障害者雇用で採用されたが解雇に! これって不当解雇では?
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宇都宮市を管轄する栃木労働局が公表している資料によると、令和2年の栃木労働局管内における身体障害者、知的障害者、精神障害者の雇用数は、4847人でした。前年度の4539.5人から大幅に増加しており、過去最高の雇用数となっています。
障害者の雇用対策を定めた法律として、「障害者雇用促進法」があります。障害者雇用促進法では、障害者の特性に応じて活躍する社会の実現を目指して障害者雇用対策を進めていますので、障害者を雇用している企業も多いと思います。
障害者に対しては、雇用の場面だけでなく解雇の場面でも一般の労働者に比べて保護されている部分がありますので、解雇理由によっては、不当解雇として争うことが可能な場合もあります。
今回は、障害者に対する解雇が不当解雇となる場合についてベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、「障害者だからクビ」は違法
障害者であることを理由に解雇することは不当解雇にあたらないのでしょうか。以下では、解雇の種類と障害者の解雇について説明します。
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(1)解雇の種類
解雇には、大きく分けて「普通解雇」、「懲戒解雇」、「整理解雇」の3種類があります。
① 普通解雇
普通解雇とは、労働者側の事情によって労働契約を履行することができなくなった場合になされる解雇です。
普通解雇の例としては、以下のものが挙げられます。- 労働者の勤務成績が悪く、改善の見込みがないことを理由とする解雇
- 雇用契約で定めた能力や資格を有していないことを理由とする解雇
- 無断欠勤や遅刻・早退が多いなど勤務態度が悪いことを理由とする解雇
- 体調不良、怪我、病気などによる就業不能を理由とする解雇
② 懲戒解雇
懲戒解雇とは、労働者が企業秩序に反する重大な非違行為をした場合に、使用者が制裁としての懲戒処分として行う解雇です。懲戒処分には、譴責、戒告、降格、減給、出勤停止、諭旨解雇などがありますが、懲戒解雇は、懲戒処分の中でも最も重い処分であるといえます。
懲戒解雇の例としては、以下のものが挙げられます。- 会社の経費を流用したことを理由とする解雇
- 殺人や性的暴行など会社の信頼を大きく害する重大な刑事事件を犯したことを理由とする解雇
- 重大な経歴詐称が発覚したことを理由とした解雇
③ 整理解雇
整理解雇とは、会社の業績不振など会社側の事情を理由として行う解雇です。普通解雇や懲戒解雇とは異なり、整理解雇は、会社側の都合によって行うものですので、労働者には責任がない状況であっても解雇されることがあります。 -
(2)障害者であることを理由に解雇することは違法
障害者を雇用した場合には、解雇をしてはならないという制限はありません。そのため、障害の有無に関わらず、一定の事情がある場合には、使用者は障害者である労働者を解雇することができます。
しかし、解雇は、労働者に対して重大な不利益を及ぼす処分であることから、解雇の有効性については、厳格な要件によって判断されることが多いです。これは、障害者であっても障害者でない労働者であっても同様です。そのため、単に「障害がある」ということを理由として解雇をすることは解雇の要件を満たさず、不当解雇となる可能性が高いです。
また、整理解雇時の解雇対象労働者を選定する際に、障害のある労働者を優先的に解雇するという場合も人選の合理性がなく不当解雇となる可能性が高いです。
2、障害者雇用独自の解雇禁止ルール
労働契約法では、解雇に関する要件が定められていますが、障害者の場合には、さらに特別な解雇に関する制限が存在します。
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(1)障害者に対する差別の禁止
障害者雇用促進法35条では、障害者であることを理由として障害のない労働者との間で不当な差別的取り扱いをすることが禁止されています。
解雇の場面では、以下のような取り扱いをされると不当な差別的取り扱いと判断される可能性があります。- 障害者のみを退職勧奨の対象とする
- 障害があることを理由として解雇の対象とする
- 解雇対象者を選定する際に、障害者を先に解雇の対象とする
- 解雇対象を一定の条件に該当する労働者とする場合において、障害者のみ不利な条件を付すこと
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(2)合理的配慮に関し相談をしたことを理由とする解雇の禁止
障害者雇用促進法36条の3では、事業主に対して、障害者が職場で働くにあたっての支障を改善するための措置を講じることを義務付けています。また、障害者雇用促進法36条の4第2項では、事業主に対して、雇用する障害者からの相談に応じて適切に対応するための体制整備などの措置を講じることを義務付けています。
このような規定から、事業主には、障害者が職場における、合理的配慮に関する相談をしたと、いうことを理由として解雇を行ってはならないとされています。そして、事業主には、そのようなことを社内の労働者に周知・啓発することが求められています。 -
(3)虐待の通報や届け出をしたことによる解雇の禁止
障害者虐待防止法22条4項では、労働者は、障害者の虐待の通報や届け出をしたことを理由として、解雇その他不利益な取り扱いを受けないということが定められています。
そのため、使用者による虐待を通報した労働者だけでなく、虐待の届け出をした障害者を解雇することは禁止されています。
3、不当解雇問題を弁護士に相談するメリット
不当解雇の問題については、弁護士に相談をすることによって以下のようなメリットがあります。
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(1)不当解雇にあたるかどうかを判断してもらえる
会社から解雇を言い渡されたとしても、その理由に納得がいかなければ不当解雇を疑う方も多いでしょう。しかし、不当解雇にあたるかどうかは、解雇理由が納得できるかどうかではなく、判例を参考に、使用者による解雇が法律上の要件を満たしているかどうかという観点から判断しなければなりません。
弁護士であれば、解雇に至った経緯や解雇理由などを踏まえて不当解雇にあたるかどうかを法的観点から適切に判断することができます。そのため、解雇理由に納得ができない場合には、まずは、弁護士の判断を聞いてみましょう。 -
(2)会社との交渉を任せることができる
不当解雇を争う場合には、まずは、会社と話し合いを行い、解雇の撤回を求めていくことになります。会社と労働者では、労働者の方が、圧倒的に情報が不足している立場にありますし、解雇された労働者は、まずは生活のために再就職なども考えなければならない立場にあります。
このように時間的にも精神的にも余裕がない状態では、会社と適切に話し合いを進めることが困難です。弁護士であれば、労働者に代わって会社と交渉を行うことができますので、法的観点から解雇の無効を主張することによって、会社を説得することが可能です。 -
(3)未払いの残業代計算も可能
会社に在職中は、残業代が発生していたとしても請求することなく諦めていた労働者の方も多いと思います。不当解雇を争う場合には、未払いの残業代も併せて請求することが多いですが、残業代計算は、非常に複雑な計算になりますので、知識のない方では正確な金額を算定することができません。
弁護士であれば、残業代請求に必要となる証拠収集のアドバイスから実際の残業代計算まですべて対応できますので、これまで諦めていた残業代についても請求することが可能になります。
4、不当解雇を弁護士に相談するための準備とは
不当解雇を弁護士に相談をする場合には、以下のような準備をしておくとよりスムーズに相談できます。
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(1)解雇理由証明書の請求をする
解雇理由証明書とは、使用者が労働者を解雇した理由が記載された書面です。
労働者から解雇理由証明書を請求された場合には、労働基準法に基づいて、使用者は交付しなければなりません。
解雇理由証明書を取得することによって、どのような理由で解雇がされたかを知ることができます。解雇理由証明書は、不当解雇を争うことができるか、争う場合にはどのような主張をしていくかを検討するための大切な資料となりますので、必ず請求するようにしましょう。 -
(2)未払い残業代がある場合にはその証拠を集める
未払いの残業代がある場合には、それも併せて請求することによって、有利に話し合いを進めることができる可能性があります。そのため、タイムカード、賃金台帳、給料明細、賃金規定、業務日報などの未払い残業代請求に必要となる証拠も可能な範囲で集めておくと相談がスムーズに進みます。
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(3)就業規則を手に入れる
就業規則には、労働契約の内容である、懲戒事由や解雇事由が記載されています。そのため、就業規則は、解雇理由証明書を照らし合わせて検討することによって、不当解雇であるかどうかの判断に役立ちます。
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(4)不当解雇に至る経緯を時系列にまとめる
法律相談の時間は限られていますので、解雇に至る経緯を時間内に効率的に弁護士に理解してもらう必要があります。口頭で説明したとしても、すべてを理解することは難しく、状況がうまく伝えられなければ、適切なアドバイスを受けることもできません。
そのため、相談前に不当解雇に至る経緯をメモなどにまとめて相談時に持参するようにしましょう。
5、まとめ
障害者であっても、会社の事情により適法に解雇をされることはありますが、障害を理由としての解雇は、不当解雇であるとして無効になり得るものです。解雇理由に納得ができない場合には不当解雇の可能性もありますので、まずは弁護士に相談をすることをおすすめします。
不当解雇に関する相談をご希望の方は、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスにご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています