離婚で父親が親権を得るためには? 知っておくべき4つのポイント
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平成29年栃木県人口動態統計によると、平成29年の宇都宮市内での離婚数は877件にのぼります。
そのうち一定数は、未成年の子どもがいる夫婦の離婚が含まれているでしょう。この場合、問題になるのはどちらが親権を持つかということです。一般的には、夫婦で親権を争う状況では、父親が親権を持つことは難しいといわれています。しかし、裁判所の判断基準を理解して対策すれば、父親が親権を得ることは決して不可能ではありません。
父親が親権を得るためにやるべきことについて、宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
1、親権の決め方
未成年の子どもを持つ夫婦の場合、離婚届の提出に際して、子どもの親権を定める必要があります。日本では離婚後の共同親権が認められていないため、母親と父親双方が親権を持ちたいと望む場合は、家庭裁判所での調停や審判を受けることになるでしょう。
親権者を決定する方法は、離婚の方法によって異なります。
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(1)協議離婚の場合
協議離婚とは、当事者が互いに合意した上で、離婚届を役所に提出して離婚する方法です。
離婚届の親権者の欄に、夫婦どちらかの氏名を記入して提出するだけで親権者が決定されます。したがって、夫婦の合意があれば、協議離婚で父親が親権をとることはまったく問題ありません。
ただし、一度決めた親権をあとになって変更するには、裁判が必要となり大変難しい作業となります。離婚時はひとまず妻に親権を譲り、あとで交渉するということは、基本的にできないと考えておいたほうがよいでしょう。安易に合意しないように注意してください。 -
(2)調停や裁判における親権の判断基準
夫婦間で合意できなかった場合は、家庭裁判所による調停や裁判を通じて、離婚の条件や親権者を決定することになります。
夫婦で親権を争う場合、裁判所では、どちらが親権を持つことが「子どもの福祉にかなうか」、「子どもの利益になるか」という観点で総合的に判断を下します。
したがって、離婚原因にもよりますが、有責配偶者であるかどうかは、親権を決めるにあたってはさほど重要視されません。
具体的には、次のような事情を考慮して決められます。
●父母の事情
父母のそれぞれが持つ、子どもの監護に対する意欲の強さや能力を比較します。子どもと暮らすために用意できる環境、親自身の健康状態、経済力、時間的な余裕などが考慮されます。
●子どもの事情
子どもの年齢や性別、親や兄弟姉妹、親族との関係性などが考慮されます。したがって、父親であっても、子どもの年齢に応じた十分な監護が可能であれば親権を認められることもあります。
●継続性の原則
離婚に至るまでの子どもの監護において、実際に監護をしてきたものを優先するべきだという原則です。親権の判断は特にこの原則が重視されています。監護環境が変化することは、子どもにとって大きなストレスとなると考えるためです。
●子どもの意思
両親のどちらについていくか、子どもの意思が明確であれば尊重される傾向にあります。特に子どもが15歳以上の場合は、基本的に本人の選択によって親権者が決まります。子どもの年齢が小学校高学年、おおむね10歳以上の場合は、子ども自身の意思表示が可能とみなされ、必要に応じて判断材料になります。
●兄弟姉妹不分離の原則
兄弟姉妹がいる子どもの場合には、極力離れ離れにならないよう考慮されます。
以上を踏まえた上で、司法統計のデータを見てみましょう。
司法統計によると、平成29年に離婚の調停成立または調停に代わる審判事件のうち、「未成年の子の処置をすべき」件数は20588件ありました。そのうち、母親が親権を獲得したものが19160件、父親が親権を獲得したものは1959件です。
家庭裁判所に持ち込まれたケースで、父親が親権を得た割合は、10%強にとどまるということです。このデータだけ見ると、確かに父親が親権を得ることは難しいと感じるかもしれません。
しかし、父親が親権を得るのが難しいとされるのは、主に「継続性の原則」をもっとも重視するためであると考えられます。共働きの世帯も多くなっているとはいえ、現在の日本においては、実際に子育てを担っているのは母親であるケースが非常に多いのが現状ではないでしょうか。そのため、子どもの保育園送迎、食事の準備、看病など、育児を主体的に行ってきていない父親には、継続的な監護養育を与えるには不十分であり、母親のほうが親権を持つにふさわしいという判断が下されるケースが非常に多いのです。
したがって、これまでも育児を主体的に行っていたのであれば、親権を持つにふさわしいと判断される可能性があるともいえるでしょう。
2、父親が親権を持つことによるメリット、デメリット
離婚の際に父親が親権を得るには、監護環境において父親に不利なケースが多いことは事実です。
しかし、子どもにとって、父親が親権を得ることによるメリットももちろんあります。デメリットと合わせて確認してみましょう。
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(1)父親が親権を持つメリット
子どもの成長や教育を考える上で、経済的な安定は非常に重要です。厚生労働省の発表する平成29年賃金構造基本統計調査の第2図「性、年齢階級別賃金」によると、どの年齢においても男性に比べて女性の賃金は低く、賃金の伸びも男性に劣るという結果が出ています。
父親が親権を持つことは、より安定した家計基盤を提供できる可能性が高いといえるでしょう。親の経済力が高ければ、進学先や進路の選択肢の幅が広がるため、子どもにとって大きなメリットであることは疑いのない事実です。
また、子どもが母親から虐待を受けていたなどのケースであれば、子どもにとっても大きなメリットになります。離婚後は落ち着いた家庭環境を構築し、心のケアに集中することができるでしょう。 -
(2)父親が親権を持つデメリット
デメリットとしては、母親からの養育費支払いはあまり期待できないと考えられる点でしょう。基本的に、養育費とは、別居している親が離れて暮らす子どもに対して、親自身と同じ生活・文化レベルを維持できるよう、子どものために支払うお金です。したがって、父親が親権を持った場合には母親が養育費を支払う義務があります。
しかし、前述のとおり母親の収入は父親より低いケースが多く、経済的に扶養する余裕がないと判断されるケースが少なくありません。したがって、妻が自分と同等もしくはそれ以上の収入がない限り、生活費は基本的に自分自身で賄うことを考えておいたほうがよいでしょう。
3、父親が親権を勝ち取るためには
ここからは、父親が親権を得るためにできる具体的な対策を挙げていきます。どのような小さなことからでも、少しでも早く着手し、実績を積み上げていくことが大切です。
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(1)子どもの監護時間を増やす
多くのケースで、「継続性の原則」によって母親が親権を得ています。よって、子どもの監護時間を積極的に持つことは、最優先事項と考えてよいでしょう。
子どもの送迎、食事、入浴、寝かしつけ、外出、看病など毎日の具体的な監護内容を日記などに記録しておきましょう。写真や動画の記録もあれば、より客観性のある証拠となります。
加えて、親権の判断には、年齢によりますが子どもの意思も反映されます。子どもとの関わりを増やすことで、子どもに父親と一緒に暮らしたいと思ってもらうことも、親権を得る際に有利に働きます。 -
(2)離婚後に子どもを監護できる環境を整える
父親に監護能力がないと判断されてしまえば、父親が親権を持つ可能性は低くならざるを得ません。さまざまな方策で、自分の監護能力を補完することを試みましょう。
両親を呼び寄せ同居する、シッターを雇う、時短勤務や在宅勤務制度を利用する、在宅ワークに切り替える、職住近接となるよう配置換えや転職をするなどがアピールポイントとなるでしょう。 -
(3)別居する場合は子どもと住む
離婚に先立ち、別居するケースもあるでしょう。この際に父親が子どもと住む形で別居できれば、親権を得られる可能性が大きく高まります。
なぜならば、同居する親が子どもを監護しているとみなされるため、離婚にあたり「継続性の原則」が父親側に働き、母親に対して優位に立つことができるためです。
さらに実際に父親と子どもで生活が成り立っていれば、監護の実績を示すことにもなります。 -
(4)母親との面会交流を積極的に認める
子どもの福祉を考える上で、離婚後も両親からの愛情を受けるために、別居する親との面会交流を確保することは非常に重要です。面会交流の実施については、子どもの利益をもっとも優先して考慮しなければなりません(民法第766条第1項)。
柔軟な交流を促すことも、親権の判断においては重視されつつあります。
4、まとめ
離婚後に父親が親権を持つことは少なからず困難なものです。しかし、離婚後も子どもと暮らしたいと強く願い、生活を子ども中心に据えるための努力をしてきたのならば、決してできないことではありません。
妻との交渉、調停や裁判での意見書作成など、親権獲得において弁護士の知識と経験が力になる場面は数多くあります。親権問題に対応した実績が多い、ベリーベスト法律事務所・宇都宮オフィスでご相談ください。スムーズな離婚と親権の獲得に向けて力を尽くします。
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