かけ子は捕まらないって本当? 逮捕される可能性と逮捕後の流れ
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令和5年2月、宇都宮市の男が特殊詐欺の「受け子」を行ったとして詐欺罪で起訴されたという報道がありました。特殊詐欺はグループによって敢行される犯罪です。いくつかの手口があるなかで、オレオレ詐欺や還付金等詐欺などの「振り込め詐欺」と呼ばれるものでは、グループ内で役割分担がなされています。
なかでも「かけ子は捕まらない」という言説があるようですが、実際は異なります。たとえ海外に拠点を置いていたとしても国際手配されて逮捕される可能性があります。実際に令和6年9月、海外に潜伏していたかけ子の男が逮捕されたという報道がありました。
本コラムでは、特殊詐欺の役割のひとつである「かけ子」に注目し、かけ子が問われる犯罪や刑罰、実際の手口や逮捕後の流れについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、「かけ子」とは? 特殊詐欺グループの構造
まずは特殊詐欺とはどのような犯罪なのか、「かけ子」とはどのような役割なのかを確認しましょう。
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(1)特殊詐欺とは
特殊詐欺とは、電話・電子メール・はがきや封書といったツールを用いて、親族や公的機関の職員などを名乗り被害者を信じ込ませて、現金やキャッシュカードをだまし取る犯罪です。
旧来の詐欺は、被害者の信用を得て言葉巧みに財産をだまし取るというものでした。
結婚詐欺・不動産詐欺・寸借詐欺などは、従来型詐欺の典型でしょう。
特殊詐欺が旧来型の詐欺と大きく違うのは、ほとんどの犯行がほぼ非対面で行われるところにあります。
電話をかけて息子だと思い込ませる、公的機関からの郵送物だと信じ込ませるといった方法で被害者をだまし、指定した口座に振り込ませる、レターパックなどを利用して郵送させることで金銭交付を受けるのが特殊詐欺の代表的な手口です。 -
(2)特殊詐欺グループで登場する役柄
特殊詐欺は複数人のグループで行われます。
グループのメンバーにはそれぞれ役柄が与えられ、各自がその役割を果たすことで詐欺行為をします。
主な役柄は次のとおりです。
●首魁(しゅかい)
特殊詐欺を計画・実行する主犯格です。だまし取った現金は首魁のもとに集まり、最終的には暴力団組織への上納金などに使われます。そのため、首魁は暴力団組織の構成員や周辺者であるケースがあります。
●かけ子(かけこ・掛け子・架け子)
被害者に電話をかける役柄です。親類や公的機関を名乗って被害者をだます役割を果たし、コールセンターのようなマニュアルに沿って行動します。
●受け子
被害者の自宅などに出向いて、現金やキャッシュカードを受け取る役柄です。特殊詐欺の犯行のなかで唯一、被害者の目の前に現れて素顔をさらすことになる危険な立場で、未成年者や無職者など、お金に困っている人がアルバイト感覚で請け負ってしまうケースが増えています。
●出し子
被害者が振り込んだお金を口座から引き出す役柄です。やはり「簡単なアルバイト」「指定された場所に荷物を運ぶだけ」といった謳い文句で一般の人が巻き込まれるケースが目立ちます。 -
(3)かけ子の位置づけ
特殊詐欺グループのなかでも、かけ子は「被害者をだます」という欺罔行為をするという役割を担うため、受け子・出し子よりも格上として扱われることが多いようです。
上手くだませた場合は受け子・出し子を手配する流れになるので、首魁に近い人物と接触する機会も増えてきます。
受け子・出し子は「言われたとおりに動いただけ」「詐欺だとは知らなかった」という言い訳がある程度は通用するかもしれませんが、かけ子になるとそうはいきません。
詐欺罪の構成要件のなかでも特に重要な「欺罔(ぎもう)行為」を行った張本人であるため、被害者からお金をだまし取ろうという悪意が認められやすくなります。
つまり、受け子・出し子としてグループに加わっていた場合よりも、犯情が重く評価され、処断される可能性があると考えておくべきです。
2、かけ子で問われる罪
特殊詐欺のかけ子は、どのような罪に問われて、どの程度の刑罰を受けるのでしょうか?
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(1)詐欺罪に問われる
かけ子に適用されるのは、刑法第246条の「詐欺罪」です。
実際に金銭を手にするのは受け子や出し子であったり、だまし取った現金はかけ子の手には渡っていなかったりするので「電話をかけただけでは詐欺罪にならないのではないか?」と考えてしまう方がいるかもしれません。
しかし、特殊詐欺のようにグループ内の複数人が協力してひとつの犯罪を遂行した場合は、それぞれが役割を分担していた場合、「共同正犯」(刑法第60条)となります。
刑法第60条では、2人以上が共同して犯罪を実行した場合を「すべて正犯とする」と定めているため、たとえかけ子として犯行の一部にしか関与していないとしても、重要な役割を演じているため、罪を免れることは困難です。
また、役所の職員などをかたって「還付金が支給されるのでATMからお金を振り込んでほしい」と、相手に指示を出して振込作業を行い、金銭を振り込ませる「還付金等詐欺」のような場合は、詐欺罪ではなく刑法第246条の2に規定されている「電子計算機使用詐欺罪」に問われる可能性があります。 -
(2)犯行が失敗しても詐欺未遂として罰せられることがある
詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪は、たとえば被害者がウソを看破して、お金を受け取れず犯行が未遂に終わった場合でも、お金をだまし取られる危険は発生していることから、犯行に着手していると認められ、罰せられる可能性があります。
刑法第250条は、詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪などについて「この章の罪の未遂は罰する」と規定しています。
先に紹介した事例のように、金銭をだまし取る前に警察に確保されてしまった場合でも、やはり未遂罪として罪を問われることになるのです。 -
(3)逮捕されて身柄の拘束を受ける可能性が高い
前述のとおり、かけ子がかかわる詐欺事件の多くが大規模な犯罪組織のもと行われるケースが多い傾向があります。
そのため、たとえ知人から紹介されて断れなかったというケースや、組織の末端だと主張したとしても、ある程度組織とのつながりを想定されたうえで、取り調べを受けることになります。この場合、証拠隠滅や組織の仲間と連絡を取り合うことを懸念することから、多くのケースで逮捕や勾留など、一定期間身体の拘束を受けることになるケースがあるでしょう。
逮捕や勾留は、たとえ未成年者であっても、14歳以上であれば行われる可能性があります。
3、かけ子として逮捕された後の流れ
特殊詐欺のかけ子として逮捕されてしまうと、どのような事態になるのでしょうか?
刑事手続きの流れを確認しましょう。
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(1)逮捕による身柄拘束
警察に逮捕されると、その時点で直ちに身柄を拘束され、自由な行動が大幅に制限されます。
自宅へ帰ることも、会社や学校に通うことも困難になります。警察の留置施設に身柄を置かれ、警察官による取り調べを受けることになります。
警察段階における身柄拘束の限界は、逮捕から48時間です。 -
(2)検察官への送致・勾留請求
警察の逮捕から48時間以内に、被疑者の身柄と関係書類が検察官に引き継がれます。この手続きを「検察官送致」といい、ニュースなどでは「送検」と呼ばれます。
送致を受けた検察官の持ち時間は24時間です。制限時間内に検察官自らも取り調べを行い、起訴すべきか、不起訴とするのかを判断します。
ただし、逮捕から数日しかたっていない段階では、起訴・不起訴を判断する材料が足りません。そこで、さらに取り調べ・捜査を進めるために、検察官は、被疑者の身柄拘束をさらに行う手続きをとることがあります。これが勾留です。
検察官が、裁判官に対して、被疑者の逮捕後の身体拘束を認めるよう求める手続きを「勾留請求」といいます。令和5年版の「犯罪白書」によると、令和4年に詐欺事件を起こし警察などで逮捕されたまま身柄付送致されたり検察庁で逮捕されたりした被疑者の99.4%が勾留請求を受けています。その後、裁判官が勾留を認めた件数は7937件、却下された件数はたったの43件です。
このような状況を考えると、かけ子や受け子として逮捕されると勾留を受ける可能性があると考えるべきでしょう。 -
(3)最長20日間の勾留
裁判官が勾留を認めると、まず勾留請求から10日間を限界として身柄拘束が継続します。
勾留期間中の身柄は警察に戻され、検察官の指揮を受けながら警察官が取り調べ・捜査を進めます。
10日間で捜査が遂げられない場合は、さらに10日間までの延長が可能です。つまり、勾留を受けると最長で20日間までの身柄拘束を受けることになります。
逮捕から勾留請求までの時間を加えると、逮捕後の身柄拘束の上限は23日間です。 -
(4)起訴・不起訴の決定
検察官は、勾留期限が満期を迎える日までに起訴・不起訴を決定します。
刑事裁判で罪を問うべきと判断された場合は起訴され、被告人として判決言い渡しの時点まで、今度は起訴後勾留として、さらに勾留を受けます。一方で、刑事裁判を提起する必要がないと判断された場合は不起訴処分となり、釈放されることになります。
不起訴処分が下されると、即日で釈放されます。刑事裁判が開かれないため、刑罰が下されることも、前科がつくこともありません。
お問い合わせください。
4、かけ子として逮捕されたら直ちに弁護士を選任するべき
特殊詐欺のかけ子として逮捕された場合は、直ちに弁護士を選任してサポートを受けましょう。
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(1)被害者との示談交渉を一任できる
弁護士を選任することでまず期待できるのが、被害者との示談成立です。法廷の外や留置施設の外で被害者と話し合い、謝罪のうえで被害弁償や、示談金の支払い、さらに被害者の許しを請います。
被害者との示談が成立すると、被害者が「犯人を罰してほしい」と望む意思が弱まったと評価され、不起訴処分や執行猶予の獲得、刑罰の減軽が期待できるでしょう。
特殊詐欺への社会的な批判は強まる一方なので、示談成立をもって確実に刑罰を回避できるわけではありませんが、謝罪と弁済を尽くしているという事実が加害者にとって有利な事情としてはたらくといえるでしょう。 -
(2)主犯格ではないことを主張できる
かけ子は特殊詐欺の犯行において「被害者をだます」という重要な役割を担っています。
「詐欺だとは知らなかった」「だますつもりはなかった」と否認しても、検察官や裁判官がその主張を認めてくれる可能性は低いでしょう。
ただし、首魁を頂点とした特殊詐欺グループのピラミッドに照らせば、かけ子は上位の存在とまでは言い切れません。首魁と会ったこともない、連絡役の電話番号を知っているだけで本当の名前も知らされていないまま、グループの一員として犯行に加わっていたというかけ子も少なくないのです。
主犯格ではなく、首魁や指示役に従うだけの従属的な立場であることが判明すれば、刑罰や処分が軽い方向に傾く可能性があります。「主犯格ではない」と主張するためには、客観的な証拠が必要です。弁護人を選任して、有効な証拠の精査と適切な弁護を受けてください。
5、まとめ
特殊詐欺の一連の犯行のなかでも「かけ子」は被害者に電話をかけてだます重要な役柄なので、強い非難を受ける立場であることは避けられません。
逮捕から起訴までの間に最長23日間にわたる身柄拘束を受けるだけでなく、初犯であっても実刑判決が下されて刑務所に収監されるおそれがあるので、直ちに弁護人を選任してサポートを依頼しましょう。
かけ子として特殊詐欺に加担していたので逮捕されるかもしれない、家族がかけ子として逮捕されてしまったなどでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスにご相談ください。
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