相続税対策で押さえておきたい3つの方法について弁護士が解説

2020年08月05日
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相続税対策で押さえておきたい3つの方法について弁護士が解説

国立社会保障・人口問題研究所の公表によると、宇都宮市の将来推計人口として2010年では65歳以上の方の割合が19.9%であるのに対して、2040年には34.5%に上昇すると見込まれています。

高齢者が増え続ける日本において、相続は決してひとごとではありません。一方で相続税対策をどのように行っていけばよいか、まず何から始めたらよいか、お悩みの方も多いのではないでしょうか。

そこで本コラムでは、相続税対策で知っておきたい3つの方法について、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、相続税対策の主な考え方

相続税対策は主に、「生前贈与による対策」、「不動産を活用した対策」、「生命保険を活用した対策」の3つに分けられます。
まずはどのような相続税対策があるのかを知ることで、ご自身の資産状況を把握することにもつながります。

もっとも、相続税対策はご家族の幸せを考えたうえで行うことが非常に重要となります。節税を一番に考えて相続対策を行ってしまうと、税制改正が行われた際にリスクを被る可能性があるためです。そのため、相続トラブルを防ぐことを重要事項と考えたうえで、併せて相続税対策を行っていただくとよいでしょう。

2、生前贈与を行い、相続財産を減らしていく

相続税対策のひとつに、生前贈与があります。
生前贈与とは、被相続人が生前に子どもや孫などへ財産を贈与することです。法律では、生前贈与という言葉はなく、一般的には上記のような解釈で使用されています。

生前贈与を行うことにより、課税対象となる財産が減り、生前贈与を行わない場合よりも相続税を減らすことができます。
ただし、贈与税の基礎控除額110万円を越える部分については、課税されます。贈与税の税率は、贈与する財産の額が大きくなると加速度的に高くなっていきます。逆に、少額の財産を贈与するのであれば、場合によっては相続税によって支払う税額よりも少額になることもあります。ですので、生前贈与は一度にするのではなく、分散して行うことが原則になります。

では、生前贈与にはどのような種類があるのか見ていきましょう。

  1. (1)生活費の贈与

    家族を養うための生活費や、子どもなどを学校に通わせるための教育費は贈与税の対象外です。ただし生活費・教育費以外の目的で使った金額や、贈与された年に使いきれなかった金額については課税対象となります。
    生活費・教育費の対象範囲は、ご自身が養う責任のある扶養家族のみです。生活費は食費や住居費だけでなく、子どもの結婚費用や出産費用を含み、また教育費に関しては、学費だけでなく下宿などでの生活費も含みます。

  2. (2)暦年贈与

    先ほど述べたように、年間110万円までの贈与は、非課税となります。
    暦年(1月1日~12月31日)ごとに贈与する場合は、贈与された人1人あたり年間110万円まで非課税です。
    ただし、非課税の上限に近い金額を毎年のように贈与した場合、非課税となる贈与契約ではなく課税対象となる定期金給付契約とみなされ、税務署の指摘を受ける場合があります。定期金給付契約とみなされた場合、贈与税が発生するため注意が必要です。

  3. (3)相続時精算課税制度

    平成15年1月1日から令和3年12月31日までの間に、住宅取得のための金銭の贈与を受けた場合、一定の要件を充足すると相続時精算課税制度の適用を受けることができます。この制度は、贈与を受けた時点で、特別控除額2500万円および一定の税率で贈与税を計算し、贈与者がなくなったときに相続税で精算するというものです。贈与者が存命中に財産を少しずつ譲渡していくことを促進する制度です。

    相続税の支払額に対し、すでに贈与税として支払った金額を差し引いて納税額を算出することになります。

    この制度を選択しようとする場合は、贈与税の申告期間内に相続時精算課税選択届出書を贈与税の申告書に添付して所轄税務署に提出する必要があります。

    60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子どもまたは孫に対して、財産を贈与した場合に選択できる制度で、一時的に2500万円まで非課税となります。控除した残りの金額に対して20%の税率を掛けた金額が贈与税となります。

    贈与する者ごとにこの制度を利用することができますが、一度この制度を利用すると、同じ贈与者からの贈与では暦年課税を選択することができなくなる点については、注意が必要です。

  4. (4)教育資金の一括贈与

    平成25年4月1日から令和3年3月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から30歳未満の子や孫などが教育資金の一括贈与を受けた場合、1500万円まで非課税になります。教育にかかる資金のため、教育費以外の利用は課税対象となります。また、贈与を受けた子や孫の前年度所得が1000万円を越える場合は、非課税制度の対象外となってしまいます。
    また、非課税の適用を受けるためには、金融機関に開設した「教育資金口座」で資金を管理する必要があり、資金を引き出した場合は教育費であることを証明するための領収書を金融機関に提出しなければなりません。さらに、金融機関を通じて「教育資金非課税申告書」を所轄税務署長に提出する必要があります。

  5. (5)結婚・子育て資金の一括贈与

    父母や祖父母から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合は、1000万円まで非課税になります。
    こちらも教育資金の一括贈与同様に、金融機関に開設した「結婚・子育て資金口座」で資金を管理する必要があります。同様に「結婚・子育て資金非課税申告書」を金融機関を通じて所轄税務署長に提出する必要があります。
    同様に、預金引き出しの際には結婚・子育て費用として利用したことを証明する領収書を金融機関に提出しなければなりません。

  6. (6)おしどり贈与(配偶者贈与と配偶者特別控除)

    夫婦の間で居住用の不動産を贈与した場合、2000万円まで非課税となります。これを贈与税の配偶者控除と言います。
    贈与税の配偶者控除は婚姻期間が20年以上ある夫婦の間で適用となります。仮に税額が0円でも贈与税の申告が必要となりますので忘れずに申告を行います。
    この配偶者控除は、同じ配偶者間において一生に1度しか受けられませんので注意しましょう。
    上記の贈与とは別に、法定相続相当額または1億6000万円のどちらか多い金額が配偶者控除の対象です。ただし、実際に遺産分割で配偶者に財産が帰属している必要がありますので、その点は注意が必要です。

  7. (7)住宅取得資金等の贈与

    平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属によって住宅購入資金の贈与を受けた場合、一定額が非課税になります。非課税の範囲は住宅の種類や、受贈者が最初に非課税の特例の適用を受けようとする契約締結日によって変わります。
    この制度は、住宅取得等資金と相続時精算課税選択の特例の適用を受けることができ、両制度を重複して適用を受けることもできます。

  8. (8)特定障がい者に対する贈与

    特別障がい者である特定障がい者に対する贈与税の非課税として、信託受益権の価格のうち最大6000万円まで非課税となります。
    特定障がい者とは、特別障がい者(身体障がい者手帳1級、2級の方、精神障がい者保険福祉手帳1級の方、重度の知的障がい者と判定された方)および障がい者のうち精神に障がいのある方を指します。特別障がい者以外の特定障がい者への贈与は3000万円までが非課税です。
    こちらの制度を活用する場合は、信託会社などと「特別障がい者扶養信託契約」を締結している必要があります。
    障がい者に対する贈与税の優遇措置は多岐にわたっていますので、より詳細な制度内容を知りたい方は、専門家に相談されるとよいでしょう。

3、生命保険を活用し、控除額を大きくする

生命保険は被保険者の病気やケガ、死亡などに備えて加入しますが、被保険者が死亡した場合に出る死亡保険金は相続税の課税対象です。
ただし死亡保険金には非課税枠が設けられており、その枠内であれば課税されません。

  1. (1)死亡保険金の非課税枠

    生命保険の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」で計算できます。
    相続放棄をした人がいても、人数に入れて数えます。なお、相続人以外の人が取得した保険金は非課税の対象から外れます。

    ●死亡保険金が3000万円の場合
    妻と子ども2人なら、500万円×3(人)が非課税枠となりますので、3000万円-1500万円=1500万円が非課税となり、残りの1500万円が課税対象です。
    非課税となる金額内で保険を契約しておけば、死亡した場合の死亡保険金を受け取れます。これによって相続税の節税ができるというわけです。

    保険の加入時期は早ければ早いほどよいのでしょう。理由としては、被保険者が年齢を重ねるほど保険料が高額になるからです。
    すでに80歳を超えていたり、健康上の理由で生命保険に加入できなかったりする場合は、被保険者が子ども(相続人)で契約者を被相続人とした保険契約にしておく方法もあります。

4、不動産や特例の活用で相続財産の価値を下げる

不動産は資産としては換金性が他の財産と比較すると低いというマイナス面がありますが、不動産の相続税評価額(路線価)が実勢価格よりも約20%程度低くなるというプラスの面があります。さらに不動産が賃貸用の建物である場合や小規模宅地の特例が適用される場合、一定割合で相続税評価額を減額でき、相続税額も減額できます。

不動産を活用して相続税対策を行う際は、相続時精算課税制度や小規模宅地等の特例、地積規模の大きな宅地の評価、住宅取得資金贈与などの制度を利用し、相続財産である不動産の価値を相対的に下げ、課税額を少なくすると、より効果的な節税対策になり得ます。

  1. (1)小規模宅地の特例について

    小規模宅地の特例とは、被相続人が利用していた自宅や店舗などを取得する場合、一定の面積までは相続税を一定割合で減額する特例です。

    この特例は、居住用の住宅が課税対象となり相続税が支払えず、残された家族が生活するための資産を失うという、最悪の事態を避けるためのものでもあります。
    ただし、適用される面積の上限は、もともと居住用の物件だった場合、敷地面積330平方メートルまでが対象で、相続税の減額割合は80%です。
    また、相続財産である不動産の取得者ごとに、細かい要件が定められています。詳細は専門家に相談して、特例の適用要件を充足しているかを確認しましょう。

5、まとめ

相続税対策として、「生前贈与による対策」、「不動産を活用した対策」、「生命保険を活用した対策」の3つの方法をご紹介いたしました。

相続税対策を正しく行うために、まずは被相続人の保有財産、債務を集計して課税遺産総額を割り出しましょう。
その後、複数ある相続税対策の中からふさわしいものを選びだすとスムーズです。
ただし相続税対策は正しく行わないと、のちのち税務署から指摘を受けてせっかくの相続税対策も水の泡となってしまう可能性があります。可能であれば弁護士や税理士などの専門家に一度相談されるとよいでしょう。

また、税制上の優遇措置は、頻繁に制度設計が変わる税務政策です。期間制限が設定されることも多く、期間が経過しても延長することもあれば、別の制度を制定して、終了してしまうこともあります。社会情勢によって変動する頻度が多い政策ですので、現在利用できる制度がどのようなものかを、専門家を通じて情報収集をしましょう。

相続税対策でご不安のある方は、まずはベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスまでお気軽にお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています