遺産がいらない場合、どうすればいい? 対応方法や注意点を解説
- 相続放棄・限定承認
- 遺産
- いらない
令和3年の宇都宮市の出生者数は3752名、死亡者数は5173名でした。
法定相続人の方が「亡くなった家族の遺産はいらない」と考えている場合には、相続放棄や相続分の譲渡に放棄などの選択肢をとることができます。それぞれ手続きは法律的な性質が異なりますので、弁護士のアドバイスを受けたうえで、適切な手続きを選択することが大切です。
本コラムでは、遺産がいらない場合の対応の選択肢や注意点について、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、遺産がいらない場合における対応の選択肢
亡くなった家族の遺産がいらない場合、以下のいずれかの対応をとることが考えられます。
- ① 相続放棄
- ② 相続分の譲渡・放棄
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(1)相続放棄
相続放棄とは「亡くなった被相続人の遺産を一切相続しない」という意思を表示することです。
相続放棄をした者は、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法第939条)。したがって、相続放棄をした場合は遺産を一切相続せずに済むほか、遺産分割協議への参加も不要となります。
相続放棄は、家庭裁判所に申述書や添付書類を提出して行います。 -
(2)相続分の譲渡・放棄
相続人が有する相続分は、譲渡および放棄が認められるとされています。
相続分の譲渡とは、相続分を第三者に譲り渡すことをいいます(有償・無償を問いません)。
第三者に対して相続分の譲渡が行われた場合、他の共同相続人は譲渡から1か月以内に限り、その価額および費用を償還して、当該相続分を譲り受けることが可能です(民法第905条)。
相続分の放棄とは「相続人として遺産を取得する権利を放棄する」という意思を表示することです。
相続放棄に似ていると思われるかもしれませんが、後述するように、法律上の性質は全く異なります。
2、相続放棄と相続分の放棄の違い
「相続放棄」と「相続分の放棄」は、いずれも被相続人の遺産を相続しないという意思表示ですが、以下のような点において法律上の取り扱いが異なります。
相続放棄:家庭裁判所への申述
相続分の放棄:遺産分割協議書への署名押印等
② 期限
相続放棄:原則3か月以内
相続分の放棄:遺産分割の完了時まで
③ 撤回
相続放棄:原則撤回不可
相続分の放棄:遺産分割の完了等までは撤回可能
④ 債務の相続
相続放棄:一切相続しない
相続分の放棄:相続する
⑤ 後順位相続人への相続権の移動
相続放棄:移動する
相続分の放棄:移動しない
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(1)手続き|家庭裁判所への申述or遺産分割協議書への署名押印等
相続放棄は、家庭裁判所に申述書を提出して行うことが、法律で定められています(民法第938条)。それ以外の方法による相続放棄は認められません。
これに対して相続分の放棄は、手続きがとくに法律で定められているわけではありません。そのため、自由な方法で行うことができます。
一般的には、「遺産を全く相続しない」という内容の遺産分割協議書に、他の相続人全員と一緒に署名や押印をする方法、または、相続分の放棄を表明する書面に署名と押印をする方法がとられます。 -
(2)期限|原則3か月以内or遺産分割の完了時まで
原則として、相続放棄の期限は「自己のために相続が発生したことを知った時点」から3か月以内です(民法第915条第1項)。
期限が過ぎても相続放棄が認められる場合はありますが、家庭裁判所に理由を説明する必要があります。
一方で、相続分の放棄には、とくに期限が定められていません。
ただし、相続分の放棄とは遺産分割に関する意思表示であるため、遺産分割の完了時が実質的な期限となります。 -
(3)撤回|原則撤回不可or遺産分割の完了等までは撤回可能
相続放棄は、家庭裁判所に申述書を提出した場合、錯誤・詐欺・強迫に当たる場合(民法第95条、第96条)などを除いて撤回できません。
これに対して、相続分の放棄は、遺産分割協議書への調印などを行うまでは撤回することができます。 -
(4)債務の相続|一切相続しないor相続する
相続放棄をすると、被相続人が生前負っていた債務も相続せずに済みます。
これに対して、相続分の放棄をしても、被相続人が生前負っていた債務のうち、可分債務(金銭債務など)については相続を免れません。
被相続人の可分債務は、法定相続分によって当然分割されると解されているためです(最高裁昭和34年6月19日判決)。
したがって、被相続人の債権者から債務の履行を請求されれば、法定相続分に応じて支払う義務を負います。
被相続人の借金などの相続を回避したい場合には、相続分の放棄ではなく、相続放棄を選択しましょう。 -
(5)後順位相続人への相続権の移動|移動するor移動しない
相続放棄をしたことによって同順位の相続人がいなくなった場合、後順位相続人へ相続権が移動します。
(例)
被相続人の子全員が相続放棄をしたことにより、被相続人の兄弟姉妹に相続権が移動する
これに対して、相続分の放棄によっては、後順位相続人への相続権の移動は発生しません。
(例)
被相続人の子全員が相続分を放棄し、被相続人の配偶者にすべての遺産を相続させることに同意しても、被相続人の兄弟姉妹に相続権は移動しない
後順位相続人に相続権が移動することにより、複雑な相続トラブルが発生するリスクがある場合には、相続放棄を避けて相続分の放棄を選択することも検討してみましょう。
3、遺産を相続しない場合の注意点
亡くなった家族の遺産を相続しない決断をする場合には、以下の各点に注意してください。
- ① 本当に遺産はいらないのかどうか、よく検討する
- ② 相続放棄は期限に要注意|手続き選択は慎重かつ早めに
- ③ 相続放棄をする場合は「法定単純承認」にも注意
-
(1)本当に遺産はいらないのかどうか、よく検討する
相続放棄は原則として撤回できません。
また、相続分の放棄も、遺産分割協議書への調印等を行った後からは原則として撤回することができなくなります。
後から「遺産を相続したい」と思い直して後悔することがないように、本当に遺産はいらないのかどうか、よく検討してから手続きを行いましょう。
ご自身が把握していない遺産が存在する可能性もありますので、弁護士に調査を依頼することをおすすめします。 -
(2)相続放棄は期限に要注意|手続き選択は慎重かつ早めに
原則として、相続放棄は、自己のために相続が開始したことを知った時点から3か月以内に行わなければなりません(民法第915条第1項)。
したがって、相続放棄を行う場合には、必要書類の準備などを迅速に進める必要があります。
相続放棄と相続分の放棄のどちらを選択するかについても、相続放棄の期限に間に合うように判断しなければなりません。
被相続人の債務の有無や、後順位相続人に相続権が移動することの影響などを慎重に考慮したうえで、速やかに調査や準備を行いましょう。 -
(3)相続放棄をする場合は「法定単純承認」にも注意
相続放棄をするに当たっては、「法定単純承認」が成立しないように注意する必要があります。
法定単純承認が成立すると、相続放棄が認められず、またはその効力が失効してしまうためです。
法定単純承認が成立するのは、以下の場合です(民法第921条各号)。- ① 相続人が、相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為と短期賃貸借を除く)
- ② 自己のために相続が開始したことを知った時点から3か月以内に、限定承認または相続放棄をしなかったとき
- ③ 限定承認または相続放棄をした後であっても、相続財産の全部または一部について以下の行為をしたとき(相続権を取得した後順位相続人が、すでに相続を承認した場合を除く)
- 隠匿
- 私的な消費
- 悪意による相続財産目録への不記載
葬儀費用を相続財産から支出した場合などにも、法定単純承認が成立する可能性があります。
法定単純承認の落とし穴は思わぬところに存在するため、弁護士にアドバイスを求めたうで、慎重に対応してください。
4、遺産相続に関するお悩みは弁護士にご相談を
ご自身が遺産を相続するかしないかにかかわらず、遺産相続については法律上の注意点がたくさん存在します。
トラブルなく円滑に相続手続きを完了するためには、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、相続手続きをスムーズに完了するため、相続人の方をさまざまな観点からサポートいたします。
また、遺産分割協議の仲介や相続放棄の手続きに加えて、遺言書等による生前の相続対策についても弁護士は対応できます。
遺産相続についてのお悩みをお持ちの方は、お早めに、弁護士に連絡してください。
5、まとめ
亡くなった被相続人の遺産がいらない場合は、相続放棄や、相続分の譲渡・放棄などの対応を検討しましょう。
とくに相続放棄には期限があるほか、法定単純承認が成立しないように注意して行動する必要があります。
トラブルなくスムーズに相続手続きを完了するためには、早い段階で弁護士に相談することが重要です。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。
グループ内の税理士や司法書士との連携により、相続税申告や相続登記などについてもワンストップでサポートいたします。
遺産相続に関してお悩みやご不明点がありましたら、まずは、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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