事実婚の解消で慰謝料請求できるケースとは。弁護士が解説

2020年08月12日
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事実婚の解消で慰謝料請求できるケースとは。弁護士が解説

栃木県が公表している統計資料によると、宇都宮における平成30年の人口1000人あたりの婚姻率は4.97でした。この数は、“婚姻届を提出して”結婚したカップルの数であって、「事実婚」のカップルは含まれていません。現在、事実婚に関する正確な統計はなく、事実婚の件数などはわからないのですが、カップルが夫婦同然に生活しているからといって、必ずしも「法律婚」をしているとは限らないといえるでしょう。

生活の実態や外部からの認識(結婚している夫婦に見える)などについては、法律婚とさほど違いのない事実婚。それでは法律上の取り扱いに関してはどうでしょう?

たとえば、法律婚であれば、双方合意のうえで離婚届を記入して提出すれば婚姻関係の解消となりますが、そもそも婚姻届を提出していない事実婚の場合には、どうなったら関係が解消されたといえるのでしょう? また、関係解消にともなう「慰謝料」や「財産分与」の請求などは、法律婚と同様に行うことができるのでしょうか? 今回はそういった点について、宇都宮オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、事実婚とは

事実婚とは、法律上の婚姻(婚姻届を提出してること)はしていないけれど、社会的に夫婦と同じ生活を送っている状態をいいます。夫婦と同様の生活実態があるにもかかわらず婚姻届を出していないという点では「内縁関係」と同じですし、両者は同じ意味で使われることもあります。ただし、内縁が「婚姻届を提出したいけれど、何らかの事情があって出せない」状態なのに対し、事実婚は「当該男女が積極的・自発的に婚姻届を提出しない(法律婚を選択しない)」状態にあるという点で、両者には違いがあるといえます。

カップルが夫婦と同じような生活を送っている状態を表す、「同棲」という言葉もありますが、事実婚と同棲は、「婚姻の意思の有無」という点で区別されます。ここでいう婚姻の意思とは、カップル双方が「自分たちは夫婦である」と考えているという意味になります。婚姻の意思の内容について、さまざまな議論がなされているところではありますが、婚姻の意思のある同居は事実婚、ない同居は同棲と区別することになります。

2、事実婚を選択するメリット・デメリット

事実婚を選択するメリットやデメリットについてご紹介します。

  1. (1)事実婚のメリット

    事実婚のメリットとしては、「姓を統一しなくて良い(夫婦別姓)」、「法的な拘束が少ない」、「別れてもバツイチにならない」といったものが挙げられます。両性の平等という観点や仕事で使う姓の変更による不利益回避などの理由から夫婦別姓を望む場合や、現行の婚姻制度に疑問がある場合などには、事実婚を選択するメリットがあるといえるでしょう。

  2. (2)事実婚のデメリット

    もちろん、それぞれの事情によってメリット・デメリットとなるポイントは変わってきますが、一般的には「パートナーが法定相続人になれない」、「配偶者控除が使えないなど、税制面での不利益がある」などの点がデメリットとして挙げられます。

3、事実婚の解消方法

法律婚であれば、役所に離婚届を提出することで離婚が成立しますが、事実婚を解消するにあたっては特別な手続きを必要としません。「事実婚を解消しよう」という意思が合致すれば、それだけで事実婚は解消となります。
ここで問題となるのは、事実婚をしている2人の一方が事実婚の解消に合意しない場合ですが、こういったケースについては後述します。

4、事実婚でも慰謝料は請求できる?

法律婚であれば、どちらか一方が浮気をした場合やどちらか一方から正当な理由なく離婚された場合に「慰謝料」(精神的被害に対して支払われる損害賠償金)を請求することができますが、慰謝料に関しては、事実婚も法律婚とほぼ同じに扱われます。事実婚を解消するにあたって慰謝料請求ができるケースをみていきましょう。

  1. (1)事実婚を解消する側からの慰謝料請求

    まずは、事実婚の解消を申し出た側が慰謝料を請求するパターンです。相手の浮気(不貞行為)によって事実婚関係が破壊された場合、法律婚と同様に慰謝料請求ができます。また、浮気以外にも、一方の責任で事実婚の継続が困難になった場合には、その原因を作った側に慰謝料を支払うよう請求することができます。

  2. (2)事実婚を解消された側からの慰謝料請求

    事実婚を「正当な理由なく」一方的に解消された場合、解消された側からの慰謝料請求が可能です。正当な理由については、法律婚における離婚理由(民法770条に規定されている法定離婚事由)と同じと考えられていますので、ご紹介します。

    • 配偶者に不貞行為があったとき
    • 悪意で遺棄されたとき(正当な理由なく生活費を渡さないなど)
    • 3年以上、生死がわからないとき
    • 強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
    • その他、婚姻生活の継続が難しい重大な事由があるとき


    これらの正当な理由なく事実婚を解消された場合には、慰謝料請求が可能と考えられます。ただし、法律婚でもそうですが、何が正当な理由にあたるかは事案ごとに判断されるため、あくまでもケース・バイ・ケースであることに注意が必要です。

  3. (3)事実婚で慰謝料請求できないケース

    慰謝料を請求したいと思っても、事実婚関係にあったことを証明できない場合には請求が認められないことがあります。一緒に暮らしてはいたけれど、一方または双方に婚姻の意思がない場合、あるいは婚姻の意思はあったけれどそれを証明できない場合などには、単なる同棲と判断され慰謝料請求が認められない可能性があるといえるでしょう。
    事実婚関係を証明する方法としては、家計が一緒であることを証明する、住民票の続柄欄へ「妻(未届)」「夫(未届)」と記載するなどが挙げられます。

    また、法律婚でもそうなのですが、すでに関係が破綻していた場合も、慰謝料請求が認められないと考えられます。たとえば、長期間にわたって別居しているなかで一方が浮気したケースなどでは、慰謝料請求は難しいといえるでしょう。

    そのほか、重婚的内縁の場合にも慰謝料請求が認められない可能性があります。重婚的内縁とは、法律婚をしている配偶者がいながら、並行して他の相手と内縁関係(事実上の夫婦関係)を持つことをいいます。重婚(配偶者のある者が他の者と重ねて結婚すること)は法律で禁止されているため、このような関係の場合には法律上の保護を受けられないのです。ただし、法律婚がかなり前から破綻しているなどの事情がある場合には、法律上保護され、慰謝料請求が認められる可能性もあるといえます。あくまでも個別の判断となることに注意しましょう。

5、事実婚での財産分与はどうなる?

事実婚でも法律婚と同様に財産分与請求権が認められるとされています。事実婚関係にあるときに共同で築いた財産については分配を請求することが可能です。対象となる財産など、法律婚と同様と考えて良いでしょう。

6、子どもの養育費はどうなる?

事実婚カップルに子どもがいる場合、母親は自動的に子どもの法律上の母親になりますが、父親に関しては「認知」をしなければ法律上の父親にはなりません。
認知をしていない父親には扶養義務がなく、養育費を請求できませんので、事実婚解消にあたって子どもの養育費を請求する場合には、はじめに認知を求めることになります。認知をした父親には養育費を支払う義務が発生します。

7、相続はどうなる?

法律婚であれば、夫婦のどちらかが亡くなった場合、残された一方が法定相続人(法律で定められている相続人)となりますが、事実婚ではパートナーの一方は法定相続人にはならないため、相続権がありません。一方で、事実婚カップルの間に生まれた子どもには相続権があります。
ただし、父親の財産を相続するには認知されていることが必要です。
なお、法律婚はしないけれど財産をパートナーに残したいという場合には、遺言書作成か生前贈与を行うのが有効でしょう。

8、事実婚が解消できないときの対処方法とは?

前述したように、事実婚の解消にあたって必要となるのは「当事者の合意」だけです。しかし、一方が解消したいと考えても、相手が応じないこともあるでしょう。そのような場合には「内縁関係調整調停」を利用することができます。

内縁関係調整調停とは、事実上の夫婦関係(事実婚関係)にある2人だけでは関係解消の話がまとまらない場合に、家庭裁判所で調停委員に間に入ってもらって話し合いを進める手続きをいいます。離婚調停の事実婚版と考えて良いでしょう。調停では、事実婚を解消するかどうかだけでなく、慰謝料や財産分与についても話し合うことができます。

内縁関係調整調停をするにあたって調停委員とのやりとりに不安があるときなどには、弁護士に相談・依頼するのが望ましいでしょう。実務経験や知識の豊富な弁護士に依頼することで、手続きや交渉をスムーズかつ有利に進めることができます。

9、まとめ

ご紹介してきたように、事実婚には法律婚と同じように認められている権利がたくさんあります。「籍を入れていないのだから仕方がない……」とあきらめることなく、事実婚解消にあたり慰謝料や財産分与を請求したいと考えているのであれば、一度、弁護士にご相談ください。相手が事実婚の解消に納得しない場合や、相手から解消を切り出されてお悩みの場合などにも弁護士に相談することで適切なアドバイスやサポートが受けられます。
ベリーベスト法律事務所 宇都宮オフィスへまずはお問い合わせいただき、お話だけでもお聞かせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています