任意同行、途中で逃げたら、どのような罪に問われるのか? 拒否はできるのか。
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令和元年11月、大阪市内で行方不明になっていた小学6年の女児が栃木県小山市の交番で保護され、未成年者誘拐の嫌疑で同市に住む男が逮捕されました。警察官が男の自宅を訪ねて任意同行を求めたところ、男は素直に応じたそうです。
犯罪の嫌疑があると警察が自宅を訪ねてきて「任意同行」を求められることがあります。この事例では抵抗することなく素直に応じたようですが、動画投稿サイトには「職務質問を断ってみた」といった動画が数多く投稿されており、ネット上でも「断っても問題ない」といった情報が飛び交っています。
本当に任意同行は拒否できるのでしょうか?任意同行の途中で逃げても罪に問われることはないのでしょうか?本コラムでは、任意同行の意味や逃走・拒否が問題になるのかについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、「任意同行」とは? 意味や法律上の根拠
ニュースの報道内容や刑事ドラマなどでも登場する機会の多い、「任意同行」という用語ですが、正確な意味を理解している方は多くはないでしょう。まずは「任意同行」という用語の意味や内容を確認します。
任意同行とは、捜査機関の求めに応じて、警察署等に同行することをいいます。
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(1)任意同行の法的根拠
犯罪の予防等を目的とした任意同行については、行政警察活動としての性格があり、警察官の職権・職務における必要な手段を定める「警察官職務執行法」第2条第2項を根拠としています。
警察官が犯罪の嫌疑がある者や犯罪の情報について知っていると思われる人に対して質問する「職務質問」に付随する行為のひとつで、その場で質問を続けると本人にとって不利である、交通の妨害になるといった理由がある場合に認められるものです。
具体的には、次のようなケースが想定されます。- 人通りが頻繁で、職務質問の対象者が衆人環視にさらされてしまう
- 公道上で停止を求めており、その場で質問を続けると事故や渋滞の原因となる
また、捜査活動の一環として、犯罪の被疑者に対して取り調べを実施するために警察官が対象者の自宅などを訪ねて警察署への同行を求めることも、同じく任意同行と呼ばれます。
この場合は、被疑者の取り調べや逮捕といった捜査を目的としているため、司法警察活動としての性格があり、「刑事訴訟法」第198条第1項が根拠となります。
これは、検察官・検察事務官・司法警察職員は、犯罪捜査において必要があるときは、被疑者に出頭を求めて取り調べることができるという規定です。
条文では「出頭を求め」とありますが、取り調べを目的として警察署などへの同行を求める際にはこの条文が根拠となります。
冒頭で紹介した事例は、後者の司法警察活動としての任意同行だと考えられます。 -
(2)任意同行と連行・出頭の違い
任意同行と紛らわしいのが「連行」や「出頭」です。
- 連行
一般的な意味としては「連れて行く」と解釈されるため任意同行と混同されがちですが、刑事事件における連行は、身体拘束された者が警察署等へと強制的に連れて行かれることを意味します。 - 出頭
犯罪の嫌疑をかけられた者や参考人などが、捜査機関の求めに応じて、あるいは自主的に警察施設へと出向くことをいいます。
任意同行は警察官による「同行」を伴いますが、出頭では被疑者・参考人が自らの足で警察署に出向くという違いがあります。
なお、任意で出頭することを任意同行に照らして「任意出頭」とも呼びます。 - 連行
2、任意同行の途中で逃げると罪になるのか?
任意同行の最中は「これからどうなるのか?」「逮捕されるのだろうか」などの不安を感じるものです。
思わずその場から逃げ出してしまいたくなるかもしれませんが、実際に逃げた場合はどうなるのでしょうか?
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(1)任意同行の段階では逃げても罪にはならない
刑法には「逃走罪」という犯罪があります。
罪名だけを聞くと任意同行の途中で逃げれば犯罪になるように感じられますが、これは「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」が逃走したときに限って成立する犯罪です。
任意同行の段階は裁判の執行を受けていないので、逃走罪の処罰対象にはなりません。
そのほかに、任意同行の途中で逃走する行為そのものを罰する犯罪は存在しないので、逃走したからといってそれだけを理由に罪を問われることもありません。 -
(2)犯罪の嫌疑が濃厚になるため逃げるべきではない
任意同行から逃走しても犯罪にはなりませんが、任意同行の理由になっている犯罪の嫌疑が高まる事態は避けられません。
任意での事情聴取や取り調べは不可能だと判断されてしまい、逮捕されてしまうおそれも高まるでしょう。
また、逃走の際に警察官を突き飛ばすなどの暴行を加えてしまえば、嫌疑をかけられている犯罪とは別に刑法第95条の公務執行妨害罪が成立してしまう危険もあります。
逮捕の危険を高めないためには、任意同行からの逃走は避けるべきです。
3、任意同行は拒否できる?
任意同行で問題となるのは、「拒否」が認められるかどうかです。
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(1)あくまでも「任意」なので拒否は可能
任意同行は、その名のとおりあくまでも「任意」のもとにおこなわれる警察活動です。
強制的に対象者を警察署や交番等へと同行させる権限はないので、拒否を妨げられるものではありません。
もちろん、拒否したことを理由に犯罪が成立するわけでもないので、正当な理由があれば同行を拒否し、その場を立ち去ることも可能です。 -
(2)拒否が招くリスクと正しい拒否の方法
拒否が可能といっても、むやみな拒否は禁物です。
警察官が任意同行を求める背景には、何らかの嫌疑や犯罪の発生が存在しているため、拒否によって嫌疑が濃厚になってしまうでしょう。
任意同行を拒否するには、正当な理由の提示が不可欠です。
仕事などの都合があるなら、堂々と明示して納得を得る必要があります。
事情聴取に応じる意向がある場合は、こちらから日時・場所を指定するとよいでしょう。
4、任意同行を求められたら直ちに弁護士に連絡を!
警察官に任意同行を求められ、その場から逃走したり、むやみに拒否したりといった対応を取れば、嫌疑が濃厚となり逮捕されてしまう危険が高まります。
安易な行動は慎むとともに、直ちに弁護士に連絡して助けを求めましょう。
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(1)状況を伝えてアドバイスを求める
その場で直ちに弁護士に連絡して状況を伝えれば、どのように対応するのが最善なのかのアドバイスが得られます。
任意同行の求めに動揺していれば、冷静な対応は難しくなるでしょう。
思わず逃げ出してしまったり、警察官に抵抗して嫌疑を強めてしまったりする事態も避けられるはずです。 -
(2)弁護士の到着を待ってサポートを受ける
任意同行に応じるべきかどうかの判断がつかない、任意とは名ばかりで半ば強制的に連れて行かれそうだといったケースでは、直ちに弁護士を呼び求め、弁護士の到着まで同行を控える旨を伝えましょう。
現場で弁護士に対応してもらえば、不当な任意同行や逮捕の回避が期待できます。
なぜ任意同行を求められているのか、どのような嫌疑があり、どのような証拠がそろっているのかといった情報が得られれば対策も可能です。
任意同行に弁護士を随行できれば、不当な取り調べ・逮捕の抑止にもつながるでしょう。
5、まとめ
「任意同行」は、警察官職務執行法や刑事訴訟法に根拠をもつものですが、その名のとおり「任意」なので必ず応じなければならないわけではありません。
用事があって都合が悪ければ拒否は可能であり、任意同行中に逃げたとしてもそれだけで罪に問われるわけではないのです。
ただし、警察官に任意同行を求められている場合は、何らかの犯罪の嫌疑をかけられているおそれがあります。
むやみに拒否したり、任意同行中に逃げたりすれば、犯罪の嫌疑が濃厚となり、逮捕されてしまう危険が高まるでしょう。
刑事事件を起こしてしまい、任意同行を求められる事態に不安を感じているなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスにご相談ください。
事件解決に向けたサポートだけでなく、任意同行を求められた場合の対応についてのアドバイスや実際に同行を求められた際の迅速なサポートも可能です。
刑事事件を個人で解決するのは容易ではありません。
ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士・スタッフ一同が全力でサポートするので、まずはお気軽にご一報ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています