遺産確認訴訟(遺産確認の訴え)とは|相続財産の範囲を確定させる方法

2023年01月19日
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遺産確認訴訟(遺産確認の訴え)とは|相続財産の範囲を確定させる方法

被相続人が死亡した場合には、被相続人の遺産を相続人で分けることになります。被相続人名義の財産であれば相続財産に含まれることは明白ですが、第三者名義の財産であっても実質的にみれば被相続人の財産に含まれるという場合もあります。

このように相続財産の範囲に争いがある場合、相続財産の範囲を確定させなければ遺産分割手続きを進めていくことができません。そのため、遺産確認訴訟(遺産確認の訴え)によって、相続財産の範囲を確定させていきます。

今回は、遺産確認訴訟の概要とその流れについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、遺産確認訴訟(遺産確認の訴え)とは

遺産確認訴訟とは、どのようなものなのでしょうか。以下では、遺産確認訴訟の概要とその具体例について説明します。

  1. (1)遺産確認訴訟の概要

    遺産確認訴訟とは、遺産分割の前提となる相続財産の範囲に争いがある場合に、それを確定させるために行う訴訟のことをいいます

    遺産分割は、相続人によって被相続人の相続財産を分ける手続きです。そのため、遺産分割の前提となる相続財産の範囲に争いがある場合には、どの財産を分ければよいかわからず、遺産分割の手続きを進めることができません。どの範囲の財産が、相続財産のなかに含まれるのかによって、各相続人の取り分も大きく異なってきますので、相続財産の範囲を確定させるということは非常に重要な問題となります。

    遺産確認訴訟によって、相続財産の範囲が確定すれば、それと矛盾する判断はできなくなります。ゆえに、後々の遺産分割協議、調停、審判において相続財産の範囲でもめるという事態を回避することになるのです。

  2. (2)遺産確認訴訟が必要になるケース

    遺産確認訴訟が必要になるケースとしては、以下のケースが挙げられます。

    1. ① 相続財産の範囲に争いがあるケース
      遺産確認訴訟は、主に相続財産の範囲に争いがあるケースで利用されます
      たとえば、被相続人の死亡直後、被相続人名義の、不動産の名義変更が行われたケースや被相続人が子ども名義の預貯金口座を開設して積み立てをしていたケースが挙げられます。

      相続開始後における不動産の名義変更については、被相続人の生前に売買や贈与がなされたため、名義変更が行われた場合もありますが、相続人としては本当にそのような事情があったのかがわかりません。そのため、それを確定させるために遺産確認訴訟を提起することになるのです。

      また、子ども名義の預貯金口座は、いわゆる「名義預金」の問題です。名義預金が誰の財産であるかは、さまざまな事情を考慮して判断することになりますので、相続人同士の話し合いで確定することができない場合には、遺産確認訴訟を提起して、解決を図ることになります。

    2. ② 相続財産がどのくらいあるのかが不明であるケース
      被相続人と同居をしていた相続人に対して、被相続人の遺産の開示を求めたところ、生前に被相続人から聞いていた遺産よりも少なかったというケースもあります。

      このように、相続人の一部が遺産を隠している疑いがある場合や、開示された遺産以外にも財産があるはずだと考えられる場合には、遺産確認訴訟を提起して相続財産の全容を明らかにしていきます

2、そもそも相続範囲はどのように決めるのか

相続財産の範囲に争いがある場合には、どのように決めることになるのでしょうか。

  1. (1)相続財産の範囲の決め方

    相続財産の範囲については、以下のような方法で決めることになります。

    1. ① 遺産分割協議
      相続財産の範囲に争いがある場合には、相続人全員による話し合いである遺産分割協議によって相続財産の範囲を確定させることが可能です。しかし、相続財産の範囲に争いがあるということは、相続人同士で相続財産の範囲に関する認識が異なっており、対立が生じている状態となりますので、話し合いで解決することは難しい場合が多いといえるでしょう。

    2. ② 遺産分割調停
      遺産分割協議によって相続財産に関する争いが解決できない場合には、家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てます。遺産分割調停は、家庭裁判所の調停委員が当事者の間に入って話し合いを進めてくれますので、当事者同士では感情的になってしまうような場合でも冷静に話し合いを進めることができます。

      ただし、遺産分割調停も基本的には話し合いの手続きとなりますので、相続人全員の合意がない限りは、相続財産の範囲を確定できません

    3. ③ 遺産分割審判
      遺産分割審判において裁判官に判断してもらうという方法もあります。しかし、遺産分割審判には、相続財産の範囲についての判断に拘束力が生じないとされていますので、遺産分割審判では相続財産の範囲を確定させる効力はありません

      そのため、実務上は、相続財産の範囲に争いがある場合には、遺産確認訴訟による解決を促されるのが一般的です。

    4. ④ 遺産確認訴訟
      相続財産の範囲に争いがあり、当事者の話し合い(遺産分割協議、遺産分割調停)によって解決することができない場合には、遺産確認訴訟を提起します。

      遺産確認訴訟の判決には、法的拘束力が生じますので、その後、遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判をする場合には、遺産確認訴訟によって判断された相続財産の範囲を前提として手続きを進めていかなければなりません
  2. (2)遺産分割訴訟によって相続財産の範囲を確定させることもできる

    遺産分割に関する問題については、遺産分割調停・遺産分割審判によって解決することになりますが、遺産分割の前提問題に関して争いがある場合には、遺産分割訴訟によって相続財産の範囲を確定させることもできます。

    遺産分割訴訟には、所有権確認訴訟と共有持分権確認訴訟の2つがあります。所有権確認訴訟では、ある財産が誰の所有物であるかを確定することができ、共有持分確認訴訟では、ある財産が共有者の共有物であることを確定することができます。

    遺産確認訴訟では、遺産の範囲に含まれるかどうかを確定させるにとどまりますが、遺産分割訴訟では、さらに踏み込んで誰の所有物・共有物であるかについてまで判断が可能です

3、遺産確認訴訟を提起する手順(流れ・書類・費用)

遺産確認訴訟を提起する場合には、以下のような手順で進めていきます。

  1. (1)訴訟提起

    遺産確認訴訟を提起する場合には、裁判所に「訴状」という書類を提出します。また、訴状に記載した主張を裏付ける証拠がある場合には、それも一緒に提出します。

    訴訟提起をするためには、裁判所に納める印紙と訴状の送達などで使う郵便切手が必要です。印紙の金額は、訴訟の対象となる金額によって変わってきますが、遺産確認訴訟の場合には、争いとなっている財産の価額のうち原告の法定相続分相当額が基準となります。

  2. (2)被告への訴状の送達

    遺産確認訴訟は、共同相続人全員が当事者になる必要があります。したがって、遺産の範囲を争っている相続人だけではなく、すべての相続人を被告(または原告)に加える必要があります。
    裁判所から訴状の送達を受けた被告は、「答弁書」という書類を作成して、期限までに裁判所に提出しなければなりません。

  3. (3)第1回口頭弁論期日

    第1回口頭弁論期日では、原告が提出した訴状および被告が提出した答弁書の陳述が行われます。陳述といっても訴状や答弁書を読み上げるわけではなく、裁判官からの、「陳述でよろしいですか?」という問いに対して「はい」と答えるだけで足ります。

    通常は、第1回口頭弁論期日で争いが解決するということはありませんので、第2回の期日の日程が決められて、第1回口頭弁論期日は終了します。

  4. (4)第2回以降の期日

    第2回以降の期日でも、原告および被告から主張反論が繰り返されていきます。主張や反論がある当事者は、「準備書面」という書類を作成して裁判所に提出し、それを裏付ける証拠がある場合には証拠も一緒に提出します。

    当事者の主張が出そろうまで、主張反論が繰り返されていきますので、複雑な事案については、1年以上を要することもあります。

  5. (5)和解

    当事者の主張が出そろった段階で、裁判所から和解の勧告がなされることがあります。裁判所から提示された和解案について双方が検討し、それを受け入れる場合には、その時点で訴訟が終了となります

  6. (6)判決

    和解が成立しない場合には、その後も期日が続行し、最終的には、裁判官が判決により相続財産の範囲についての判断を下します。判決内容に不服がある場合には、2週間以内に控訴という不服申し立てをすることができます。

4、相続財産の範囲でトラブルになった場合の相談先

相続財産の範囲でトラブルになった場合には、司法書士にも相談をすることができますが、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)遺産確認訴訟は弁護士でなければ対応できない

    相続財産の範囲に争いがある場合には、遺産確認訴訟を提起して、相続財産の範囲を確定させることになります。しかし、遺産確認訴訟は、訴訟手続きに関する専門的な知識と経験がなければ適切に対処することが難しく、相続人個人では対応が困難といえます。

    そこで、専門家への依頼を検討することになりますが、司法書士には、地方裁判所が管轄となる遺産確認訴訟についての代理権がないため、司法書士では対応することができません。そのため、相続財産の範囲に争いがあり、専門家への依頼を検討されている方は、弁護士に相談をするようにしましょう

  2. (2)弁護士のほうが対応できる業務が多い

    相続が開始した場合には、相続人調査、相続財産調査、遺産分割協議などの手続きを進めていかなければなりません。遺産相続においては、相続人同士の利害が対立するため、トラブルが生じることも少なくありません。

    遺産相続に関してトラブルが生じた場合には、司法書士では代理人として交渉をすることができませんので、より幅広い業務に対応できる弁護士に相談・依頼をしたほうが安心です。

5、まとめ

相続財産の範囲に争いがある場合には、遺産分割手続きを進めていくことができませんので、相続人同士の話し合いで解決をするか、難しい場合には遺産確認訴訟を提起する必要があります。

遺産確認訴訟で相続財産の範囲が確定できたとしても、それで終わりというわけではなく、その後は相続人同士で遺産分割を進めていかなければなりません。遺産分割においてもトラブルが生じる可能性がありますので、相続開始後は、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。

遺産相続でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています