ネット上で投げ銭を募ると犯罪? 軽犯罪法に触れる物乞い・乞食行為
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物乞いや乞食行為は軽犯罪法により取り締まられています。栃木県警が公表する「犯罪概況 令和4年(確定値)」によると、令和4年中に栃木県内で軽犯罪法犯として検挙した66件の事件のうち、33件は宇都宮中央署、宇都宮東署、宇都宮南署で検挙されたようです。
近年はSNSや配信サイトなどで「生活が苦しい」などと語り投げ銭などを求める行為を見かけます。いわゆる「ネット乞食」と呼ばれる行為をすると、軽犯罪法により処罰される可能性があることをご存じでしょうか。
本コラムでは、ネット上での物乞い行為が「こじき」として犯罪となる行為から、有罪になった場合の罰則・逮捕の有無などについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、軽犯罪法で禁止されている「こじき」とは
軽犯罪法では、「こじき」をし、または「こじき」をさせる行為が犯罪とされています(軽犯罪法第1条第22号)。
「こじき(乞食)」という言葉を聞いたことがある方は多いかと思いますが、軽犯罪法上はどのような行為が「こじき」に当たるのでしょうか。
また、なぜ「こじき」は犯罪として禁止されているのでしょうか。
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(1)不特定多数の人の同情を買って、生活費などをもらおうとする行為
軽犯罪法上の「こじき」とは、不特定の他人の同情に訴えて、自分や扶養する家族の生活のため、無償またはほとんど無償に近い対価を提供して、必要な金銭や品物を求める行為で反復継続されるものをいいます。
つまり、相手に何の見返りも提供することなく、「哀れだ」という同情をさそって金品をねだる行為が「こじき」に該当するといえます。
これに対して、たとえば路上で行われている大道芸は、道行く人からお金を受け取るものの、その対価としてパフォーマンスを提供していることから、「こじき」には該当しません。
また、僧侶が行う「托鉢」は、宗教上の修行行為として行われているため、やはり「こじき」には当たらないと考えられます。 -
(2)「こじき」が禁止されている理由
軽犯罪法によって「こじき」が違法・犯罪とされているのは、それが健全な社会道徳に反する行為だからであると考えられます。
憲法第27条第1項においても、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」とされていますし、働かずに他人の同情をさそって金銭等を獲得する行為は、健全な社会道徳に反するといえます。
このような事態が生じないように、「こじき」を軽犯罪法で禁止することで、社会全体の生産性を維持・向上させることが意図されているのです。
2、ネット上で金品を求めると軽犯罪法違反になる?
「こじき」は、以前は路上などで行われるのが一般的でしたが、近年ではネット上で類似の行為がなされるケースも増えています。
いわゆる「物乞い配信(物乞い行為配信)」や「ネット乞食」などと呼ばれる行為ですが、これも「こじき」として軽犯罪法違反に当たるのでしょうか。
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(1)ネット上での物乞いも軽犯罪法違反になり得る|摘発例あり
結論から言えば、ネット上での「物乞い配信」なども軽犯罪法違反となる可能性があります。
実際に、2015年には、香川県高松市で「物乞い配信」をしていた無職の男性が、軽犯罪法違反の疑い書類送検されました。
路上などの場所でもネット上でも、「こじき」に当たる行為が日本国内でなされている場合には、軽犯罪法違反として処罰の対象となり得ます。
そのため、ネットで視聴者に金品を求めるような配信を行う際には、「こじき」に当たらない内容とするよう配慮が必要です。 -
(2)ネット上での「こじき」に当たり得る行為
ネット上で金品を求める行為が「こじき」に当たるかどうかは、その行為が同情等を訴える内容かどうかによって判断されます。
たとえば、配信中ひたすらに「投げ銭」を求め続け、「お願いだ」
「このままでは生活できない」
「かわいそうならできるだけ多く投げ銭してください」
などと、配信者への同情を求める発言が繰り返されている場合には、「こじき」として犯罪となる可能性があります。
3、「ほしいものリスト」を公表することは「こじき」に当たるか?
Amazonには「ほしいものリスト」という機能が実装されています。
「ほしいものリスト」とは、作成者が今ほしいものをまとめたリストで、それぞれの項目がAmazonの商品ページにリンクされています。
そのため、友人やSNSフォロワーに向けて「ほしいものリスト」を公開することにより、誕生日プレゼントとして送ってもらうなどの用途で活用されています。
「ほしいものリスト」を公開することは、友人やSNSフォロワーなどの不特定多数に向けて金品を求める行為といえますが、これは軽犯罪法上の「こじき」に当たらないのでしょうか。
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(1)単にリストを公開するだけなら「こじき」に当たらない
単に「ほしいものリスト」を公開するだけであれば、他人の同情に訴える行為は認められません。
「こじき」はあくまでも、他人の同情に訴えて金品を交付することを求める行為です。
したがって、単に「ほしいものリスト」を公開する行為は、「こじき」には当たらないと考えられます。 -
(2)「同情」「哀れみ」に訴える行為があれば、「こじき」に当たり得る
ただし、「ほしいものリスト」の公開と併せて、別途「同情」「哀れみ」に訴えかけるような言動が行われていれば、「こじき」として処罰対象となり得るため注意しましょう。
たとえば、TwitterやInstagramなどのSNSにおいて、ほしいものリストを公開しました!
生活に困っているので、どうしても食糧が必要です。
哀れに思う方は、買って送ってください!
などと投稿する行為は、「こじき」に当たると判断される可能性があります。
このように、「ほしいものリスト」の公開が「こじき」に当たるかどうかは、他の言動との関係性も併せて考慮したうえで判断されると理解しておきましょう。
いずれにしても、ネット上の投稿や配信を通じて行った行為が軽犯罪法法違反となる容疑を持たれ、警察から連絡が来た場合は、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
お問い合わせください。
4、軽犯罪法違反の罰則は? 逮捕はあり得る?
軽犯罪法上の「こじき」は犯罪であり、逮捕・起訴されたうえで罰則が科される可能性があります。
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(1)拘留または科料の罰則がある
「こじき」を含む軽犯罪法違反に対する刑罰は、「拘留」または「科料」とされています。
● 拘留(刑法第16条)
1日以上30日未満の期間、刑事施設に拘置される。
● 科料(刑法第17条)
1000円以上1万円未満の金銭の納付を命じられる。
実際に拘留または科料が科された場合には、前科が付くことになります。 -
(2)逮捕される場合は限定的
「こじき」は犯罪である以上、行為者が逮捕されるケースもあり得ます。
ただし、こじきの刑罰が「拘留」または「科料」であることを踏まえて、逮捕できるのは以下のいずれかの場合に限定されています(刑事訴訟法第199条第1項ただし書き)。- 被疑者が定まった住居を有しない場合
- 正当な理由がなく、被疑者が取り調べのための任意出頭に応じない場合
「こじき」の場合は、捜査機関が上記の要件を満たすことを確認できた場合に限り、逮捕が行われます。 -
(3)在宅のまま起訴される可能性もある
上記のとおりであるため、「こじき」については、行為者を逮捕してまで取り調べなどを行う必要性が認められないこともあります。
しかし、逮捕されていないとしても、在宅のままで捜査を進め、起訴するかどうかを検討することになりますので、刑事罰を受ける可能性は依然として残っていることに注意が必要です。
もし「こじき」行為の疑いで、捜査機関から取り調べなどを受けている場合には、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
5、まとめ
不特定多数の人に対して、哀れみを求めて金品を要求する行為は「こじき」に当たり、軽犯罪法違反で処罰されるおそれがあります。
路上での物乞いと同様に、ネット上での物乞いも処罰対象であり、最終的には起訴されて刑事罰を受ける可能性があるので注意しましょう。
もし「こじき」に当たる行為をしてしまい不安な場合や、実際に捜査機関から取り調べを受けている状況の場合には、刑事事件についての知見が豊富なベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士にご相談ください。
刑事手続きへの対処法をアドバイスするとともに、不当に重い罪とならないよう弁護活動を行い、ご相談者様をサポートします。
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