押さえておくべき相続手順と必要書類とは? 弁護士がわかりやすく解説

2020年03月04日
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押さえておくべき相続手順と必要書類とは? 弁護士がわかりやすく解説

相続は、ある日突然やってくるものです。相続手順を知りあらかじめ準備しておく終活を呼びかける動きが活発化していますが、相続手続を行う側はどうでしょうか。司法統計によると、平成29年度中に宇都宮地方裁判所で取り扱われた家事審判や調停のうち、「相続の放棄の申述の受理」は3193件、「相続財産管理人選任等(相続人不分明)」は239件、「遺言書の検認」は182件ありました。

家族が亡くなり悲しみに浸っている間にも、相続手続に関する締め切りは刻一刻と迫ってきます。実はひとくちに「相続」と言ってもさまざまな種類の手続があり、それぞれに細かく期限が定められていることに注意しなければなりません。

そして亡くなったご家族(以下、被相続人と呼びます)が残した遺言の種類や家族形態、そして親族間の人間関係によっても取るべき行動はまったく異なります。

そこで今回は、宇都宮オフィスの弁護士が相続手続の基本的な流れや必要書類についてわかりやすく解説します。各ステップの期限も記載しておりますので、以下の手順を参考にご準備を進めていただければ幸いです。

1、絶対に押さえておくべき! 相続の手続と期限について

  1. (1)7日以内:死亡届の提出

    最初にするべきことは、死亡届の提出です。被相続人が亡くなった日を含めて7日以内に、家族や同居人等の被相続人と関係のある人が、死亡届を市区町村役場に提出しなければなりません。なお、国外で家族が亡くなった場合の提出期限は、その死亡を知った日から3か月以内となっています。

    提出先の市区町村役場は、被相続人の本籍地または死亡地、届出人の住所地のいずれかで、死亡届は、市区町村役場や病院に置いてあります。死亡診断書とセットになっているので、医師に死亡診断書を記入してもらった上で死亡届に記入してください。

    死亡届を提出すると、火葬許可証(埋葬許可証)が発行されます。この火葬許可証(埋葬許可証)がないとお葬式を行うことができないので、注意しましょう。

  2. (2)14日以内:遺言書の検認申立て(自筆証書遺言の場合)、遺言執行者選任の申立て

    被相続人が残した自筆証書遺言(手書きの遺言書)が見つかったら、すみやかに「遺言書の検認」を管轄の家庭裁判所に申立ててください。管轄の家庭裁判所は、遺言者の最後の住所地にある家庭裁判所になります。なお、公正証書遺言(公証役場で作成した遺言書)の場合は、検認手続は不要となります。

    自筆証書遺言は自宅にひっそりと保管されていることが多く、家族が亡くなって初めて遺言書の存在に気づくケースもあります。そのため、まず「遺言書の検認」手続によって相続人全員に遺言書の存在と内容を知らせる必要があるのです。

    もしこの自筆証書遺言が封印されている場合は、絶対に勝手に開封しないようにしましょう。民法第1004条に「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することができない」と定められています。これは偽造・変造を防止するためのルールであり、違反すると5万円以下の過料を科されることもありますのでくれぐれも注意しましょう。ただし、間違って開封してしまったからと言って、その人の相続権まで失われてしまうわけではありません。

    <検認申立てに必要な書類>
    • 遺言書の検認申立書(家庭裁判所やホームページで入手)
    • 被相続人・相続人全員の戸籍謄本
    • 遺言書の写し(封印されている場合は不要)
    • 遺言書1通につき収入印紙800円


    次は、「遺言執行者の選任」です。自筆証書遺言または公正証書遺言に遺言執行者(遺言の内容を実行する人)が定められていなかったり、すでに亡くなっていたりする場合には、「遺言執行者の選任」を上記と同じ家庭裁判所に申立てます。

    破産した人や後見開始した人でなければ、原則として誰でも遺言執行者になることが可能です。相続人のうちのひとりを候補者とすることもできますが、相続人間のトラブルに発展しそうなケースでは、公正な立場の弁護士を選ぶことが可能です。

    「遺言執行者選任申立書」に記載された候補者に相続人全員が賛成している場合にはその人を、争いがある場合には裁判所が「利害関係のない第三者」を選任します。

    <遺言執行者の選任申立てに必要な書類>
    • 遺言執行者選任申立書(家庭裁判所やホームページで入手)
    • 被相続人・相続人全員の戸籍謄本
    • 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票、破産手続開始決定を受けていないことを証明する書類、成年後見登記事項証明書
    • 利害関係を示す資料(親族の場合、戸籍謄本(全部事項証明書)等)
    • 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
    • 遺言書ごとに必要となる収入印紙
  3. (3)3か月以内:相続人の確定、相続財産の調査、相続放棄・限定承認・単純承認の申述

    遺産分割や相続税申告を行う前準備として、相続人の確定と相続財産の調査を行う必要があります。隠し子や離れて暮らす兄弟姉妹など、思わぬ相続人がいるかもしれません。被相続人が生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍を用意して、しっかりと確認しましょう。

    <相続人の確定に必要な書類>
    • 被相続人の生涯にわたる戸籍(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)


    相続財産の調査では、預貯金や不動産、株式といったプラスの遺産だけでなく、借金などマイナスの遺産も把握します。すべての遺産についてそのまま相続する「単純承認」を選択する場合には、特に取るべき手続はありません。

    もしマイナスの遺産が多いようであれば、相続開始から3か月以内の熟慮期間に「相続放棄」または「限定承認」を管轄の家庭裁判所に申述できます。

    「相続放棄」とは相続人がプラス・マイナスの遺産すべてについて相続権を放棄する手続、「限定承認」はプラスの遺産からマイナスの遺産を差し引いて残った分についてのみ相続を行う手続です。明らかにマイナスの遺産が上回っている場合には「相続放棄」、どちらが多いのかわからない場合は「限定承認」を申述するケースが多いようです。「相続放棄」は各相続人の意志で選択できますが、「限定承認」には相続人全員の同意を要する点には注意してください。

    熟慮期間内にこれらの手続を済ませないと、被相続人が残した莫大な負債を相続してしまうおそれがあります。

    <相続放棄に必要な書類>
    • 相続放棄の申述書
    • 被相続人の戸籍謄本、住民票除票
    • 申述人(法定代理人)の戸籍謄本
    • 申述人ひとりにつき収入印紙800円


    <限定承認に必要な書類>
    • 限定承認の申述書
    • 被相続人の戸籍謄本、住民票除票
    • 遺産目録
    • 申述人(法定代理人)の戸籍謄本
    • 申述人の人数に応じた収入印紙
  4. (4)4か月以内:遺産分割協議開始、被相続人の所得税準確定申告

    相続人間で遺産の分割方法について話し合うことを「遺産分割協議」と言います。遺産分割協議は、被相続人が遺言書の中で一定期間禁止していない限りいつでも可能です。

    民法第908条に定められている遺産分割禁止期間の上限は5年です。したがって「10年間遺産分割を禁止する」と遺言書に書かれていても、相続開始後5年を超えれば分割することができます。遺産分割協議では各相続人の利害がぶつかり合うため、もめて長引くケースも非常に多いものです。

    被相続人が自営業者で毎年確定申告をしていた場合には、遺産分割協議と並行して「所得税の準確定申告」も行わなければなりません。期限は、死亡の翌日から4か月以内です。この準確定申告は、被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得について行います。それより前の確定申告手続を被相続人が怠っていた場合には、相続人が代わりに手続をしなければなりません。

    申告先は、被相続人が生前に確定申告手続を行っていた管轄税務署です。「準確定申告の確定申告書」には、相続人全員の署名を記入する必要があります。

    <被相続人の所得税の準確定申告に必要な書類>
    • 準確定申告の確定申告書(税務署またはホームページで入手)
  5. (5)10か月以内:遺産分割協議書の作成または調停、不動産相続登記・財産名義変更、相続税の申告・納付

    「相続税の申告・納付」期限は、死亡日の翌日から10か月以内。相続税の申告手続や不動産相続登記手続には、遺産分割協議書の提出が求められます。したがって、10か月以内に遺産分割協議書の作成や不動産相続登記、財産名義変更などの手続を済ませておくべきです。

    遺産分割協議がまとまったら、合意内容を「遺産分割協議書」という形でまとめます。記載方法やフォーマットにルールはありませんが、トラブルを避けるために曖昧な表現は避けましょう。

    遺産分割協議書には、すべての相続人が署名押印(実印)をします。のちのち登記手続や相続税申告の際に、実印の押された遺産分割協議書と印鑑証明書の添付が求められるので注意してください。

    遺産分割協議が不調に終わった場合には、管轄の家庭裁判所に遺産分割調停を申立てます。ここでの申立先は、相手方のうちのひとりの住所地を管轄する家庭裁判所または相続人間で合意した家庭裁判所となります。調停では、裁判官と調停委員から成る調停委員会立会いのもと、裁判所で話し合いを行います。調停が成立したら、判決と同じ効力を持つ「調停調書」としてまとめます。調停が不調の場合は、自動的に審判手続に移行し、裁判官の判断に委ねることになります。

    <遺産分割調停の申立てに必要な書類>
    • 遺産分割調停の申立書
    • 被相続人・相続人の戸籍謄本、住民票
    • 遺産目録と遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書および固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しまたは残高証明書、有価証券写し等)
    • 収入印紙


    遺産分割協議書または調停調書の内容にしたがって不動産相続登記と財産名義変更手続をしたら、最後に「相続税の申告・納付」を行います。
    ただし、相続税の支払い義務があるのは、遺産総額が基礎控除額「3000万円+(600万円×相続人の数)」を超える場合のみとされています。ここで言う「相続人の数」には、相続放棄した人も含めて計算しますので注意が必要です。
    墓地や仏壇、生命保険金・退職金の一部など、相続税が非課税の財産もあります。相続税に関する手続はとても複雑なので、詳しくは弁護士や税理士に相談してください。

    <相続税の申告・納付に必要な書類(協議分割の場合)>
    • 相続税の申告書
    • 遺産分割協議書の写し
    • 相続人の印鑑証明書
    • 相続人の戸籍謄本

2、相続の手続は弁護士に依頼した方がいい?

相続手続には煩雑かつ厳格なルールがたくさん存在しています。もちろん、中には自力でできる作業もあります。しかし、相談に伴う膨大な手続のすべてを期限内に正しい方法で行うことは、法律の実務経験がない方にとって難易度が高く負担も大きいでしょう。

相続人間の争いやトラブルを早い段階で防ぎ、適切な相続を行うためにも、なるべく早い段階で弁護士に依頼することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所であれば、提携先の税理士を紹介して相続税の申告・納付までのワンストップ・サービスを提供しています。

3、まとめ

今回の記事では、相続手続の大まかな流れについて解説しました。大切な家族が亡くなったばかりだからこそ、精神的・肉体的な負担はとても大きいものです。悲しみや疲れから、しばらく相続手続をする気力が起こらない方もいらっしゃるでしょう。

しかし残念ながら、時間は待ってくれません。特に相続放棄・限定承認の熟慮期間を超えてしまうと、思いがけない借金を背負ってしまうことになりかねないのです。上記のステップはあくまで基礎的な知識であり、実際には各家庭の事情によってさらに複雑な手続を取ることもあります。困ったことがあれば、早めにベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています