処分保留で釈放とは? 弁護士が不起訴との違いや再逮捕の可能性を解説

2021年06月24日
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処分保留で釈放とは? 弁護士が不起訴との違いや再逮捕の可能性を解説

令和2年6月、宇都宮地検が長男に暴行を加えて死亡させた疑いがある男を処分保留で釈放したという報道がありました。悲惨な虐待事件として逮捕が報じられただけに「釈放された」というニュースに驚いた方も多かったはずです。

世間をにぎわす事件のニュースは、その後、加害者がどのような処分を受けたのかにも注目が集まるものです。実刑判決が下された、執行猶予がついた、無罪が確定した、不起訴処分となったなど、さまざまな結果がありますが、しばしば「処分保留で釈放された」と報じられることがあります。

本コラムでは「処分保留で釈放」とはどのような状態なのか、釈放されたあとでも再び逮捕されて刑罰を受ける可能性はあるのかについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、「処分保留」とはどのような措置なのか

まずは「処分保留」とはどのような措置なのかを確認しておきましょう。

  1. (1)処分保留とは

    刑事事件を起こして逮捕されると、警察段階で48時間以内、検察官の段階で24時間以内の身柄拘束を受けたうえで、さらに最長20日間の勾留を受けることになります。

    検察官は、勾留が満期を迎える日までに被疑者を起訴するか、または釈放しなければなりません。つまり、検察官にとって捜査のタイムリミットは「送致を受けたときから24時間プラス最長20日間」です。

    ところが、事件の内容や捜査の態勢によっては、タイムリミット一杯を使っても起訴・釈放を判断できないことがあります。だからといって「まだ捜査が終わっていないのでさらに身柄拘束を延長したい」と裁判所に申し立てても、20日を超える勾留は認められません。

    そこで検察官は「処分を保留する」と一応の判断を下します。これが「処分保留」と呼ばれる手続きです。

    処分保留となれば、勾留の効力があるうちに起訴しなかったことになり、身柄拘束が解かれます。「処分保留で釈放された」とニュースなどで報道されるまでには、以上のような手続きの流れがあるようです。

  2. (2)処分保留を受けるタイミング

    検察官が処分保留とするのは、被疑者の勾留期限が迫っている状況であることが多いです。

    初回の請求で原則10日間、延長請求によってさらに最長10日間の勾留が認められるので、処分保留となるのは次の2つの時点が多いようです。

    • 勾留決定から10日が訪れるタイミング
    • 勾留決定から20日が訪れるタイミング


    勾留期限までの日数が十分に残っている段階で検察官が処分保留を下すこと多くはありません。検察官は、勾留期限を初回の迎えるにあたり処分をするために決済を受ける必要があるため、勾留後に処分保留となるのは期限当日の10日目から2日ほど前、延長後では期限当日の20日目から2日ほど前になると考えておくべきでしょう

  3. (3)処分保留と「不起訴」の違い

    処分保留と類似した処分に「不起訴」があります。

    不起訴とは検察官が「刑事裁判を提起しない」と判断したときに下す処分です。容疑が完全に晴れた、有罪を証明できる証拠がそろわないなど、さまざまな事情を考慮して刑罰を求める必要がなくなったなどの状況があると、不起訴処分が下されます。

    処分保留と不起訴処分は、どちらも勾留が満期を迎えるタイミングで下されることが多いため混同しやすいでしょう。「身柄拘束が解かれる」という面に注目すれば効力は同じように感じられます。

    ただし、処分保留が「起訴・不起訴の判断を保留する」という処分であるのに対して、不起訴は「起訴しない」という処分だという点に決定的な違いがあります。不起訴が下された場合、検察官が起訴しないので刑事裁判には発展せず、刑罰を受けることも前科がついてしまうこともありません

    これに対し、処分保留となった場合は検察官が釈放したあとに取り調べを実施し、あとに起訴することも全くないわけではありません。処分保留と不起訴は、このような形で違いが表出することがあります。

2、釈放されたあとで起訴・再逮捕される可能性はあるのか

処分保留で釈放されたとしても、それだけで「事件が終結した」と安心するわけにはいきません。釈放後も捜査が続くことがあるうえに、せっかく釈放されても再逮捕されてしまうケースもないわけではありません。

  1. (1)釈放されても捜査が続く

    処分保留で釈放されたとしても、その段階では事件は終結していません勾留が満期を迎えてしまうために釈放されたに過ぎず、依然として嫌疑をかけられた状態であることに変わりはないためです

    起訴・不起訴を決定するために必要な証拠の収集は続けられるので、在宅のまま任意の取り調べがおこなわれることもあります。釈放後の捜査で犯罪の決定的な証拠が見つかったり、被疑者が犯行を認めたりした場合は、検察官が起訴に踏み切る可能性も高まります。

  2. (2)再逮捕の可能性も否定できない

    検察官が処分保留とした場合、被疑者の身柄を拘束している警察に釈放の指揮が下されます警察は被疑者に釈放を告げますが、一部の事件ではこの段階でさらに「再逮捕」を受けるおそれがあります

    再逮捕とは、ある事件の容疑で逮捕・勾留されている被疑者について、さらに別の事件の容疑で逮捕することをいいます。

    次に挙げるような事件では、再逮捕を受ける可能性が高いでしょう。

    • 広域にわたって連続で犯行を繰り返してきた、常習性が疑われる侵入窃盗事件
    • 多数の被害者が存在する特殊詐欺事件
    • 長期間にわたって繰り返されてきた業務上横領事件
    • 所持が発覚したのち、鑑定によって使用も判明した覚醒剤事件


    これらの事件ではまず、第一事件の容疑について逮捕したのち、勾留している間に第二事件・第三事件の捜査を進めて逮捕状の発付を受け、処分保留で釈放すると同時に新たな逮捕状で再逮捕することがありえます。

    余罪のある事件では、本件となる第一事件では処分保留としたうえで、余罪となる第二・第三以降の事件についても捜査を進めて再逮捕したうえで、最終的にすべての事件をまとめて起訴する、あるいは次々と水起訴するといった場合もありえます。

3、誤認逮捕されて処分保留となった場合の補償

警察が逮捕する事件のなかには、無実の疑いで「誤認逮捕」されてしまうケースもわずかながら実在します。

無実なのだから警察や検察官がいくら捜査を進めても、どんなに厳しい取り調べを受けても罪を認めることはできないでしょう。検察官も証拠により犯罪事実を立証できなければ、起訴に踏み切れず、処分保留とするか、不起訴として釈放するしかありません。

しかし、釈放されたからといって、それで済まされるはずがないのは当然です。誤認逮捕されてしまうと、逮捕の報道が流れてしまい、会社や学校、近所での付き合いを含めた社会生活に多大な不利益をもたらしてしまいます。

逮捕・勾留によって身柄を拘束されていた期間は働くこともできず収入が減ってしまうことになるのはもちろん、会社側の判断次第では解雇などの不利益処分を受けてしまうおそれもあるでしょう。

日本国憲法第40条では、次のとおり国の補償義務を明示しています。

【日本国憲法第40条】
何人も、抑留または拘禁されたあと、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。


最高裁は、憲法40条が規定する、「無罪の判決を受けたとき」とは、文字通り無罪判決が確定したときであるという限定的な解釈をしています。したがって、捜査の結果、「嫌疑なし」あるいは「罪とならず」と判断されたとしても、刑事補償法による国務請求権を認めたものとはいえないといえるでしょう。

そこで、法務省訓令で定められている「被疑者補償規定」には、被疑者として逮捕・勾留を受けたうえで、次のような場合には検察官による補償が受けられる旨が定められています。

  • 不起訴処分のうち「罪とならず」または「嫌疑なし」の場合
  • それ以外で、罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由がある場合


被疑者補償の対象となった場合、拘束された期間の1日につき1000円以上1万2500円以下の範囲で補償金が支払われることが規定されています。決して満足できる金額ではなく、補償を受けられたからといってその後の生活までもが楽になるわけではありませんが、このような制度があることはおぼえておくべきでしょう。

このような制度が存在するのは、刑事補償としては憲法上の権利を理由に請求権を認めたわけではないが、生活に困窮する人も存在することから、政策として生活の援助を認めたものといえます。

4、刑事手続きでわからないことがあれば弁護士に相談を

刑事事件の流れのなかには、処分保留のほかにも、起訴・不起訴・起訴猶予・略式命令・即決裁判手続など、さまざまな手続きがあり、しかもそのほとんどがニュースなどで耳にするだけで実際の生活にはなじみがないものばかりです。

刑事手続きのなかでわからないことがあるときは、わからないままにせず弁護士に相談してアドバイスを求めましょう

刑事事件の解決実績が豊富な弁護士に相談すれば、処分の内容について詳しく知ることができます。ご自身や逮捕・勾留されてしまった家族がどのような状況におかれているのか、処分によって今後はどのような立場になるのかについてなどの分析が可能となるのです。

処分保留となって釈放されたとしても、嫌疑が晴れない限り取り調べなどの捜査は続きます。

刑事弁護の知見が豊富な弁護士が、犯行を否定が可能な客観的証拠の検討や被害者との示談交渉を進めることで、検察官が起訴に踏み切る事態の回避が期待できるでしょう。

5、まとめ

処分保留によって釈放されても、勾留の期間内に起訴・不起訴が判断できなかったため身柄拘束が解かれたに過ぎません。不起訴処分とは異なり、釈放後でも検察官が起訴に踏み切るおそれがあります。

また、余罪のある事件では処分保留のうえで再逮捕を受けることもあるので、刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士のサポートで早々に事件解決を目指すべきでしょう。

処分保留で釈放されたあとの弁護活動は、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスにお任せください。不起訴処分の獲得による事件解決を目指して、知見が豊富な弁護士が全力でサポートします。

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