「基本給が下がる」と会社から言われたらやるべき3つのこと

2024年07月22日
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「基本給が下がる」と会社から言われたらやるべき3つのこと

栃木労働局が公表する「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争相談件数のうち、労働条件の引き下げについての相談は391件もありました。

もし会社から「基本給は下がるが、その分手当を増やす」などと言われた場合、違法性や労働者にとってデメリットはないのでしょうか。また、そのような場合、労働者はどのような対応をすべきなのでしょうか。

本コラムでは、基本給が下がるデメリットや対処法について、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。


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1、基本給が下がることに違法性はない?

そもそも一度決められた基本給が下がることは、法律上認められることなのでしょうか?

  1. (1)一方的な「不利益変更」は認められない

    基本給は、役職手当や時間外手当などの各種手当を除いた基礎となる賃金を一般的には意味します。
    労働者にとっては、最低限もらえると思っていた基本給が下がることになれば、大きな不利益になります。基本給の減額は、労働契約の変更になります。契約は原則として合意により成立します。そのため、労働条件の不利益変更を会社側が一方的に行うことは、原則として許されません。

  2. (2)「不利益変更」が認められるケース

    基本給が下がるなどの労働条件の不利益変更が認められる可能性があるのは、次のようなケースです。

    ● 労働者が労働条件の不利益変更に合意したケース
    労働契約法では、労働者と使用者は、合意によって労働条件を変更できることを規定しています。もっとも合意は、自由な意思によるものである必要があります

    ● 就業規則の変更に労働者が合意したケース
    労働条件を変更する、賃金の減額や、就業時間の変更、就業場所の変更など、労働者にとって不利益な労働条件に変更する場合には、原則として労働者ひとりひとりと合意することが必要とされています。

    ● 就業規則の不利益変更に合理性があり、従業員に周知したケース
    就業規則で労働条件の不利益変更を行う場合でも、例外的に労働者の合意を必要としないケースもあります。それは、労働契約法第10条に定められている要素を検討した結果、就業規則の変更に合理的な理由があり、かつ労働者に変更の内容が周知されていると認められるケースです。たとえば基本給を下げなければ倒産を免れられないなどの事情があり、基本給の下がる程度も社会的に相当で、会社が労働者に交渉の努力を十分にしたようなケースでは、合理的な理由があると認められる可能性があります。

  3. (3)違法になるケース

    基本給を下げること自体は違法ではありません。しかし次のようなケースでは、基本給の引き下げは違法で、無効になる可能性があります。

    ● 最低賃金より下回るケース
    1時間当たりの賃金に換算すると最低賃金を下回るような基本給の変更は、最低賃金法第4条第2項に違反し、違法となり、無効となる可能性があります

    ● 労働者の同意の意思表示に問題があるケース
    労働者の同意を得ずに会社が一方的に基本給を下げることは、原則として無効になります

    また基本給が下がることに同意していても、「無理やり同意させられた」「だまされて同意させられた」など、労働者の同意の意思表示に問題があったケースでも、無効や取り消しを主張できる可能性があります。

2、基本給が下がるデメリット

会社に「基本給は下がるけど、その分手当を増やす」などと言われると、デメリットはないように感じるかもしれません。しかし次のようなデメリットがあります。

  1. (1)賞与(ボーナス)や退職金が減る

    月々の給与については、基本給が下がっても手当で穴埋めされていれば、その影響は感じないかもしれません。

    しかし賞与(ボーナス)の支給時には、影響を感じることがあります。なぜなら、賞与は、「基本給の5か月分を冬と夏の2回に分けて支給する」などと、基本給をもとに計算されることが就業規則に定められていることが多いためです。

    また退職金についても、「基本給×勤続年数」などと基本給をもとにして金額を算出する企業も少なくないため、基本給が下がると大幅に減る可能性があります
    賞与や退職金はまとまった金額になるため、基本給が下がると大幅な減少につながることになり、大きなデメリットといえます。

  2. (2)残業代が減る

    法定労働時間を超える労働に対しては、時間外労働として割増賃金(残業代)が支払われます。残業代についても基本給がもとになって計算されることがあるため、今までと同じだけ残業しても支払われる残業代は減る可能性があります。ただし、割増賃金の基礎となる基礎賃金は、基本給だけでなく、労働基準法37条5項および同法施行規則21条に定められた手当等を除いた手当以外の手当は、算定基礎賃金に含まれる可能性があります。
    残業代は基本給が減るからといって、必ず残業代が減るわけではありませんが、基本給から減らされた金額が固定残業代として支給されると、残業代が減額となるリスクは生じます。

  3. (3)年収に対して社会保険料の負担が重くなる

    健康保険や厚生年金、雇用保険の社会保険料は、標準報酬月額に応じて負担します。
    標準報酬月額は、基本給に各種手当も含んで計算されます。

    そのため基本給が下がりその分手当で穴埋めされているようなケースでは、支払う社会保険料は以前と変わらないことになります

    一方、年収全体でみれば、賞与は基本給が下がる影響を受けて減る可能性がありますので、少なくなります。
    したがって年収が減るのに、社会保険料の負担はそのままという状況になり、年収に対する社会保険料の負担が重くなることもデメリットといえるでしょう。

3、基本給が下がると言われたときの対処法

基本給が下がることによるデメリットについては、ご理解いただけたことでしょう。
では会社から、基本給が下がることに同意を求められたときには、どのような対応をすべきなのでしょうか。

  1. (1)基本給が下がる理由を確認する

    まずは、基本給が下がる理由を確認する必要があります。

    会社側にも、どうしても基本給を下げざるを得ない理由があることもあります。そのような場合にまで同意をかたくなに拒めば、かえって企業が存続の危機に陥り、給与の不払いなどにつながる可能性もあります。

    また合理的な理由がある場合には、労働者の合意なく就業規則の変更で労働条件の変更ができてしまうため、理由の確認は大切です。

  2. (2)納得できなければ上司などと話し合う

    理由を確認しても基本給が下がることに納得できないのであれば、上司などと話し合って解決をはかることもひとつの方法です。

  3. (3)労働基準監督署や弁護士などに相談する

    会社が真剣に対応してくれない場合や話し合いがうまくいかない場合などには、労働基準監督署や弁護士などに相談するとよいでしょう。

    労働基準監督署では、労働基準法や労働契約法などに違反する企業へ是正勧告をしてもらえる可能性があります。

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4、労働問題で弁護士ができることとは

労働問題を相談した場合には、弁護士は主に次のような対応により解決を目指します。

  1. (1)代理人として会社と交渉できる

    弁護士は、ご相談者の代理人として、会社と交渉することができます。使用者に対して強い立場とはいえない労働者が個人的に会社と交渉しても、主張が認められる可能性は、そう高くありません。しかし弁護士が代理人として交渉することによって、会社側も解決にむけて向き合う可能性が高くなります。

    結果として、早期に有利な内容で解決をはかることができる可能性が高くなるといえます。

  2. (2)証拠の収集についてアドバイスできる

    労働基準監督署や裁判所などで主張を認めてもらうためには、証拠の存在が非常に重要です。当事者ではない以上、証拠をもとに対応するほかないためです。

    また会社に対しても、交渉を有利に進めるためには、証拠は重要です。

    ところが労働者自身が、どのような証拠があれば主張が認められやすいかを判断することは容易ではありません。

    そういった場合でも、弁護士は証拠の収集についてアドバイスし、どのような証拠をもとにどのような主張をすべきかの判断ができます。

  3. (3)労働審判や訴訟を有利に進むようサポートできる

    労働問題は、会社との交渉がうまくいかなければ、裁判所が関与する労働審判や訴訟のなかで解決をはかることも選択肢に入ってきます。

    労働審判や訴訟では、適切なタイミングで、証拠にもとづいた的確な主張を行うことが大切です。弁護士は、裁判所における豊富な経験と法的知識にもとづいて、ご依頼者にとって有利な結論に結び付くように主張・立証などのサポートできます。

5、まとめ

基本給は、原則として労働者の同意がなければ下げることはできません。基本給が下がれば、月給にそれほど影響はなくても賞与や退職金などに影響し、生涯賃金は減少するおそれが高いためです。したがって、基本給が下がることに同意する場合でも、デメリットや基本給引き下げの理由について理解しておくべきでしょう。

なお、会社に合理的な理由なく勝手に基本給を引き下げられた場合などには、無効主張して未払賃金を請求することが検討できます。ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスでは、未払い賃金の請求など、労働問題の解決について、弁護士が全力でサポートしています。おひとりで悩んだり、泣き寝入りするのではなく、まずはお気軽にご相談ください。   

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています