか、不安に感じることがあるでしょう。
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(1)相続手続きで戸籍が明らかになる
後妻が勝手に相続手続きを完了させることは「原則」できません。
相続手続きは、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべてそろえたうえ、相続人全員の署名・押印、印鑑証明書などの添付も必要です。後妻は他の相続人たちへの連絡なしには、勝手に相続しようにもできないのです。
ただし、他の相続人は、こうした事実を知っておかないとリスクがあります。後妻が目的や財産の内容を全く開示しないまま、他の相続人へ書類の署名などを求めてくるケースは、よくあることだからです。
先妻の子どもとしては、書類の内容をよく確認せずに署名、押印することだけは避けるべきでしょう。何の書類かよく分からなければ、署名、押印の前にしっかりと確認することが大切です。 -
(2)公正証書遺言書の存在を確認する
例外的に「後妻にすべて相続させる」といった内容の公正証書遺言書が残されていた場合には、後妻の側で手続きを完了できてしまうことがあります。ただし、公正証書遺言書があるかどうかは、相続人であればすぐに調べることができます。
公証役場を訪れ、身分証明書や必要書類を提示することで検索が可能なので、ご心配であれば早めに確認しておいた方が良いでしょう。公証役場の場所や連絡先は、日本公証人連合会のホームページに掲載されています。必要書類などを問い合わせてから足を運ぶとよいでしょう。
4、後妻が財産を隠している気がするなら
多額の財産があると思っていたのに、後妻からは「ほとんどない」と言われたことで、隠し財産を疑う方もいるでしょう。実際、故人にもっとも近くにいた妻が財産を隠そうとするケースもありえます。
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(1)隠し財産を調査する方法
財産隠しが疑われる際には、財産を調査する必要があります。相続財産で特に大きいのは預貯金と不動産です。
預貯金の場合、被相続人が生前使っていたと思われる金融機関に対し、口座取引履歴の開示請求を行うことがひとつの方法です。「全店照会」をかけることで、支店すべてについて調査してもらうことができます。被相続人の死亡前後に大きなお金の動きがあれば、後妻に対し使い道を追及することが可能です。
不動産の場合は、被相続人と縁が深かった市区町村の役場に行き、名寄帳を閲覧・取得します。名寄帳には役場管轄にある課税不動産のすべてが記載されています。 -
(2)隠し財産が見つからない場合は?
被相続人とは疎遠になっており、金融機関名や不動産保有の事実すら分からないこともあるでしょう。その場合、郵便物や年金受取先、被相続人の住居地付近にある金融機関などから当たりをつけ、ひとつひとつ探すという原始的な方法をとることになります。
個人で行うことも可能ですが、大変な作業となるため、この時点で弁護士などに相談される方がよいでしょう。これまでの経験や知識を元に財産調査を行いますので、財産が明らかになる可能性が高まります。
弁護士を介して後妻に財産の開示を求めるだけでも、かたくなに開示しなかった後妻の態度が軟化することが多々あります。
5、まとめ
今回は、先妻の子どもの立場から、相続にまつわる疑問や不安について解説しました。先妻の子どもと後妻は特別顔をあわせる機会がなく、折り合いが悪いことも多いようです。双方の感情が絡みがちなデリケートな問題ですが、相続については法律に基づいた決着をつけるしかありません。トラブルになりそうであれば早めに弁護士に相談するなどし、冷静な解決を目指しましょう。
ベリーベスト法律事務所・宇都宮オフィスでもご相談をお受けします。後妻との相続問題でお悩みであれば、まずはお気軽にご連絡ください。相続問題に対応した経験が豊富な弁護士が、適切な相続が行われるよう力を尽くします。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
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