トラック運転手も残業代を請求できる? 方法を弁護士が解説

2020年02月12日
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トラック運転手も残業代を請求できる? 方法を弁護士が解説

運送業界ではサービス残業が常態化していることが、しばしば問題視されています。近年では、ネット通販の普及により、さらにドライバーは多忙を極めているのが実情です。常に人材不足であるため、ドライバーひとり当たりの負担も増えていると言われています。

栃木労働局労働基準部監督課が発表している「平成30年の栃木県における労働時間の現状」によると、同県内における「主要産業別の所定外労働時間」は、もっとも長いのが「運輸・郵便業」(270時間)。次いで、「製造業」(194時間)、「建設業」(149時間)となっており、県内の全産業平均(131時間)より長くなっています。

トラックで長距離を移動するという業務の性質上、労働時間が平均よりも長くなりがちなのは、仕方がない部分もあるかもしれません。問題なのは、過酷な長時間労働に見合った正当な対価が、きちんと支払われていないケースが非常に多いということです。

労働法や過去の判例について正しい知識を身につければ、ご自分の身を守ることができるかもしれません。宇都宮オフィスの弁護士が、わかりやすく解説します。

1、トラック運転手も残業代を請求できる?

  1. (1)歩合制は? 荷待ち時間は? トラック運転手ならではの問題

    運送会社の中には、労働基準法をきちんと守っていないいわゆるブラック企業も少なからず存在しています。
    労働基準法とは、労働者を守るために作られた法律のこと。労働者と雇用主の関係においては、どうしても労働者の方が弱い立場に置かれてしまう傾向があります。そのため、労働者が安全な環境で健康的に働くためのルールを特別に定めているのです。

    これまで日本の労働者は他の先進国に比べて立場が弱いと言われてきましたが、過労死やパワハラ・セクハラなどの深刻な事件が相次いで発生したことを受けて、日本社会も少しずつ変わりつつあります。
    2019年4月1日からは改正労働基準法が施行され、残業に関するルールもより厳しいものになりました。今後はさらに、労働者を過酷な労働から守る社会へと変わっていくことが期待されます。

    さてここからは、トラック運転手ならではの労働トラブルについて解説していきます。
    サービス残業が多いと言われている運送業界ですが、中には「うちは歩合制なので残業代を別途払わなくてよい」「荷待ち時間は休憩時間なので残業の対象外」などと主張する悪質な会社も存在しています。
    しかし過去の判例によると、これらの主張はいずれも法律的に認められない可能性があります。

    まず一つ目の歩合制ですが、歩合給の中に残業代を含める場合には、“基本賃金と残業代が明確に区別されている必要”があるとされています。いわゆる“どんぶり勘定”は、許されないということです。

    最高裁平成6年6月13日判決では、歩合給制のタクシー運転手のケースについて「歩合給が時間外及び深夜の労働に対する割増賃金を含むものとはいえない」と判示しました。
    その理由として、残業や深夜労働をした場合にも歩合給が増額されず、基本賃金と時間外および深夜の割増賃金に当たる部分とが明確に判別できなかったことが挙げられています。

    歩合制はあくまでも「成果に応じて報酬が支払われる制度」であって、「勤務時間の長さ・時間帯に応じて支払われる」割増賃金(残業・深夜労働・休日出勤など)とはまったく性質が異なります。
    経営者としては、成果も残業も「特別に頑張った分」とザックリ表現してなんとかごまかしたいところなのでしょうが、判例では許されていません。

    あなたの勤務先の歩合制について「おかしいな」と思うことがあれば、まずは弁護士にご相談ください。割増賃金が明確に区別されていると言えるのかどうか、弁護士が判断します。

    次に、荷待ち時間の問題です。トラック運転手にとって、集荷場で荷待ちをすることも業務の一環です。他のトラックが荷物を積み込んでいる間、車の中で待機しなければならないのです。
    といっても、荷待ちの間は車から自由に離れることはできませんし、自分の番が回ってきたらすぐに対応しなければなりません。実質的に、勤務先の指揮命令下に置かれていることになります。
    にもかかわらず、この時間を「休憩時間」としてカウントすることで支払う賃金を減らそうとするブラック企業も多いのです。

    しかし、田口運送事件(平成26年4月24日横浜地裁相模原支部判決)ではこのような主張を退け、「荷待ち時間は労働時間である」と判断し、未払い賃金や付加金(制裁金)など約計4200万円の支払いを命じました。
    理由について、裁判官は「出荷場は、運ばれてくる荷物から担当の荷物を見つけなければならず、積んだ後も冷凍機管理などでトラックを離れられない」と説明しています。

    もし本当に休憩時間であるのなら、自分の好きな場所に行って昼寝をしたり動画を視聴したりしていても、まったく問題ないはずなのです。
    しかし荷待ち時間の場合、そのような自由な過ごし方はできません。このように“自由に移動できない、自由な過ごし方ができない”場合は、実質的に労働時間ということになります。

  2. (2)「1日8時間・週40時間」が基準! 残業代の基礎知識

    冒頭ではトラック運転手ならではのケースから解説しましたが、ここで働く人全体に当てはまる残業の基礎知識を押さえておきましょう。

    労働基準法に定められている、労働時間の限度は「原則として1日8時間・週40時間」「休日は週1日以上」(労働基準法第32、35条)。この基準を「法定労働時間」と呼んでいます。

    「法定労働時間」を超えて労働者を働かせるためには、あらかじめ労働者と使用者の間で 「36協定(さぶろく協定)」を締結して、「時間外労働」について合意しておかなければなりません。
    この「36協定」に基づき「時間外労働」をさせる場合にも、使用者は労働者に対し以下の「割増賃金」を支払う義務を負っています。

    • 時間外労働(1日8時間・週40時間以上)……1時間当たり賃金の1.25倍以上
    • 1か月60時間以上の時間外労働……1時間当たり賃金の1.5倍以上 ※
    • 深夜労働(22時~翌日5時まで)……1時間当たり賃金の1.25倍以上
    • 法定休日労働(週1日)……1時間当たり賃金の1.35倍以上

    ※中小企業は2023年4月1日から適用


    以上が本来支払われるべき割増賃金の一覧ですが、もし会社がその支払いを逃れようとした場合、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」を科されるだけでなく、労働者に対して最終的には「付加金」と「遅延損害金」というペナルティーも支払わなければならない可能性もあります(訴訟に発展した場合)。
    「付加金」は、未払い残業代と同額です。「遅延損害金」は、在職中は年利6%、退職以降は年利14.6%となっています(賃金の支払いの確保等に関する法律第6条)。

    未払い残業代自体の額はそれほど大きく見えなくても、上記のような「付加金」「遅延損害金」を合計すると、かなりの金額に膨れ上がる可能性があります。 ですから「手続きが大変そうだから」と早々に諦めてしまうのは、もったいないかもしれません。

  3. (3)残業代の消滅時効は2年! しかし今後3年、5年に延長の見込み

    注意すべき点としては、消滅時効の短さがあります。未払い残業代を請求できるのは、現行法では「本来支払われるべきだった給料日」から2年です(労働基準法第115条)。それより前は、請求できなくなってしまいます。

    しかし、2020年の民法改正にともない、今後は3年、5年と段階的に延長される見込みです。
    2020年の民法改正では、「労働者の賃金請求権の消滅時効は1年」とする短期消滅時効の規定を削除し、すべての債権の消滅時効が一律で「行使できると知った時から5年」または「行使できる時から10年」になります。

    今までは、「1年」という民法の厳しすぎるルールを“労働者保護のため特別にゆるくして”、労働基準法で「2年」に延長していたという経緯がありました。
    と言いますのも、民法は社会全般の出来事に対応するために大昔に作られた原則的なルールであり、一方労働基準法は労働という“特殊な条件”に合わせて作られた民法の特別ルールです。

    民法の規定をそのまま現代社会の労働者に適用すると酷である場合、労働基準法によって民法の基準を緩めることで、労働者保護を図るという仕組みなのです。

    民法の消滅時効が5年になったのに、労働基準法が2年のままでは、本来の趣旨から逸脱してしまいます。
    いきなり5年に延長すると企業側への負担が重くなりすぎて混乱を招くおそれがありますので、まずは3年から少しずつ延長していくことになるようです。

2、トラック運転手の残業代の計算方法

まず1時間あたりの賃金を計算し、それに残業時間と割増率をかけます。

1時間あたりの賃金=基準賃金÷月平均所定労働時間
残業代=1時間当たりの賃金×残業時間×割増率(1.25%)


歩合制の場合は、歩合給のみ以下の方法で計算して、最後に固定給と合計することになります。

1時間あたりの賃金=歩合給÷総労働時間
残業代=1時間あたりの賃金×残業時間×割増率(0.25%)


残業時間が月60時間以上の場合(大企業は1.5%)、休日出勤をした場合(1.35%)、深夜労働(1.25%)をした場合についてはそれぞれ異なる割増率が適用されますので注意してください。
計算が難しければ、弁護士に相談されることをおすすめします。正しい金額を算出することが可能です。

3、残業代を請求する基本的な手順

  1. (1)まず証拠を集める! 難しければ弁護士に相談を

    未払い残業代を請求しようと思い立ったら、まずはサービス残業をしてきたことを証明する証拠をなるべくたくさん集めることが大切です。

    たとえば、タイムカード、給与明細、雇用契約書、就業規則、タコグラフ、車両無線の履歴、車載カメラの記録、アルコール検知記録、高速道路の利用履歴、業務日誌、シフト表、自主的に記したメモ・日記、メールの送信履歴などです。

    証拠を集めるのが難しい場合は、弁護士にご相談ください。うまく証拠を集める方法や、少ない証拠から残業代請求をする方法などをアドバイスします。

  2. (2)内容証明郵便を会社に郵送し、まずは裁判外で交渉をする

    証拠をもとに未払い残業代の金額を計算したら、内容証明郵便を勤務先に郵送して、未払い残業代を支払うよう交渉します。

    内容証明郵便とは、「誰が誰に対していつどんな内容の文書を郵送したのか」を郵便局が証明してくれるというもの。この文書自体に法的拘束力はありませんが、裁判では有力な証拠として用いられています。

    内容証明郵便は、ご自分でも送ることができますが、できれば弁護士に作成・送付を依頼することをおすすめします。弁護士は内容証明郵便の作成にも慣れていますし、弁護士名義の内容証明郵便の方が、こちら側の“戦う姿勢”を示すことができるため、勤務先に与える心理的プレッシャーが大きくなると考えられるからです。

    内容証明郵便を受け取ったら、企業側も「そんな文書は受け取っていない」と主張することができません。何らかの形で、反応を示してくることがほとんどです。
    (元)従業員と労働トラブルでもめているという噂が広まったら、ダメージを受けるのは企業の方です。最近ではブラック企業に対する世の中の視線も厳しくなっていますから、裁判沙汰を避けるために和解を持ち掛けてくることも期待できるかもしれません。

    企業側の譲歩を巧みに引き出す交渉術も、弁護士のテクニックの一つです。自力で交渉しようとすると企業側の弁護士にまるめ込まれるおそれもありますから、できる限り最初から弁護士に依頼しましょう。

  3. (3)会社が交渉に応じない場合は労働審判・訴訟を申し立てる

    それでも企業側が交渉に応じない場合は、労働審判を申し立てることになるかもしれません。労働審判とは、裁判官1名と労働審判員2名から成る労働審判委員会が労働紛争についての審判を下す手続きです。
    裁判に比べて短く、原則3回以内(2~3か月)で審理が終了します。原則として非公開ですので、もめていることを公に知られにくいというメリットもあります。

    未払い残業代の支払いを命じる旨の審判が下され、その審判が確定すると、会社の財産に強制執行をかけることもできるようになります。
    なお、審判の結果について、どちらかが異議申立てをしてきた場合には、通常の訴訟手続に移行します。

4、残業代の請求は弁護士に相談を

未払い残業代は、自力で交渉するよりも弁護士に一任した方が成功する確率が高いでしょう。
たった2年(2020年から3年に延長見込み)という短い消滅時効に追われながらの請求手続は、迅速かつ正確に行われなければなりません。

未払い残業代を始めとする労働トラブルの実務経験が豊富な弁護士であれば、消滅時効についても考慮しながら、依頼人の利益を第一に考えて行動します。
弁護士には豊富な法律知識と実務経験がありますから、企業に対してきちんと法的根拠を示しながら、労働者としての権利をあなたの代わりに主張してくれます。

労働審判や訴訟に発展した場合にも、訴訟代理人としてあなたのために戦ってくれます。
専門家に守られているという安心感があるため、自力で戦う場合に比べて精神的なストレスがかなり軽減されるでしょう。

5、まとめ

勤務先が歩合制を採用している場合でも、「基本賃金と残業代が明確に区別されていない」場合は残業代を別途請求できる可能性があります。
「1日8時間・週40時間以上」働いているトラック運転手の方は、勤務先が“残業代逃れ”をしていないかどうか、一度確認してみましょう。

いざ未払い残業代を請求するとなったときに重要なのは、やはり証拠です。
手持ちの証拠で請求できるかどうか悩んだら、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスまでお気軽にお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています