強制的なサービス残業分の賃金を取り戻したい! 請求する方法とは

2020年04月15日
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強制的なサービス残業分の賃金を取り戻したい! 請求する方法とは

平成30年2月、労働者12人に100時間を超える違法な時間外労働をさせたとして、食品製造業の法人とその社長が労働基準法第32条(労働時間)違反容疑で書類送検されたという報道がありました。2回にわたり労働基準監督署による指導を受けましたが改善がみられず、書類送検に至ったようです。

このように、労働時間管理がずさん、またはサービス残業という悪しき慣習が残っている会社は、まだまだ存在するようです。労働した時間通りの賃金支払いを行わないのは、れっきとした法律違反です。支払いを会社に求めたいという方のために、残業代請求を行うための手順や必要な証拠について宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、労働時間と残業の基本的なルール

労働基準法第32条では、1日の労働時間を8時間まで、1週の労働時間を40時間までと定めています。

ただし、労働基準法第36条により、時間外労働・休日労働協定を締結し、労働基準監督署長に届け出ることを要件として、法定労働時間を超える時間外労働および休日労働を認めています。いわゆる「36協定」と呼ばれるものです。

この「36協定」は、過半数の労働者または労働組合の合意を得る必要があります。時間外労働を無制限に認めるものではなく、最小限にとどめるべきものという趣旨を十分意識した上で労使が締結すべきものです。

また、時間外労働・休日労働には割増賃金の支払いが必要です。時間外労働の割増率は25%以上、休日労働の割増率は35%以上が原則です。
割増賃金を含め、残業代を支払わない場合は、労働者は未払いとなっている残業代を請求することができます。

2、未払いの残業代を請求するには

条件に当てはまるのに、適切な残業代が支払われていない場合、請求すれば残業代が支払われる可能性があります。

なお、令和2年4月から施行される改正民法では、お金の支払いの請求権が消滅する時効を原則5年に統一しました。そのため、労働基準法に定める未払い賃金請求期間が2年のため、改正民法より短くなっているのが問題とされていますが、厚生労働省は当面の間は未払い賃金の請求期間を「3年」とすることで合意しています。

  1. (1)残業代を請求できるケース

    以下のようなケースは、請求すれば残業代が支払われる可能性が高いでしょう。

    ●労働時間の記録に偽装がある
    タイムカードを押してから残業するように命じられるケースや、勝手に残業時間の上限を規定し、それ以上の残業には支払いをしないケースも該当します。また、残業時間の端数切り捨ても認められていません。日々それが積み重なると無視できない金額となります。

    ただし経理業務の簡素化などを目的として1か月で30分未満の切り捨ては認められます。

    ●フレックスタイム制など制度を理由に残業代を支払わない
    フレックスタイム制を導入している場合でも、総労働時間が決められているため、それを超えた労働には残業代の支払いが必要です。

    また年俸制やみなし労働時間制においても、法定労働時間を超えた場合は、残業代が年俸に含まれる条件を満たさない限りは支払い義務が生じます。また持ち帰り残業も上司の指示のもとに行われ、自宅でしなくてはいけない正当な理由がある場合は、請求できるケースもあります。

  2. (2)残業代の請求が難しいケース

    一方で、会社側に残業代を請求するのが難しいケースもあります。

    ●残業代があらかじめ含まれた雇用体系の場合
    前述したように、みなし労働時間制や年俸制においても、法定労働時間を超えた分に関しては請求が可能です。しかしながら、あらかじめ基本賃金に含まれている時間分の請求はできません。
    雇用契約書などを見て、月に何時間分の残業代が含まれているのか確認が必要です。

    ●管理職の場合
    管理監督者、つまり部長や課長などの管理職は会社側の立場とみなされ、残業代を請求できないことが往々にしてあります。
    ただし管理監督者とは、主に以下の条件を満たしていることが必要であり、実態に即して判断されます。

    • 業務を指示・管理する権限を与えられ重要な職務についている
    • 出勤、退勤時間に関して会社から制限を受けない
    • 地位に相当する賃金が支払われている


    この条件を満たしていない「名ばかり管理職」であるならば、残業代を請求できる可能性があります。

  3. (3)労働者側から残業代を請求するには証拠が必要

    会社側に残業代を請求する場合、以下のような明確な証拠を提示する必要があります。

    ①残業の事実を証明する資料

    • タイムカード、出勤簿、勤務管理表、日報などの控えなど
    • 交通機関で通勤している場合はICカード定期の通過履歴、タクシーなどを利用した場合は領収書など
    • 会社のメールからの送受信履歴など


    また勝手に残業をしていたと捉えられないために、残業指示書や指示内容のメモといったものも有効です。日記などに出退勤時間を書いてあれば備忘録として有効です。ただし、走り書きなど鮮明でないものは証拠とならないこともありますので注意が必要です。

    ②請求する残業代を計算するための資料

    • 雇用契約書もしくは労働契約書
    • 就業規則など残業の支払いに関しての記述がある書面


    ③残業代が支払われていないことを証明する資料

    • 給与明細など


    ④労働審判を起こす場合に必要な資料

    • 会社の登記簿謄本など

3、残業代請求の4つの手段

労働者が会社に残業代請求を行うには、4つの手段があります。それぞれの手続きについて解説します。

  1. (1)労働者から会社側への直接請求

    会社側に労働者から直接申し入れをする方法です。
    書面に具体的な要求内容や実際の労働時間の提示、雇用契約書などに基づき計算した残業額などをまとめて提出します。以下のような項目を記載するとよいでしょう。

    • 残業代を請求する会社名および住所
    • 残業代を請求する労働者の氏名および住所
    • 雇用契約の詳細
    • 残業を行った事実および未払いの事実
    • 上記を証明する証拠を保有していること
    • 未払いの残業代
    • 会社への請求額および支払期限、支払口座など


    直接請求に応じてくれない場合は、内容証明郵便などで再度意思表示をするのもひとつの方法です。

  2. (2)労働基準監督署への相談

    残業をしていた事実が明確であるなど証拠がそろっている場合で、会社が労働者からの請求に応じない場合は「労働基準監督署」に相談するのが有効です。厚生労働省管轄の公的機関であり、無料で相談できます。栃木県内では、宇都宮、足利、栃木、鹿沼、大田原、日光、真岡に設置されています。詳しくは役所などに問い合わせてください。

    相談・聞き取りの結果、問題があると判断された場合は労働基準監督署から会社側に指導や勧告がなされるケースもあります。会社側には匿名で相談をすることも可能ですが、その場合は労働基準監督署の調査に限界が生じる可能性があります。なお、労働基準監督署は会社側に指導や勧告は行えますが、裁判ではないので支払いの強制や遅延損害金などの請求までは行うことができません。

  3. (3)労働審判を行う

    労働基準監督署の指導にも会社側が応じない場合、「労働審判」を起こすという手もあります。労働審判とは、地方裁判所に申し立てる個別労働関係民事紛争で、労働審判委員会が労働者と会社双方の言い分を聞き、審理を行います。

    訴訟と比べて費用が安く、基本的に3回以内の審理で完結し、2~3か月程度で迅速に解決できるというメリットがあります。労働審判委員会は、労働審判官として裁判官1名、労働関係の専門知識や経験を有する労働審判員2名から構成されます。

  4. (4)民事訴訟を起こす

    労働審判でも解決しない場合は、民事の通常訴訟へと移行します。証拠の提示や主張を行う必要があるため、弁護士に依頼するのが賢明でしょう。

    なお、裁判にかかる期間は、場合によっては年単位の月日がかかる可能性があります。それでも労働審判の結果は訴訟に引き継がれますので、最初から民事訴訟をするよりも期間も短縮される傾向にあるようです。先に労働審判を起こすメリットのほうが大きいでしょう。

4、残業代未払い交渉を弁護士に依頼するメリット

残業代未払い交渉の席に会社側がスムーズについてくれるケースはさほど多くありません。あなたに代わって弁護士が会社との交渉を担うことで、早期解決が望めるでしょう。

また労働審判や民事訴訟に持ち込む場合、一個人と会社とでは、立場や力関係が大きく違います。会社によっては顧問弁護士がいるでしょうし、過去にも訴訟経験があれば会社側の言い分を通す対処法を把握している可能性もあります。

労働者側も弁護士を立てることで、法的に有効な証拠提示、法的根拠による立証能力において、まずは同じ土俵に立つことができます。弁護士に依頼することにより、残業代を支払ってもらえる可能性を高めることができるでしょう。

5、まとめ

サービス残業は違法であるにもかかわらず、会社との関係を悪化させたくないなどさまざまな理由で泣き寝入りしているケースも見受けられます。しかし、労働者の権利として正当な残業であれば残業代の請求は可能です。過去の判例でも、正当な証拠さえあれば会社側に支払いを命じる判決が下るケースが多いといえるでしょう。

会社からの未払い残業代を請求したい方は、ベリーベスト法律事務所・宇都宮オフィスにお問い合わせください。3年の時効を超えないためにも、証拠集めから労働審判、訴訟に至るまで適切なサポートを行います。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています