不能犯はどのような犯罪? 宇都宮オフィスの弁護士が解説

2019年11月13日
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不能犯はどのような犯罪? 宇都宮オフィスの弁護士が解説

平成30年2月に「不能犯」というタイトルの映画が公開され、話題になりました。主人公が直接は手を下さない殺人事件がテーマのサイコスリラーマンガが原作の映画で、宇都宮市内の映画館でも多くの観客を動員しました。

この映画作品を通じて「不能犯」という用語を知った方も多いかもしれません。実のところ不能犯とは、過去に裁判でも争ってきた事実がある、れっきとした「法学的な考え方」のひとつです。

不能犯は「犯罪行為をしようとしたが、その行為からは意図した結果がそもそも生じない」という点に特徴があります。なお、同じように結果が生じなかったという行為として、「未遂犯」という規定が存在しますが、これは罰せられる可能性がある犯罪行為です。

では、不能犯と未遂犯はどのような違いがあるのでしょうか? 宇都宮オフィスの弁護士が「不能犯」について解説します。

1、不能犯とは

  1. (1)定義

    不能犯とは、刑法学において存在する概念のひとつで、行為者が「犯罪行為をする」と明確に意図したうえでその行為の実行に着手したが、その行為では結果を生じさせることが不可能である場合をいいます。

    不能犯について、日本の刑法においては明文化はされていませんが、海外諸国の刑法においては明文化されている場合もあります。

  2. (2)刑罰

    日本の刑法学では、不能犯は不可罰とされています。これは「刑罰には問わない」という意味で、つまり逮捕されることも刑罰に処されることもありません。

    なぜなら、不能犯では被害の発生を想定して行為をしたとしても、現実には結果が発生しないからです。たとえば、相手に対して「殺してやりたい」と明確な殺意をもって行動を起こしたが、それによって人間を死にいたらしめることは明らかにできないようなケースが考えられます。

2、不能犯と未遂犯の違い

  1. (1)法律

    「未遂犯」は、不能犯と似ているものと考える方がいるかもしれません。しかし、不能犯が学説上に存在していても明文化はされていないものである一方、未遂犯は刑法第43条において「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者」と明文化されています。

  2. (2)行為の結果

    未遂犯の場合、犯罪の実行に着手しているため、そのまま行為を続けていれば結果が生じたはずであると考えられます。たとえば、相手を殺すつもりでナイフを手にして切りつけたが、重傷を負うにとどまり死亡しなかったケースは殺人未遂罪に該当します。

    不能犯の行為は、前述の通り「意図していた結果が生じることはない」ものです。しかし、未遂犯の行為は「犯罪の結果が生じた危険性はあったが、現実的には生じるに至らなかった」という差があるわけです。

    つまり、不能犯と未遂犯における最大の違いとしては、実際に意図した結果が生じる可能性があったかどうかが、ポイントになっています。

  3. (3)区別の基準

    ここまでの考え方は、現在の日本において採用されている一般的な概念です。学説上は不能犯と未遂犯を区別する基準については、主に、「客観説」と「主観説」という説に分類されます。

    ●客観説
    行為そのものを重視する考え方です。

    裁判では、行為自体に結果を生じさせる危険があれば未遂犯、その危険がなければ不能犯とする具体的危険説が定説となっています。

    ●主観説
    行為者の認識を重視する考えです。

    結果を生じさせることが不可能であっても、犯罪の意図があっておこなったのなら未遂犯として処罰するべきだという純主観説や、行為者の認識をベースにして結果発生の危険を客観的に判断する抽象的危険説があります。なお、日本では主観説に傾いた判例はありません。

3、不能犯の具体的な事例

  1. (1)不能犯であるとされた事例

    不能犯であると考えられる行為は、具体的には以下のようなものが挙げられるでしょう。

    • 丑の刻参りと呼ばれる呪術で相手を呪い殺そうとした
    • 砂糖で人間を殺せると信じて、毒殺を試みた
    • 地中から発見した使用不能の手りゅう弾を使って、相手を爆死させようとした
    • まったく異なる主原料を使用して、覚せい剤を製造しようとした

    これらの行為は、たとえば「本来の製品は危険性があるもの」であったり「製造工程は間違っていない」といえたりする場合でも、結果の発生が否定されているため不能犯になります。

  2. (2)未遂犯であるとされた事例

    実際の裁判では、不能犯と認定されるよりも、不能犯を主張したが未遂犯になったというケースが多いといえます。

    たとえば、次のような事例が代表的です。

    • 毒殺するつもりで猛毒を米に混ぜて炊飯したが、異臭や刺激があったので相手が食べなかった
    • 相手を殺害するつもりで血管に空気を注射したが、致死量の空気ではなかったので死に至らなかった
    • 覚せい剤の製造を試みたが、必要な成分が不足していたため製造に失敗した
    • 自作の爆弾を製造して相手に投てきしたが、製造の際の不備によって爆発しなかった

    これらのケースは、先に挙げた例と同じく「結果が生じなかった」行為にあたります。

    しかし、犯行に着手した事実があり、しかも「当該ケースでは結果は発生しなかったが、想定していた結果発生が不可能といえるものではなかった」ので、未遂犯として処罰の対象となりました。

4、犯罪を犯したと思ったら弁護士に相談を!

なんらかの行動を起こして結果が発生しなかった場合、その行為が罪に必ずしも問われるわけではないと、ご理解いただけたかと思います。

しかし、不能犯になるのか、それとも未遂犯になるのかを判断するには、行為の性質を客観的に整理して、具体的な危険が生じる可能性があったのかを詳しく精査する必要があります。

また、単純に「この方法では結果が生じない」と考えられる場合もあるかもしれません。それでも、該当の行為が単なる失敗なのか、そもそも実現不可能であるのかの差は、過去の判例に照らして専門的に分析する必要があります。

もし、ご自身が犯罪の意図をもって行為におよび、なんらかの原因で結果が発生しなかった場合、安易に「そもそも実現不可能だったので、不能犯として処罰を受けない」と結論付けるのは早計です。すでに未遂犯として被害届が受理され、捜査の手が迫っているかもしれません。

ご自身の行為が不能犯になるのか、それとも未遂犯になるのかの判断は、弁護士に相談するべきです。学問上だけでなく、裁判での考え方や結果なども深く学んできた弁護士であれば、その行為が犯罪として処断されるのかを具体的に判断できるでしょう。もし未遂犯として処罰を受けるおそれがある行為をしてしまった場合は、弁護士に依頼し、相手との示談交渉を進めて逮捕や処罰を回避する必要もあると考えられます。

刑事事件は時間との勝負です。今後の生活に影響を残さないようにするためにも、早急に弁護士に相談するのが良策だといえます。

5、まとめ

不能犯と未遂犯の判断は、裁判上の定説はありながらも刑法学の難しい理論で対立が続いている問題です。犯罪の意図があって行為におよび、想定した結果が得られなかったからといって、罪には問われないと安心してはいけません。

弁護士にアドバイスを受けて、不能犯であるから処罰を心配する必要はないのか、それとも未遂犯となる可能性があるので対策を講じるべきなのか、アドバイスを受けましょう。

ベリーベスト法律事務所宇都宮オフィスでは、刑法学を学び、実際の事件を通じて経験を積み重ねた弁護士が、不能犯と未遂犯の違いについてアドバイスします。示談交渉や逮捕の前に自首すべきかどうかなど、刑事事件の場合は早急に決定し、行動しなくてはいけないことが数多くあります。ご不安なときには、まずはお気軽にご一報ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています