偽装請負とは何か。 請け負った仕事が偽装請負だった場合はどうするべきか

2022年04月28日
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偽装請負とは何か。 請け負った仕事が偽装請負だった場合はどうするべきか

指揮命令関係がないことを前提とした「請負」や「業務委託」を装い、実際には派遣されてきた請負人(請負会社)の担当者に対して、注文者(派遣先)が具体的な作業指示等を行うことを「偽装請負」と言います。

偽装請負は企業側に違法性があるうえ、労働者にとっては不利益が大きい側面があります。もしご自身が偽装請負によって、会社に搾取されているのではないかと疑いを持った場合は、速やかに労働基準監督署や弁護士へご相談ください。

今回は、偽装請負の違法性や労働者が受ける不利益、偽装請負に関する相談窓口などについて、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。

1、偽装請負とは?

形式上は「請負」の形をとっていても、その実態が「偽装請負」の場合、職業安定法や労働者派遣法との関係で違法となります。

まずは「偽装請負」の概要と法律上の問題点について、基本的なポイントを理解しておきましょう。

  1. (1)偽装請負=請負の形式を装った労働者供給・労働者派遣

    偽装請負とは、「請負」という形式・建前を装っておきながら、実態としては「労働者供給」または「労働者派遣」に該当する働き方を意味します。

    後述するように、「労働者供給」については職業安定法、「労働者派遣」については労働者派遣法によって規制がなされています。
    これらの法律による規制を迂回(うかい)して、企業が労働者を搾取する目的で、偽装請負が行われることがあるのです。

  2. (2)通常の請負と偽装請負の違い

    民法上の「請負」は、請負人が何らかの仕事を完成することを約束し、それに対して注文者(発注者)が報酬を支払うことを約束する内容の契約です(民法第632条)

    請負人の債務は、あくまでも「仕事を完成させること」であって、仕事のやり方自体は、請負人に一任されています
    言い換えれば、請負人の仕事のやり方について、注文者は具体的な指示をすることは予定していないのが、「請負」の本質的な特徴です。

    (「業務委託」の形式をとる場合も同様で、委託者は受託者に対して、業務のやり方に関する具体的な指示を行うことは予定されていません。)

    これに対して「偽装請負」の場合、請負の体裁をとりつつも、供給先・派遣先である注文者が、請負人(によって供給・派遣された労働者)に対して、仕事のやり方に関する具体的な指示を行います

    具体的な業務指示が行われている場合等、注文者と請負人の間に指揮命令関係が存在すると評価されるため、もはや「請負」ではなく「労働」になってしまいます。
    このような労働形態を、請負の外観を装いつつも、その実態は請負ではないという意味で「偽装請負」と呼ばれているのです。

    なお偽装請負は、請負人(供給元・派遣元)と労働者の間に雇用関係があるかどうかによって、「労働者供給」と「労働者派遣」の2種類に分類されます。

    ● 労働者供給
    請負人と雇用関係にない労働者を、請負人が注文者(供給先)へ(供給契約に基づいて)供給し、労働者は注文者の指揮命令下で働く

    ● 労働者派遣
    請負人と雇用関係にある労働者を、請負人が注文者(派遣先)へ(派遣契約に基づいて)派遣し、労働者は注文者の指揮命令下で働く
  3. (3)偽装請負に該当するケースの具体例

    前述のとおり、偽装請負に該当するのは、注文者が請負人の供給・派遣した労働者に対して、仕事のやり方について具体的な指示を行っている場合です。

    たとえば、以下のようなケースは、偽装請負に該当すると判断される可能性があります。

    <偽装請負の例>
    • 注文者により労働者の出社、退社の時刻が決められている
    • 労働者に注文者での専念義務が課されている
    • 労働者が、注文者側の従業員と同等の服務規定に従うことを要求されている
    • 業務の具体的な手順について、注文者から詳細な指示が行われている
    など
  4. (4)偽装請負の違法性と罰則

    前述のとおり、偽装請負は、その実態が「労働者供給」または「労働者派遣」のいずれかに該当します。

    労働者供給事業を行うことは、労働組合等が厚生労働大臣の許可を受けて無償で行う場合を除き、一律禁止されています(職業安定法第44条、第45条)。
    違反した場合には、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されるでしょう(同法第64条第9号)。

    また、法人の代表者・代理人・使用人等が違反した場合には、法人にも両罰規定により「100万円以下の罰金」が科されます(同法第67条)。

    労働者派遣事業についても、労働者派遣法に基づく許可制が採用されており、厚生労働大臣の許可を得ずに行うのは違法です(労働者派遣法第5条第1項)。
    無許可で労働者派遣に当たる偽装請負を行った場合、請負人に「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されます(同法第59条第2号)。
    さらに、法人の代表者・代理人・使用人等が違反した場合には、法人にも両罰規定により「100万円以下の罰金」が科されます(同法第62条)。

2、偽装請負で働く労働者が受ける不利益とは?

偽装請負の労働者として派遣される方は、本来であれば雇用契約の労働者として処遇されるべき立場にあります。

しかし、形式的に「請負」とされていることによって、以下の不利益を被るおそれがあるので要注意です。

  1. (1)雇用主としての責任の所在が曖昧になる

    偽装請負では、労働者は注文者の指示を受けながら働きますが、注文者に雇用されているわけではありません。

    特に、労働者自身が請負人の場合や、請負人に当たる会社との雇用契約がない場合(労働者供給)には、労働者の雇用主がいないことになってしまいます。

    このように、問題が生じた際の責任の所在が曖昧になってしまうため、労災が発生した場合の対処が遅れるなど、労働者の安全に配慮されない事態になってしまう可能性があります。

    また、労働者が請負人に当たる会社に雇用されている場合でも、労働者派遣法の枠組みに沿った労働者派遣でなければ、請負人・注文者の双方から労働者が搾取される事態になりかねません。

  2. (2)簡単に契約を打ち切られてしまうおそれがある

    労働者自身が請負人の場合や、労働者が請負人に雇用されていない場合には、請負契約(偽装請負)が打ち切られた時点で、労働者は働き口を失ってしまいます。

    雇用契約であれば、「解雇権濫用の法理」(労働契約法第16条)が適用されるため、会社が労働者を安易に解雇することはできません。
    これに対して請負の場合は、解雇権濫用の法理の適用がないため、注文者の側から比較的簡単に契約を解消することができてしまいます

    偽装請負は、解雇権濫用の法理をすり抜けるために用いられることが多く、労働者にとっては職業の不安定につながる点が大いに問題です。

  3. (3)劣悪な労働条件で搾取されやすい

    偽装請負では、実際に求められる作業や貢献に比べて、労働者の待遇は低く抑えられる傾向にあります。

    特に、労働者自身が請負人ではなく、請負人である会社から注文者の現場に派遣されるケースでは、その傾向が顕著になります。
    請負人の会社が収受する中間マージンが発生するため、末端の労働者が受け取る報酬等が少なくなるのです。

    上記のような低待遇は、適法な労働者派遣における派遣労働者についても、問題点として指摘されています。

    ましてや違法な偽装請負の場合、労働者派遣法に基づく労働者保護の機能が働きません。
    そのため偽装請負では、適法な労働者派遣よりも、さらに深刻な低待遇が発生するおそれがあります

3、偽装請負を疑った場合の相談窓口

ご自身が偽装請負で働かされているのではないかと疑いを持った場合、労働基準監督署または弁護士へ速やかにご相談ください。

  1. (1)労働基準監督署

    労働基準監督署は、全国の各市町村に設置されており、企業の労働基準法の順守状況等を監視・監督しています。

    労働者の申告を受けた労働基準監督署は、事業場への臨検等を含めた調査を行います。
    その結果、違法行為が認められた場合には、事業場に対して行政指導や刑事処分などを行い、違法状態の是正を図ります。

    労働基準監督署による行政指導や刑事処分が行われれば、事業場全体で偽装請負の問題が解消される可能性が高いでしょう

  2. (2)弁護士

    依頼者の代理人である弁護士には、依頼者の権利を回復するための具体的な行動を、迅速にとることができます。
    この点は、事業所全体の問題を是正する労働基準監督署に比べて、労働者個人の相談先としての大きな長所です。

    たとえば会社に対して、偽装請負を止めるように直ちに働きかけたり、本来の待遇と実際の待遇の差額を支払うように請求したりすることもできます
    偽装請負による搾取からすぐに脱却したい場合、労働者としての権利を回復したい場合には、お早めに弁護士までご相談ください。

4、まとめ

偽装請負は、請負の形式をとりつつ、労働者供給または労働者派遣の実態を持つ働き方を意味し、職業安定法や労働者派遣法の違反に該当します。

偽装請負で働く労働者は、通常の雇用に比べると不当な低待遇に抑えられやすいです。
もしご自身が偽装請負で働かされていることに気づいた場合には、速やかに弁護士へ相談することをおすすめいたします。

ベリーベスト法律事務所は、労働者の方からの法律相談を随時受け付けております。
偽装請負に関するトラブルにお悩みの方は、お早めに当事務所へご相談ください。

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