他人あての郵便物を無断で開封すると犯罪になる? 信書開封罪を解説
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令和3年度の引受郵便物数はおよそ149億通・個で、年々減少はしているものの、多くの郵便物の引き受けが行われています。家族あての郵便物の内容が気になったり、他人あての郵便物が誤って配達されたりすると、自分あての郵便物ではないのに開封してしまうケースがあるでしょう。
郵便局のホームページでは、他人あての郵便物を誤って開封してしまった場合の正しい対処法を紹介していますが、他人あてであることを知っていながら郵便物を開封すると犯罪になることは理解していない方も多いはずです。
自分にあてられて届いたものではない、他人あての郵便物を開封する行為は、重大なプライバシー侵害であると同時に刑法に定められた犯罪になります。
本コラムでは、他人あての郵便物を開封した場合に問われる犯罪と刑罰、逮捕される可能性や罪を問われた場合に取るべき行動について、宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和4年版情報通信白書」(総務省))
1、他人あての郵便物を開封することで成立する犯罪
自分あてに送られたものではない、他人あての郵便物を勝手に開封すると犯罪になります。
まずは、他人あての郵便物を開封することで成立する犯罪を確認していきましょう。
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(1)信書開封罪が成立する
他人あての郵便物を開封する行為は、刑法第133条の「信書開封罪」にあたります。
刑法上での罪名は信書開封罪ですが、別名として「信書開披罪」と呼ぶこともあります。
刑法第13章の「秘密を侵す罪」に規定されている犯罪で、正当な理由がないのに、他人にあてられた封をしてある信書を開封した場合に成立します。
誰が誰とどのような内容のやり取りをしているのかという秘密は、重大な保護法益であるため、誰であろうと正当な理由なく他人あての信書を無断で開封することは法律によって禁じられているのです。 -
(2)「信書」の意味
「信書」とは、郵便法第4条2項によると「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、または事実を通知する文書」を意味します。
特定人から特定人へ宛てた意思を伝達する文書が信書にあたります。注意が必要なのは、郵便物に限られない点です。
例としては、次のようなものも信書に該当します。- 請求書や納品書、契約書、申請書、通知書など
- 結婚式の招待状など
- 資格の認定証や許可証など
- 戸籍謄本や住民票の写しなどの証明書類
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(3)郵便物を開封しても犯罪にならないケース
信書開封罪が成立するのは「正当な理由」がない場合です。
つまり、信書を開封する行為に正当な理由がある場合は、罪には問われません。
たとえば、破産手続きのなかで破産管財人が債務者あてに郵送された郵便物の内容を確認するために開封する行為は「正当な理由がある」と判断されます。
子どもあてに郵送された信書を親権者である親が開封した場合も、正当な理由があると認められる可能性が高いでしょう。
また、信書開封罪は「封をした信書」が対象なので、封をしていない信書の内容をみても犯罪にはなりません。
もともと封をしていない郵便物やはがきは対象外です。
さらに保護されている対象は「信書」なので、信書にあたらない場合も犯罪は成立しません。
雑誌や会報誌、カタログ、受取人を特定していないダイレクトメールなどの類いが入った封筒を開封しても信書開封罪が成立しないと考えられます。 -
(4)その他の犯罪が成立するケース
他人あての郵便物の扱いについては、状況によって信書開封罪ではなくほかの犯罪が成立する可能性もあります。
誤って配達された他人あての郵便物を、開封しただけでなく自分のものにしてしまうと、刑法第235条第1項に規定される「窃盗罪」や、同法254条に規定される「遺失物横領罪(占有離脱物横領罪」に問われる可能性があります。
上記罪では、郵便物が信書にあたるか否かを問いません。
また、郵便物がはがきの場合は信書であっても「開封」の必要がないので信書開封罪が成立しません。
ただし、嫌がらせなどの目的で他人あての信書を隠し持つといった行為は刑法第263条の「信書隠匿罪」が成立する危険があります。
誤って配達された信書を隠匿しても処罰の対象になるので注意が必要です。
2、信書開封罪の刑罰
信書開封罪の刑罰は「1年以下の懲役又は20万円以下の罰金」です。
数ある犯罪のなかでは比較的に軽い刑罰が規定されていますが、金品を盗む、他人の所有物を壊す、他人に暴力を振るうといった悪質な犯罪と比べると、法益侵害の程度が比較的軽いといえるため、同罪については軽率な行為が罪に該当すると考えておくほうが賢明でしょう。
3、逮捕される可能性と逮捕後の流れ
他人あての信書を開封して信書開封罪に問われた場合、警察に逮捕される可能性はあるのでしょうか?
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(1)被害者が告訴すれば逮捕される危険がある
信書開封罪は、刑法第135条の定めによって「親告罪」であると規定されています。
親告罪とは、被害者の「告訴」が訴訟要件になっている犯罪で、検察官は被害者の告訴がない限り刑事裁判を提起できません。
告訴とは、犯罪の被害者が捜査機関に対して犯人の処罰を求める意思を表示する手続きです。
被害者が「加害者を罰してほしい」と求めて告訴状を提出し、警察が正式に受理すれば、刑事事件としての捜査が始まります。
警察からの呼び出し要請を受けても正当な理由なくこれを拒んだり、被害者に威圧的な言動を取って告訴を取り下げさせようとしたりといった状況があれば、「逃亡または証拠隠滅のおそれがある」と判断されて逮捕される危険があります。 -
(2)信書開封罪で逮捕される可能性はあるのか?
信書開封罪が適用された事件の数や逮捕の割合については、詳しいデータが公開されていません。
令和2年版の犯罪白書によると、被疑者が逮捕された事件の割合は刑法犯全体の平均で36.5%でした。
殺人や放火といった重大犯罪や窃盗・詐欺・暴行・傷害などの日常にあふれている犯罪を除くと、さらにその割合は29.9%まで下がります。
このデータに照らすと、適用される犯罪によって多少の差はあるものの、およそ3分の2の事件は逮捕されないまま事件が処理されているといえるでしょう。
信書開封罪は、盗まれた、だまし取られた、怪我をさせられたといった実害が発生する犯罪と比べると法益侵害が軽度であるうえに、親告罪として規定されており事件化へのハードルが高いため、逮捕に至る危険は高くありません。
警察からの呼び出しに応じ、素直に取り調べに応じるように心がければ、逮捕による身柄拘束を必要とせず、任意の在宅事件となる可能性があるでしょう。 -
(3)逮捕後の流れ
被疑者として逮捕されると、まず警察の段階で48時間以内、警察から送致を受けた検察の段階で24時間以内の、合計72時間を限度とした身柄拘束を受けます。
さらに、検察官が「さらに身柄を拘束して取り調べる必要がある」と判断し、裁判官がこれを許可すると、原則10日以内、延長を含めて最大20日以内の勾留を受けます。
勾留期限の日までに検察官が起訴すると刑事裁判へと移行します。
逮捕された被疑者の立場は被告人へと変わり、裁判官が保釈を認めなかった場合は刑事裁判で判決が言い渡されるまでさらに勾留を受けるので、1か月を超える身柄拘束を受ける危険もあると心得ておかなくてはなりません。
4、信書開封罪の容疑をかけられた場合は弁護士に相談を
信書開封罪の容疑をかけられてしまった場合は、逮捕による身柄拘束や刑罰を回避するためのアクションを起こす必要があります。
直ちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。
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(1)被害者との示談交渉による解決が期待できる
信書開封罪は親告罪なので、被害者が告訴を見送った、あるいは受理された告訴を被害者自信が取り下げた場合、検察官は起訴に踏み切れません。
検察官が不起訴とすれば刑事裁判が開かれないので、刑罰を受けることも、前科がつくこともないのです。
被害者との示談交渉の場を設けて謝罪の意思を伝えたうえで、精神的苦痛に対する慰謝料や信書の開封によって発生した実害への賠償金を含めた示談金を支払って双方が和解し、被害者が告訴を取り下げれば、起訴の危険はなくなります。
ただし、刑事事件の被害者は、加害者に対して強い憤りや嫌悪を感じているケースが少なくないので、直接の交渉では円満に解決できる可能性は高くありません。
個人的なトラブルを背景に信書開封を問題として取り沙汰されているケースもあり、当事者間での話し合いでの解決は困難です。
そこで、公平中立な立場である、弁護士を代理人として示談交渉を進めれば、被害者の怒りや警戒心をやわらげて、円満な示談成立が期待できるでしょう。 -
(2)早期釈放・刑罰の軽減を実現する
もし警察に逮捕されてしまった場合でも、弁護士のサポートを得れば、被害者との示談交渉や捜査機関へのはたらきかけによって早期に身柄が解放される可能性が高まります。
また、刑事裁判に発展してしまった場合は、加害者にとって有利な証拠を集めて刑罰が軽くなるように主張することも可能です。
5、まとめ
郵便物が信書にあたる場合は、受取人に無断で開封すると信書開封罪が成立してしまいます。
いたずらや嫌がらせであればもちろん、家族あての郵便物であっても犯罪になるので、郵便物の無断開封は厳に慎むべきです。
信書開封罪にあたる行為をはたらいてしまい、相手から「警察に届け出る」と言われてしまった、すでに警察が告訴を受理しており取り調べのために出頭を求められているといった状況があれば、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。
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