一事不再理とは何か。再審との違いなどを解説

2022年10月03日
  • その他
  • 一事不再理とは
一事不再理とは何か。再審との違いなどを解説

裁判所が公表している司法統計によると、令和2年の宇都宮地方裁判所に起訴された刑事事件の件数は、768件であり、そのうち751件が懲役、禁錮、罰金などの有罪判決を言い渡されています。起訴された事件のうち有罪になる割合は、約99%といわれ、非常に高いことがわかります。

刑事事件では、人の身体への拘束、刑罰という不利益処分などが科されることから、被疑者・被告人の権利を守るためにさまざまな原則が定められています。「一事不再理」も刑事裁判における、重要な原則のひとつです。 一事不再理の原則によって、同じ事件について再び刑事責任を問われることはありません。一方で、刑事裁判においては再審の制度も存在していますが、両者の違いはどこにあるのでしょうか。

今回は、刑事裁判における一事不再理の原則と、再審との違いなどについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、一事不再理とは何か。刑事裁判の流れも併せて解説

一事不再理とはどのようなものなのでしょうか。以下では、一事不再理の概要と刑事裁判の流れについて説明します。

  1. (1)一事不再理とは

    一事不再理とは、刑事裁判が確定した場合、当該事件について再び起訴することが許されなくなるという刑事裁判における基本原則のことです
    憲法39条を見ると、「何人も、実行の時に適法であった行為またはすでに無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。また、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」とあり、明文で一事不再理が定められています。
    一事不再理の原則に違反して、同一の事件で再起訴がされた場合には、裁判所は免訴の判決を言い渡して、裁判を打ち切ることになります(刑事訴訟法337条1号)。

    たとえば、Aに対する殺人罪の疑いをかけられ、起訴されたものの、裁判の結果、無罪に確定した場合には、再び、検察官が当該事件を殺人罪で起訴することはできません。
    すでに判決が確定したにもかかわらず、何度も同じ罪で裁かれなければならないというのは、被告人にとって極めて重い負担となるので、そのような不利益を回避するために一事不再理という制度が認められているのです。

    ただし、Aに対する殺人罪について無罪の判決が確定したとしても、Bに対する殺人罪で起訴することは可能です。これらの罪は別の事件として扱われるものですので、一事不再理の原則に反することはないからです。

  2. (2)刑事裁判の流れ

    捜査機関による捜査の結果、検察官によって起訴された場合には裁判所における刑事裁判が行われます。
    刑事裁判では、主に「冒頭手続」、「証拠調べ手続」、「弁論手続」、「判決の宣告」という4つの手続きで構成されています。
    以下では、各手続きについて詳しく説明します。

    ① 冒頭手続
    冒頭手続とは、刑事裁判において公判の最初に行われる、一連の手続きのことです。冒頭手続には、「人定質問」、「起訴状朗読」、「黙秘権の告知」、「被告事件に対する陳述」という手続きが含まれます

    • 人定質問
    • 人定質問とは、裁判官が被告人に対して、氏名、住所、本籍地、職業などを質問することによって、起訴された本人で間違いないかどうかを確かめる手続きです。

    • 起訴状朗読
    • 検察官は、起訴状を朗読して、当該刑事裁判における審理の対象を明らかにします。

    • 黙秘権の告知
    • 被告人には、憲法上、黙秘権が保障されています。そのため、裁判官は被告人に対して、黙秘権の告知として終始沈黙することができること、質問に対して陳述を拒むことができること、陳述した場合には有利な証拠にも不利な証拠にもなることを説明します。

    • 被告事件に対する陳述
    • 裁判官は、被告人と弁護人から被告事件に対する言い分を聞いて、事件の争点を明らかにしていきます。


    ② 証拠調べ手続
    冒頭手続によって、明らかになった審判対象について、検察官および弁護人の双方から事実認定のための証拠調べが行われます

    • 冒頭陳述
    • 証拠調べ手続の冒頭では、検察官から証拠によって証明しようとする事実が述べられます。これを「冒頭陳述」といいます。
      通常、冒頭陳述は検察官だけが行いますが、裁判員裁判では弁護人も冒頭陳述を行います。

    • 検察官の立証
    • 刑事裁判では、検察官に立証責任があるので、まずは、検察官から犯罪事実の立証に必要となる証拠調べ請求がなされます

      請求される証拠は大きく分けて「物証」「書証」「人証」の3つがあります。
      物証とは、物的証拠(証拠物)をいい、その物の存在および状態が証拠となるものを指します。
      書証とは、文書になっておりその記載内容が証拠資料となる証拠を指します。被告人や被害者などの供述を聞いて書面にまとめた供述調書などがここに含まれます。
      人証とは、人の口から語られる証拠であって、被害者本人やいわゆる目撃者の供述などが含まれます。

      検察官から請求のあった証拠については、被告人側の意見を聞いた上で、裁判官が証拠の採否を決定します。

    • 被告人側の立証
    • 検察官の立証が終わった後は、被告人側から証拠調べ請求がなされます。被告人側から請求のあった証拠については、検察官の意見を聞いた上で、裁判官が証拠の採否を決定します。

    • 被告人質問
    • 被告人は、刑事裁判の当事者ですので、証人にはなることができません。しかし、被告人が質問に応じて任意に供述すれば、当該供述は証拠となります。これを「被告人質問」といいます。


    ③ 弁論手続
    証拠調べ手続が終わった後は、検察官および被告人側から当該事件についての意見の陳述がなされます。これを「弁論手続」といいます。

    • 検察官の論告、求刑
    • 弁論手続では、まずは検察官からの論告、求刑が行われます。論告とは、事実および法律の適用に関する意見陳述のことであり、求刑とは、被告人に科すべき刑についての意見陳述です。

    • 弁護人の弁論
    • 検察官の論告、求刑の後、弁護人から事実および法律の適用についての意見陳述が行われます。

    • 被告人の最終陳述
    • 検察官、弁護人からの意見陳述がなされた後は、裁判官から最後に何か言いたいことがあるかとの問いがなされ、被告人による最終陳述が行われ、法廷での審理がすべて終了します。


    ④ 判決の宣告
    法廷での審理の結果を踏まえて、裁判官は、被告人に対して判決の言い渡しを行います。第一審の判決に不服がある場合には、高等裁判所で審理するよう、一審裁判所に対して控訴をすることができます。

2、再審との違い

一事不再理と再審では、どのような違いがあるのでしょうか。以下では、一事不再理と再審の違いについて説明します。

  1. (1)再審とは

    再審とは、確定した有罪判決について、事実認定などの誤りを正すために、裁判のやり直しを行う制度のことをいいます

    刑事裁判によって判決の言い渡しを受けた場合において、その内容に不服がある場合には、高等裁判所への控訴、最高裁判所への上告という手段によって争うことができます。
    日本では三審制がとられているので、これらの上訴手続きがすべて尽きた場合には、判決が確定し、それ以上争うことができなくなるのが原則です。

    しかし、判決に重大な誤りが発見された場合には、そのまま放置していると不利益が大きいことから、例外的に再審によって裁判のやり直しが認められています。再審は、あくまでも例外的なケースなので、再審請求をするためには、以下のような事由に該当する必要があります(刑事訴訟法435条、436条)。

    • 確定判決により原判決の証拠(証拠書類や証拠物、証言等)が偽造、変造、虚偽であったことが証明された場合
    • 無罪などを言い渡すべき明らかな新証拠を発見した場合
    • 確定判決によって関与裁判官などに職務犯罪があったことが証明された場合
  2. (2)再審と一事不再理との違い

    再審は、裁判のやり直しをする制度であり、一事不再理は、確定した裁判のやり直しを禁止する制度なので、一見すると両者は矛盾する制度にも思えます。
    しかし、再審と一事不再理のいずれも被告人の利益のために認められた制度であるため、両者の違いを理解すれば矛盾する制度ではないことがわかるでしょう。

    すなわち、再審は、有罪判決が確定した場合に、無罪を言い渡すべき新たな証拠が発見された場合などで、やり直しを認める制度であるのに対して、一事不再理は、判決が確定した被告人が再度罪を問われることのないようにする制度、という違いがあります

    簡単にいえば、有罪を無罪に変更するのが再審で、無罪が有罪に変更されることがないというのが一事不再理です。

3、民事事件ではどうなる?

これまでは刑事事件における一事不再理を説明してきましたが、民事事件においても一事不再理という制度は存在するのでしょうか。

  1. (1)民事事件と刑事事件の違い

    民事事件(民事裁判)とは、当事者間の紛争を解決することを目的として裁判所に判断を求める手続きです。これに対して、刑事事件(刑事裁判)とは、犯罪を行った被告人を起訴して、その処罰を求めるための手続きです。

    たとえば、交通事故によって被害者に怪我を負わせた場合には、民事事件としては、被害者に対する損害賠償が問題になり、刑事事件としては、加害者への道路交通法違反や過失運転致傷という刑罰法規の適用が問題になるという違いがあります。

  2. (2)民事裁判では既判力によって再度の争いが禁止される

    民事裁判では、判決の既判力という概念によって、一事不再理と同様に紛争の蒸し返しが防止されています

    既判力とは、判決が確定した場合において、その後同一の事件が裁判で問題になったとしても、前の裁判で確定した判断と矛盾する主張をすることができず、裁判所も前の裁判の判決と矛盾する判決をすることが禁止される制度的な拘束力のことをいいます。
    このような既判力によって、民事裁判においても、原則、同一の当事者に対する、同一事項についての再度の争いが禁止されているのです。

    ただし、民事裁判のなかでも、特許法においては、刑事裁判と同様に一事不再理が認められています。特許法における一事不再理とは、特許無効審判または延長登録無効審判の審決が確定した場合、同一事実および同一証拠に基づいて再度その審判請求をすることができないという制度です。

4、刑事事件でお困りなら弁護士に相談を

以上の通り、刑事裁判で被告となった場合でも、被告の利益を不当に侵害することのないよう、一事不再理や再審の制度が定められています。弁護士なしで裁判をすることもできますが、それでは不当に重い罪を科せられる可能性が高まります。そのため、ほとんどの刑事裁判で被告人には弁護士がついています。

また、捜査段階であったとしても、弁護士をつけることは可能です。逮捕、勾留されてしまうと長期間の身柄拘束を受けることになり、その間、捜査機関による過酷な取り調べを受けることになります。逮捕期間中に被疑者と接見をして、アドバイスをすることができるのは弁護士だけです。

また、不利な自白調書が作成されることがないようにするためには、弁護士によるアドバイスが必要不可欠といえるでしょう。そのため、身柄拘束を受けた場合には、少しでも早く弁護士に相談をすることが大切です。

さらに、被害者がいる犯罪では、被害者との示談を成立させることができるかどうかによって、その後の処分内容が大きく変わってくる可能性があります。加害者や加害者の家族から被害者にアプローチをしても、示談に応じてくれる可能性は低いため、被害者との示談交渉は、専門家である弁護士に相談するとよいでしょう

少しでも有利な処分を獲得するためには、弁護士のサポートが必要となります。ご自身が刑事事件の当事者になってしまったという場合や家族が刑事事件の当事者になってしまったという場合には、お早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。

5、まとめ

刑事事件の当事者になってしまったという場合には、ご自身の権利や利益を守っていく必要があります。そのためには、専門家である弁護士のサポートが不可欠といえるでしょう。

ベリーベスト法律事務所では、刑事弁護専門チームをつくり、勉強会を開催するなどスキルアップに努め、事件対応で培ったノウハウの共有も行っています。ご依頼があった場合には、このチームを中心に、すぐ事件解決に向けて動ける体制を整えています。また、逮捕前にご依頼いただければ、弁護士が自首に同行することも可能です。

刑事事件の当事者になってしまったという方は、お早めにベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています