連帯保証人制度が改正! 保証人が受ける影響を弁護士が解説
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平成19年4月以降、宇都宮市教育委員会は、市内すべての市立小中学校に通う子どもたちの保護者を対象に「学校給食費納入確約書」を配布しています。宇都宮市の小中学校で提供される給食費未払い問題を解消するためではありますが、連帯保証人の記載を求めていることから、大きな波紋を呼んでいます。
親しい友人から連帯保証人になることを頼まれれば、受け入れるべきか迷う方もいるでしょう。連帯保証人になることにはリスクが伴うとは知っていても、具体的にどの程度のリスクがあるのかについて、ご存じでしょうか。
連帯保証人の制度については、令和2年4月から施行される民法改正によって大幅に変更されることになりました。本コラムでは、連帯保証人に関する制度改正についての主なポイントを、宇都宮オフィスの弁護士が解説します。連帯保証人になるリスクや、トラブルになった際の対応、すでに連帯保証人になっている方が受ける影響などについても知っておきましょう。
1、保証人(連帯保証人)制度とは
保証人とは、簡単に説明すれば、主債務者が借金を返せなくなった場合に、代わりに返済義務を負う人を指します。
たとえばA(主債務者)がB(債権者)から家を借りるときに、Cを保証人にすると、Aが賃料を払えなくなった場合には、Cが代わりに払うことになります。このときBとCとの間で結ばれる契約を、保証契約といいます。保証契約の締結は、上記のほかにも、ローンを組む際、奨学金を借りる際など、ごく身近な場面も想定できます。
保証人制度によって、債権者は、債務不履行により金員を回収できないリスクを回避できるメリットがあります。一方で、保証人は、任意で支払わない場合には、自身の給与や預貯金が差し押さえられる、自宅が競売にかけられるなどの不利益を被ることになります。
なお、保証人が一定の条件下において責任を負うのに対し、連帯保証人は債務者本人と同じ責任を負います。したがって、連帯保証人は、保証人よりも非常に重い責任があることを理解しておきましょう。この記事で紹介する改正の影響は、保証人も連帯保証人も同じですので、以下では連帯保証人と記載します。
2、制度改正の主なポイント
平成29年5月に民法の一部改正が成立し、保証人制度についても変更がありました。ここでは、改正の主なポイントを解説します。
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(1)個人根保証契約に上限額が設けられる
継続的な売買や賃貸借の契約など、将来発生する責任の範囲が不確定な債務を保証することを「根保証契約」といいます。
根保証契約について、これまでは保証金の上限を決める必要がなかったことから、連帯保証人は思わぬ債務を背負ってしまうリスクがありました。しかし改正後は、個人が保証人となる契約については、最大でいくらまで保証すればよいのかという極度額(連帯保証人が負う最大負担額)を契約書の条項に定めるなどして合意しなければ、契約そのものが無効となります。
つまり、連帯保証人になるか否かは、契約書に記載された極度額を確認して「〇〇円までは背負う可能性があるのだな」と理解したうえで決めればよいわけです。 -
(2)公証人による意思確認が必要
たとえば友人から「会社を立ち上げるので保証人になってほしい」「迷惑をかけないから」と頼まれ、安易に引き受けることで多額の借金を背負うことになるケースがあります。これを回避するため、個人が事業用融資の保証人になろうとする場合、公証人による保証意思の確認手続が必要となります。
連帯保証人になろうとする人は、契約締結前の1か月以内に公証役場に行って、保証意思宣明公正証書作成の嘱託をおこない、書面を作成する必要があります。宇都宮市にお住まいの場合は、宇都宮公証センターがありますので、保証意思宣明公正証書作成に関する詳細は、事前に問い合わせた方がよいでしょう。
なお、上記の意思確認は、主債務者の事業と関係が深い方については、例外的に不要とされています。たとえば、主債務者が法人である場合には、その法人の理事、取締役、執行役や、議決権の過半数を有する株主等が該当します。また、主債務者が個人である場合には、主債務者と共同して事業を行っている共同事業者や、主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者等がこれに該当します。 -
(3)さまざまな情報が提供される
連帯保証人になるのかを決める場面では、そもそも「主債務者は返済できる状況にあるのか」を確認しなければなりません。それを知らずに保証人になれば、ご自身が債務を背負うことになるリスクは相当に高まるからです。 改正によって、主債務者は、事業のために連帯保証人を依頼しようとする相手に対し、次の情報を提供する義務が課されます。
- 自分の財産はいくらあるのか、収支の状況はどうなのか
- 主債務以外の債務はあるのか、あるなら金額や履行状況はどうなっているのか
また、主債務者からの委託を受けて連帯保証人になった方は、主債務の履行状況について債権者に情報を求めることができます。債権者は問い合わせを受けた場合に回答する義務が生じることになりました。
さらに、主債務者が支払いを滞納し、期限の利益を喪失した場合、債権者は、主債務者の期限の利益の喪失を知ってから2か月以内に、連帯保証人に対して通知しなければなりません。これは、遅延損害金などの額が膨大になることで連帯保証人の負担が大きくなることを避けるためです。
このように、連帯保証人は、自分が気づかないうちに自身の債務が膨れ上がっていないよう、さまざまな情報提供を受けられるようになります。 -
(4)改正後のルールはいつの契約に適用される?
改正法は令和2年4月1日から施行されます。したがって、これより前に締結された保証契約については残念ながら適用されません。現行法が適用されることになります。
たとえば施行日以降に新たに合意更新した場合には、従前の契約は現行法が、合意更新した契約は改正法が適用されることになることを知っておきましょう。
3、トラブルが発生しているなら弁護士へ相談を
大切な友人やお世話になった方から頼まれてしまうと、何とか力になってあげたいと感じることがあるかもしれません。しかし、たとえ親が主債務者であろうと、連帯保証人になることは大きなリスクが伴います。
借入先はどこなのか、借入額はいくらなのか、債務者は何のために借金をするのかなど、さまざまな角度から確認し、リスクを理解したうえで決めなければなりません。少しでも不安があるのなら、きっぱり断ることを検討したり、事前に弁護士へ相談したりすることをおすすめします。
また、すでに連帯保証人になっている場合、債務者との間でトラブルになることが多々あります。たとえば、離婚した配偶者の連帯保証人になっている場合、離婚によって自動的に保証契約が解除されるわけではありません。したがって、元配偶者と話し合うなどして対処しなければなりません。
詐欺や脅迫によって連帯保証人になったような場合には保証契約が無効になることもあります。しかし、いずれの場合も証拠をもとに訴訟を提起しなくてはなりません。ほかにも多額の連帯債務によって返済不能状態に陥っているのであれば、ご自身の債務整理も検討する必要があるでしょう。
連帯保証人にまつわるトラブルが発生してしまうと、もはや個人の力では対処することは非常に困難です。できるだけ早めに弁護士へ相談しましょう。
4、まとめ
今回は連帯保証人にまつわる制度改正について主なポイントを解説しました。
連帯保証人になることで、自らが多額の借金を背負ってしまい、生活に困窮し、精神的にも苦しむケースは少なくありません。債務者との信頼関係があってこそ連帯保証人になったとしても、その信頼はいとも簡単に崩れ去ることがあるのです。
改正によって連帯保証人になるのかを慎重に判断できることになり、保証トラブルに巻き込まれる人が少なくなると期待されています。しかし、改正前の保証契約については従前の通りです。すでに現在、トラブルが発生している場合、しそうなときには早急にご連絡ください。ベリーベスト法律事務所・宇都宮オフィスの弁護士が全力でサポートします。
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