おしどり贈与(配偶者控除)とは? 生前対策にも有効って本当?
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相続は、すべての人が避けて通れない手続きです。司法統計によると、平成29年度中に宇都宮地方裁判所で取り扱われた家事審判や調停のうち「相続の放棄の申述の受理」は3141件、「相続財産管理人選任等(相続人不分明)」は253件、「遺言書の検認」は222件です。
相続は、いつ“そのとき”がやってくるのか予想できないもの。そのため、元気なうちに日頃からしっかりと対策しておくことが大切です。
相続についての法律は、2018年7月、40年ぶりに大きな改正がなされました。それにより今年から来年にかけてさまざまな新制度が施行されています。
「贈与税の配偶者控除」が遺産分割の対象外になったことも、そのひとつ。「贈与税の配偶者控除」とは、結婚生活が20年を超える「おしどり夫婦」の間で自宅を生前贈与・遺贈しやすくする制度で、“おしどり贈与”の通称があります。「おしどり贈与」にもさまざまな条件・注意点があります。
今回は、宇都宮オフィスの弁護士が新制度「おしどり贈与」の概要について解説します。
1、おしどり贈与(配偶者控除)とは?
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(1)結婚20年以上の夫婦間で自宅を贈与するための制度
おしどり贈与(配偶者控除)とは、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与した場合、最高2110万円までであれば贈与税がかからない制度です。2019年7月1日からは、相続財産にカウントされなくなりました。この「贈与」には、生前贈与と遺贈の両方の場合が含まれます。
原則として、被相続人から相続開始3年以内に生前贈与を受けた相続人がいる場合、その生前贈与分を遺産にプラスして遺産分割協議を行います。この手続きを「遺産への持戻し」と言います。生前贈与したものを遺産へ持戻しをするのは、相続人間の公平を図るためです。
しかし、多くの人にとって居住用不動産というのは、換金可能な財産である以上にかけがえのない生活拠点です。特に配偶者にとっては、亡くなった被相続人との思い出が詰まった大切な自宅は金銭価値に関係なく手放したくないものでしょう。
そして、もし配偶者が自宅を遺産として相続した場合、他の遺産……たとえば預貯金・株式などの取り分が他の相続人との関係で少なくなることがあります。何とか自宅は手に入れたけれど、被相続人亡き後の生活資金が足りない、ということも起こりうるのです。
このような実態を踏まえて、「おしどり贈与」制度が創設されました。 -
(2)同じく民法改正で創設された「配偶者居住権」との違いは?
被相続人亡き後も配偶者の住まいを確保するための制度としては、同じく民法改正で創設された「配偶者居住権」があります。「配偶者居住権」は、2020年4月1日からの施行となっています。
この制度は、自宅の「負担付所有権」と「居住権」を分けて遺産として計算するのが特徴です。たとえば自宅の価格が2000万円だったとして、1000万円相当の「居住権」だけを遺産として取得すれば、その分別の遺産を多く受け取ることができます(この場合、別の相続人が負担付所有権を相続することになります)。
住む場所を確保しつつ、預貯金など他の遺産をたくさんもらって老後の生活を安定させることができる、というのがこの制度の趣旨です。
2、おしどり贈与(配偶者控除)が適用される条件
おしどり贈与では、夫婦間で贈与する居住用不動産または取得資金が2000万円まで非課税となります。さらに、暦年贈与の基礎控除(110万円)も適用されるので、合計2110万円まで非課税ということになるのです。
相続開始前3年以内の生前贈与でも、相続財産にカウントされないのがメリットです。
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(1)夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
婚姻届を提出した日から計算します。なお内縁関係の男女は、含まれません。同じ配偶者との間では、一生に一度しか配偶者控除を適用することができませんので注意が必要です。
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(2)居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭であること
配偶者から贈与された財産が、 居住用不動産であることまたは居住用不動産を取得するための金銭であることが必要です。この居住用不動産は、日本国内にあるもののみが対象となっています。また居住用のみが対象なので、投資用・事業用・賃貸用などの不動産には適用できません。
自営業を営んでいる方の場合、自宅の一角がお店になっていることもあるでしょう。その場合、居住している部分が建物全体の90%以上であれば、建物全体を居住用不動産として計算することができます。90%以下の場合は、居住用部分のみに配偶者控除が適用されます。
贈与された金銭を使って居住用不動産と同時に他の財産を購入した場合は、全額を居住用不動産の取得に当てたものとして処理できます。 -
(3)贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであることが必要です。
居住用不動産が土地である場合、その上に建っている住宅の所有者は、贈与を受けた配偶者か、その人と同居する親族であることが条件となっています。
「その後も引き続き住む見込み」は、あくまで贈与時点での見込みが客観的に照明できれば大丈夫だとされています。不測の事態が発生して住めなくなったとしても、後から配偶者控除が取り消されることはまずないということです。
万が一「おしどり贈与」を受けた年に贈与を受けた配偶者が亡くなった場合、「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」に相続人が贈与税の申告をすれば、配偶者控除を適用できます。
3、おしどり贈与(配偶者控除)の手続
贈与税の配偶者控除を受けるためには、贈与税申告の際に以下の書類を提出しなければなりません。贈与税申告の期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までとなっています。
万が一、配偶者控除を知らないまま贈与税申告をしてしまった場合でも、6年以内であれば更正できます。
- 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本または抄本
- 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
- 居住用不動産の登記事項証明書その他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの
- 住宅の贈与を受けた場合は、その住宅を評価するための書類(固定資産評価証明書など)
4、おしどり贈与(配偶者控除)の注意点について
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(1)内縁夫婦には適用されない
贈与者と被贈与者が婚姻関係にあることが条件です。
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(2)同一配偶者間では、一度だけしか使用できない
もし再婚すれば、条件さえ満たせば新しい配偶者との間でも利用できるということになります。
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(3)登録免許税・不動産取得税は課税される
前述のとおり、贈与された居住用不動産またはその取得資金が2110万円までは贈与税も相続税も課税されません。
しかしこの場合であっても、登録免許税・不動産取得税は課税されます。
登録免許税は、生前贈与の場合は固定資産税評価額について1000分の20、相続・遺贈の場合は1000分の4となっています。一方、不動産取得税は、生前贈与の場合は固定資産税評価額の1.5%ですが、相続なら課税されません。
税金面だけ見てみると、必ずしも「おしどり贈与」がお得になるとは言えませんので注意が必要です。 -
(4)相続開始3年以内の贈与にも適用可能
前述のとおり、相続開始3年以内の生前贈与にも適用できます。「おしどり贈与」で生前贈与された居住用不動産は、遺産分割の対象から外すことができます。
したがって、受贈配偶者は、居住用不動産以外の遺産を法定相続分に応じて受け取ることが可能となります。 -
(5)生前贈与は「贈与者が先に亡くなる可能性」もある
生前贈与で居住用不動産を配偶者名義にした場合、贈与を受けた配偶者の方が思いがけず先に亡くなってしまうケースもあるでしょう。その場合は「受贈者の遺産」として扱われるため、相続税を支払わなければならなくなる可能性があります。
5、おしどり贈与(配偶者控除)は生前対策として有効?
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(1)「配偶者に対する相続税額の軽減措置」との比較
配偶者に対する課税軽減措置は、相続にもあります。
相続税の配偶者控除は、「1億6000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のうちの大きい金額です。この範囲内に収まるのであれば、非課税で自宅を配偶者に遺すことができます。
前述のとおり、登録免許税や不動産取得税の税率も贈与より相続の方が低いため、「おしどり贈与」の申請は税理士と相談しつつ慎重に判断してください。 -
(2)相続税の「小規模宅地等の特例」との比較
相続で小規模宅地を取得する場合、一定の条件を満たせば「土地の評価額を最大80%減額」して相続税を抑えることができます。この制度を「小規模宅地等の特例」と言います。
一定の条件を満たした「特定居住用宅地」の場合、限度面積330平方メートル未満であれば評価額を20%にまで下げられるので、節税効果はかなりのものです。
しかし、「おしどり贈与」を利用すると、この「小規模宅地等の特例」の恩恵を受けることができなくなります。 -
(3)自分が生きている間に確実に自宅を渡せる安心感
節税面だけに着目するとあまりメリットがないように見えるかもしれません。
しかし、自分が生きている間に確実に配偶者に自宅を渡してあげられるという安心感が「おしどり贈与」にはあります。自宅が配偶者名義に書き換わったことをしっかりと見届けられることが、最大のメリットと言えるかもしれません。
そして前述のとおり、「相続財産への持戻し」がされないのもメリットです。配偶者は住む場所をしっかり確保しつつ、他の遺産を受け取ることができます。
その他、自宅の敷地が広すぎて「小規模宅地等の特例」の基準を超えている場合、莫大な相続税がかかりそうな場合などにも「おしどり贈与」が有効になるでしょう。
6、まとめ
「おしどり贈与」は一見とてもお得な制度に見えますが、実はケース・バイ・ケースです。人によっては、逆に税負担が大きくなることもあります。ご自分がどの制度を利用するべきか迷ったら、まずは弁護士や税理士に相談してみましょう。
ベリーベスト法律事務所なら、弁護士だけでなく税理士も多数在籍しています。相続に関する税務・法務サービスをワンストップで提供しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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