安全配慮義務違反にあたる行為とは? 訴訟を避けるためにすべきこと

2020年07月29日
  • 労働問題
  • 安全配慮義務違反
安全配慮義務違反にあたる行為とは? 訴訟を避けるためにすべきこと

平成28年9月15日、宇都宮地方裁判所は安全配慮義務違反を犯した建設会社に対し、約5140万円の損害賠償支払いを命じました。このように、使用者(会社や事業主)側が労働者(従業員や業務委託契約先)に対して安全配慮義務違反に該当する行為をすると、損害賠償を請求される懸念があります。

そもそも使用者は、従業員の健康と命を守るために安全配慮義務を負います。たとえば、令和元年10月に栃木県内を襲った台風でも、社員の出社および帰社と安全配慮義務違反の関連性が問題となりました。では実際に、台風が接近している渦中に出勤するように命じた結果、就業中の従業員に何らかの被害が発生した場合は、会社が訴えられるリスクはあるのでしょうか。会社として知っておくべき安全配慮義務違反の事例と対策について、宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、安全配慮義務とは?

安全配慮義務違反とは、平成20年に施行された労働契約法第5条に記された義務のことです。条文では、次のように定められています。

(労働者の安全への配慮)
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。


労働者は、企業の不手際によって命を落とすことがありえます。だからこそ、使用者は労働者が安全に働ける環境を守る努力が求められるのです。

  1. (1)安全配慮義務はあらゆる職種に関係する

    安全配慮義務は使用者の義務です。安全配慮義務と聞けば、工場や建設現場のように仕事そのものに危険が伴う職種に限った問題だと考える方も少なくないでしょう。
    しかし、長時間労働によるストレスやハラスメントによる精神的なダメージなども対象となるため、事務職を含むあらゆる職種で、危険を防ぐための取り組みが求められます。

    原則として、請負契約や委任契約をしている相手に対して使用者は安全配慮義務を負いません。ただし、請負契約でも実質的に雇用と判断される場合は、安全配慮義務が生じる可能性があります。

  2. (2)安全配慮義務違反に該当する条件

    安全配慮義務違反に該当するかは、以下の2つのポイントで判断されます。

    • 使用者が事態を予見できたかどうか
    • 使用者が事態を回避できたかどうか


    セクハラ・パワハラなど、ある従業員個人が継続的に起こしたトラブルにより他の従業員に損害が発生した場合、会社がそれを予見可能だったならば、安全配慮義務違反となりえます。

    一方で、想定外の災害や予測困難な事故については予見や回避は不可能です。東日本大震災の津波で亡くなった従業員の遺族が、安全配慮義務違反で会社を訴えた裁判でも、使用者に安全配慮義務違反はなかったとの判決が下されました。

    安全配慮義務の対象外となる事象で損害を受けた従業員は、原因となった者に不法行為責任を請求することはできますが、使用者である会社は損害賠償義務を免れます。

    たとえば、従業員同士の口論から殴り合いのけんかに発展し、障害が残る怪我を負った従業員が、加害者と会社に対し損害賠償請求をした裁判が過去にありました。この裁判では、会社に予見可能性はなく安全配慮義務も負わないとの判決が下されています。(横浜地裁川崎支部 平成30年11月22日判決)。

  3. (3)安全配慮義務違反の罰則

    安全配慮義務に違反した場合の罰則は、労働契約法には定められていません。

    しかし、安全配慮義務違反は、労働契約を果たさなかったことになるため、民法における債務不履行となります。したがって民法に則って損害賠償を請求されることがあるでしょう。その場合は、支払いに応じなければならないケースがありえます。

    ただし、労働基準法違反と異なり、刑罰に課されることはありません。

2、安全配慮義務違反にあたるケース

具体的に、安全配慮義務違反に該当するケースを見ていきましょう。
いずれも使用者による予見可能性、回避可能性がポイントです。

  1. (1)災害の中でも強制的に出社させる

    台風や地震などの大きな災害があっても従業員に出社を強いた場合、道中で従業員が怪我をしたり命を落としたりする可能性があります。

    • 水位が上昇しており川があふれる危険性があり、すでに警報が出ている
    • 土砂災害警戒区域で道路が崩れているかもしれないとき
    • 断続的に停電が発生しており、電車やエレベーター内に閉じ込められる可能性があるとき


    上記のように、危険を予見できる状況下で強制出社させることは、安全配慮義務違反になる可能性があります。

  2. (2)長時間労働を常態的に強いる

    長時間労働を状態的に強いることは、従業員の健康を損ねます。

    厚生労働省が残業時間に対し、過労死ラインの基準を定めていることからも、長時間労働は命に関わる危険があると認識すべきです。過労死ラインの目安は月に80時間以上(20日勤務で、1日あたり4時間を超える残業)とされています。脳や心臓の疾患のほか、精神疾患についても注目すべき指標として用いられているのです。

    したがって使用者は、労働基準法における残業時間の取り決め(三六協定)にのっとり、従業員の法定労働時間を守り、必要最低限の残業に止めることが求められます。

  3. (3)過重な労働を常態的に強いる

    残業時間だけでなく、労働の内容も問われます。

    ひとりでは到底達成できない仕事を課したり、明らかに向いていない仕事を強制したりした場合も、それによって発生した損害があれば、安全配慮義務違反によるものとなりかねません。たとえば、力の弱い人や妊婦に延々と力仕事をさせたり、無理な納期で仕事をさせたりすることが該当します。

    また、飲食店において深夜時間帯にひとりで店を営業させる「ワンオペ」がかつて問題になりました。法定労働時間内であったとしても、短時間に大量の業務をこなさねばならず、その結果、事故や怪我につながりかねません。これも安全配慮義務違反となりうる例です。

  4. (4)設備や備品の問題を放置している

    機器の故障や備品の破損が理由で発生した損害は、安全配慮義務違反となる可能性が高いと考えられます。たとえば、業務上で使用する設備の点検をしていない場合は、点検という安全配慮義務を怠っていたことになりえるでしょう。

    また点検の結果、補修が必要であることを認識していながら放置していた場合、損害は予見可能・回避可能であったとみなされる可能性があるのです。

  5. (5)健康診断を実施しない

    従業員に、毎年必ず健康診断を受けさせることも重要な安全配慮義務です。

    大半の会社では、就業規則で健康診断の受診を定めているでしょう。しかし、健康診断を怠り従業員の病気の発見が遅れ、損害が発生することがあります。これも会社の安全配慮義務違反になりえます。

  6. (6)劣悪な労働環境を放置する

    労働者の健康や安全を害する要因はしっかり対策しましょう。

    たとえば以下のような場合には、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

    • 熱中症の危険がある環境下で働かせている
    • 冷凍庫や冷蔵庫で長時間作業させる
    • 長時間のシフト勤務が常態化している
    • 従業員の休憩が十分に取れない
    • セクハラやパワハラがあることを知りながら放置している


    これらも、安全配慮義務違反になりかねません。

    常に「この状態を放置すると、従業員にどんな損害が出る可能性があるだろう」と想像することが重要です。

3、安全配慮義務を果たすためにできることは?

安全配慮義務違反を防ぐためには、常日頃から業務にまつわるリスクがないかチェックすることが重要です。

  1. (1)日頃からの整備点検を怠らない

    大前提として、従業員が使う道具や設備の点検は欠かせません。
    従業員の業務として、設備点検を習慣化し、壊れているものがあればすぐに修理する体制を取りましょう。

  2. (2)労務管理の徹底

    長時間勤務を避けるため、労務管理の重要性を周知しましょう。
    労働時間の管理が徹底された会社は業務の過負荷やトラブルの早期発見がしやすく、従業員の生産性アップにつながります。

  3. (3)社内相談窓口の設置・産業医との連携

    パワハラ、セクハラ、長時間残業などの社内の問題を早期に発見するために、社内相談窓口を設置しましょう。プライバシーに配慮し、人事考課に不利のないことをしっかり明記することが大事です。

    労働者が体や心の問題についてすぐに相談できる窓口として、産業医と連携することも検討すべきでしょう。

  4. (4)顧問弁護士や顧問社労士と協力する

    安全配慮に心がけた上で、法律や判例に詳しいパートナーがいることも望ましいです。
    何か問題が発生してから相談するよりも、顧問弁護士を契約することにより、継続的なアドバイスを受けることができます。

    従業員との間にトラブルが起きてからでは遅いことが少なくありません。なによりも、トラブルを未然に防ぐ体制を取ることが望ましいと考えられます。気軽に相談できる場所を作っておくことも、リスク回避のためには重要なポイントとなるでしょう。

4、まとめ

安全配慮義務とは、従業員を雇う使用者に課せられている、重要な義務のひとつです。

安全配慮義務違反を理由に、従業員から損害賠償請求をされてしまったときや、されてしまいそうなとき、顧問弁護士を探しているのであれば、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスにご相談ください。労働問題に対応した経験が豊富な弁護士が、業態・業種に適したサポートを行います。また、顧問契約であれば、利用頻度などに応じて選択できるリーズナブルなサービスを提供しています。グループ法人に所属する社労士と連携をとって対応することも可能です。まずはお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています