社内恋愛禁止を就業規則に明記したら法的に有効か? 弁護士が解説

2021年09月30日
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社内恋愛禁止を就業規則に明記したら法的に有効か? 弁護士が解説

栃木県の常用労働者数は3年連続で増加傾向にあり、令和2年は70万人を超える人が常用労働者として働いています。これから新たに従業員を採用しようとしている会社、あるいはすでに従業員を就業させている会社にとって、従業員を雇用して会社のうえでは会社のルールを定めた「就業規則」は大変重要です。

これは労働基準法で作成が義務付けられているからという理由だけではありません。会社が機能するためには、それぞれ多様な個性を持つ従業員が雇用されているうえで守るべきルールを規定することで、組織の秩序を保つ必要があるからです。

就業規則は各種法令諸規則を踏まえたうえで、会社の目的や実情に沿った形で作成する必要があります。つまり、よほど法律や社会的規範などから逸脱した不合理なものでないかぎり、厚生労働省が公表しているひな型に盛り込まれていない条項でも、就業規則に入れることができるです。

そこで話題となりやすいテーマのひとつが、「就業規則で社内恋愛を禁止できるか」ということです。今回はこのテーマについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、社内恋愛禁止を就業規則に入れ込むメリット

就業規則に社内恋愛を禁止する規定を設けている会社は、意外と多く存在しているようです。逆に、社内恋愛・結婚を推進するベンチャー企業もあるようですが、一般的ではないでしょう。

なかには、従業員同士の出会いの場になることを防ぐために、社内イベントを控えたり男女別に休憩のシフトを組んだりする会社もあるという話も聞きます。特に業態の特徴から従業員に若い女性の比率が高い会社において、その傾向が伺えるようです。

社内恋愛禁止を就業規則に入れ込む背景は、従業員の社内恋愛関係が会社の業務に対し以下のようなデメリットを及ぼす可能性があるためと考えられます。

  • 職場内で恋愛関係になると、当事者たちが互いに意識してしまうことによる、円滑な業務の推進に支障を及ぼす可能性。
  • 業務時間中であるのにもかかわらず、職場内で痴話げんかをする可能性。
  • 恋愛関係が破局したのち、人間関係に軋轢が生じてしまう可能性。
  • 上司と部下の関係にある者同士が恋愛関係になると、上司が他の部下を差別する、もしくはそう受け取られてしまう可能性。
  • いわゆる不倫関係だった場合、配偶者に発覚して離婚や相手方への慰謝料請求などトラブルを引き起こす可能性。
  • 職場結婚されると、一方が退職してしまう(せざるを得ない)可能性。
  • ひとりで複数人と付き合う社員が出れば、職場の人間関係や風紀に悪影響を及ぼす可能性。


もちろん、すべて可能性の話です。恋愛がうまくいけば、誰もが祝福する職場結婚となりますし、労働環境によっては夫婦そろって会社に貢献し続けることもあるでしょう。しかし、会社として円滑な事業を運営するためには、できるかぎり余計なリスクを減らしたいと考える経営者は少なくないようです。

2、社内恋愛を理由とした処分は、実際には難しい

では、就業規則に社内恋愛を禁止する規定を設けていたとして、それに違反した従業員を直ちに処分することはできるのでしょうか。

結論からいいますと、「難しい」といわざるを得ません。なぜなら、法解釈のひとつとして「恋愛は個人の自由」とされているからです。

たしかに、条文として「恋愛は個人の自由」を明記している法律はありません。しかし、日本国憲法第13条では「公共の福祉に反しないかぎり、国民は個人の自由と幸福を追求する権利をもつ」と定めています。また、同第24条では「両性の合意があれば結婚は自由」と規定しています。このことから、恋愛の自由は社内恋愛にかぎらず会社を含め誰も妨げることのできない個人の権利といえるのです。

就業規則は労働条件や禁止規定など会社のルールを明文化したものであり、会社で働く以上、従業員は就業規則に服することが広く世間一般に共通する基本的な考え方です。しかし、憲法をはじめとする法律の規定は、その内容が従業員にとって有利な場合は、会社の就業規則に優先します。したがって、就業規則に社内恋愛を禁止する規定を設けていたとしても無効であり、社内恋愛禁止のような無効な規定を根拠として、直ちに従業員を処分することは難しいのです。

なお、「すでに労働基準監督署に受理された就業規則なのだから、社内恋愛禁止の規定も有効なはず」とお考えになるかもしれませんが、これは誤りです。

就業規則が労働基準監督署に受理されたといっても、これは労働基準法第89条に定める「就業規則の届出義務」を会社が履行していることを確認しているだけに過ぎません。したがって、就業規則に設けた社内恋愛禁止の規定について、労働基準監督署がお墨付きを与えているわけではないのです。

3、社内恋愛に対する処分が認められる場合もある

社内恋愛にかぎらず、個人の私生活を理由とした処分をめぐり会社が従業員とトラブルになった場合、裁判所は会社側に対して、厳しい判断を出す傾向があります。

では、あまりにも奔放で風紀維持の観点からも好ましくなく、かつ社内の人間関係や業務推進に悪影響を及ぼすような社内恋愛であっても、会社は何も手を打つことはできないのでしょうか。

決して、そのようなことはありません。

労働契約法第15条では、素行などに問題のある社員を会社が処分できる「懲戒権」の行使について、「客観的に合理的な理由があり、かつ懲戒処分が社会通念上相当でなければ、権利の濫用として無効」と規定しています。

これを読み替えると、処分の対象となる従業員の素行などが就業規則に明記されていることを前提に、「客観的に合理的な理由があり、かつ懲戒処分が社会通念上相当であれば、会社は懲戒処分ができる」と解釈できます。

つまり、従業員の社内恋愛がきっかけで会社に明らかな悪影響や損失が出ていると立証することができれば、会社は当該従業員に何らかの処分を出すことができると解釈できるのです。具体的には、人事上の公私混同、恋愛相手の退職、会社の生産性の低下による損失、会社の評判や社会的地位の低下、恋愛相手に対する業務上の情報漏えいなどが考えられるでしょう。

4、社内恋愛に対する過去の判例は?

本項では、社内恋愛を理由に会社が従業員に対して出した処分が無効とされた判例、および有効と認められた裁判例を紹介します。

この2つの判例から読み取ることができるのは、社内恋愛に対する処分の妥当性は会社に悪影響を及ぼしていることが客観的に認められるか否か、なのです。

  1. (1)会社の処分を無効とした判例(旭川地裁平成元年12月27日判決)

    同社の女性従業員は、妻子がある同僚と不倫関係となりました。その事実は社内だけでなく同社の取引先にまで知れ渡ることとなり、これを重く見た同社は、「職場の風紀・秩序を乱した」ことを理由に当該女性従業員を懲戒解雇処分としました。これに対して当該女性従業員は懲戒解雇の無効を求め、同社と争いました。

    判決では、以下の事由から当該女性従業員の主張を認め、解雇を無効としています。

    • 不倫は社会的に非難される行為。当該女性従業員の不倫は、同社の就業規則にも定める「素行不良」に該当する。
    • しかし、当該女性従業員の不倫が会社の主張する「職場の風紀・秩序を乱し、会社の運営に具体的な影響を与えた」とまでは言いがたい。
  2. (2)会社の処分を有効とした判例(東京高裁昭和41年7月30日判決)

    同社のバス運転手は、妻子がある身分にもかかわらず未成年の女性バスガイドと不倫関係となり、女性バスガイドは妊娠・中絶、そして退職を余儀なくされました。これを重く見た同社がバス運転手に出した解雇処分について、その有効性をめぐり同社とバス運転手が争ったものです。

    判決は、以下の事由から同社の主張を認め解雇処分を有効としています。

    • バス運転手と女性バスガイドの不倫関係が、当該女性バスガイドの退職や他の女性従業員に著しい不安と動揺を与えたと認められる。
    • 会社の風紀維持に悪影響を与えたほか、会社の社会的地位、名誉、信用などを傷つけ、業務の正常な運営に悪影響を与えたと認められる。

5、まとめ

就業規則における社内恋愛禁止の規定についてまとめますと、以下のとおりです。

  • 社内恋愛禁止を就業規則に定めることはできる
  • しかし、社内恋愛禁止の規定は法的には無効となる
  • したがって、就業規則に定めていたとしても社内恋愛を理由に従業員を処分することは、社内恋愛が原因で会社に損失が出ていることを立証できないかぎり、基本的に難しい。


つまり、会社の風紀・秩序を維持する目的があっても、社内恋愛とはいえ個人の私生活に干渉することは難しいと考えられます。

ただし、従業員の社内恋愛が会社の業務へ明らかな支障が出ていると考えられる場合、話は別です。そのときは弁護士と協議しながら、慎重に対応を検討することをおすすめします。弁護士であれば、従業員の社内恋愛に関する問題や就業規則に関する法的なアドバイスにかぎらず、労働関連全般について会社の法的リスクを最小化するアドバイスが可能です。また、会社の代理人として裁判上の手続を行うことが可能です。

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