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虐待から子どもを守る「親権停止」について。申し立てる方法は?

2021年01月19日
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虐待から子どもを守る「親権停止」について。申し立てる方法は?

栃木県警の発表によりますと、平成30年に栃木県で発生した児童虐待事件は前年比179件増の409件、被害を受けた児童は前年比248人増の587人にものぼります。これは、統計を開始した平成19年以降最悪の数値です。児童虐待事件への関心の高さから、通報が増加したことが一因にあるとして報道されています。

虐待の事実を通報する先は警察や児童相談所、学校などが考えられます。そのほかに、親族であれば、家庭裁判所に虐待している父母の「親権停止」を申し立て、子どもを虐待から救うという方法もあるのです。そこで本コラムでは、親権停止の基本的な内容から家庭裁判所へ申し立てる方法について、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、親権停止を申し立てる主な理由は?

  1. (1)親権停止とは?

    親権停止の制度が設けられている背景は、「子どもの利益を守るため」にあります。

    そもそも父母は、子どもの親権者として、さまざまな権利と義務を負っているものです。親権の目的は、子どもの利益と福祉を実現することも含まれています。

    たとえば、多くの国が締結している児童の権利に関する条約第18条第1項では、父母について「児童の養育および発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善の利益は、これらの者の基本的な関心事項となるものとする」と規定しています。さらには、民法第820条においても、「親権を行う者は、子の利益のために子の監護および教育をする権利を有し、義務を負う」と規定しているのです。

    しかし、残念ながら親権者として子どもを守るべき第一人者であるはずの父母のなかには、虐待などで子どもを苦しめるケースは少なくありません。さらには命を奪うなどして、子どもの利益や福祉を損なっている方がいるということも事実です。

    そこで民法第834条の2第1項では、家庭裁判所に親権停止の審判を申し立てることができると規定しています。「父または母による親権の行使が困難または不適当であることにより子の利益を害するとき」において、親権停止を行えるのです。

    親権停止の審判は、児童の権利に関する条約第3条第1項にもあるとおり、子どもの利益を最優先にして行われます。

    児童の権利に関する条約第3条第1項
    「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的もしくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局または立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮される。」
  2. (2)親権停止と児童福祉法第28条の違い

    児童福祉法第28条では、父母から虐待やネグレクトを受けている子どもについて、家庭裁判所の承認を得たうえでに行政の権限で子どもを児童養護施設などに入所させることができると規定しています。

    しかし、この措置はあくまで行政が行うものであって、行政が事実を覚知してから、動き出す間に事態が悪化するおそれがないわけではありませんこの点が、虐待の事実に気が付いた周囲の大人が子どもの救済のために能動的に取ることができる手段としての親権停止の審判の申し立てとは異なる点です

2、親権を停止すると、どうなるのか?

  1. (1)そもそも親権とは?

    ひとくちに親権といっても、それはさまざまな権利と義務で構成されています。

    まず、親権は主に「身上監護権」と「財産管理権」に大別されます。身上監護権は、さらに以下のように分類されます

    監護、教育の権利義務 子どもを健全な個人に育成する権利及び義務(民法第820条)
    居所指定権 子どもの住む場所を指定する権利(民法第821条)
    懲戒権 必要な範囲内で、子どもに対してしつけ、懲戒をする権利(同第822条)
    職業許可権 子どもが職業を営むにあたり、その職業を許可する権利(同第823条)
    身分行為の代理権 子どもの身分法上の行為を行うにあたっての代理権、同意権(同第775条、第787条、第791条、第917条など)

    なお、財産管理権とは子どもの財産を管理し、または子どもの財産に関する法律行為について子どもを代表することができる権利です(同第824条)。

  2. (2)親権停止すると、どうなるのか?

    家庭裁判所から親権停止の審判がなされると、上記で述べた親権のすべてが停止し、行使することができなくなります。

    ただし、民法第834条の2第2項の規定により、親権停止の期間は「2年以内」とされています。この2年以内に、親権を停止することが相当とされた原因が解消されたり、あるいは親権停止を継続することが子どもの利益にならないと判断された場合は、2年を待たずに親権停止を止めるべき場合があります。この場合、家庭裁判所に親権停止の審判を取り消すよう請求することになります。

    なお、単独親権者(ひとり親)の親権が停止した場合は、子どもの親権者が不在という状態になってしまいますので、同時に未成年後見人の手続きを行うことになります。

3、親権停止と親権喪失の違いについて

民法第834条および児童福祉法第33条の7に規定される親権喪失とは、子どもや子の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官または児童相談所所長の申し立てによって親権喪失原因が存在する場合、父母の親権を喪失させることができると規定したものです。子どもに対する父母の虐待行為やネグレクトが「著しく」、親権の行使が「著しく」困難または不適当であるため、子どもの利益を「著しく」害するとされる場合にのみ行われる措置です
喪失事由には親権者の意思に基づく喪失と、基づかない喪失があります。意思に基づく喪失とは、親権者が辞任をすることを許さないことが子の福祉、利益に反する場合、すなわち「やむを得ない事由」があるときに認められます。具体的には、親権者の服役、重病による長期不在、再婚による親権行使困難などが考えられます。
これに対して、意思に基づかない喪失とは、親権の濫用、著しい不行跡などです。社会通念上の相当な懲戒を逸脱した懲戒である、いわゆる虐待や養育放棄、子の財産を破壊するような行為や、飲酒賭博にふける程度が著しい場合などが挙げられます。

親権停止と親権喪失の違いは、上記のように父母の子どもに対する虐待等の態様が「著しい」場合に親権喪失が認められる点です。また、親権停止と異なり親権喪失は2年以内という期間が定められていません。このため、家庭裁判所の許可を得て、失権の宣告を取り消すことによる親権喪失の回復がなされなければ、親権喪失は子どもが成人し親権そのものが消滅するまで、親権者になれないということもあり得るのです。

しかし、親権喪失は家庭裁判所としても「著しい」の定義が難しく、親権喪失の判断には慎重にならざるを得ず、一度親権を喪失すると復権することが難しいという問題があります。そのため、実際は積極的な運用がなされませんでした。そこで、2年以内という規定を設け親権喪失の使い勝手の悪さを改善し平成24年から施行されたのが、親権停止なのです。

4、親権停止を申し立てる方法・手続き

  1. (1)審判を申し立てることができる人は?

    民法第834条および児童福祉法第33条の7の規定によりますと、親権停止の審判を申し立てることができる人は以下のとおりです。

    • 子ども本人
    • 子どもの親族
    • 未成年後見人
    • 未成年後見監督人
    • 検察官
    • 児童相談所所長


    上記のうち、親族とは子どもの父母も該当します。つまり、婚姻期間中であっても親権停止の審判が認められることで、配偶者の子どもに対する親権を停止することができるのです。

  2. (2)申し立てる先と申し立てに必要な書類は?

    原則として、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。

    審判を申し立てる際に家庭裁判所へ提出が必要な書類等は、以下のとおりです。

    • 家事審判申立書
    • 当事者目録
    • 子ども本人の戸籍謄本
    • 子どもと同籍ではない場合は、審判を受ける親権者本人の戸籍謄本
    • 審判を申し立てる理由を示した資料
    • 審判を申し立てた人の戸籍謄本や身分証明書の写し
    • 子ども1人につき、収入印紙800円
    • 家庭裁判所との通信用の郵便切手
  3. (3)審判の流れは?

    親権停止の審判は、非公開で行われます。このとき、家事事件手続法第169条第1項の規定により、親権又は財産管理権の喪失を宣言する場合には、家庭裁判所は親権者と15歳以上の子どもに対して親権停止に関する意見を聴取しなければなりません。

    また、家事事件手続法第116条および家事事件手続規則第76条の規定により、審判が確定すると家庭裁判所書記官は、子の本籍地の戸籍事務管掌者に対し、戸籍の記載を嘱託します。
    なお、申し立てが却下された場合は「即時抗告」ができます。ただし、即時抗告は親権停止の審判を受けた父母やその親族も可能です。

  4. (4)期間はどのくらいかかる?

    事案の内容にもよりますが、親権停止の審判が出るまでは、申し立てからおおむね3か月から4か月程度を要するケースが多いでしょう。

    なお、子どもへの虐待がひどく審判が出るまで待てないような場合は、家事事件手続法第174条の規定により家庭裁判所に対して審判までのあいだの親権者職務停止または親権の代行者を選任する「保全処分」を申し立てることができます。

5、まとめ

たとえ自分の甥や姪であっても、子どもに対する虐待やネグレクトなどの事実を確認したときは救済のために積極的に動いてください。親権停止の審判は、子どもを守るための制度です。これを申し立てることにより子どもの親権者との関係が悪くなることが予想されたとしても、躊躇しないでいただきたいと思います。

親権停止の審判の申し立てをご検討の際は、弁護士にご相談することをおすすめします。弁護士であれば、申立人であるあなたの代理人として審判に要する書類を調えることや、裁判官による審問の際に同席することが可能です。

ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスでは、子どもを虐待やネグレクトから救済するための親権停止の審判に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご相談ください。あなたと虐待やネグレクトを受けている子どものために、ベストを尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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