離婚と除籍謄本の関係について弁護士が解説
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- 除籍謄本
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栃木県宇都宮市のデータによると、2019年に同市における離婚件数は888件でした。
離婚をすると、婚姻中の戸籍から離脱することになります。その後は原則として元の戸籍に戻りますが、家族が全員戸籍から離脱している場合には、元の戸籍に戻ることができません。家族全員の戸籍からの離脱は、役所で「除籍謄本」を取り寄せることによって確認できます。
もし除籍謄本が作成されていた場合には、元の戸籍に戻る以外の別の方法を検討することが必要です。今回は、離婚と除籍謄本の関係性を中心に、ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「結婚、離婚件数、平均初婚年齢の推移」、宇都宮市、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示 2.1)
1、「除籍謄本」とは?
元々戸籍に属していた人全員が除籍(抹消)となった結果、戸籍の中に誰もいなくなってしまう場合があります。
この場合、市区町村役場に保管されている戸籍簿からその戸籍を除外したうえで、「除籍簿」として別につづります。
「除籍謄本」とは、除籍簿に記載された当該戸籍の情報全部を記載して、除籍簿の内容を証明する写しのことです。
除籍謄本は、当該戸籍の本籍地に当たる市区町村役場で請求できます。
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(1)戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本の違い
除籍謄本と並ぶ戸籍情報の証明書類としては、主に「戸籍謄本」と「改製原戸籍謄本」があります。
戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本の違いは、以下のとおりです。① 戸籍謄本
戸籍簿の写しです。
戸籍に属する人がひとりでもいれば、戸籍情報は戸籍簿につづられ、除籍簿に移るまで保存されます。
なお戸籍謄本は、戸籍のコンピューター化以降、正式には「戸籍全部事項証明書」という名称に変更されています。
② 除籍謄本
除籍簿の写しです。
前述のとおり、戸籍に属する人が誰もいなくなると、戸籍情報は除籍簿につづられます。
除籍簿の保存期間は、除籍された年度の翌年から、150年です。
なお除籍謄本は、戸籍のコンピューター化以降、正式には「除籍全部事項証明書」という名称に変更されています。
③ 改製原戸籍謄本
改製原戸籍の写しです。
戸籍のコンピューター化以前に作られていた紙ベースの戸籍は、「改製原戸籍」と呼ばれています。
戸籍のコンピューター化のタイミングは、各市区町村によって異なります。
コンピューター化以前に生じた戸籍からの除籍については、その情報が新戸籍に記載されていないので、改製原戸籍謄本を取り寄せて確認する必要があります。
改製原戸籍の保存期間は、改製された年度の翌年から150年です。 -
(2)戸籍から除籍される主な原因
戸籍から除斥されるのは、主に以下のいずれかの原因が発生した場合です。
- 死亡
- 失踪宣告
- 婚姻
- 離婚
- 養子縁組
- 分籍
- 転籍
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(3)除籍謄本の取得が必要になる場合の例
多くの方にとって、除籍謄本の取得が必要になるのは遺産相続の場面ではないかと思います。
不動産の相続登記手続きや、預貯金に関する相続手続きを行う際には、相続関係を示す公的書類として、戸籍資料を提出する必要があります。
たとえば、親が亡くなることによって戸籍から誰もいなくなる場合、親に関する戸籍情報は除籍簿につづられます。そのため、除籍謄本を請求して各種手続きをすることがあるかもしれません。
2、離婚と除籍謄本の関係性は?
離婚と除籍謄本の関係性は、多くの方にとってイメージしにくいかもしれません。
具体的には、離婚後に戻るはずだった戸籍が除籍となっているケースを考えると、離婚と除籍謄本の関係性の理解に役立つでしょう。
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(1)離婚すると原則として、筆頭者でない側は除籍されて元の戸籍へ戻る
夫婦の離婚は、戸籍からの除籍事由に該当します。
離婚により除籍されるのは、夫婦のうち戸籍の筆頭者でない側の方になります。
筆頭者はそのまま戸籍に残りますが、筆頭者でない側は除籍され、原則として婚姻前の戸籍に戻ることになります。 -
(2)元の戸籍から全員が離脱した場合、除籍により元の戸籍には戻れない
ただし、離婚して戻るはずだった、元の戸籍に誰もいなくなっており、除籍簿に移されてしまった場合には、元の戸籍に戻ることはできません。
元々親や兄弟姉妹と同じ戸籍に入っていたところ、結婚を機に元の戸籍から除籍された例を考えます。
その後、たとえば親がいずれも亡くなり、兄弟姉妹は全員結婚によって除籍となった場合、元の戸籍は除籍簿に移されます。
この場合、離婚して元の戸籍に戻ろうとしても、すでに元の戸籍が除籍簿に移されているため戻ることができないのです。
元の戸籍が除籍簿に移された事実は、市区町村役場で除籍謄本を取得すると確認することができます。 -
(3)離婚後に元の戸籍へ戻れない場合の処理
元の戸籍が除籍簿に移されたことにより、離婚後に元の戸籍へ戻ることができない場合、ご自身に関する新しい戸籍を作ることになります。
婚姻時に氏を変更した場合、原則として婚姻前の氏(旧姓)に戻ることになりますが(民法第767条第1項)、離婚の日から3か月以内に届け出を行うことにより、婚姻中の氏を継続使用することもできます(同条第2項、戸籍法第77条の2)。
旧姓に戻すか、婚姻中の氏を継続使用するかによって届け出の様式等が異なりますので、市区町村役場にお問い合わせください。
3、戸籍上、離婚歴を隠したい場合はどうする?
ご自身が筆頭者の場合、離婚によって配偶者が戸籍から除籍されると、除籍理由として離婚の事実が戸籍簿に記載されます。
この場合、ご自身に離婚歴があることが、戸籍の記載から明らかとなってしまいます。
またご自身が筆頭者でなく、元の戸籍に戻る場合、その戸籍には婚姻によって除籍となった事実と、その後に再度入籍した事実の両方が記載されます。
この場合、離婚によって元の戸籍に戻ってきたことが容易に推測されるため、やはり戸籍の記載から、ご自身の離婚歴が明らかとなってしまいます。
他人が戸籍情報を確認するケースはほとんどありませんが、どうしても戸籍上の離婚歴を隠したい場合には、「転籍」または「分籍」の手続きをとることが考えられます。
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(1)転籍・分籍をすると、戸籍謄本に離婚歴が表示されなくなる
「転籍」とは、本籍地を移動させる手続きを意味します(戸籍法第108条)。
「分籍」とは、元の戸籍から自分だけが離脱して、新しい戸籍を作る手続きを意味します(戸籍法第100条)。
転籍と分籍はいずれも、必要書類をそろえて手続きを行いさえすれば、特段の要件なく認められます。
婚姻中に筆頭者だった方は、離婚後に「転籍」をすることで、戸籍簿上から離婚歴を消すことができます。
転籍によって新たに作成される戸籍簿には、旧戸籍に関する情報が記載されないからです。
婚姻中に筆頭者ではなかった方が、離婚によって元の戸籍に戻った場合には、「分籍」によって戸籍簿上から離婚歴を表示されないようにすることができます。
転籍と同様に、分籍によって新たに作成される戸籍簿には、旧戸籍に関する情報が記載されないからです。 -
(2)元の戸籍には離婚歴が残る点に注意
ただし、ご自身の戸籍簿上から離婚歴に関する情報が消えたとしても、元の戸籍には離婚歴が残る点に注意が必要です。
転籍・分籍によって新戸籍が作成されたとしても、元の戸籍に係る戸籍簿・除籍簿・改正原戸籍には、離婚歴が記載されたままとなります。
たとえば相続が発生し、相続人調査の一環で戸籍情報をたどった場合には、相続人等が離婚歴を確認できてしまう点にご留意ください。
4、離婚後、子どもの戸籍はどうなる?
配偶者と離婚をした場合、親権の帰属によっては、子どもの戸籍に関する手続きを別途行う必要が生じます。
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(1)何もしなければ、子どもは元の戸籍に残る
夫婦が離婚をした場合、戸籍から除籍となるのは、夫婦のうち筆頭者でない側のみです。
これに対して、離婚そのものによって子どもが戸籍から除籍されることはありません。
したがって、特に何も手続きをとらなければ、子どもは筆頭者と同じ戸籍に残ることになります。 -
(2)戸籍から離脱する側が親権者となる場合、入籍の手続きが必要
筆頭者ではない側の親が、子どもの親権者となるケースも考えられます。
この場合、親権者の決定によって子どもの戸籍が自動的に移ることはありません。
そのため、子どもについて別途「入籍」の手続きを申請して、親権者と同じ戸籍に子どもを移すことになります。
入籍の手続きの詳細については、各市区町村役場にお問い合わせください。
5、まとめ
夫婦が離婚をする場合、離婚条件の話し合いなどを慎重に行う必要があるほか、離婚が決まった後も各種の届出等を行わなければなりません。
漏れのないようスムーズに離婚手続きを行うには、弁護士へのご相談をおすすめいたします。
ベリーベスト法律事務所は、男女問題・離婚等に関する法律相談を幅広く受け付けております。
配偶者とのトラブルに発展し、離婚をご検討中の方は、お早めにベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています